表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/160

第47話 謝罪の言葉

「ヘタレさんっ!」

「ゆ、勇者さん!? えっと……どうかしましたか」

「暇死します!」

「どんな死に方ですか」


 こんにちは勇者です。ヘタレさんの部屋への侵入が成功しました隊長!

 ですがヘタレさんは侵入については突っ込む気もなさそうです。だよねー。ヘタレさんだし。

 てか、むしろ死に方について突っ込まれました。そっちは突っ込むんだ……。

 でもそれくらいのノリがいいのさ! と開き直ることにします隊長。


「ていうか、何で出てきてるんですか」

「だから、暇死しそうだったので」


 僕はあっさりと答える。そこに後悔も反省もしない。

 怒られたって今さら戻る気もない。

 だって暇なんだもん。暇なんだもん!


「……困った人ですね。確かに、最初からそんなに長い間持つとは期待してませんでしたけど……」


 ヘタレさんはそう言ってため息をついた。

 え、おい。期待してないんなら最初っから閉じ込めるなよ。

 なんてヘタレさんに刃向かうつもりもないけど。


「まあ、もうどうでもいいです。抜け出したなら抜け出したでいいですよ」


 しかもいいのかよ。

 相変わらず適当だなこの人。

 とはやはり突っ込まない僕。代わりに。


「……いいんですか? 後悔しませんか」

「今さら。それに私の辞書に後悔という言葉はないですよ?」


 ふふ、と笑ってヘタレさんはそう言った。

 そりゃそうだ。いつもやりたい放題だもんな。やりたいことしかやらない主義ーみたいな。

 後悔なんてしないだろう。この人は。


「はあ……それで、あの……えと、どうなんですか?」

「どうって……何がでしょう?」

「だから、あの……一週間以内には何とかする、って」


 ああ、とヘタレさんは今思い出したように呟く。

 ……大丈夫なのかこの人。

 少し不安になってきたぞ。アバウトなんだもんヘタレさん。

 僕が疑うようにヘタレさんを見ると、ヘタレさんはまた笑った。


「心配しないで下さい、順調ですよ。あなたが部屋から出てきたことも、全部含めてね」

「え……?」


 どういうことだろう、と僕は思わず首を傾げる。

 順調……つまり、全て予想の範囲内? ――何が。

 ヘタレさんは、いつものように意味深に笑う。


「ほら、そろそろじゃないですか?」


 何が、と言おうとした瞬間。

 地響きというにピッタリな、ドタドタと物凄い音。ほ、ほんとに揺れてる?

 僕には、大勢の人の足音、に聞こえた。


「な……?」


 今日は何かあったっけ? イベント? ――確か、なかったはずだ。考えては否定する。

 じゃあ何で。

 何があったんだろう。

 そう思っていると――突然、勢いよくドアが開いた。


「あ、コメット!」

「ここにいたのか!」


 そこにいたのは――先日僕が尋ねた部屋の人々。

 僕を避けていた、みんなだった。

 息も絶え絶えに、急いで走ってきたことが分かるほど。


「え……何、どうしたの……?」


 僕が驚いて固まっていると、みんなは突然頭を下げて。


「ごめんっ!」


 謝られた。


「……え、えと……?」


 何のことだろうと僕は目を白黒させる。

 そんな、頭を下げられるなんて。

 僕の混乱も余所に、勝手に話は進む。


「俺たちが間違ってた。俺たちがおかしかったんだ」


 ディーゼルが頭を下げたままそう言った。

 一瞬何の話か分からずぽかんと固まったけれど、ある一つの事柄に行き当たる。

 それってもしかして、この前のこと……?


「え、あの、と、とりあえず、普通にしてよ。頭下げられても困るし……」

「いや……」


 僕の言葉を首を振って拒むディーゼル。

 みんなも、同じように。


「俺たちは、――お前にひどいことをした。そんなの、ただ口で謝っても許されるようなもんじゃない」


 そんな、……僕怒ってないのに。何でそこまで必死になるんだろう。

 頭を下げられたって困る。そういう人たちなんだって、分かっていても。

 僕は慌てて言い繕った。


「わ、私……怒ってないから! き、気にしないで」


 そう言っても、みんなは一向に頭を上げようとしない。

 それどころかルーダさんなんて、身体があらぬ方向に曲がっている。何だあれ。

 ……それこそ気にしたら負けだよね? うん。


「……変わったのは貴女じゃなかった。貴女はいつも通り、私たちに接していただけだった。それなのに、私たちが――悪く、変わってしまったから……コメット殿を傷付けてしまった」


 その身体をあらぬ方向に曲げたルーダさんが言う。

 何でもいいからとりあえずその人間離れした体勢はやめてくれ。

 分かったから。その誠実な思いは分かったから。


「大丈夫……大丈夫ですから。あなたたちは、悪くないんです」


 僕が優しく(したつもりで)そう言っても、彼等はまだ自分を許せないようで。


「ううん。ごめんね、コメット……私、誤解してたわ」

「ご、誤解?」


 アリセルナが少しだけ顔を上げて、真剣な表情でそう言った。

 誤解?

 何がだろうと思っていると、アリセルナは続けて。


「私、コメットのこと好き! 大好き! 愛してるの!」


 告白された。


「え、ちょ、ちょっ……あの、アリセルナ……?」

「今まで言えなかったけど! 私コメットのこと大好きだから!」


 何でそうなるんだ、なんて突っ込めなかった。さすがに。

 ただ困惑するだけ。

 突然そんなこと言われて切り返せるほど僕は反射神経がよくない。って、そういう問題じゃないけど。

 何? 何なのこのシチュエーションは?


