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ある転売屋の末路

作者: 雪河馬
掲載日:2020/03/01

2018年度の日本のマスク生産数量は55億3800万枚。

年間一人当たり約44枚のマスクを使用していることになる。

そのうち国内で生産するマスクはたった11億1100万枚。

国産品は産業用や医療用が中心なので、もし中国からの輸入が途絶えれば・・・・・

マスクが不足するのは当たり前なのだ。


天馬昭雄(てんまあきお)は新型ウイルスのニュースが流れた時にマスクを買い占めた。

中古の軽自動車を運転して近所のドラッグストアをまわり、マスクを、ハイエナのように買い漁る。

あらかた買い尽くすと、ネットで販売のマスクの注文をする。

すでに品不足が始まっており、天馬はニヤリと笑った。


「これは儲かるぞ。」


天馬の読みはあたり、どの店からもマスクは消えた。

天馬は、500円で買ったマスクを1万円でフリマサイトで転売する。


皆、理性ではわかっているのだ。

マスクがウイルスにほとんど効果がないことを。

しかし、無ければ欲しくなるのが群衆心理である。

ましてや受験シーズンに重なり、親たちは子供のために1万円のマスクを買った。

需要が需要を産み出し、普段マスクなどしない人たちもマスクを買いあさる。

天馬のマスクは完売し、彼の手元には200万円の現金が残った。


「ほんと、これだから転売はやめられないな・・・・・。」


天馬はにやりと笑ってパソコンを終了し、職場に向かう。

彼の勤務する工場は、大手企業の液晶パネルに使う部品を製造していた。

最近では仕事も減り、ここ数年給料も上がらないどころか、手当が削られて減っている。

妻もフルタイムのパートに出ているが、家族3人で生活していくのがやっとだ。

趣味のネットゲームに課金する余裕すらなかった。

20年前に製造された軽自動車のエンジンが、まるで風邪をひいたような音を立てていた。

そろそろ寿命なのだろう。

「臨時収入も入ったし、クルマを買い換えるか。それと・・・・。」


その頃・・・。

内閣総理大臣、安房武能(あわたけのり)は重大な決定を迫られていた。

水際での食い止めは失敗し、今やウイルスは日本国内で蔓延しようとしていた。

致死率は低いが、感染力が非常に強い。

そして効果的な治療薬がないことが国民心理を不安にさせている。


「そして、ここにきてのマスク不足だ・・・・・・。」


政府の増産指示で、国内メーカーはフル操業をしているが、パニック買いや転売目的の買い占めで市場に出回らない。

中国からの輸入再開もまだもう少しかかりそうだ。


このままではパニックが起き、日本経済自体が崩壊する。

それはなんとでも阻止しないと、この劇薬を使っても。


「総理・・・・・。さあ。」

官房長官にうながされて、安房は会見場に向かった。


「3月より春休みまで、全国の公立の学校の臨時休校を要請します・・・。」



その日、天馬はいつも通り買い替えた中古車を駐車場に停めて、工場に向かった。

遠くから門の前に人が集まっているのが見える。

たどり着くと、小さな紙が通用口に貼られていたが、周りに人が集まっているため見えない。

同僚に尋ねる。

「いったいなにがあった?」

同僚はいらついた顔で天馬のほうを振り向く。

「無期限閉鎖だとよ。お前知ってるだろ。政府の追加通達。あれで、納品先の企業が生産1週間ストップしただろ。」

「いや、それでも1週間したら生産再開するんじゃ。」

「マスク生産のラインに変更するんだと。もともとそんなに儲けのない製品だったし、政府から助成金出るならってことらしい。」


呆然とする天馬に向かって、同僚はまだ怒りがおさまらない表情で言葉を続ける。

「それもこれも、マスクを買い占めた転売ヤーのせい、ぶっ殺してやりたい。」


家に帰ると勤めに出ているはずの妻が家にいた。

「どうしたんだ?」

妻は憔悴した表情で天馬の顔を見る。

「スーパー、時短営業になったんでパートは当分自宅待機になったの。それに、愛奈が感染したみたいで熱が出ちゃって。受験なのに、マスクなしじゃ行かせられない。」


