表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/160

第50話 相思相愛

「……実に退屈であるな、コメット殿」

「そーですねー」

「……何だその反応は? せっかく私がそばにいてやろうと言っているのに」

「その気遣いが無駄だって言ってんのが分かんないんですか」

「な、何だと!? 私だって好きで貴様と一緒にいるわけでは――」

「こちとら記念すべき50話をどっかの変態ブラコン野郎と飾りたくてやってるわけじゃないんだっての」

「ふほぉぉぉ! コメット殿がいじめるー!」

「どこの子供だあんた」


 えーと、皆さんこんにちは、勇者です。

 今日はお天気なので庭にやってきました、が。

 何故か隣にルーダさんが座っています。何でだろう。誰か駆除して下さい。


「というか、何だその『ごじゅうわ』というのは? 美味しいものか美味しいものなのかそれとも美味しいものかはたまた美味しいものか?」

「選択肢全部同じじゃないですか。残念でしたー、外れでーす」

「くっ! 油断したか……」


 本当に意味分かんないよねこの人。

 口に出したらまたこじれるから、何も言わないけど。

 僕は出そうになったため息を飲み込む。


「……ルーダさん、とりあえずどっか行ってくれません?」

「他に行くところはない!」

「……だからって何で私のところに来るんですか」


 そして何故そんなことを堂々と胸を張って言うのか。

 ……多分この人とは一生会話が成立しないんだろうな。

 させる気もないけど。

 だからよし。何の問題もない。


「そんなの、一番面白そうだったからに決まっているだろう?」


 ……こっちは関わりたくないんですけど。

 うわー。迷惑な人だ。


「そんな……ヘタレさ――や、えと、弟さんのとこ行けばいいじゃないですか」


 僕は慌てて取り繕う。

 危ない危ない。この人、ヘタレさんのこと馬鹿にされると怒るからな。

 一歩間違ったら、人も殺せそうなほどに。


「……ないか……」

「え?」

「ヘルグに厄介払いされたから来たのではないかァァァ!」

「わっ! ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー!」


 泣きながら怒鳴ってくるルーダさんに僕は平謝りに謝る。

 何か、本気で怖いよこの人。

 正直な話、半径10メートル以内には近寄りたくない。

 でも相手から近付いてくるんだからどうしようもないな。いや近い近い、近いから。こっち来るなぶらこん。


「うっうっうっ……ヘルグは私が嫌いなのか嫌いなのか嫌いなのか!? やはり私を憎んでいるのだな!」

「いや落ち着け被害妄想、あんたの気のせいだ! 事実かもしれないけど!」

「フォローじゃないじゃないかうわあああああん!」


 ルーダさんはどっと泣き出してしまった。

 この人、いい年してそんな大泣きするか!? この人大人だよね!?

 周囲の視線――魔獣たちの、だけど――が痛い。


「……帰っていいですか?」

「貴様には慰める気も能力もないのか!?」

「ないですねー、あはは、残念ですよねー」

「ふほぉぉぉぉ!」


 だってあんたを慰めて僕に何か得があるか。

 周りの視線も痛いし、関わるのも何か馬鹿馬鹿しいし、帰ろうっと。

 そう思って立ち上がったところ、ルーダさんにがしっと腕をつかまれた。


「……何ですか」

「行くなぁぁ! お、お願いだ、一緒にいてくれ……!」

「あーあーあー気持ち悪い。却下」

「うわああああん! いじめられたー!」


 子供か。

 そもそもいじめられた相手に一緒にいて欲しいってどういう。

 僕ははあ、とため息をついて彼の隣に座った。

 もうどうでもいーや。さっさと泣きやんでくれ。


「そ、そばにいてくれるのか……!?」

「その言い方はどうかと思いますけどね。さっさと泣きやみやがって下さい」

「何だか今日はいつにも増してひどくないか!?」


 はーい、僕は悪くないと思いまーす。

 全ての原因はルーダさんがうざいことにあると思う。つまり僕は何も悪くない。はい解決。

 それでいいじゃないか。ぶっちゃけ面倒だし。


「……何というか、コメット殿は……ヘルグに、似てきたな」

「っ!?」


 予想外の科白に、僕は言葉を失う。正に絶句。

 何てことだ。僕がヘタレさんに?


