第58話 Kiss me !(前)
まさかのコメディーパート2。
いつからこの小説はラブコメという分類になったんだろうと考える白邪です。いつもお世話になってます。
インフルエンザにも風邪にもかからなかった白邪はカオスウイルス(仮名)に感染しました。
というわけですみません。
前書きすらカオスですが久しぶりの更新、どうぞ!
聞き違いであって欲しい。
いや、お願いだから聞き違いであってくれ。
僕は願いながら、もう一度聞き返す。
「あの……今、何て言いました?」
出来るだけの笑顔で。
そしたら――彼も、とびっきりの笑顔を僕に向けて。
「だから、プレゼントは勇者さんからのキスがいいなあと」
――この人に殺意を抱いたのは何度目だろうと、数えながら僕は冷たい笑みを浮かべた。
……
6月12日。
その日がヘタレさんの誕生日だって知ったのは、うん、偶然だった。
些細な、本当に些細な日常の会話からだったんだ。
その経緯を要約すると――
『ねえコメット。ヘタレさんの誕生日って6月12日らしいわよ』
『へえ、何それ美味しいの?』
――以上。
それだけだった。
なのに、アリセルナが――
『祝ってあげれば?』
なんて、言うから。
『……何で私』
『だってヘタレさんと一番仲がいいの、コメットじゃない』
んなあこたない。
『誰がヘタレさんなんかと――』
『え、だって。ヘタレさんだって、コメットといる時が一番楽しそうだもの』
……まさか、とその時僕は思った。
確かに鬼畜やサディストって意味ではいきいきしてるかもしれないけどさ……、楽しそう?
いや、いきいきしてるけど。してるけど、あれは違うんじゃ。
僕は思った。
『まさか。見間違いだって』
『そんなことないわよー。あ、もしかしてヘタレさん――』
アリセルナは嬉しそうに、僕を指差す。
『――コメットのこと好きなのかもよ?』
一瞬、硬直。
――好き? like?
全くもう、女の子はそういう話題が好キデスネ。
え、違う? そういう問題じゃない?
いや――だって。それは天地が引っくり返ってもありえないだろうに。
気持ち悪いし。好きって。嫌だし。ヘタレさんだし。
僕は本気で思った。
『とにかく、祝ってあげたらきっと喜ぶわよ? コメットだってあの人に恩がないわけじゃないんでしょ? 何だかんだであの人世話焼きだから』
僕はその言葉に反論する術を、持たなかった。
――そんなこんなで、ああ、何故か。
僕がヘタレさんを祝うことになってしまったわけで。
仕方ないから考えてたわけで。
そう、プレゼントとか考えてたわけで。
ヘタレさんの欲しいものなんか思いつかないから、一応本人に欲しいものとか聞いたみたわけで。
……今に、至る。
「頭、大丈夫ですか? 生きてますか? むしろ逝けばいいんじゃないですか?」
「やだなあ、勇者さん顔怖いですよ。せっかくの美人が台無しですよ?」
「死ね!」
あははと楽しそうに笑うヘタレさん。
この人自分で今何言ったか分かってるのか? 分かってないんじゃないのか?
まさかボケてる、それとも本気で死にたいのか? むしろ僕が殺してやろうか。
思いながら、きっとヘタレさんを睨む。
「あ! もしかして勇者さん、ファーストがまだだとか」
「……はい?」
「あー、それじゃ照れてるんですね! 可愛いですね」
死ね。
本気で思った。
何がファースト、何が――いや、間違ってないけど。
「もう……っ、何が可愛いですね、ですかっ! もう黙って下さい! つーか、あんた死ね!」
「そんなに照れなくても」
「照れてないですから!」
「またまたー」
この人何でこんな笑ってるんだ。
本気で一発殴ってやろうか。畜生め。
「そんな、大丈夫ですよ? 誰にだって初めてはありますから」
「そういう問題か!」
ていうか、……嫌な言い方だと僕は思った。
全くもう。怒るのも疲れて、呆れたように大きなため息を押し出す。
「大体それ、何ですか……キスって。ふざけてますか? 死にたいんですか」
でもそんなことを言ったって、ヘタレさんはけろりとした顔でそんな問いに答えるだけ。
「ふざけてないですし、死にたくもないですけど。本音です」
「なおさら性質悪いんですけど。死んで下さい」
何か僕……さっきから同じことしか言ってない気がする。死ねーって。
だって、……キスって。
はいそうですかってわけにはいかないじゃんか。
言っとくが僕は男に興味はない。今さら女の子に興味があるとも言えないけど。
特にヘタレさんには、興味なんて断じてない。
「いいじゃないですか。20歳の誕生日なんですよ? それくらい許されるはずです」
「神が貴方を許そうとも私は貴方を許しませんから。誕生日とか絶対関係ないでしょうが」
気楽に笑って見せるヘタレさんと、何か色々と殺意を通り越した僕。
ああもう嫌だこの人。この人の思考が全く理解できない。誕生日に誰がそんなこと頼むんだよ。ヘタレさんか。
他に見たことないぞ。そんな人。
ほんと、何でキス――っていうより、そもそも。
「そもそもですねぇ、好きでもない相手にそうやって――」
「好きですよ?」
……は?
ヘタレさんはさらりと言った。
あまりにもさらりと言うもんだから、僕もさらりと受け流しそうになった。
けどさ。
「勇者さんのこと。好きですけど」
――何言ってんの、この人?
ヘタレさん×勇者という要望がありまして……ついカッとなりましたすみませんほんとすみません。
しかも後編あるし、と思った方もすみません。何か皆様すみません!
そんなわけで誕生日祝って下さる方募集してま(自主規制)