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幼馴染の助手席

作者: よう

もうすぐ年末、と言う季節。

街はきれいなイルミネーションで飾られ、きらびやかに光っている。

あちこちの店ではクリスマスに向けてプレゼントを選ぶ男女が見られる、そんな中で、広瀬翔子は一人、駅に向かって歩いていた。


ほんの数分前までは、大学の友人でもある、彼氏だった男子と一緒だった。

いや、彼氏であったかも実は翔子にはよくわかっていなかったが、その彼から、別れを告げられたのだ。



大学の授業でよく一緒になる、太田という名前の男の子。

たまに一緒に授業を受けるグループの一人で、みんなでご飯に行ったり、授業が終わった後に遊びに出かけたりして親しくなった程度の関係。

その彼がある日、帰り際に仲間と別れた後、一人だけ翔子の方にやってきて、告白してきた。


「広瀬さん、ずっと気になっていたんだ、俺と付き合ってくれないかな?」


翔子はそれを聞いて驚いたが、いまひとつ気持ちは盛り上がらなかった。それもそのはずで、翔子にとって、彼は単なる『いつもそこにいる仲間』の一人に過ぎなかった。


「まだ、太田君のことよくわかってないから、お互いを知るために付き合うならいいよ。」


少し曖昧な回答をした後、いつものグループの女の子たちにこっそり相談をすると、

「え?いいじゃん!太田君結構かっこいいし!」

「いいなぁ、悩む事ないじゃない、うらやましいよ?」

と、皆一様に賛成ムード。

そんなものかな?と思いながらも、その日からはみんなで遊ぶ他に、二人でご飯に行ったり、休みの日に一緒に出かけることが始まった。


ところが、彼のことがなかなかわからない。

ご飯を食べながら週末の過ごし方を聞いても

「あー、ほとんど寝てるか、ゲームしてるかなぁ。」

「ゲーム?どんなゲームやってるの?」

「いやいや、俺の話は大したことないからさ。広瀬さんこそ、どんな過ごし方なの?」


週末に映画を見に行く時も

「太田君、見たい映画ある?」

「いや、俺の見たいのよりも広瀬さんが見たい映画にしようよ。」

「太田君がどんな映画見たいのか知りたいなって思ったんだけどな…」

「えー、俺が見ようと思うような映画はつまんないよ。俺の事なんかいいから、広瀬さんの見たいヤツにしよ?」


何を聞いてもなかなか彼は自分の姿を見せず、そこに翔子は不満を持っていた。

そもそも、翔子のどこが好きになったのかもはっきりわからない。一度直接本人に聞いた時も

「広瀬さんってなんかかわいくて、一緒にいたくなる感じなんだよね。直感的なものというか・・・ それじゃダメ?」

と言う答えだったため、モヤモヤした気持ちになっただけであった。


そんな二人は、今日は昼間は水族館を見に行き、夕方から食事して、イルミネーションを見るという定番的なデートをしていた。

肌寒さを感じる時間、きらびやかなイルミネーションを大勢のカップルと一緒に見ている最中に彼の手が肩に回ってきたのを、翔子はとっさに避けてしまった。

その瞬間、彼は少し戸惑った表情を見せた後、こう言ってきた。


「…やっぱり、広瀬さんは俺の事を好きになってはくれなかったんだね。ごめん、ずっとつき合わせちゃって。もう、やめにしようか。」


彼の寂しそうな顔を見ながらも、何故彼がそう言う表情をするのか、翔子は理解できなかった。

翔子のどこが好きだったのか。彼はどんな人だったのか。翔子が知りたかったことはわからないまま、二人の「付き合い」は終わった。



家に帰る電車に揺られながら、翔子はぼんやりと窓の外を見ていた。街の中は相変わらず明かりにあふれて、多くの人や車が行き交っている。

窓から目をそらすと、車内には楽しそうに密着して話をしている男女が何組か。

自分だけがそんな楽しい世界から取り残されて、一人隔離されているような、そんな気持ちになってきた。


---私がもうちょっと、太田君に話しかけたらよかったのかな? 肩を抱かれて、も少し密着したら太田君も心を開いてくれたのかな?


