第54話 反転、カオス
最近シリアスだった反動というか、お詫びというかで……
今回かなりのカオスです。
主要キャラ3人が代わる代わるボケたり突っ込んだりしてます。
ほぼ愛と勇気とその場のノリで執筆しておりますので、前述の通り半端なくカオスです。
ご了承下さい。
では、そんなものでも読んでやるぜ! というチャレンジャーの方だけ、どうぞ……。
リルちゃんはにんじんが大嫌いです。
まあ――みなさんご存じだとは思いますが。
今一度、ここで言っておきたいと思います。
ええ、リルちゃんはにんじんが大嫌いなのです。
……え、どれくらい嫌いかって?
そりゃあ――
「脳内で満場一致、GOサインが出た! 壊すっ!」
「壊すって! にんじん壊すって! ちょっ、落ち着いて下さい魔王様ー!」
――普段常識人であるはずのリルちゃんが、常識を失ってしまうほどに。
脳内でって。満場一致って。GOサインって。
最早それは非常識の範囲内ですよリルちゃん。……って聞こえてないか。
「第一優先任務! この未知の物体を始末する!」
「いやっ、本当落ち着いて下さい! それ未知の物体なんかじゃないです!」
そういえばリルちゃん、昔からにんじん嫌いだったっけか。
あー、そんなこともあったかもしれないなー。
珍しく慌てているヘタレさんを尻目に、僕はしみじみと思い出に浸る。
――え、助けてやれって?
知らん。
僕はそこまでお人好しじゃないぞ。ヘタレさんを助けるほど。
いつもリルちゃんをいじめてるヘタレさんが悪いんじゃないの。
僕には関係ない。これっぽっちもない。
そんなわけで。
僕は、何とかリルちゃんを説得しようとしているヘタレさんを眺めているのだった。
「魔王様落ち着いて下さい! にんじん如きで一話まるまる使うわけにはいきませんよ!? そもそも作者にネタはないですから! 見切り発車です!」
ヘタレさん難しいこと言ってるなー。
イチワって何のことだろう。サクシャって?
何が見切り発車なんだ。ヘタレさんのキャラが? ある意味どころかあらゆる意味で不十分だよね、この人の頭。
「ヘタレさんこそ落ち着いたらどうですか。何だかキャラが壊れてますよ? キャラ崩壊ですか?」
「仕方ないじゃないですか! 誰も突っ込みに回らないから私が回るしかないでしょう!?」
「……えーと、お疲れ様です」
そうか。ヘタレさんにも突っ込みは出来るのか。
僕は感心する。
え、感心する場所が違う? あーあーあー、何も聞こえないなー。何のこと?
ふと視線を移すと――逸らすと――まだリルちゃんは暴れていた。当たり前か。だってにんじんだもんね。
「にんじんこそ人類最大の、いや世界最大の敵だ! だから今ここで、世界に蔓延る全てのにんじんを撲滅する!」
蔓延るって。
リルちゃん、戻ってこーい。
にんじん撲滅しても世界は平和にはならないぞ。世界の子供たちは喜ぶかもしれないけどね。
そう思いつつも、言いはしない。
触らぬ神に祟りなしってね。僕はヘタレさんとは違うんだ。おーけい。
「魔王様! にんじん如きで最上級魔法を使うのはやめて下さい! 身体に悪いです!」
「にんじんの色の方が身体に悪い! 絶対!」
暴れるリルちゃんとそれを押さえるヘタレさんをしみじみと眺めて、僕は思い出す。
そうか。リルちゃん、にんじんの色が嫌いなんだっけ。
何でかは知らないけど。色だけか? 色だけが嫌いなのか?
「あのー、魔王様。色が違えばいいんですか?」
「着色料は身体に悪い!」
……さいですか。
つまりあれか。どうなろうと食べたくない。見たくもねーよ馬鹿野郎と、そういうことなんですねリルちゃん?
