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第91話 真夜中の訪問

「それで私のところに来たのか?」


 リルちゃんはそう言って、眠そうな目を細めた。

 せんせー、ぱじゃまってもえのひとつですかー?

 今YESと即答したそこの君。何も言わず僕と友達になろうか。


「……魔王様も、パジャマなんて着るんですね」

「ん? ……ああ……、ヘルグがどうしてもって言うから」


 ヘタレさんナイス。僕はこの時だけヘタレさんに全力で感謝した。


 今のリルちゃんは、明らかに幼い子供しか着なさそうな(最近の子はませてるからな、5歳くらいまで遡らないとこんなもの見ないかもしれない)青いチェックのパジャマを着て、両手には大きな枕を抱えている。身長は僕よりもかなり高いとはいえど、顔が顔なので小動物のような印象を受ける。

 ふふふ作者が何をしたいのか全く分かんないけど、まあいいものが拝めたしそれでよしとしておこう。


「あの……こんな遅い時間ですけど、いい、ですか?」

「ん。別に問題はない、それよりもお前が困っているのに放っておく方が問題だろう? 入れ」


 目を細め大人びた笑みを閃かせて、リルちゃんは部屋の中へと身を翻した。

 時々リルちゃんはああいう表情を見せる。ひどく大人びた、年相応の――っていうか。

 正に王の名が相応しいと、そういう時、ふと思うのだ。

 ――そしてそういう時は必ず、不覚にも、ときめいてしまう。……乙女か。そんな僕は本当豆腐の角にでも頭をぶつけてしまえばいいと思うよ。


「……コメット? 入らないのか?」

「あ。行きます、今行きますっ」


 立ち止まったまま動かない僕を見て不審に思ったのか、部屋の中からリルちゃんの声が聞こえた。

 僕は慌てて部屋の中へと滑り込む。――温かい。冷えていた廊下とは、大違いだ。


「あったかーい……」


 思わず呟く。昼間はひどく暗く感じる部屋だけど、明かりをつければそうでもない。

 慣れてしまえば、すごく居心地のいい部屋だ。と思う。僕は。


「飲むか?」


 すっと、大きな手から白いマグカップが差し出される。

 中身はホットココアだ。僕はこくんと頷いて、それをありがたく頂いた。

 一口飲む。あったまる。……正直廊下は相当寒かったんだよねてへ。


「廊下は寒かっただろう。手、冷えてる」


 ぎゅっと手を握られ、思わずどきりとした。

 確信犯ならまだしも、天然なのがまた憎い。そしてこのシチュエーションにドキドキしてしまう自分が憎い。本当豆腐の角にでも頭ぶつけて昇天しちゃえばいいのに。

 いや、うん。そうだよあれだ。これはコメットが乗り移っているんだとでも考えよう。自分だって思っちゃ駄目だ、こんな乙女な自分がいてはいけない。落ち着け僕。


「……それで? 相談、だったな」


 自分用のマグカップに口を付け、リルちゃんは微笑む。

 そうだ。そのために来たんだった。パジャマが印象的過ぎて忘れてたぜ……。


「はい、あの……キナと、アレスのことで」


 僕はマグカップに添えた手をぐっと握って、俯く。

 あああ、駄目だ。ここで負けちゃ駄目だ僕。これ以上暗い話にしちゃ駄目だという作者の洗脳が伝わってくるようだ。……て、おい。待てこら作者。


「――レイの、仲間、だな?」

「あ、はい。結構昔からの付き合いで……こうなる前は、3人で勇者一行としてやってたんです」


 リルちゃんの言葉で、僕は現実に引き戻される。

 あの頃が懐かしい。戻りたい――とはもう、思わないけれど。

 でも楽しかったのは事実だ。

 ふう、と一息ついて、僕は今の心境を話した。


「……正直、また会えたときは嬉しかったです。神様のお陰だか何だかは知らないけれど……、ちょっぴり、神様に感謝したくらい」


 僕は目を閉じる。

 本当のことだった。正直、僕はあの時――あの時だけ――神様に感謝した。また会わせてくれてありがとう、って。都合のいいことこの上ないけど。