「どっ、どこがですか!?」

「全てが。……はっ、この頃仲良くしていたのは……何だ、お前らっ! そんな仲など……私は許さぬぞ!」

「何を勘違いしてるんだか知らんがとりあえず黙れ!」

「先に聞いたのは貴様の方だろう!」


 いやだって、余計なこと言い過ぎだろ!

 しかも、ヘタレさんって! 全部って!

 馬鹿げたその口論はいよいよ、大規模な争いとなった。

 ……ああ、何やってんだろ僕ら。思いながらもぎゃーぎゃー喚く。


「ルーダさんの馬鹿! 変態! ブラコン!」

「ブラコンで何が悪い!? 言ってみろ!」


 ……訂正。ただの殴り合いです。


「所詮二酸化炭素以下のくせに! もういいです、帰りますからっ!」

「ふほぉぉっくぉー!」


 僕がほとんど逃げるように歩いていくと、後ろから奇怪な呻き声が聞こえた。

 ……あれ、ルーダさんだよね? どうやったらあんな声が……。

 疑問だったけれど振り返る気も起こらなかったので、とりあえず無視して大股で歩いていく。


「い、行かないでくれー! 私を独りにするな! さ、寂しくて死ぬ!」


 うさぎかあんたは。


「お願いだ……! 私にはもう、コメット殿しかいないんだ!」

「気色悪い言い方すな!」


 僕は突っ込みながらも歩いていた。

 あの人の言うことなんてもう聞くか。多分永遠に分かり合えないだろうし。

 ルーダさんなんて、ヘタレさんに拒まれながらも必死に求愛してればいいんだ。…………あれ、ちょっと違う?


「好きだ、コメット殿!」

「はあ!?」


 突然の告白に、僕は思わず振り返ってしまった。

 いやだって、普通耳を疑うよね。さっきまで殴り合いしてた人に突然好きとか言われたら。


「大丈夫。ライクだから!」

「知らねーよ馬鹿! あんたなんてヘタレさんにでも求愛してろ!」


 爽やかな笑顔で吐き気を催すようなことを言うルーダさんに、つい言葉遣いが悪くなってしまった。しかも思ったこと全部言っちゃった。

 ……ルーダさん、怒ったかな?


「……ふっ……ふ、ふふふ……」


 ……いや、狂ったのか。


「よし、私はヘルグのところへ行ってこよう。それではさらばだ、コメット殿!」


 ルーダさんは満面の笑みを僕に向けた。

 あ、どうしよう、何か不吉だ。嫌だな……何故そんな笑顔でこっちを見る?

 が、僕が何も言えないままにルーダさんは行ってしまった。


 ――というか、突然消えた。

 ……テレポート、か?

 ルーダさんも使えんの? すごいなぁ。ブラコンなのに。ただの。


「……それにしても……言い過ぎた、かな」


 僕はちょっと反省した。……ちょっとだけ、ね。

 ごめんなさい、と心の中で謝る。


 僕だって人の心は持ち合わせてるし、他人があんな風に狂った原因が自分だなんて言われたら少しは反省するよね。あれは明らかにルーダさんのせいだけど。

 でも何ていうか、今日はあんまり優しくする気分じゃない。

 いつだってそんな気分じゃない気もするけど、今日はいつにも増してそんな感じ。


「……何だろ」


 我ながら意味不明だ。

 ……何でだろう? 特に、ルーダさんになんてひどいと思う。自分で言うのも何だけど。


「好きな人はいじめたくなるって言いますよねー」

「うあっ!?」


 突然背後から聞こえた声に、僕は驚いて振り返る。

 聞き覚えのある声、というか聞きたくなかった声。それは勿論ヘタレさん。

 ……というかこの人今、人の心読まなかったか?


「全部口に出てましたけど何か?」

「え、嘘!?」

「本当です」


 ヘタレさんはきっぱりと言い切る。

 き、気付かなかった……。気を付けなきゃ。特に、ヘタレさんには。

 ……いやちょっと待てよ、さっきこの人何て言った?