一瞬そんな気持ちにもなったのだが、やはりそれは違うと思い直した。

翔子の中では、彼の事を良く知らないまま好きになることはないし、好きでもないのに関係が深くなることも無い、と言う思いがあった。

だから、彼に別れを告げられた事はさほどのショックではなかったが、彼の気持ちが理解できないまま終わった事は妙な後味の悪さを残していた。


どうして良いのかわからない気持ちのまま家に帰り着くと、遅く帰ってくると思っていた母親が驚いていた。

「あら翔子、もう帰ってきたの?」

翔子は返事もせず、自分の部屋に入っていった。

そして、そのままベッドの上に仰向けになり、目を閉じてしばらく黙っていた。


---このまま一人で考えていても、頭の中ぐるぐるしちゃうんだろうな…


翔子は目を開けるとスマホを持ち、メッセージアプリを開いた。

そして、リストの中から幼馴染の浩司を探して、メッセージを送ることにした。


『久しぶり!少し話し聞いて欲しいんだけど』


浩司とは幼稚園の頃からの付き合いで、『こーちゃん』『翔子』と呼び合う仲であった。今でも翔子の家の近くに住んでいる。

幼稚園から高校までは一緒だったが、大学は別のところに通っていた。


---金曜の夜だし、バイトとかしてるかなぁ?