「――だけど、10日しかないって分かった、から?」

「はい。……会えただけで感謝するべきなのに、私は、また、恨んでしまいました」


 そして、その怒りをキナに向かってぶつけてしまった。

 恥ずかしい。そして、僕は本当にくだらない人間だと思う。

 誰が悪いわけでもなく、誰が善いわけでもなかったのに。……今さら後悔したって、時は戻ってこないけれど。


「……どうするべき、なのかって。分かんないんです、キナとアレスになんて謝ればいいのか」

「どうするべきなのか――か」


 リルちゃんは吐息する。

 呆れてるのかな、それとも困っているのか。くだらないよね。僕が抱えてることは、すごく。

 何度も迷って――この前だって、リルちゃんに助けてもらったばっかりだ。そう思うと、何だかすごく申し訳なくなってくる。


「……魔王様?」


 突然、頭をなでられた。

 優しくて大きな手。長い指が、さらさらと髪をさらっていく。


「一人で背負いこまないで、私に話してくれたことはすごく嬉しい。だから……69点」

「69点……って」


 点数を付けられた。

 ……微妙な点数だ。喜んでいいのか悲しんだ方がいいのか。判断に苦しむ。


「レイがもし、私に向かって二人への怒りとか文句とか、そういうものを吐き出してくれていれば100点だった」

「も、文句って……」


 そんなことを言えるはずがない。

 リルちゃんは何を考えているのだろう、と思った。だって悪いのは一方的に僕だったはずだ。あれは。


「言えないんだろう? だから69点」


 だけどリルちゃんは、くすくすと笑う。この人もよく笑うようになったなあ――って、そうじゃなくて。

 でも69点って。どこが? 何で?

 理解できずに首を傾げる僕に、リルちゃんは指を立てた。


「もっと言うなら、彼らが10日間で十分だと告げてきたときに怒るべきだった」

「……え?」

「しいて答えを求めるのならば、それが正解。――本当は答えなんてないけれど」

「だ、だけど、そんなことできるわけ……」

「だからレイは69点」


 きっぱりと言い切られる。……ぐ、何か悔しい。

 だって69点って。何だか悔しいです魔王さん。取り下げて下さい。


魔王城ここには優しい奴が多すぎる、来る奴もみんなお人好しばかりだ」


 それは思う。僕は小さく頷いた。


「勇者なんてお人好ししかできない職業だろう? だからお前もお人好しだし、そんな勇者と一緒に魔王討伐なんて面倒を請け負った彼らもお人好しだ」

「う……否定できない」


 その通りだ。今思えば、僕はなんてことをしたんだろうと思う。

 後悔はしてないけど、我ながら馬鹿なことをしたなあとは何度も考えた。馬鹿ですから。


「理不尽だと感じたら怒ればいいし、嫌だと思ったらはっきり嫌と言えばいいのに。それができないから、結局不満や後悔が残る」

「…………さらに否定できない……」

「だろう?」


 リルちゃんは満足げに微笑んだ。ああ、反論したいのに全く反論できない。その通りだ。

 僕ってばいつも優柔不断で、相手のためなんて偽って、自分の気持ちをちゃんと口にしていないんじゃないか。

 ……気付けば、簡単なことなのに。こんな泥沼に僕ははまっていたのか。


「分かればそれでいいんだ。理解が早いのはレイのいいところ」


 よしよし、となでられる。むう、子供扱い。

 リルちゃんはいつだってそうだ。僕だってもう19歳なのに。僕、というかコメットだけど。

 もういい加減子供じゃなくてちゃんと見てほし――って、僕は乙女か。待て待て待て。落ち着け僕。落ち着け落ち着け餅つけ。……いや落ち着いてなくない? 脳内大混乱。しばらくお待ち下さい。


「……? レイ?」


 あああごめんリルちゃん。今応答不可能。脳内で三人の僕がお餅ついてます。


「……コメット!」

「ひゃ!」


 ほっぺたをみょーんとつねられる。突然のことに思わず変な声を上げてしまった。

 痛い。恥ずかしいし!


