表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/160

第95話 もういいかい? ――みいつけた

「それで……アレスはどこ行ったの?」

「言えないわ、そんなこと。――それを見つけるのが、レイ君の役目でしょう?」


 僕の問いに、困ったように笑いながらもキナはしっかりと口を閉ざした。

 それが何ともいじらしいというか憎らしいというか、キナらしいと思う。

 だけどこの状況じゃあまり嬉しくない『らしさ』だ。変に頑固なんだから。


「それもそうか。んー……気長に探すしかないかな」


 ……でもまあ、仕方ないか。

 苦笑を頬に浮かべ、僕はまた一歩前へと踏み出した。



 僕たちは――正確には僕、は――魔王城の中を歩きながら、アレスの姿を探していた。

 ぼくの死角にこっそり潜んでいたキナを見つけたのはいいものの、もう一人の『ゲーム参加者』であるアレスはまだ見つかっていない。キナがいるところにアレスがいる――と今までそう思っていたのだが、さすがにそういうわけではないらしい。

 いくらアレスがキナのことを盲信しているといえど。言い換えればつまり、キナのことが大好きだということなんだけど。こんな状況でもアレスのことだから、キナにべったりくっついていてもおかしくないんだけどなあ。


「まあ……アレスもそこまで馬鹿じゃないか。ていうかそんなキナみたいにあからさまな愛情表現をする人じゃあないしね」

「なに、レイ君何か言った?」

「ううん、何でもー」


 きょとんとした顔で聞き返してくるキナに、僕は小さく首を振る。

 それにしても、こういう風に歩くのはいつぶりなんだろう? しかも、二人でなんて。

 いつも過保護なアレスが一緒だったから、とにかく三人で一緒にいた。時にはアレスと二人でどこかへ行こうとするとキナが泣いて嫌がったし。

 そんなことを思い出して、懐かしくなる。思わず空を仰ぐように、高い天井を見上げた。


「……思えば、三人でずーっと一緒だったよね」

「そうよね。お風呂の時とか、買い物の時以外はね」


 お風呂はいわずもがな。着替え等々も勿論だ。

 けれど僕たちの場合は、買い物の時も例外だった。

 理由は簡単だ。買い物にアレスとキナを一緒に連れて行くと、二人はついつい無駄遣いをしてしまうのだ。だからいつも僕だけで買い物をしていた覚えがある。


「最初の頃なんてさあ、キナが使えないのに上級魔道士用の杖なんて買うしー」

「だ、だってあの時は……! その話はしないって約束じゃない、レイ君のばかー!」

「私はルージュ家の令嬢ですから」

「もうっ、そういう時だけ……」


 笑いながら、或いはちょっとだけ怒りながら。手をつないで歩いた。

 アレスのことを……わ、忘れてたわけじゃないよ? 忘れてなんかいないけど。

 心の片隅に留めたまま、ただ散歩のように城内を練り歩く。


「……ねえ、レイ君は」


 キナは視線を前に固定したまま、呟いた。


「勇者になったことを後悔してる?」

「え?」


 思わず聞き返すと、キナは今度はしっかり僕の方を見据えて微笑んだ。


「勇者にならなきゃよかったって、思った?」


 あくまで優しい声。そよ風のような。

 鈍色の大きな瞳を細めて、世間話をするような軽い雰囲気で。

 唐突な話題には戸惑ったけれど、僕はぎゅっとキナの手を握ってみせた。


「……ううん、思ってないよ」

「どうして?」


 キナはやっぱりふわりと微笑む。まだあどけない幼さの面影を残す顔は、大人びた微笑を浮かべるにはアンバランスで。


「小さい頃からずっとなりたいって思ってて――夢が叶ったから、って言うのもあるけど」


 視線をキナから外し、僕は前を見据える。

 何だか口が軽いみたい、――心が軽いのかな。そう思った。


「好きなんだ、私ね」


 一歩を踏み出して。自分の左手を、キナの右手とつないだまま。


魔王城ここの人たちが――すごく、好きだから」


 キナは黙って僕の話を聞いている。それは沈黙じゃなくて、僕の話を聞きたくて待ってくれているような。

 だから僕は話を止めず、ただ唇が紡ぐままに、言葉を作り出す。


「だから、後悔なんてしてない。キナの前でこんなこと言うのは、おかしいかもしれないけど……勇者にならなきゃ、勇者になってここに来なきゃ――きっとこんな幸せを知らなかったから」


 そこまで言って締め括ると、キナは、まるで自分のことのように嬉しそうに笑った。


「……よかった」

「よかった?」


 無邪気。そんな言葉が一番正しいだろう。


「レイ君が後悔してたなんて言ったら、私、レイ君まで殺しちゃってたかもしれないね」


 無邪気故に、残酷な言葉。

 だけどきっと本音だ。だから僕は笑った。笑い飛ばした。


「じゃあキナは、後悔してる? ――僕が勇者になるって言ったのを、止めなかったこと」

「口調が戻ってるわ、レイ君」


 キナもくすりと笑う。そして。


「後悔なんてしてないわ。悪いけど、後悔はしない性格なの。得でしょう」


 そんなことを言う。確かに得だねと、僕も頷く。

 嘘ではないだろう。キナのことだから。――きっと。

 だから否定する代わりに、僕はキナと同じ言葉を返す。


「それは、どうして?」

「だってねえ――」


 キナは嬉しそうに笑うと、目を閉じた。


「例えばね。きっとレイ君が勇者にならなければ、私たちがそれに着いて行かなければ――今頃幸せだったのかもしれないわ。故郷の村で、今頃お嫁さんに行って、――あ、目指すは玉の輿ね。少なくとも村長さんの息子さんくらいは射止めたいわ」