「え、えっと……」

「だからね! だから……ごめんね、早まらないで!」

「……は?」


 最後につけ足された言葉に、僕は首を傾げる。

 早まる? 何を。

 僕、何かしたっけか。早まるようなこと。ていうか早まって誤るようなこと。


「あの……えと、何を?」

「何をって……噂、流れてるじゃない」


 ――嫌な予感。

 噂だと……? 何の話だ。

 こういう時の嫌な予感は当たる。まさか。――まさか。


「あれよ……あれ」


 だから、あれって何だ。


「コメットが……コメットが寂しさを紛らわすために、ヘタレさんと……って」

「何その含みのある言葉!?」


 アリセルナは頬を赤く染めて、反射的に突っ込んだ僕を見上げる。

 いや、……待って、何それ? 何だそれ?

 嫌な予感が膨らんでいく。どころか、最早ピークだ。何だその含み。


「あのですね……えと、あたしとお兄ちゃんがいつもしてるような、その」


 今度はルルさんがはにかみながらそう言った。可愛い。……って、そうじゃなくて。

 ルルさんが、害虫さんと?

 このブラコンシスコン兄妹が……いつもやってること?

 ……え、何してんの? この人たち。兄妹の一線は――越えて、ないよね?


「待て、何!? や、本当に何してるの!? いや……あの! ヘタレさん!」

「何ですか?」


 後ろで他人事のようにくすくす笑いながら傍観するヘタレさんを振り返って、僕は叫ぶ。


「どんな噂流したんですか!?」

「大したものではありませんよ」


 大したものではない……だと……? 今の聞く限り大したものだと思うんだけど。

 何故そんなに落ち着いていられるのか。

 ……流した本人だからか?

 本当に性質タチ悪いな。ていうかそれで済ませられる話じゃない。


「ただ、そうすれば早いでしょう? ほら、もう3日で解決しました♪」

「感謝していいのか絶望していいのかよく分かりませんけどね!」


 確かに期待はしてなかったさ! 僕は嘆く。

 この人はこういう人だ、というのは分かっていた。

 それでも任せたのは僕だ。仕方ない。……それで諦めたくないけど。


「と、とりあえず、みんな! あの……その噂は嘘だから! デマだから! 信じないでね!」

「ほ、本当に?」

「うん、本当だから変なところですんなり信じないでこんな馬鹿の言うこと!」


 こっちが頼むから。

 そんな噂が広まってたなんて……3日で。たった3日で。

 僕は何のために部屋の中に閉じこもっていたんだ。

 頭が痛くなってくる。


「こ、コメットさんがそう言うならそうでしょうけど……」


 ありがとうルルさん。

 ていうか何でヘタレさんと。誰か疑えよ。疑ってくれよ。

 洒落になんないぞ本当に。


「よかった……我が弟は悪の手に堕ちてはいなかったか……」


 そしてあっち(あの世)ではルーダさんがぽそりと呟いていた。

 ……え、何だ悪の手って? 僕のことか。僕のことなのか?

 むしろヘタレさんの方が悪だろ。

 現実を見据えて下さい。貴様は何か間違っている。


「と、とりあえずごめんね、コメット! 何にしろ私たちがコメットを傷付けたのには変わりないんだから……」

「ううん、いいの。私なら大丈夫だから」


 心配そうな顔をするアリセルナに、僕は安心させるように笑ってみせる。

 すると、隣からディーゼルが口を挟んできた。


「そうだ、これからパーティーでもやるか?」

「ぱーてぃー?」


 何で、と言おうとした瞬間、わっと歓声が上がる。

 いや、確かにここの人はパーティーが好きだろうけど、そんな、今突然なんて。

 その意図を図り兼ねて、僕はぽかんと立ち尽くした。


「そうですよね……誕生日パーティーやってなかったですし。あたし、準備してきますわ!」


 エルナがそう言って駆けていく。

 ……誕生日? 誰の?

 分からず首を傾げていると、ヘタレさんに苦笑された。


「あなたの誕生日ですよ、コメットさん。まあ、もう結構前の話になりますけどね」

「あ、え?」


 コメット……の。

 ……そうか、確か1月6日って言ってた気がする。僕の記憶が確かなら。

 そうだよね、その時はみんなに避けられていたから。

 パーティーやってなかったんだ。


「ほら、コメットも行きましょ!」

「え? あ、うん」


 アリセルナに引っ張られ、走り出す。

 何処でやるんだろうと思いつつ、……ちょっぴり期待してたりして。

 僕じゃないけど。

 僕じゃないけど……それでも。


「ねえ、アリセルナ……」

「なあに?」


 走りながら振り返るアリセルナ。

 危ないよ。前見た方がいいよ。それか一回止まった方がいいよ。

 ……ぶつかるよ?

 でもあえて口には出さない。こらそこ、鬼畜とか言わない。


「……、ここで生きることにしたから」

「……え?」


 アリセルナの足がふっと止まる。

 当たり前だろう。僕が口にしたのは、彼女にとっては意味不明な言葉。

 僕を見て、ただ立ち尽くしている。


「――何でもないよ! 気にしないでね」


 僕は笑ってアリセルナの手を引っ張る。

 アリセルナは僕を疑うような目で見つつも、僕と一緒に走り出した。




 『コメット』と『レイ』。




 さて、先日誕生日を迎えたのはどっちで、








 ここにいるのはどっちでしょう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