翔子は少し残念そうにスマホをテーブルに置こうとしたが、その瞬間、メッセージが既読になった。


「あ、読んだ!」

姿勢を正してスマホをもう一度手に持ち、画面を見つめていると、浩司から返信が来た。


『どしたの?長い話?』


浩司からのメッセージが帰ってくるだけで、翔子は沈んでいた心が少しはずんだ気がしていた。


『ちょこっと。会って話がしたくて。』

『そーなのか。俺今からドライブ行こうと思っていたんだけど、翔子が良ければ一緒に行かない?』


「今からドライブ?」

翔子は急な誘いに驚いた。

だが、今夜は元々遅くまで遊んで来るくらいの気持ちでいたのと、着替えていないことが返事を決めた。


『いいよ!すぐこーちゃんの家に行くね』

浩司が話を聞いてくれそうなこと、車に乗っている事を知らなかったこと、色々なことが翔子を後押しした。



浩司の家の前に着くと、ピカピカの青い車が止まっていて、その脇で浩司が待っている。

「こんばんわー、こーちゃん、久しぶりだね。」

「お、来たね。乗って乗って!」

「これ、こーちゃんの車?」

「親父との共同所有だよ。でもま、親父の車はもう1台あるから、ほぼ俺専用ではある。」

少し誇らしげな浩司の笑顔を見ながら、助手席のドアを開けた。


「この車で彼女さんとドライブしてるの?」

「そうそう、って言いたいところだけど、彼女はいなんだよね。まぁ、一人で好きなところ走りに行けるから、これはこれで楽しいよ。」

「じゃあ、助手席に座ってもとりあえず誰かに遠慮はしなくて良いのね?」

翔子はいたずらっぽく笑って、助手席に座った。助手席のシートベルトを確認すると、浩司はマニュアルシフトを操り、車を走らせた。

排気音を低く響かせながら、浩司の車は夜の街をすべるように走って行く。ガラス越しに見える街灯をあっという間に置き去りにしながら。


翔子は運転中に話しかけて良いかしばらく考えていたが、浩司の表情が柔らかい事を確認すると、口を開いた。


「こーちゃんいつ免許取ったの?」

「大学入ってすぐ教習所通って、夏前には免許持ってたよ。車もその頃買った。」

「そうだったんだ、知らなかった。前会ったのって高校の卒業式の後だったよね。」

「そうそう、あの時は電車で出かけたっけね。」


---そっか、あの時もそういえば…


翔子がその時の事を思い出しかけていたところに、浩司が問いかけてきた。

「で、話したいことって何?」


春の事を思い出して、翔子はちょっと苦笑いしながら言った。

「うん、まぁ、簡単に言えば、今日彼氏と別れた。」

「ああ…やっぱり。恒例だな。」


---やっぱり言われたか。けど、事実だし、『恒例だな』って言われても仕方ないか。


翔子は、高校時代から何度か、彼氏と別れた後に浩司に愚痴をぶつけていたのだ。

高校の頃は放課後に呼び出して公園で泣きながらずっと話を聞いてもらったり。

春に会った時もやはりそうで、卒業式に別れた彼氏の事を、何故か高層ビルの展望台でずっと話していたのを思い出した。


「すいませんねぇ、恒例で。別れるたんびに呼び出して申し訳ないとは思ってるけどさ。こう言う話を真剣に聞いてくれる人ってこーちゃんくらいしかいないんだよね。」

「ま、昔っから翔子の事は知ってるからな。で、今回はなんで別れたのさ?」

「別れたと言うか、始まってないと言うか…。私はもっと彼の事を知ってから好きになりたいと思っていたんだけど、なんか彼がどんどん迫ってくる感じがして。」

「それって、どういうこと?」


翔子は浩司に、太田君と出会ってからの事を話した。

太田君の事を知りたいと思っているのに教えてもらえないこと、肩を抱かれそうになって避けてしまったこと、そもそも、好きともなんとも言っていないこと…

浩司は前を向いたまま「うん、うん。」と相槌を打ち、しばらく翔子の話を聞いていた。


「うーん。なんだかなぁ…」

話が今日の出来事にたどり着くと、浩司はため息をつくように声を出した。

前を向いたままの浩司の顔が対向車のライトの明かりに照らされると、ちょっと曇った感じの表情であることに翔子は気付いた。


「やっぱ私がもっと相手の立場に立つべきだったかなぁ?」

「いや、俺はそうは思わないな。翔子はそもそも、お互いを知るために付き合おうって言ったんでしょ?」

「うん、そのつもり。」

「で、もっとあんたの事を教えてくれ、って相手に言ってたんでしょ?」

「うん。それも、伝わってなかったのかもしれないけど…」

「伝わってないと言うより、聞いてない感じするよね。そもそも、その男はなんで翔子の事好きになったの?」

翔子の耳に入る浩司の口調になんとなく苛立ちの感情が感じられた。その感情は、翔子に対してなのか、太田君に対してなのか。


「好きなところはわからないけど、気になっていた、って言われた、と思う。」

「翔子のこう言う所が好き、とかはっきりしていたらまだわかるけど、それ無しだと…よくわからないねぇ。」

翔子は大きくうなずいた。そもそも、翔子本人が、そこを理解できなくて苦しんでいたのだ。


「それに、好きな事とか教えてって言っても、教えてくれないんでしょ?翔子の言うこと、聞いていない感じするよなぁ。」

「やっぱ聞いてないのかなぁ?」

「それか、言いたくないから逃げているのか。」

「逃げる?言いたくないことってあるのかな?」

翔子はちょっと不安そうに浩司の横顔を見た。


浩司は、急にニヤリとした。

「そりゃもう、翔子に言えないような変態的な趣味だとかさ!」

そう言って笑い出した。その瞬間、翔子もつられて笑ってしまった。

「もう、急に茶化して!」

「あはは、ごめんごめん。でもまぁ、なんでも話すのが良いとは言い切れないけど、この程度できちんとお互いの気持ちを通わせられない相手じゃあ、長続きしなくて当たり前かもね?」