僕はため息をついて、どうにもならないじゃんと思う。
まあ、リルちゃんがにんじんを食べられないからどうってことはないけど。
人には普通、一つや二つは嫌いなものがあるはずだから。
リルちゃんの場合、それがにんじんだったってだけだ。
「諦めましょうよー、ヘタレさん」
「……あなたは最近脱力気味ですよね。平たく言えばやる気がないというか」
「んなもの最初っからありませんよ」
僕はひらひらと手を振る。
何だろう。何ていうか、疲れたんだよなあ。
何もかもどうでもいい……とまでは言わないけど、そんな大して関心もないというか。
どうしよう。誰に似たんだろう。
「……コメットも、にんじんの気にあてられたのか?」
「いや……それは違うと思いますけど」
心配そうに僕の顔を覗き込んでくるリルちゃん。が、僕はその言葉を完全否定する。
いやだって。にんじんの気にあてられるって。
そんなことが起こるのは多分、世界でリルちゃんだけだろう。
「ならよかった……」
しかもそれを本気で安心した風に言わないで下さい。
何か罪悪感覚えるから。僕が悪者みたいだから。
「とにかく! にんじん食べて下さい!」
「そ、それだけは嫌だ!」
そして何故そこまで粘る。
リルちゃんも、ヘタレさんも。
どっちか折れろよ。目の前でそんな争いされても迷惑なだけだから。いや面白いけど。
そう思っても、二人は止まらない。めくるめくにんじんのための争い。
「あのー」
僕はついに見兼ねて声をかけた。
「いい加減諦めたらどうですか、ヘタレさん」
「……何で私ですか」
「魔王様を責める気なら毛頭ありません」
「……差別ですか」
「贔屓です」
変わらないじゃないですか、というヘタレさんの言葉は華麗にスルー。
だって、リルちゃんとヘタレさんじゃ天と地ほどの、いやそれ以上の差があるじゃないか。贔屓ばんざーい。
「普通は仲がいい人の肩を持つでしょう」
「……貴女は、私より魔王様との方が仲がいいと?」
「勿論ですよ」
誰がヘタレさんなんかと仲良くなるか。
それくらいなら僕はリルちゃんと仲良くしたい。お近付きお近付き。
そんなことを思っていると、ヘタレさんは突然真剣な表情になって僕を見た。
「あの。作者が常時持ち歩いてるキャラ相関図に載ってる、私たちの関係を知ってますか?」
「え……サクシャ? ソウカン……?」
僕はわけが分からず首を傾げる。
何? どういう意味だ。サクシャ? ソウカンズ、っていうのは相関図という意味なんだろうけど。
「関係、って……」
「カオスですよ! カオス!」
「っ!?」
「作者がそう書いたんですよ。私たちの関係はカオスだそうで」
カオスって。カオスって!
「だから! サクシャって誰ですか!」
「あいつです!」
「どいつですか!?」
誰だ、僕らの関係をカオスにしたの。……いや、カオスだけどさ!
ふざけるな! 顔見知り程度でいいのに! むしろそうして下さいお願いします!
「……そう、かんず……? かおす?」
「あっ、魔王様は気にしないで下さい! 気にせずにんじん食べてて下さいね!」
「嫌だ」
そこは即答するのな。
僕は呼吸を整えながら、冷静に考える。
カオス。カオスって……でも、下手に友人とか書かれるよりよかったんじゃないか?
誰がそんなもの作ったんだか分からないけど。
カオスならまだ――って、許せるかあっ!
「やっぱり嫌ですヘタレさん! むしろ関係なんて消して下さい! 何もなかったことに!」
「え、無理です。作者に頼んで下さい」
「だから、サクシャって誰ですか!」
「暗黙の了解です」
聞けば聞くほど、意味が分からなくなっていく。
一体誰に頼めば、その関係を消してもらえるんだ? 一体誰だそいつは。
「思いっ切り叫べば聞こえるかもしれませんよ?」
「本当ですか!?」
「ええ」
よし。じゃあ叫ぼう。
ヘタレさんとの関係を断つために! 頑張れ僕!
「僕とヘタレさんにはそもそも関係なんてありませんからっ! むしろお互い窒素ほどの認識しかしてな――」
「言い過ぎです。あと一人称戻ってますけど」
「途中で遮らないで下さいよ!」
せっかく叫んでたのに、と僕は呟く。
これでヘタレさんとオサラバできると思ったのに! というのがむしろ本心。
「ああ、言い忘れてましたけど、聞こえていたとして変えてくれるかどうかはまた別問題ですよ」
「ええ!?」
先に言えよ!