マスクは全部売ってしまった・・・・。


「すこし横になってくる。」

天馬はよろよろとふらつきながら奥の部屋に入る。

そこにはトイレットペーパーがぎっしりと積み上げられていた。

マスクの儲けで味をしめた天馬はトイレットペーパーのパニック買いにも便乗したが、彼は知らなかった。

トイレットペーパーはほとんど国産であり、1日3000万ロール以上の供給能力があることを。

さらなるパニックを懸念した政府が補助金と余剰分の買取を約束して、メーカーがフル操業した。

騒動は1週間で収束し、天馬は売れない在庫を大量に抱え込むことになった。


マスクで儲けた金も、車の買い替えとトイレットペーパーの購入資金に使い、ほとんど残っていない。


全てを失った天馬は膝から崩れ落ちて、気の抜けた顔でトイレットペーパーを眺めていた。


本文消したほうがいいんじゃないかと思うくらい後書きが長くなりました。

その後書きのほうもも継ぎ足ししていったのでもはや収拾不可能。

製紙業や化繊業に携わっていたわけではないので間違えた認識の可能性はありますがご容赦を。


本当に更新しないと言ってましたが嘘をついてしまいました。

需給バランスを軽く流していたのでそこだけ追加します。


————————————————————


政府は国産マスクの生産量を月産6億枚まで引き上げるとのこと。

多いようですが1日たった2000万枚の生産量です。

8000万人がマスクを欲しがったとするとまだ6000万枚不足です。

これを全部中国産でまかなわない限りマスク不足は解消しません。

中国は日本への輸出量を5倍くらいに引き上げなければならない。

自国民に対してもまだまだ不足しているのにも関わらずです。

まず無理でしょう。


仮に国産マスクを2日間使い続けたとするとどうなるか。

2日に1枚のマスクがあればいい計算になります。

1日に4000万人が2000万枚の国産マスクを欲しがる。

不足分の2000万枚は中国産でまかなう。

これだと1.7倍くらいの増産ですのでまだ現実味があると思います。


あくまでも製造系の観点で話しますが、日本製品って過剰品質なのです。

1日持つと言ったら、かなりハードな使い方しても持つように作っています。

製品不良の話ではなく、製品規格です。

不良は一定量出るので、たまにはすぐ破れるものもあるかもしれません。


実際試してみました。

貴重な国産マスクと1箱60枚入りの中国産マスク。

どちらも3日間装着しました。

ただし、洗濯はせず、除菌消臭だけでです。

国産マスクは3日間使用してもそれほど劣化しません。

中国産マスクは2日間は使用できたのですが3日目には繊維が解けてきて使い物になりませんでした。

国産なら2日くらいは使用できるなというのが実験の感想です。


今年のマスク不足については量が増えない以上サイクルを伸ばすしか方法がないと思います。


一般社団法人 日本衛生材料工業連合会のホームページに

全国マスク工業会「マスクの再利用について」がアップされました。

・漂白剤、柔軟剤は使わず中性洗剤で押し洗いしてください。

・十分なすすぎをしてください。

・乾燥機は使わず十分に乾燥させてください。

ということらしいです。


————————————————————


トイレットペーパーは年間生産トンが104万トンで1ロール150グラムとすると1日約2000万個生産可能。

だいたい1週間に1人1ロールは手に入る計算になります。

それを1人2ロール買おうとしたのが不足の原因。

そうすると買えない人がでて、その人たちも2ロール買おうとする。

買えた人も不安で2ロール買おうとする。

絶対量は足りてるのですが心理的不足です。


一方、マスクは民間用の年間消費量が約43億枚。

冬期120日間に偏って消費されているとしても1日3600万枚くらいしか供給がない。

去年は日本人の7割はマスクをしていなかったと想定できます。

その7割の人たちが一斉にマスクを欲しがると、当然供給は不足します。


マスクの原材料の不織布の生産量は中国が593万トンと世界の1/3を占めています。

