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第94話 もういいかい? ――もういいよ

 寡黙に結ばれた唇。切れ長の瞳。精悍な顔つき。すらりとした体躯。


「コメット殿ではないか」


 礼儀正しい口調。落ち着いた声。僅かに微笑む口元。ええと、それから――。


「ヘルグは? ヘルグはどうしたのだ!? はっ、まさかお前――ヘルグに対してあんなことやこんなことを」

「死ね!」


 ――黙っていれば男前。


 その言葉が最も似合う男が、今僕の目の前に立っていた。

 その名はルーダ=アリアス。出番が久しぶりすぎて最早哀れな、……うん、すごく哀れなヘタレさんのお兄さんだ。


「ルーダさん、こんなところで一体何をやってるんですか……? あ、いえ、言わなくていいですていうか言わないで下さい。どうせヘタレさんを探してたんでしょう」

「……何故分かった」

「いえ、あんたの行動理由なんてそれくらいしか思いつかなかったもので」

「失礼な! 斬り捨てるぞ!?」

「それだけで!?」


 いや、今のは明らかに僕が失礼だったんだけど。

 ぎらりとぎらつく漆黒の瞳は、ヘタレさんとは似ても似つかない。正直、兄弟とは思えないほど。

 でもそれもそのはずで、彼らは腹違いの兄弟なのだ。特にヘタレさんは――人間の血が混ざった、混血だから。


「まあいい……それよりも、ヘルグはどこにいる? 3秒以内に答えないと問答無用で斬り捨てるぞ」

「どんだけ短気なんだよ。ていうか私がそんなこと知ってると思って……まあ、今の時間なら仕事をしてるんじゃないでしょうか。あ、でも仕事はもうそろそろ終えて、大食堂にコックを脅かしに行ってるところかもしれません」

「……っ!? な、何故ヘルグの行動パターンをそこまで把握している! まさかお前やはり」

「誤解ですけど誤解。んなわけないじゃないですか、一緒にいれば嫌でも覚えますよ……」

「一緒に……!? まさかお前やはり」

「同じ科白を使い回すな! そんなわけないって言ってるじゃないですか!」


 殴る。

 ……いや、というより思わず手が出た。グーの形で。ごめんねルーダさん、でも反省も後悔もしていない。

 だってルーダさんが明らかに悪いし。謝るけど。


「なっ……、殴ったな! この頬はヘルグだけが触れていい聖域であるというのに――」

「『親父にも殴られたことないのに!』の新しいパターンですか!? それにしては気持ち悪い!」


 やっぱり手が先に出た。ていうかごめん、やっぱり謝らなくていい?


