僕と彼女の過去
「ご主人様……逢いたかった……」
僕に抱きつきながらそう呟く彼女、一体何の事やらわからない……
身体中に伝わる彼女の柔らかい感触、とてつもなく良い香り、吐息の様な声、僕は気が遠くなっていく。
愛する人に会いたかった。一目で良いから見たかった。彼女の姿を拝みたかった。そんな神が、女神が今僕に抱きついている。
ああ、このまま死んでもいい、さっき中学までの僕を殺したいって言ってたけど、いきなり高校の僕は彼女に殺されそうだ……ああ、たった3日の高校生活はこれで幕を閉じたのだった。
(完)
打ち切り早すぎ! なんて、そんなわけのわからない事を考えていた。そう考えないと本当にこのまま気を失ってしまいそうになる。
暫くこのままでいた、彼女も僕も何も喋らずただ抱き付かれていた。
僕はふとこの状況を夢だと感じ始めた。いや、夢というか、何かの間違いなんじゃないかと感じ始めた。
だって僕にそんな記憶は無い、全く無い、つまり彼女は勘違いしている。
僕を他の誰かと勘違いしている。
そう思った瞬間僕は悲しくなったとてつもない位の悲しみに襲われた。
そうこれは、この悲しみは知っている。これは……失恋だ……彼女は僕ではなく違う人物に恋をしているって事だ。それもただの恋ではない、僕になる位その人の事を愛しているという事だ……。
僕の頭の中でガラガラと崩れていく、彼女への思いが崩壊していく。抱き締められ一瞬だけ相思相愛なんて思ったりした自分を恥じる。
このまま勘違いさせたままで、彼女の側にいさせて貰えと僕の心の悪魔が叫ぶ。
でも、そんな事はすぐにバレる。バレた時彼女の僕に対する気持ちは軽蔑に変わるだろう。
さっきも言ったけど、嫌われるのだけは避けたい。だったら興味の無いままでいて欲しい。遠くから眺めるだけで幸せになれるから。
僕は心を鬼にして彼女の肩を持ち、そっと僕から離して言った。
「えっと……何かの間違いだと……思います」
僕を見つめ一瞬キョトンとした顔になるが、すぐにクスクスと笑いだす。
「うふふ、ご主人様冗談ばっかり、相変わらずですね」
「相変わらず?」
「貴方は間違いなく私のご主人様です、私がご主人様を見間違えるわけはありません」
「いや、でも……」
「そうですか、悠久の時が過ぎ、何度も生まれ変わりご主人様の記憶はどこかで失ってしまったのでしょうか、でも大丈夫です、私はしっかりと覚えております。ご主人様、私はあなた様のしもべ、なんなんりとご命令下さい」
彼女は跪き胸に手を当て僕に向かって頭を下げる。
いや、そんな事言われても……。
「いや、えっと命令って……」
「あ、そうですわね、ご主人様失礼致しました。ついあの頃の癖で」
「あの頃の癖?」
「うふふふ」
「本当にわからないんだ、どこかで会ったの?」
「ええ、ずっと昔に」
「ずっと昔に……」
昔と言うんだからここ数年の話ではないよね? なんか悠久の時とか言ってたし、悠久って何年くらい前の事を言うんだろう? 小学生? 幼稚園? いや、ちょっと待てよ……生まれ変わってとか言ってたよね?
「……えっと、僕と出会ったのって一体何百年前だっけ」
何百年なんてアホみたいな質問をしてみた。すると彼女は何の躊躇いもなく言った。
「うふふふ、ご主人様って面白いですわ、何百年なんて」
「あはは、そうだよねえ、何百年前なんて事は無いよねえ」
良かった、生まれ変わりとか言うからつい何百年前とか言われるかと……。
「私達が一緒にいたのは紀元前ですから」
「…………紀元前……」
は? まさかの2千年以上前……?
ここに来て僕は悟った。彼女はひょっとしたら僕と同じ穴のムジナ? オタク? いや違う……中二病だ、彼女は中二病なんだ…。…
「ご主人様……私の事思い出されませんか?」
少し悲しそうに僕を見つめる彼女、でも普通の人ならいざ知らず、僕はオタクなのだ。
オタクというのはある意味現実を嫌って程理解している。
空想の世界、二次元の世界に没頭する為に一番重要な事は、現実に必ず戻って来るって事。
時々空想の世界から戻ってこれなくなって引きこもってしまったり、空想と現実を混同し事件とか起こす輩がいるけど、その度にオタクは叩かれるけど、でもこれは言いたい……殆どのオタクはその辺の事はちゃんとわかっている。
現実の厳しさ辛さは……誰よりもわかっているんだ……。
──だからいきなりこんな事を言われて、前世だの生まれ変わりだのと現実に言われて、はいそうですかと信じるわけがない。
つまり彼女は空想の世界からある意味帰ってこれなくなった人なんではないか? 僕はそう思ったのだ。僕をご主人様と呼び数千年の時を経て再びここで出会った……というのが彼女の中二病的設定なのだ。
生徒会長で、アイドルで、類い稀なる美貌と才能を持ち合わせた完璧な中二病患者それが彼女、遠矢陽向の正体なんだ。
そう……見た目に惑わされては行けない、彼女は一種の病気なんだ。
でも……ただ一つ、僕が言えるただ一つの事……それは…………それでも僕は変わりなく彼女が好きだという事だ。
僕はこの機会を逃さない、何故僕が彼女の空想の人物に使命されたのかわからない……でもこれは僕の高校生活が変わるチャンスなんだ。
だから僕は勇気を出して彼女に向かって言った。
「えっと……じゃあ……とりあえず、僕の記憶が戻るまで、一緒にいてくれる?」
僕がそういうと彼女は天使の、いや、女神の様な笑みを称えながら言った。
「はい! ご主人様、私とご主人様は一心同体ずっと一緒です、今度こそ……ずっと」
こうして僕と会長の不思議な付き合いが始まった。主と僕の付き合いが。
そして彼女が言った今度こそとは一体……
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