それに対し日本は34万トン程度しか生産していません。

マスクは紙じゃなく、化学繊維ですから原料は石油、もともとの日本の得意分野でした。

でも、ここ数年でもどんどん撤退し、海外にプラントをシフトしています。


トイレットペーパー不足のデマの流布について。

当初のパニック誘発因子はメディアの責任が大きい。

モノづくりを知らないから

「デマです、潤沢にあります」

といいながら、なぜ大丈夫なのかはうまく説明できていなかった。

それどころか、海外でもトイレットペーパーが不足と煽り立てる始末。

メディアが実際に見てそれを伝えたらちゃんと鎮静化してきました。


トイレットペーパーはほぼ国産で原材料は古紙が多く紙の原料のパルプも北米や豪州から調達。

なのでチャイナリスクはありません。

日本製紙連合会のホームページの”製紙産業の現状”を見れば、一目瞭然です。

生産も4直3交替(4班が8時間ずつ勤務)で休みなしで24時間操業しています。

今回の品不足は在庫がメーカーから家庭に移行しただけ。

だからメーカーは増産しないしする必要がない。

だって総需要が増えたわけじゃ無く、ただ一瞬の波が来ているだけですから。

それに増産するということは人を働かせるということなんです。

買ってくれなかったらメーカーが山のような在庫を抱えることになります。

それに作っても市場に出せません。


ネックはロジ(物流)です。

今回のパニック買いが起きたのは週末でした。

土日の出荷は物流コストが割高になるのでしませんし、そもそも卸売市場がクローズしてます。

そこにこんな感じで急激な需要がくると、どうしても供給不足が生じます。


そして物流、長距離は今、人手不足です。

急に手配できないので、決まった時間に最大積載量積んで運んでもらってます。

だから一時的に不足したからと言って物流を増やすことができない。


国土交通省の平成30年の懇談会資料からの引用。

「家庭紙は嵩張ることから、狭隘な小売店舗では在庫を置けないため、ほぼ毎日、必要数量を配送している。」

それも小型トラックでだそうです。

マンションの貯水槽を小売店と考えればわかりやすいかもしれません。

皆が一斉に水を使ってポンプが組み上げるのにおいつかなかった状態、これがトイレットペーパー不足の原因でした。


そこまで考えてデマを仕掛けたとしたらほんと腹立たしい限りですが、日本の製造業なめるなよと言いたい。

長距離の運転手さんが、働き方改革無視の昼夜ぶっ通しで頑張ってくれたようですね。

本当に、心の底から感謝します。


これから他の製造業なんかも休業にはいるかもしれませんが工場の生産は止まりませんし止めません。

仮に現場の人が足りなくなれば、間接部門の人間が現場に回ったりしてラインを止めないようにします。

だから、「どこどこが休業決めた!」とか、「これが不足する」という情報が流れても憶測によるパニック買いは避けて欲しいです。


トイレットペーパーはメーカーと卸合わせて製品在庫が1ヶ月以上あるとそうです。

では材料の供給止まると1ヶ月後には無くなるかというとそうでは無く、工場には仕掛品と原材料というものがあります。

トイレットペーパーの主たる原料は古紙なので、おそらくそれが1ヶ月分以上の在庫があるでしょう。

溶解洗浄して、紙として巻いたりトイレットペーパーサイズに加工したりする仕掛品と言うのも1ヶ月分くらいはあるんじゃないかと思います。

つまり、古紙がなくなったとしても3ヶ月間はトイレットペーパーの供給は続くんです。

そもそも古紙はとうぶん無くならないと思いますが。


トイレットペーパーに限らず、他のメーカーも同程度以上の在庫持っているはずです。

震災でジャストインタイムの欠点が見えて、リスクのある材料は多く持つように変わってきました。


正しく恐れましょう。

チャイナリスクは国産車や国産家電といった部品を組み合わせる、付加価値の高い製品に出てきます。

これはジャパンリスク、コリアリスクでもあって、わずか1個の部品が無くても自動車は組み立てられません。

世界がひとつの大きな工場なのです。

ある特殊な部品を中国で作っていたりすると、それを使う設備が作れなくなったりします。