 やれやれ……何かこの人、会う度に変態度とブラコン度が増している気がするんだけど。どうなんだそこのところ。

 ていうか聖域って。まあヘタレさんのお兄さんだから、変態なのは頷けるけど。

 何故ブラコンになってしまったのかを聞きたい。何故あんな弟を溺愛するのかがいまいち理解できん。


「あ、そうだ! それよりもルーダさん、お客さんたちがどこに行ったか知りませんか? 今、その、二人を探してて――」


 『それよりも』。僕がさっきの無礼も最早華麗に忘れてさらに無礼に尋ねると、ルーダさんは怪訝な表情をすることもなくぱちくりと目を見開いた。

 彼は混血の弟を持っているので、人間にも大した嫌悪感は持っていない。この人そういう意味では好きだ。うん。


「うん、キナ殿とアレス殿のことか? そう言われれば朝方、楽しそうに駆けて行くのを見たが」

「駆けて……? え、あの、どこに行ったか分かりますか? だ、大体でもいいので」

「すまない、それは分からないな……。だが確か――かくれんぼをすると、そう言っていた」


 かくれんぼ? 僕は首を傾げる。どういうことだろうか、分からないけれど。

 だけど、二人は少なくとも今日の朝まではいたのだ。それが分かっただけでも、立派な前進だ。

 でも、部屋の書き置きといい、キナとアレスはただ遊んでいるだけなのかもと思う気持ちは拭えない。

 そして、そうだといいと――僕は心のどこかで願っている。けれど。


 僕はとりあえず、ルーダさんに向かってぺこりと頭を下げた。

 ヘタレさんのことが絡まなければ割と誠実な人だから。割と。


「あのっ、ありがとうございました! ヘタレさんなら多分、そろそろ食堂の方にいると思いますから」

「む? うむ、何だか分からないが頑張るがいい、それじゃあ」


 ルーダさんはそう言い残し、光の速さと見紛えるほどのスピードで食堂の方へと走って行った。

 ……あの人、変態という点ではヘタレさんといい勝負だな。しかも頑張るがいいって上から目線。

 でもありがとう。とりあえず感謝しておこう。ヘタレさんのことが絡まなければ割と誠実な人だから。……うん!



 それにしても、どういうことだろう。かくれんぼをしに行った――って。

 まずどこに行ったのかも分からないし、何故かとか、誰ととか……全く、分からないけれど。


 探すしかないだろう。


「それにしても……かくれんぼ……? かくれんぼ、出来そうなところ?」


 ぽつりと呟きながら、歩を進める。

 キナやアレスだって、この城のことを完全に把握しているわけではないだろう。

 そこまで長い間、ここにいるわけでもないし。

 でも、この城は広いから、隠れられる場所を見つけようと思えばいくらでも見つかる。


 ――だけど。


 そもそもあの二人が、真面目にかくれんぼなんかするものか?

 ……いや、一つの遊びとして楽しむことは楽しむだろうけど。

 真面目にというか――あの二人が普通に隠れるなんて、考えられない。

 だって、一か所にじっとしているなんて、3分が限界ってくらいの人たちだよ?


「……無理だろ」


 無理だ。うん。


 そうすると、考えられる選択肢は自ずと定まってくる。

 一か所に留まるのでなければ、城の中を動き回っているということだ。そしてかくれんぼをするならば、見つからないようにしなければいけない。けれど城の構造をよく知らない二人は、かくれんぼには向いていないはずだ。

 そんなのどうでもいいんだぜとばかりに動き回っている可能性もあるけれど、あの二人は遊びに掛けては真剣だ。奇抜だし意味不明だけど。多分、出来るだけ見つかりにくいような方法を考えるだろう。


「そうしたら――」


 残されている、選択肢は――。



 ――僕はふいに、くるりと振り返った。

 無情な壁がそびえる、長い廊下の曲がり角。無音の世界だけが存在する、寂しい場所だけど。


「……キナ、そこにいるの?」


 呟くように、静かに放る言葉。

 瞬間、壁に隠れた影が、びくりと肩を震わせた。


「え、その、……誰もいません」


 ……何と分かりやすい。しゃべってる時点でモロバレなんですが。

 その声は明らかに少女のもので、アリセルナの声よりも細く、ルルさんの声より若干低い。

 キナだ。明らかにキナだ。間違えようもない。


「みーつけた」


 僕はふわりと微笑んで、曲がり角の向こうを覗き込む。


「……あう、見つかっちゃった」


 そこには、灰色の瞳を照れたように歪ませる。


 鬼から逃れようと隠れていた、臆病な少女がいて。

 鬼の死角――つまり背後に潜んでいた、怜悧な少女がいた。


 よかった、と思ってしまったのは、僕のせいではないと思う。たぶん。






 ひとりめ、みーつけた。




ようやく更新できたー!


とりあえず、細長い影という記述に期待した人は残念。ただのブラコンでした。

それはそうと、最近前回の神殺しの方にばかりかまけていて……正直ヘタレさん以外の存在をすっかり忘れていました。反省。

でもヘタレさんだけは印象が強すぎて、夢に出てくるほどだったそうですよ。災難。

だけど親馬鹿と言われればそこまでですね。まあ、もっと強い恐怖を植えつけるものでしたが(^O^)


それにしても、何だろう、段々と100話が近付いてきてる……(;´ω`)

どうしよう。100話記念はおいておくとしても、100話って何書けばいいんだろう……←

せめて格好良いタイトルをつけたいです。無意味にでも!(謎の抱負

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