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追放


「破壊神セレスよ、七神の合議により、貴女を神界から追放する!」


 魔法神(クリムト)の叫び声に、私は戸惑いを隠せなかった。


「……はあ」


 気の抜けたような返答をしてしまったのは、仕方の無いことだと思う。

 

 他者との交わりを避け、神界の深層に引きこもっていた私のもとに、事前の連絡も無く天使兵が現れたのが数分前のこと。


 槍の刃先を突きつけられながら、七神議会からの呼び出しだと言われ、しぶしぶ大神殿まで来てみれば、足を踏み入れた瞬間、何の説明もないまま、いきなりの追放宣言だもの。何が何やら分からない。


 周囲を見回すと、居並ぶお偉いさん方は、皆揃って私に冷たい眼差しを向けている。怖っ!


 無駄かもしれないけど、一応反論しとこうかな。


「いや、私を追放したらまずいことになると思うよ? だって……」


「お黙りなさい!」


 私の発言にかぶせるようにして、世にも美しい声が発せられる。振り向くと、豊穣の女神(アリエラ)が目を釣り上げてこちらを睨みつけてくるのが見えた。


「貴女はこの期に及んでまだ見苦しい言い訳をするのですか?」


 彼女に続いて、他の神々も罵りの言葉を口にする。


「最近の貴様の行動は目に余る!」


「貴様のせいで下界の民が苦しんでおるのだぞ!」


「神界の住人として恥ずかしくないのか?」


 しかし、私には、彼らがいったい何をそんなに怒っているのか分からなかった。


「いや、なんのことやら……」


「もう良い!」


 反論を口にしかけたところで、一際大きな声を上げたのは、戦神(ゴルド)だった。彼は最高位七神の中でも最も神格が高く、その力は、かの創造神に匹敵するとすら称されている。


「貴様の戯言にはうんざりだ! 破壊神よ、貴様を永久にこの神界から追放する! 神としての力も記憶も無くして、下界の民の一員として死ぬが良い!」


 その言葉とともに、天使兵たちが私の身体を処刑台へ縛り付ける。


 神界からの追放、それは神界において最も重い刑罰である。神の力を失い、下界に落とされ、人間として死ぬ。当然、もう二度と神界には戻れない。


 つまりは、間接的な死刑だ。

 戦神(ゴルド)の構える剣に、膨大なエネルギーが集まるのを感じる。


「神界を出た時点で貴様が下界の民に与えている加護なども全て破棄されるからな! 下界の民を(たぶら)かそうとしても無駄だぞ!」


 そんな冷たい言葉とともに、私に向けて消滅をもたらす光が放たれた。


 さて、どうしたものか。

 やり残したことは沢山ある。でも……


「まあ、なんとかなるか」


 神としての身体が消滅してゆくのを感じながら、私はふっとため息をついた。後のことは()()()に任せよう。





「あっけないものだな」


 戦神ゴルドは吹き出る汗を拭いながら、どこか不安げに言った。


「正直、もう少し手こずるものかと思っていたぞ」


 その呟きに、多少の罪悪感が含まれているのを感じ取り、魔法神クリムトは諭すように答えた。


「彼女の力は、何故か我ら七神の力を以ってしても抑えきれませんでした。危険分子は排除すべきだったのですよ。民の平和の為にもね」


 破壊神という大仰な名前から、彼女(セレス)は七神をも超える力を持つのではないかという噂が流れているのを、クリムトは知っていた。


 プライドの高いクリムトには、それが我慢ならなかったが、実際、今日に至るまで七神の誰もが破壊神の力を打ち消すことができず、逆に七神の力は破壊神に届かなかった為、反論することができずにいた。


 しかし、今となって思えば、それは単なる神格の相性の問題だったのだろう。


 強い力を持つ神を消滅させる為には、殺す側にも相当の力と技量が求められるはずだ。先程、ゴルドが破壊神を消滅させた時には、何の手応えも無いように見えた。つまり、破壊神は、見た目通りの、弱々しい神でしかなかったということだろう。


「長年の懸念事項がこうもあっさり片付くとは、嬉しい誤算でしたね」


 クリムトはそう言って、その場を後にした。


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