浩司はおどけて話していたが、こうやって話を聞いてくれて、真面目に受け止めたり、程よく笑わせてくれたりするところに、翔子は安心していた。


少し笑って気持ちが軽くなった翔子は、以前の事を思い出して言った。

「それにしても、いっつもこういう相談に乗ってもらってごめんね。」

「高校の時からだよなぁ。サッカー部の先輩に振られた時だっけか?」


高校時代、クラスの友達と話が出るとそれはほとんど恋愛話、誰が誰と付き合い始めた、とか、誰が誰の事を好きって言ってるらしい、などという話にばかり盛り上がっていた時があった。

そんな中で浩司にも彼女ができたと噂を聞き、翔子は周りに置いていかれるような不安感に煽られていた。

ようやく告白したサッカー部の先輩とは、部活が忙しくてなかなか会えないうちに、あっという間に気持ちが冷え切って、振られてしまったと言う苦い思い出だ。


「あの頃はこーちゃん、美術部の田中先輩と付き合っていたよね?あちこちで一緒にいるとこ見かけたってクラスの女子の噂になってたよ。」

「マジ?俺、田中先輩とは付き合ってないよ~。確かあの時は先輩は卒業した一個上の人が彼氏で、プレゼントの相談受けたり、一緒に部活の買い物に行ったりしていた程度で。」

