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邪神の使徒②



「私は、いや、私たちはね、ルリちゃんが原因だと考えているのだ」


 はあ? 何を言い出すかと思えば、ルリが僕の周りの不幸の原因だって? 


「そんなの有り得ませんよ。司祭様も先ほどおっしゃったじゃないですか。もし僕が不幸の原因なら、僕自身が不幸になるのはおかしいって。だったらルリだって両親を亡くしてるし、同じ理屈が成り立つでしょう?」


「フィールズ夫妻は立派な人物だった。しかしロラ君も知っての通り、夫妻はルリちゃんに対して、その、なんというか、少々『辛く当たっていた』だろう?」


 司祭様が言いずらそうに口にした言葉に、僕は少なからず不愉快な気持ちになった。ルリが両親から辛く当たられていたのは僕も知っている。しかし、だから何だというのか。「だからルリが両親を殺した」とでもいうのか? そんな馬鹿なことがあるだろうか。


「司祭様、いくらなんでもあんまりです。ルリは厳しくされたからといって、両親を殺そうと考えるような子ではありませんし、第一、ルリにはそんな力も無いです。不可能ですよ」


 司祭様がいうような「不幸」というのは、ただの偶然の産物であり、やはりそれはただの「不運」に過ぎないのだろう。

 司祭様はこんな話をする為に僕をここに呼んだのだろうか。だったら時間の無駄だ。はやくルリの待つ家へ帰りたい。


 そんな僕の様子を見て、司祭様は仕方がないとばかりに、また別の魔法紙を手渡してきた。


「……これを見てくれ」


  ********************************

    ルリ 7歳

    風魔法

    破壊神の加護


  ********************************


 これはルリのスキルを写した魔法紙だ。しかし、風魔法のスキルを得たことは聞いていたが、「破壊神の加護」って何だ?


「ルリは加護持ちだったんですか?」


 以前、司祭様から聞いた話によると、世界を揺るがすほどの偉業を成し遂げた人物等に対して、神様から加護を与えられることがあるらしい。加護を得た人間はその神様の「使徒」として扱われる他、神様の力の一部を行使することができるようになるという。


 また、ごくまれに生まれながらにして加護を受けている者もおり、その人たちは特に「加護持ち」と呼ばれ、神に祝福された人間として尊敬を集めている。

 

 ルリが加護持ちだとしたら喜ばしいことであるはずだ。何故司祭様が悲痛な顔をしているのか分からない。ただひとつ気になるのは、ルリに加護を与えている神様の名前だ。


「破壊神ってどんな神様なんですか? 聞いたことがないんですが」


 僕たちの住むこの世界は、「七神」と呼ばれる七柱の神々によって創造されたと言われている。神界には多くの神々がいらっしゃるが、この七柱は特に強い力を持ち、七神のいずれかの加護を受けたものは、全員が歴史に名を残すほどの偉業を成し遂げているという。


 七神の中に破壊神という神はいないし、以前ルリの両親に借りた神話に関する本にも、その名は見かけなかった。


「破壊神というのはね、この世界を滅ぼそうとしている邪神なのだ。ルリちゃんは、いや、背信者ルリは邪神の使徒だ。この世界に混乱をもたらし、人々に不幸を撒き散らす存在なのだ。疫病、魔物の襲撃、冷害等、最近になって急に起き始めた災害は、全て彼女の仕業なのだろう。このまま彼女を放置すれば、被害はこの村だけに留まらず、世界中の人間を巻き込むような大災害にまで発展しかねない」


 僕はさきほどよりも強く苛立ちを覚えた。()()()()を、そんな風に呼ばないで欲しい。


 さらに、先程から鼻について離れない焦げくさい臭いが、僕をますます不快にさせる。


 そんな僕の気持ちを察してか、司祭様が慰めるように言葉を続ける。


「彼女自身に悪意はないのかもしれないし、私もそう信じている。だが、魔法紙の結果は、彼女が邪神の使徒であり、周囲を不幸にする存在だと示しているのだ。だから……」


 僕はガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、司祭様の言葉を(さえぎ)った。これ以上この話を続けたくはなかった。


「お話はわかりました。それで結局、僕はどうすれば良いのですか? ルリとともに村を出ろとおっしゃるのなら、そうしますが」


 半ば喧嘩腰になってしまったが、僕は気にせず声を荒らげた。そしてさらに言葉を続けようとしていたところで、司祭様ははっきりと答えた。


「それは駄目だ。邪神の使徒は火刑に処すと、教会の法典で決まっている」


 そんな! そんな馬鹿なことがあってたまるか!!

 

 あまりの衝撃に僕が言葉を失っていると、司祭様はここぞとばかりに捲し立てた。


「これは君のためでもあるのだ、ロラ君。彼女と最も近くにいる君は、このままでは大変なことになるかもしれない」


「七歳の子どもを火刑に処すというのは酷いことのように思えるが、考え方を変えれば、これは一種の『救い』ともいえる。彼女の罪を清算し、彼女が次に生まれ変わるときには、きっと清らかな心をもって生まれてきますようにと祈る儀式だ。つまり彼女にとっては火刑こそ救済であり、魂の浄化だ。君が本当に彼女のためを思うのならば、受け入れるべきことなのだよ」


 僕の肩をがっちりとつかみながら、司祭様は続ける。


「それに、ルリに不幸にされた村人たちの気持ちも考えてみなさい。疫病で亡くなった者たちの家族は、今どんな気持ちだと思う? 魔物に親しい人を殺された者は? 彼らがルリを憎む気持ちは、君にも理解できるだろう? だが決してこれは復讐心を満たすことを目的としているのではない。火刑によって、邪教の使徒のみならず人々の憎しみの心さえも浄化されるのだ。これは神の深い愛のなせる業なのだよ。」


 司祭様の言葉が僕の頭の中をを押しつぶすように攻めたててくる。痛みに似た感覚に僕は思わず自分の髪の毛をかきむしった。加えて、この不快な臭い。何なんだこの臭いは。訳の分からない感覚に、意識が飛んでしまいそうになる。


「この村の為、()いてはこの世界のためだ。わかってくれ、ロラ君」


 司祭様は強く僕の肩を掴みながらそう言った。僕ははっと正気に戻り、反射的に叫んだ。


「待って下さい、何かその加護を消す方法があるかもしれません。」


 僕は必死になってルリの処刑を避ける方法を考えようとした。


「いや、人間が神の加護をどうこうすることはできない。それにね、ロラ君……」




「もう済んでしまったことなんだよ」




 その言葉の意味を理解するかしないかの内に、僕は駆け出していた。背後から、「待ちなさい」とか「行っては駄目だ」とかいう声が聞こえた気がしたが、僕は構わず全速力で先ほど来た道を引き返した。


 「火刑」

 「家に一人残してきたルリ」

 「焦げくさい臭い」


 その意味するところを考えないように、僕は走ることだけに集中しようとしながらも、家で僕の帰り待っていたルリが、「おかえりなさい、お兄ちゃん」と笑顔で出迎えてくれることを考えたり、今日の夕飯はルリの好きな野菜のスープにしようかと考えたり、そうやって僕は……


 気付くと、黒煙を上げて燃え盛る家を見上げていた。



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