春からの新生活で家電やパソコンなどが欲しい人は今のうちに買っておいた方が良いかもしれませんね。

これは消費税増税前の特需みたいなもので一瞬の景気浮上効果があるはず。


————————————————————


皆、パニックが終われば忘れるのでしょうが、生活必需品はひとりあたり月100円でもいいので高い日本製を買うようにしてくれればうれしいです。

そうすれば月に100億円の需要が生まれ、日本の企業、その協力会社へと循環していきます。

輸入品との価格差、それが日本企業への”クラウドファンディング”になります。


日本のメーカーは単にモノ売ってるだけじゃなく、品質や供給責任といった信用を売ってるんです。

政府は信じられなくても、日本の製造業を信じましょう。

背広組は信じられなくても、現場は信じましょう。


今後、こういうパニックを避けるために、家庭でも定点発注という考え方をお勧めします。

トイレットペーパーだと一人当たりの1ヶ月の使用量は4ロールなので、4人家族なら2ヶ月で32ロール。

16ロール入りを2パック置いておいて1パック使い切ったらもう1パック補充する。

この場合の定点は1ヶ月となりますし、不安なら2ヶ月分の在庫で回せばいいと思います。

買い占めたことで罪悪感を感じた人は、しばらくその在庫を維持して定点発注してください。

買ったからもういいやと買わなくなるとメーカーが困ります。


最後に増産について追加です。

メーカーが安易に増産しない理由。

本題とは関係なかったのでさらっとながしてたところですが。


————————————————————


生産(供給)は需要によって決まります。

トイレットペーパーもマスクもほぼ売れる分だけ生産しています。

仮にA社が今までより10多く作ったとしたらその分だけ供給過剰になり在庫が増えます。

そうするとどうなるか?

A社は在庫を売りさばくために値下げすることになります。

そうしてA社は10多く売ることに成功しましたが、今度はB社とC社が5ずつの在庫を抱えます。

そうするとB社とC社も捨てるよりはと値下げして売ることになり・・・。

結局作ったことによって値崩れを起こして利益が減ります。

最悪、この循環は1社が潰れるまで続きます。

トイレットペーパーの生産をしている会社は100社以上あるので、カルテルではなく自然な均衡です。


増産するためには設備が必要です。

まずは場所を確保し、ラインを設計し、業者に発注する。

汎用品じゃないので、増産ラインを作るのに本来半年〜1年はかかります。

半年もすれば状況は変わっているわけで、できたけど結局稼働せず廃棄などということになります。

設備自体の生産地や納期というものもあります。

それが中国で作られているのなら生産停止してるでしょう。

停止してなくても主要部品のひとつでも中国で作っていたら生産できません。

さらに設備は在庫持つようなものではないので、通常は注文があってから作り始めます。

客の注文をうけて麺から打つうどん屋のようなものです。

マスクについてシャープが生産設備立ち上げの発表が早かったのはクリーンルームがあったからです。

本当に稼働するなら機械もいち早く発注してたんでしょうね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これが、転売失敗の怖さ。・・・・・・ザマァ。 (欲しかった限定セットを転売ヤーの過剰購入で奪われた経験有り) マスク無い。 目ぇーーがぁーー!! (花粉症の工事関係者) [一言] やっと…
[良い点] なかなか、的を射ているような意見でした 個人的には本文より後書きの方が好きだったり… [一言] 工場の生産ラインって止められませんね。 実際に、間接部門の筈の私も生産手伝って生産量…
[一言] 第二次大戦中のソビエト・レニングラードじゃ食料や医薬品を転売目的で所持してたら絞首刑……餓死や凍死よりゃマシな死に方だったそうです。 あの時代実体験した監督がレニングラードモデルに撮影演出し…
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