「え…そうだったの?てっきり、二人は付き合ってるんだと思ってた。」

翔子は急に背中の辺りでざわざわする感覚に襲われた。

「なんだそれー。俺に直接聞いてくれれば、否定したのに。」

浩司は笑っているが、翔子はそんな気持ちになれなかった。あの時、それを浩司に聞く勇気は無かった。『付き合っているという事実』を確認する勇気…


黙って窓の外を見ると、いつの間にか車は高速道路を走っていて、道路脇の明かりがストロボのように助手席の窓を照らしていた。

今の時間の高速道路はあまり車も多くなく、暗闇の中に道路だけがまっすぐ続いて、センターラインだけが瞬いている。

ただひたすらに車がまっすぐ走っているのが、まるでテレビの景色でも見ているようで、今二人でどこかに向かっている、と言うことが現実的に思えなくなってきた。


ふとその時、行き先を聞いていないことに翔子は気付いた。

「そういえば、どこ向かってるの?」

「海に行こうと思って。今日は満月みたいだし、ちょっと綺麗な景色みれると思うよ。」

「えー、なんか寒そう。それに、真っ暗で怖いんじゃない?」

「まぁまぁ、それは見てのお楽しみで。」

浩司は微笑みながらはぐらかした。翔子は、浩司の中に何か思いがあると推測した。

太田君のように、言わないのではない。楽しみに待っていて欲しい、と言う浩司の考えなのだろう、そう考えると、素直に受け入れる事ができた。

それに、浩司と一緒に出かけている事自体が嬉しいのだ。


高速を降りて、暗く建物もあまり無い道をしばらく走った後、浩司は車を止めた。

「さぁ着いたよ。寒くないように上着着て出よう。」

ドアを開けると、真っ暗な中から波の音が聞こえてきた。



「わぁ、満月!」

翔子は車からすぐにたどり着いた砂浜で、海の上に輝く満月を見て声を上げてしまった。

満月は思ったよりも明るく、辺りを明るく照らしていた。遠くまで続く砂浜が、月明かりに浮かび上がっている。

海には満月の明かりが反射して、波打ち際は白く見えていた。

目が慣れてくると、昼間と同じ、とまでは言えないまでも、夜の景色とは思えないくらい辺りが良く見渡せた。


「ドライブしててこの辺に来たとき、どんな風に見えるのかと思って車止めて降りてみたら、結構明るくてね。しばらく見入っていられたんだよね。」

冬の海は寂しげだが、そばに浩司がいて、絶え間なく聞こえている波の音に包まれていると、翔子はゆっくりと流されていってしまうような、そんな感覚に満たされていった。


黙って立っている翔子を見つめながら、浩司は続けた。

「こういう景色は、電車で移動してるんじゃなかなか見れないよね。車に乗るようになって、初めて知ることができたよ。」

「うん、わかる。これはイルミネーションなんかよりも、感動する。」

浩司はそれを聞いて嬉しそうな表情になった。


---そうだ。幼稚園の頃手を繋いで歩いていた頃から、こーちゃんは私の知らない事を色々教えてくれたっけ。


しばらく波の音と月の光を浴びていたが、やがて翔子は振り返ると浩司の顔を見て微笑んだ。

「ありがと、なんか気分転換できた気がする」

「それなら良かったよ。寒いからそろそろ戻ろっか。」


砂浜から車に戻る途中、翔子は砂に足を取られそうになった。バランスを崩した翔子を見て、浩司は自然と手を掴み、握ってくれた。


戻った車の中は暖かく、冬の海岸の寒さが実感された。

浩司はエンジンをかけながら、翔子に話しかける。

「冬は空気が澄んでいるから、夜景は綺麗だよね。月の無い日はこの辺はものすごいたくさんの星が見れるよ。」

「あー、そう言うのもいいなぁ、それも見に来たい。連れてきてくれる?」

「いいよ、助手席が空いてる限りはね。」

浩司の何気ない言葉に、翔子はハッとした。


「え、もしかして、近々誰かが座る予定あるの?」

「いや、残念ながら無いんだけどね…」

浩司は照れ隠しのように微笑みながら、車を動かし始めた。


浩司の言葉を聞いて、翔子は外を見ながら黙って考え始めた。


---私が彼氏作ってたように、こーちゃんも彼女を作るかもしれないよね。


翔子は今、その事をはっきりと意識した。

そして、この車に乗って、知らない誰かと夜景を見たり、遠くにドライブに出かけている浩司の姿を想像した。


---こーちゃんは、きっとあの笑顔で助手席の人に向かって話しかけるんだろうな。


胸がギューっと締め付けられる感覚を感じて、翔子は流れる景色をぼんやり目に映しながら考えていた。


---そうだ。こーちゃんに彼女ができたと聞いた時に、私だけが一人になる寂しさから逃げたかったんだ。だから、彼氏を作って過ごそうとした。けど…


翔子は助手席から、視線だけを浩司の方に向けた。相変わらず、前を向いて車を操っている。


---私が本当に欲しかったのは、こーちゃんなんだ。けど、私がこーちゃんに選ばれなかった事が、あの時悔しかったんだ。


その時、さっきの浩司の声が翔子の耳の中で響いた。

『俺、田中先輩とは付き合ってないよ~。』


---違う、私がこーちゃんに選ばれなかったんじゃない。私が他の男を選んだんだ。でも、本当は…


浩司は相変わらず黙って運転している。前の車のブレーキランプの明かりで、浩司の顔は赤く照らされていた。


翔子は浩司のほうを見ながら、手元で自分のこぶしを強く握り、言った。

「ねぇ、この助手席、これからは私の席にして欲しいな。ダメ?」


それを聞いた瞬間、浩司の表情が驚きの表情になり、一瞬助手席の方を見て、すぐ前に向きなおした。


一瞬の沈黙の後、浩司が口を開いた。

「…そうだね、この助手席が翔子の座る席としてふさわしいのか、そして翔子がこの助手席にふさわしいのか、それを確かめるため、あちこち一緒に遊びに行ってみる?」

「うん、行きたい。」

「どこ行きたい?」

「どこでも、こーちゃんが行きたいところ、全部一緒に行きたい。」


翔子はシフトレバーに乗せていた浩司の左手の上に自分の右手を載せた。

すると、浩司は手をそこから抜き、翔子の右手にシフトレバーを握らせた。そして、その上から、翔子の手を包むように握った。


翔子は下を向いてつぶやいた。

「帰り道は、もっとのんびり帰ろうよ。」



助手席と一緒に、欲しかったものがようやく手に入る予感がした。



[了]

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