「好きな人はいじめたくなるって言いますよねーって」


 そう、そんなこと言ってた。うん、言ってたね。

 もうこの際思いが口に出てようと出てまいとどっちでもいい。が……


「誰がルーダさんを好きになんてなるかぁっ!」

「いや、別にそこまでは言ってませんけど。勇者さんの早とちりですよ、それとも本当に好きなんですか?」

「だから違いますってばっ!」


 僕が必死に反論してもなお、意地悪く笑うヘタレさん。思わず頬が熱くなる。

 でも、そんなことは絶対にない。誰がそんな、馬鹿なこと。ありえないありえない絶対にありえない。

 っていうかいじめてるんじゃない、うん、あれはいじめじゃないぞ。そうだそうだ。


「いくら自分に言い聞かせたって無駄ですよ? 早く自分の気持ちを認めた方が」

「だーかーらーっ! それは誤解なんですって!」


 ヘタレさんはまだくすくす笑っている。

 この人、きっと聞く気ないな。いや、絶対そうだ。

 ヘタレさんの方こそ早とちりだ。むしろこれは、ただの嫌がらせだ。このサディストめ。


「もう……あれ、そういえばヘタレさん、ルーダさんは……?」

「撒いてきました。うざかったので」

「……そこはあえて咎めません。ルーダさんだし」


 そうですか? とヘタレさんは微笑わらう。

 この人笑ってばっかじゃん。そう思いつつ、僕は周囲を見回す。

 追いついて来ててもおかしくないぞ、ブラコンの力はすごいから。

 でもいなかった。さすがにヘタレさん……とでも言えばいいのか。まあどっちでもいいけど。


「……ヘタレさんは好きじゃないんですか? ルーダさんのこと」

「……さあ? どうでしょうね」


 僕が聞きたかったことを率直に言うと、ヘタレさんは意味深に笑って、視線を空へと移した。

 ――答えは曖昧。だけど。


「……好き、なんですね?」

「何でですか?」


 ヘタレさんは、それでも笑みを消さずに聞き返してくる。

 だって、普段のヘタレさんだったら、嫌いなものはきっぱり嫌いと言うはずだ。

 そういう人だもん。ヘタレさんは。

 嫌いだったら嫌いと言って消す。それがヘタレさんだと、僕は思う。


「ヘタレさんのその奇抜な性格は結構見てきたつもりですよ? 毎日のように相手してますからね」


 ヘタレさんは、何も言わなかった。

 何も言わずにただ、空を見ていた。


「でも、たまにはルーダさんにも優しくしてあげて下さいよ?」

「いじめるのが私の愛です」

「……だと思いましたけど」


 でも、もう否定しないんだなと僕は少し嬉しくなる。

 よかったねルーダさん! ちょっと……ちょっとだけ、報われたのかもしれない。

 ブラコンが救われてどうかなるのかなんて知らないけど。

 それでも、よかったと……思う。


「ここにいたのかヘルグぅぅぅ!」


 と、噂をすればルーダさん乱入。ヘタレさんに抱きつ――こうとして蹴り飛ばされた。


「何ですか、何か用ですか? 所詮大した存在でもないくせに触れないで下さい名前を呼ばないで下さいよ」


 そして、さらには踏まれていた。

 ……ひどいな。元に戻ったよヘタレさん。


「くっ……何故だ! 何故なんだ……私はお前を愛してい」

「あーうるさいですよ。黙った方が身のためなんじゃないですか?」


 ヘタレさんは、にっこりと笑ってルーダさんを脅している。

 もう完全に戻っちゃったよ。さっきのままでよかったのに、その方がいい人っぽかったよ。

 ……口には出さないけど。怖いから。僕はルーダさんより自分が可愛いからね。傍観者に回ろう。


「うわあああん!」


 散々いじめられてショックだったのか、ルーダさんは泣いて走り去ってしまった。

 あの人、弱いなー……。

 いいのか? これで。この二人の関係はちょっと、おかしいと思うんだけど。

 ……いや、弟愛はぁとな時点で頭がおかしいけどね。ルーダさんは。


「――でも、いつか報われる日は来ますよね? ヘタレさん」

「え? んー……そうですね」


 僕は笑う。


 ――そうだよ、きっと。


 だって、家族だもん。

 ちょっとでも、血を分けた。とっても大切な。

 それに、ね……ヘタレさんは見た目以上に優しいから。


「嫌いじゃ、ないですよ。混血の弟でも優しくしてくれた、あれでもいい兄ですからね」


 ヘタレさんはそう言って、また空を見ていた。




というわけで、記念すべき50話です!

いつも拙作を読んで下さっている皆様、ありがとうございます!

皆様に感謝を込めて50話を――と思ったんですが。


……何で記念すべき50話にまでブラコン話をせにゃならんのだ?


しかも勇者が家族愛(あえて家族愛と言っておく)に積極的だ……。


――とりあえず、いつもありがとうございます!(話逸らした

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