 うふふふと笑うキナ。冗談にならないから怖い。

 キナはちゃっかりしてるからなあ、と思う。見た目ただの天然少女だが、若干の腹黒さが。うーん。


「でもそんな生活なら多分、得ることも失うことも知らなかった。平和っていうかごの中で……生きて、死ぬだけだわ」


 ばっさりと切り捨てるように言う。

 キナは正直だ。正直すぎるほどには。――間違ったことは、言っていないのだけれど。でも、正直すぎる。


 だけどそんなところが好きなんだと、僕は、思う。


「私、鳥かごは飽きちゃったの」


 ――鳥かご。

 鳥かごから抜け出し、大空へと舞い上がった青い鳥は――


 そう言って、笑った。


「だってきっと、空はもっと青いもの!」





 ◇





「――分かった。手配しよう」


 目の前の男はそう言って、小さく微笑む。

 かなり無茶な願いであるにも拘らず、10秒と間をあけずに。


「……感謝する」

「いや」


 俺が素直に感謝の言葉を口にすると、男は今度は少しだけ困ったように笑った。


「これくらいしか出来ないのが逆に申し訳ないくらいだ。本当はもっと、力になりたいんだが」


 ……お人好しだ。先程から何度も抱いている感想を、俺はまた抱いた。

 ありえないほどのお人好し。こんな善人なんて滅多に、――この城には何やら山ほどいるようだが。

 優しすぎることに一種の不安すら覚えながら、俺は静かに首を振る。


「いや……十分すぎるくらいだ。わがままを言っているのはこっちだからな」

「……けれど」


 それでも少しだけ不満そうな――自分に対して、だろう――男に、俺は正直困り果ててしまう。

 人間の中には、こんな善人なんていない。神父だろうと、聖人にだってこんな善い奴はいないだろう。

 なのに。魔族では、訳が違うのだろうか? こんなことなんて――


「あんたは」


 俺はため息交じりに言葉を零す。


「もし俺たちを殺したのがあんただったなら、自分を殺せとでも言う気だったんだろう?」


 俺の言葉に微かに驚いたように目を見開き、――そして小さく笑う。

 大人びたとは言えないけれど、無邪気にも程遠い小さな笑顔。

 イエスともノーとも言わなかったが、それが暗に肯定の意を示していることは俺でも分かった。


「あんたはつくづく、王には向いていないな」

「……私もそう思うよ」


 苦笑する男――魔王。

 その表情には人間らしさがあって、思わずどきりとする。

 人間よりも或いは、人間らしい感情を持っているのかもしれない。そう思わせるほどには。


「向いていない……な。叶うなら、サタンに譲ってやりたかった」


 ぽつりと呟かれる言葉。

 彼らの事情を知らない俺には、何も言えない。その言葉にどんな悲哀の色が込められていようと。


「そしてもう一つだけ、叶うなら――」


 ざあと風が吹く。

 ――その後の言葉は、木の葉の擦れる音に掻き消されて聞こえなかった。



「――望むことさえ、赦されないのかもしれないけれど」


 同情して欲しくて言っているわけではないことくらい、分かった。

 けれどそれでも、憐憫を覚えずにはいられなかった。

 何か言おうとする。せめて口を開こうとする。

 が、それすら許さず――魔王は笑った。


「……さて。そろそろ二人がこっちへ来る、まだかくれんぼを続けているなら隠れるなり何なりするといい」


 先程までの悲しみの色は既になく。

 まるで手品のように表情を変えると、彼は立ち上がった。

 二人が。レイとキナが? というか、かくれんぼなんて何故知っているのだろう。

 俺が追い掛けるように視線を上げると、魔王は片目をぱちんと閉じ。


「隠れないならば――、せめて、笑ってやったらどうだ?」


 からかうような声音に、俺は小さく頷く。

 ――多分、そうするべきなのだろうと知って。

 来るべき時を待つように。


「アレス、みーつけたっ!」


 意識を掬い上げるのは、二人の無邪気な笑い声。

 背後から響いてきたゲーム終了宣言に、俺はゆっくりと振り返る。

 あまりにも楽しそうな、幸せそうな二つの声に。


「……見つかった」


 俺は肩を竦めて、笑って見せた。

 作り笑いじゃない。――多分、ちゃんと笑えてたはずだ。俺は。








 表情を隠して笑うのが手品ならば、俺たちはみんな手品師だ。

 表情を隠して泣くのが手品ならば、――そんなに拍手を誘うものはない。




変態が好かれるという法則は拙作にも適用されるみたいです。

いつかヘタレさんファンクラブとか出来そうですね! ……いえ、もう名乗りを上げて下さった方はいるんですが(^O^)何という。


さてさて、何だか久しぶりの更新です。

アレスとキナは遅くともクリスマス前にグッバーイ(゜∀゜)!!しなければいけないというのに……うわーん私のばかー。

今回更新出来たのも偏に学級閉鎖のお陰ですし\(^o^)/

因みに作者も風邪引きました。インフルは掛かりませんでしたが(過去形)

次回は早く更新しようと焦るばかりです。

早ければ明日には、遅くても来週くらい……には……orz

ていうか魔王の口調本当分からん。いっそ黙れお前! と三回くらい叫びかけました(実話)


あ、それよりも皆様、お気に入り登録100件越しありがとうございます!

何かやっぱり夢じゃないのかと目を擦ってもほっぺ引っ張っても大丈夫だったので現実だと信じます(^O^)うはー!

まだまだ未熟で至らない点もありますが(って毎回言ってますが!)これからも精進して参りますので、どうぞ宜しくお願い致します!

大好きです読者の皆様!(自重が足りない!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