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暗黒神ドラグノフ②


 エンリケが資料を運んでくるのを待つ間、ドラグノフは備え付けのソファーでぼんやりと室内の様子を見ていた。職員たちは皆一様に殺気立ち、てんてこ舞いの有様だ。


 その様子に、やはり何か問題事が起きているのだなと確信しつつ、これだけ忙しければ、エンリケのあの態度も無理からぬことかもしれないなと、ドラグノフは再び苦笑した。


 そういえば、神格の開示を求められたのも久しぶりのことだった。そう思いながら受付台の上におかれた「真実の鏡」に目をやると、まだ薄っすらと表示が残っている。



=============================

 名称:暗黒神 ドラグノフ

 神格:光と闇を司る者(旧神)

=============================



 旧神とは、七神の統治よりも前に存在した神々のことを指す用語である。それは対となる二つの神格を併せ持つ古き神々だ。現代の神々には男神と女神が存在するが、旧神にはその区別はなく、両性具有である。ドラグノフの(いか)めしい老人のような見た目は、あくまでも仮の姿であった。


 つまり、とドラグノフは内心で(つぶや)いた。暗黒神などと呼ばれる私だが、その本質は光神と闇神の神格を併せ持つ者である。若い神々の中にはまれに誤解する者もいるが、決して(よこしま)な神などではない。


 七神の統治の初期の頃には、彼らの相談役として大神殿にも頻繁に出入りしていたものだが、最近はすっかりご無沙汰となっていた。


 その頃には、私のことを知らぬ者など一人もいなかったし、私もすべての職員を把握していたものだ。しかしこれだけの時が経てば、顔ぶれが一新されているのも無理はない。


 以前ならば、私に対して、先ほどのエンリケのような横柄な態度をとる者など一人もいなかった。若者の振る舞いに一々目くじらを立てようとは思わないが、まあ、時代が変わったということだろうか……


「ご希望の資料をお持ちしましたよ、ドラグノフ殿」


 考えに耽っていたドラグノフに、エンリケが分厚い冊子をドサリと置きながら呼びかけた。


「感謝します。エンリケ殿」


「では、見終わりましたらまた声を掛けてください」


 エンリケはやれやれとばかりに肩を回しながら奥の机へと戻って行った。







「はあ!?」


 資料を見ていたドラグノフは、その内容を確認するや否や、部屋中に響き渡るような大声を上げた。エンリケが心底嫌そうな顔をしてドラグノフの方へ振り返る。

 

 周囲の職員も何事かと彼を見るが、ドラグノフはそれに気付く様子もなく資料の内容を繰り返し目で追っていた。


 『破壊神セレスの追放処分についての議案可決(6/6,1欠)』

 『戦神ゴルドによる破壊神セレスの追放を確認』


 何度見返そうとも資料の内容が変化するはずもないのだが、そうせざるを得ない程にドラグノフにとって信じ難い内容が記載されていた。


「どうかなさいましたか?」


 再びドラグノフのもとへやってきたエンリケが面倒臭そうに聞いてくる。ドラグノフは内心の動揺をなんとか抑え込み、平静を装って尋ねた。


「資料によると、セレス様が追放処分になったとありますが、罪状は何だったのですかな?」


「……ドラグノフ殿は、破壊神セレスをご存知だったのですか?」


「いや、ご存知も何も……」


 セレス様を知らない者が、この神界に居るはずがないだろう。何を言っているのだこの男は。


 ドラグノフはエンリケの言葉に当惑を露わにしたが、そんな彼の様子をよそに、エンリケは別の資料を確認しつつ気だるげに答える。


「反逆罪だそうです。資料によると、下界の民を誑かし、七神を弱体化させ、神界を手中に収めようとしたとか」


「ふむ? 抽象的でよくわかりませんな。具体的には何をなさったのですか?」


 ドラグノフの質問に対し、エンリケは眉間のしわを深くして、再度資料のページをめくる。


「『神々が下界の民に加護を与えようとするのを、意図的に妨害した』とのことです」


 エンリケは該当する箇所を読み上げ、さらに続けた。


「神々は下界の民に加護を与え、その見返りに信仰を得ることで力を得ますからね。それを意図的に妨害するということは、神界全体を敵に回したと思われても仕方がありません」


 そして、もういいですか、とこの場を去ろうとするエンリケに対し、ドラグノフはますます困惑した。


「いや、加護の最終許可を出すのは『管理者』の役目なのですから、別に問題ないのでは?」


「はあ? 『管理者』とはなんですか?」


 そのエンリケの返答に、ドラグノフはこれ以上の議論は無駄であると悟った。


「いえ、なんでも。ともかく、有難うございました」







 神話編纂室を後にしたドラグノフは、叫びだしたい衝動にかられていた。



 あの七神(バカ)ども! まさに神話級のバカだ!


 よりにもよって()()()を追放するとは!!


 やばいやばいやばい!!


 世界がヤバイ!!!




「……はあ」


 大きなため息を吐き、ドラグノフは狼狽を振り払った。


 そうだ。冷静に考えれば、あのセレス様が七神の連中などに遅れをとるはずがない。


 おそらく、セレス様は処刑されるフリをして、自ら下界へと降臨なさったのだろう。それならば、神格を失うことなく、神界と下界とを行き来できるはずだ。


 セレス様が神界へお戻りになる為には、まず七神の連中を説得し、セレス様への処罰を取り下げさせなければならない。


 ドラグノフは大神殿の広い廊下を急ぎ足で進み、七神との面会を申し込むため、秘書官室へと向かった。



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