表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/160

第77話 少女は笑った、男は嗤った

「アリセルナちゃんっていうの? よろしくね」

「貴女はキナっていうのね。仲良くしましょっ」


 緊張のせいか、重い雰囲気が充満する廊下で。


 ――暗くなっていく空気を振り払うように、こんな緊急事態の中で少女二人はきゃぴきゃぴ笑い合っていた。

 きゃぴきゃぴ。

 ……きゃぴきゃぴ。


「アリセルナちゃん何歳? 私16歳!」

「私は18歳よ! キナより少しお姉さんね」


 きゃぴきゃぴ。……しつこいが、きゃぴきゃぴだ。


 アリセルナと、キナ。

 ――その話はまず自己紹介から始まり、年齢や容姿の話から、きっと女子同士にしか共有できないものなのだろう話まであった。

 尽きないその話題は、一体どこから出てくるのだろうかと思う。

 自分のことを全て包み隠さず話しているような印象を受けるほど、二人は話し込んでいた。

 その話し振りを聞いていれば、魔族と人間、そんな隔たりも忘れたかのような投合っぷりだと感心すらできる。

 ……若いなあと思ってしまった俺は、多分負け組だ。


「でねっ、私――」

「え! それ本当? すごおい!」


 それにしても、種族は違えど、どの世でも女の子同士というのは盛り上がるらしい。

 まるで、十年来の親友みたいだ。

 うんたらかんたら、ついに恋の話にまでこぎつけてるし。


 ――何だか、複雑な気分だ。


 ……うん、まあ、仲がいいのはとてもよろしいことであるはずなんだが。

 何だか……、うん、その片方と付き合いが長いはずの俺としては虚しい気がしないでもないのだ。

 それは思わず、ため息が出そうなくらいには。


「……虚しいな」


 そんな俺の気持ちを読んだように、隣を歩くアレスが呟いた。

 目が、明後日の方向を見ている。……目が危ないぞ、とはさすがに言わなかった……というか、言えなかったが。


「……そうだな」


 代わりに俺は、素直にその思いに同意し、そして、同情した。




 ……俺たちは今、魔王様の部屋前に向かっている。


 ヘルグに事情を話し、ひとしきり話が終わったので――まずは、行方不明の魔王様の捜索に出るのだそうだ。

 魔王様はこの城の要だ。言ってみれば、いなければいけない存在だ。妥当な判断と言えばまあ、そうだろう。

 ――幸い、今は魔王城には人気が少ない。

 今、ここに人間がいることにも気付く奴はいないと思う。


 そんな理由も相俟って、とりあえずは――コメットのことも気になるが、魔王様のことが優先されることになった。

 サタンも現れたというし……、実際、何が起こっているのかもよく分からない状態なのだ。

 だからまずは、魔王様の安否を確認したい。


 だが――あの現場を先に見た俺としては、少し、不安が残る。

 崩れた壁。瓦礫の山。異常な静寂。

 あれらはまず、自然に出来るものではない。


 破壊。


 俺には、それが一番正しい表現に思えた。

 だとしたら、それはつまり――



 ――魔王様……無事だといいが。

 いや……、違う。無事じゃないといけない。

 あの人は。



 王なのだ。彼がいない魔王城など、成り立ちはしない。




 ……無事でいて下さい。魔王様。




 ◇




「これからどうしますぅ? サタン様」


 甘えた声で、少女はくるりと振り向いた。

 誰もの目に愛らしく映るであろう、幼さを残す可憐な容姿。

 頭の横で二つにしばられた、柔らかなブロンドがふわりと揺れる。

 くりくりと大きなルビーの瞳が、その先にいた、少女とは正反対の男の姿を捉えた。


「……そうだな」


 木々の色よりもさらに強い、毒々しい色の髪。

 少女と同じであるようで、全く違う血染めの瞳。


 そんなまるで人間離れした容姿を持った男は、その鋭い目を細める。

 いくらその顔が整っていても、それは、人の目には奇抜だとしか映らないだろう。

 冷たい印象ばかりを残す精悍な顔つきは、どこか、『魔王』と呼ばれるその人に似た面影を持っていた。

 けれどそこに優しさはなく、ただ無情な残酷さが瞳を介して伝わってくる。


「……しばらくは……様子見でいいだろう。あいつがいないなら、攻める意味など無に等しい」


 ――だが意外にも、口調は何故か柔らかかった。

 それは少女に向ける気持ちなのか、それとも――

 だが少女は、そんな様子など当然だと言わんばかりに話を続ける。


「ええーっ、何ですかそれっ。だって、魔王ってもう死んじゃったんでしょ? なのにそれってえ、もう干渉しないってことじゃないですか」

「……ルナ」


 男の責めるような口調に、ルナと呼ばれた少女は口を尖らせた。

 不満そうな、幼い仕草がよく似合っている。


「だって。死んだんでしょ?」

「私を……誰だか分かっているか?」


 優しいが、どこか無機質な男の声がルナの耳をつつく。それは怒っているようにも見えた。

 そんな男の様子にルナは、肩を竦め不満そうな声で謝る。


「はいはい、すみませんってば。でもサタン様、あたしの気持ちだって汲んで下さいね! もううずうずして仕方ないんですもん」


 むすりと頬をふくらませて言うルナに、男は満足したかのように瞼を閉じた。

 ただ、薄い唇をうっすらと開き、細く息を吐く。

 目は依然閉じたまま。唇だけが、小さく動いた。


「……魔王は、死んではいない。死ぬ訳がないのだ」


 呪文のように繰り返す科白。それは思い込みにも似ていた。

 ほとんど独り言のような言葉を、ルナは耳聡く拾う。


「え、でもサタン様。あのー、魔王って、神に……」


 ルナがためらいがちに小首を傾げると、男はうっすらと仄暗い目を開ける。

 その口元には、歪んだ、小さな笑みが浮かんでいた。

 男は黙って腕を組み、そして――



「いるかどうかも分からぬ神如きに、誇り高き王が敗れるものか。――奴が死ぬ理由わけはない」



 ――その瞳は紛れもない、悪魔サタンの瞳だった。




らっきーせぶん!


ようやくテストが終わったので更新ですー*

……まあテスト前にも普通に更新してましたけど。

テストの結果は置いといても、とりあえずしばらく勉強しなくてもよさそ……(笑)


それにしてもヘタレさん無言。

どうしたのかしら。悪い物でも食べたのかしら。


ついでですが新キャラ。……全キャラ覚えられるか試してみて下さ(自主規制)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