第43話 変わったのはだーれ?
「何だかさ、この頃みんな変じゃない?」
「……自分の部屋に不法侵入されたら怒るくせに人の部屋には軽々と侵入するお前が言う科白かそれは?」
「え、ごめん」
こんにちは、勇者です。コメットって言った奴は以下略♪
ただ今ディーゼルの部屋にいます。ぶっちゃけ不法侵入しました。
だって誰もいなかったんだもん。
ようやく日常的に不法侵入を繰り返す人たちの気持ちが分かった気が……しないけど。
したら人間的に終わりだろう。……え、あれ、僕って人間だよね?
「まあ、それはとりあえずおいといてさ、質問に答えてよ」
「絶対反省してないだろお前。……まあ、いいか」
ため息をつきつつも許してくれるディーゼルはもの凄く優しいと思う。
もはや疲れていて怒る気にもならないのか。
この人、ここで何年間こんな思いをしてきたんだろう? お疲れ様です。
「で、何だっけ?」
「だから、この頃みんな変じゃない? って」
僕はさっきの言葉をリピートする。
その言葉に何か異論があるのか、ディーゼルは思いっ切り顔をしかめてみせた。
「お前は最近みんなが変だって言うけどな、ここの連中が変なのは元からだろ?」
うん、確かに。
「いや、……そうだけどさ。変人が変になって普通って言うかさ。いや、もっと変なのかな? や、違う、そうじゃなくて、変っちゃ変なんだけど、いつもより普通でだからこそ変だって言うのかな……」
「……お前、何が言いたいんだ」
……上手く説明できない。
どうしよう。何て言えばいいんだろう。
変人が変になると普通になるよね。もっと変になるかもしれないけど。
うん、そういうことだ。
……え、分かんない?
「まあ……、大体分かるけどな」
「ほんと?」
「お前の苦労も大体分かる」
さすが苦労人。さすが常識人。
うん、ありがとう。君だけだよ本当に。
僕は思わず涙ぐみそうになった。
「確かにまあ、あいつらはこの頃変だな。普通すぎて。俺もそう思ってた……が、でも、それより」
「それより?」
そこで言葉を止められ、僕は先を促す。
ディーゼルは言いにくそうに、それでもゆっくりと言葉を続けた。
「変わったのは、お前の方だろ?」
……え?
一瞬、思考が停止する。
何? どういう……、こと?
「私……、が?」
「ああ。最近……お前、凄く変わった気がする」
――何の冗談。
いや、確かにね?
不本意ながらも(当たり前だけど)変態4人組の影響もちょっとは受けてだんだんおかしくなってきた気はしてるんだけど。
あの人たちの影響を受けない人なんて多分いないし、それにそんな、そこまで変わってないと思う。この頃のあの人たちより変わってないよ。
だって、僕は僕のままで。
なのに……何で?
「いや、お前の性格が変わったわけじゃないんだけどさ。…………ちょっと変態の仲間入りしようとしてる気はするけど、まあそれはいいとして」
「え? 今、何て」
「いや、何でもない」
……今、凄く侮辱された気がしたんだけど。
ていうか、悪寒が。……何だろう?
まるでお前は変態だーなんて言われたみたいな。気のせいかな。
「とにかく、うまく言えないけどな……最近、お前から……嫌な雰囲気を感じるんだ」
「嫌な、雰囲気……?」
「ああ」
僕はその言葉に、多少のショックを受けていた。
でも、ディーゼルはそれ以上説明してくれない。理不尽すぎる事実を突き付けただけ。……いや、話してくれただけいいんだろうか。
僕には、分からない。――僕はそんなに変わっただろうか?
いつから? どんな風に? どうして?
「変わった……?」
「うまく説明できないけどな。すまん」
それ以上聞いても、ディーゼルは謝るばかりで。
何で謝るの? って問いにも、彼は答えてくれなかった。
僕は、仕方なくディーゼルの部屋を後にする。
――僕は見逃さなかった。
僕が『帰る』と言った途端、ディーゼルが安心したような表情になったのを。
……どうして。
謎は深まっていくばかり。
嫌われてることはないと信じたい。
だって、つい最近まであんなに仲がよかったんだもん。
でも、じゃあ、何で……?
◇
――胸の内にたまったため息を押し出し、ルーダさんの部屋を出る。
結局、誰もみんな同じような答えしか返してくれなかった。
そう、みんなディーゼルと同じようなことばかり。
あの奇人変人組すらもが、同じようなことしか言ってくれなくて。
今話してたルーダさんも、同じ。
「……どうして……」
何でだろう。
問いに答えてくれる人は、いない。
僕が……変わった?
そんなに……?
みんなが、僕を避けるようになるほど?
――ああ、そうだ、まだもう一人いる。残っている。
彼の所に行かなきゃ、結論付けるのはまだ早い。
最後は――ヘタレさんのところ。
悔しいけど、今一番信頼できるのは彼。
悔しいよ。悔しいけどね。悔しすぎるけどね!
――だって、あの人を頼るなんて何か癪なんだもん。
いつも頼ってる? いや、そんなことない。と信じる。
……とにかく。
一縷の希望を彼に託し、僕は彼の部屋に向かう。