1話 自慢の水槽
せめて最後までかけるようがんばるぞい!
「ただいまー」
そう言って自宅のドアを開けたのは、くたびれた顔をした、中肉中背のどこにでもいるサラリーマン
恵比寿圭二こと俺だ。
40歳になり昔はそれなりにはしゃいでたが、今ではすっかりおとなしくなってしまった。
そんな俺の唯一の趣味といえば水槽の管理だ。
「.......」
メダカに話しかけてもしょうがないので無言でエサをやる。
「.....っふふ」
しかし我ながら素晴らしい水槽だと思う。青白いLEDライトが、うっそうと生え繁るオオカナダモを照らし、ダイナミックに切り出された岩は自然の息吹を感じさせる、水質はもちろん良好
高い浄化装置を買った甲斐があった。
色とりどりの魚たちがのびのび泳ぐ様を見てると、
日頃のいさかいを忘れることが出来る。
といっても、最初は息子がやり始めたことなのだ、
絶対世話するからと言われ買ってやったが、案の定一ヶ月もすれば
約束とはなんのことだか、すっかり俺がエサ係になってしまった。
「そんなにスマブラが楽しいかね...」
それからというもの俺はこだわった、ふた回り大きい水槽を買い、設備を整え、週に一回は川に行き
ヤマトエビ(こいつがいると水質が良くなる)をとったりなど。
もともと無趣味だったのが良かったのかもしれない。
それ以上にこの魚たちを死なしてはならないというのが大きい。
やはり、一度命を預かったなら全身全霊をもって守り抜く、その責任が俺(本当は息子)にはある。
「おやイシマキガイか」
こいつは一匹いると爆発的に増え水草を食い尽くしてしまうやつだ、買った水草についてたんだろう
俺はそいつを網で器用にすくって、家の外の農業用水道に流した。
別にこいつに恨みはないが、しょうがないことだ自分にとって何が大切か見極め、
それ以外は徹底的に除去するべきだと思う。
そんな俺だが一つ思うことがある、この魚たちは本当に幸せなのかどうかだ、どんなに見ていても
こいつらが何を考えてるかはさっぱりわからない。
「一度魚なってみたいもんだ...」
その時だった、玄関チャイムが鳴った
俺は何の気なしに玄関のドアを開ける、目の前にいる男は異様なオーラを放っていた
左手を隠しているのがなんとなく気になり、自分の下に傘が落ちている事を確認し、
うしろの水槽の横にはさみがおいてあることを思い出す。
男は無言で突っ立ているので、話しかけようとしたその瞬間男が動き出した。
左手に持っていたのはやはりナイフだったようだ、そいつを俺に、一直線に突き出す、
俺は素早く落ちてる傘を拾い、後ろに下がった。
こっちの方がリーチはあるが正直どうしようもない、俺が剣道をやっていたなら話は別だが
俺は今まで武道に関わったことがない。強いてゆうならバキを呼んでたくらいか、
「おいおいおい...勘弁してくれ...俺が死んだら、魚の世話をする奴が居なくなるんだが...」
なんて軽口を叩いてみたが男は応じようとしない
俺は覚悟して後ろにあるハサミに手を取った、その間にもナイフは迫り来る
しばらく牽制しあったのち、とうとう俺の腹にナイフが刺さった
「ぐっ...」
おれは反射的に後ろに下がろうとした、が、しかしだ
「なめんなよ...!!」
このまま下がったところでジリ貧だ、俺はこいつになすすべなくやられ
こいつはこのまま俺の家族にまで手をかけるだろう、それだけは阻止しなければならない
おれは腹にナイフが刺さったまま決死の覚悟で前に踏み込む、当然ナイフはより深くつきささる
「...!?」
男は初めて驚いたようなそぶりを見せた、その先におれはありったけの力で
ハサミを男の首に突き立てた
「ぐあぁ...!!」
そしておれはそのおとこを抱きしめた、もちろんこれは愛によるものではない
ありったけの殺意を込めた、殺意の抱擁
「おまえをいかせはしない...!おまえはここでおれと一緒に死ぬんだよ...!」
このままおれが先に死んだとしても死後硬直によってこいつを抑え込める、と思う...
俺は男と一緒に前のめりに倒れた、ナイフはさらにつきささる
だんだん意識が朦朧としてきた...そういえば俺ナイフが刺さってんのに全然痛くねーな
これがアドレナリンってやつか...今はもう風呂に入ってるような感じさえする
「○○○○○!!」
騒ぎに気づいて息子が出てきたようだなにやら叫んでるが
いまいち入ってこない
「俺が...逝っちまったら.....水槽を...頼む....水換え...サボるなよ......................」
言い終わる前に意識は暗転した
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ここまで呼んでくれてthank youな