「い、いひゃいです」


 涙目で懸命に訴えると、ぱっと離された。後には細く長い指の感触だけが残る。

 だけどリルちゃんは、嬉しそうに笑っていた。


「も、もう、何するんですか! 痛かったんですよ!」

「よかった。レイ、ようやく怒った」

「――え?」


 頬を押さえて怒るのも忘れ、僕は目を見開く。

 よかった? 怒ったことが?


「だから怒っていいって、言ってるんだ。な? 感情豊かな方がお前らしい」


 ひどく嬉しそうに微笑んで、リルちゃんはそう言う。

 思わず言葉を失った。


 ――お前、っていうのが、僕でも、コメットであったとしても。


「……でも、ひどいです」

「ごめん」


 またなでられる。嬉しいけど、何だか悔しい。リルちゃんはいつだって僕の一つ上を行く。

 むーと唇を尖らせていると、こつんとリルちゃんが額をくっつけてきた。


「私はいつも、お前には本音で話して欲しいと思ってる。きっと彼らもそうだろう? だから、話すんなら本音で話さないと」


 その通り――だ。

 僕は頷くしかなかった。


「……はい」

「素直でよろしい」


 ひどく無邪気に笑う顔。何だかんだいって、この人がやっぱり僕のことを一番分かってくれているんだろう。

 いつもいつも……助けられてる、なあ。

 素直に感謝したい。ありがとう、って。素直に……言えたら、いいんだけど。


「……じゃあ、明日一番に……話しに、行ってきます」

「そっか」


 リルちゃんは、肯定するでも否定するでもなくただ優しく笑う。


「それなら、もう今日は遅いから寝た方がいい」


 そうやってふんわりと、頭をなでる手。

 ……そうだな。何だかほっとしたら、眠くなってきた。

 目を擦ってリルちゃんを見上げると、何だかぼうっとする。


「……じゃあ一緒に寝ましょう、魔王様」

「……え」


 僕の言葉に、頭をなでる手がフリーズする。いや、手だけじゃない。リルちゃんが全体的にフリーズした。呼吸とか鼓動とかは大丈夫だろうか。……大丈夫だよね?

 てか、何故そこでフリーズする。僕、何か変なこと言った?


「……それは……」


 困った顔をするリルちゃん。……あ、いつものリルちゃんに戻った。恥ずかしがりで対人恐怖症の『魔王様』に。

 前もこんなことあったよな、と微笑ましく思いながらも僕はリルちゃんの腕をがしっとつかむ。相変わらず細いなこの人。


「もう自分の部屋まで戻る気力もないですし。いいですよね?」

「よくない……よくないから!」

「暴れないで下さい」


 じたばたと暴れるリルちゃんを抱えて、ベッドへとダイブ。ぼふとやわらかい音がする。

 すごく眠くて、もうリルちゃんの抗議の声すら聞こえない。あったかいなーっていう感想ばかり浮かんで。


 やっぱりこの人のそばが安心するなあ。瞼が重くなって。



 お休みなさい。




 ――あ、ちょっと待って。


 寝る前に一つだけ聞いてくれますか?



 傲慢な願いですが、どうか今夜だけは、僕の悪夢を追い払って下さい。

 恥ずかしがりで対人恐怖症で無口で無表情でにんじんが嫌いで、だけど本当は誰よりも優しくて、何だかんだでためらいがちに手を握ってくれる君へ。




勇者くん、ちょっと表に出ようか。


どうも白邪です。勇者が変態になるのは構わないけれど魔王が変態になるとこの物語変態しかいなくなるので何とか自粛しました!

あ、いや、でもこの物語は変態しかいませんよ?(普通に前言撤回)

100%変態成分で構成されています。

……ていうか、こんなに長くなってまで読んで下さってる優しい読者様はいらっしゃるのでしょうか。どうなのでしょうか。不安です……。


今回ほのぼの~を目指したらこんな感じに。何が起きた自分。

コメディというか勇者の脳内が(クレイジー的な意味で)コメディですよね。

一番自重がないのは作者? HAHAHA,それは言わないでくれ←

だって後書き好きなんだ。……ごめんなさい、謝ります(;´・ω・)こんな作者でごめんなさい本当。

次回も頑張りますのでどうか見捨てないで下さい……(;´Д`)

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