体力を浪費してしまったじゃないか。
確信犯かこの野郎……にやにや笑ってやがる。
「ちなみにあなたと兄さんとの関係は『鬼畜』です」
「……ヘタレさんってルーダさんのこと、兄さんって呼ぶんですね」
「え、あれ、そういう驚きですか?」
だって今さら、突っ込む気も起きないもん。
鬼畜って。最早関係ですらねえよ。
僕はそう思いながら、ヘタレさんに向かって微笑む。
「両想いになる日も近いという認識でいいですか?」
「よくないですなりません気持ち悪いです」
「えー」
「無理です断固拒否します生理的に無理です」
ひどいな、ヘタレさん。
本当は好きなくせになー。
断固拒否って。生理的に無理って。ルーダさん泣いちゃうぞ? 別に興味ないけど。
「ああ、ちなみにどうでもいいですが、作者は鬼畜の『畜』という漢字が書けなかったので平仮名で書いてます」
「どうでもいいですね。ほんと」
はあ、とため息をついてふと視線を逸らすと、リルちゃんが完全に除け者になっていた。
そうだよね。こんな話についてこれるわけないよね、リルちゃんが。
首傾げてるよ。こっち見てるよ。小動物並みの可愛さだなこの野郎。
「あ、魔王様は知らなくていいんですよ。気にしないで下さいこんな愚物」
「ひどいじゃないですかー。何ですか愚物って」
「うるっさいこの愚物」
「敬語すら使ってくれないんですか」
だってよくよく考えたら使う必要ないじゃない。
僕はヘタレさんを無視してリルちゃんに向き直る。
「あの人の言葉にはいちいち教育に悪い言葉が含まれてますからね。魔王様は聞かなくていいですよ」
「……私だけ仲間外れなのか?」
「え、や、そういうわけじゃなくて」
リルちゃんがじっとこっちを見ている。
黒い大きな瞳が、純真さを湛えてこっちを見てるよ。
何? 僕はどう反応すればいいの?
「私は駄目なのか?」
「いやっ、あの、そういうわけじゃないです!」
「だったら何故……」
ああ、もういい!
「違いますから! 教えます、教えますって! だからそんな悲しそうにしないでっ!」
自棄になって、つい――そう言ってしまった。
「……本当、に?」
「……本当です」
完敗。
駄目だ。この純真さに勝てるわけもない。
僕きっと、こういうのに弱いんだ。
だって嬉しそうだよ。笑ってるよ。リルちゃんが笑ってる。この笑顔を壊せるわけないじゃないか! 少なくとも僕には無理!
「よかった……仲間外れにされたかと」
リルちゃんを切り捨てるくらいなら先にヘタレさんを切り捨てますから。
「え、今何気にひどいこと考えましたよね?」
「気のせいじゃないですか」
僕はあっさりとヘタレさんの言葉をはねのける。
それにしてもこの人、読心術でも使えるんだろうか。やめてくれ。
「――ところで、あの。オチがないんですが」
「え、オチ……?」
「ええ。そろそろ終わらないと文字数がひどいことになってるので」
文字数? いや、だから何のことだ。
この人は本当に意味が分からない。
「作者が愛と勇気とその場のノリで執筆してることが分かりますよね」
「いや、あの」
だから何のことだって。
「このままだとエンドレスなんですよ。終われないんです」
「え、それって……」
「終われないということはつまり、今しばらくこのテンションを維持しないといけないということです。私は別にそれでもいいですけど。作者もキャラも読者様も疲れますし、終わった方がいいでしょう?」
そ、それは嫌だ!
僕は大きく首を縦に振る。
この馬鹿げたテンションを維持するなんて――あと2分で限界だ。ていうか今すぐ終わりたい。
「でもオチがないんですよねー。唐突に終わったら怒られますかね」
「……誰にですか?」
「読者様に」
今度はドクシャサマ、か。誰だそれ。
でもきっと偉い人だな。ヘタレさんが気にするくらいだから。
うーん……どうしたらいいんだか。
よく分かんないけど。
「あ、じゃあ、私が……」
「あ、魔王様、いい案あります?」
お。僕は期待する。
リルちゃんならきっと、いい案を出してくれるだろうと。
「にんじんを破壊して終わる」
……期待外れでしたー。
「そんなオチ誰も期待してませんから。落ち着いて下さい魔王様」
「にんじんがこの世界に蔓延っている限り、平和は訪れないんだ! 離せ!」
「いや、にんじんが蔓延っていなくとも多分平和は訪れませんよ」
ヘタレさんに押さえられたままリルちゃんは暴れている。
あー。終われないよ本当。報われないし。にんじんて。にんじんって。
僕はため息をついた。
「ああ……それじゃあ、こうしましょう?」
今度はヘタレさんが案を出す。
期待はしないよ。しないからね。
ヘタレさんだし。そう思いながら、次の言葉を待つ。
「これで第54話を終わります」
「今までの中で一番あんたが唐突だ!」
笑顔で言うな、笑顔で!
それで終われるんだったら苦労してないわ!
「嫌ですねー、そんな固いこと言わないで下さいよ」
「何も固くないですから。終われませんから」
「終わりよければすべてよしってことで!」
「いやだから、その終わりがよくないから今困って――」
瞬間、ぶち、とどこかで音が鳴る。
何の音だ? 見回すけれど。
……え? 何、嘘。これで終わんの?
ええ、これで終わりますサクシャです(笑)
本当にカオスですみません!
多分、もう少ししたらまたシリアスに戻りますので><