第41話 禁じられた……
リルちゃん。
彼は、物心ついた時からずっと一緒にいた。
気付けば隣にいた……と言った方がいいだろうか。
虎次と、いつも三人(二人と一匹?)で遊んでいた。
それが当たり前なんだって、僕は思ってた。
誰よりも、大好きだった。
どんなことをしていても、いつも優しく見守ってくれていた人。
楽しい時も、悲しい時も、ずっといつも一緒にいたんだ。
――けれど、ある日突然。
彼は、虎次を連れて忽然と突然いなくなってしまった。
必死に探したけれど見つからない。どこにもいない。まるで最初からいなかったように。神隠しにでも遭ったみたいに。
どれだけ探したのかも覚えていない。僕はほとんど諦めたはずだったのだけれど、心のどこかで、ただ一縷の希望を信じて彼を待っていた。
でも、彼が帰ってくることはなく。
季節が廻る度、僕の記憶から彼はだんだん薄れて消えていった――
『リルちゃんっ! 虎次!』
消えた二人に追い付けずに、涙を流した日々すらも。
けれど。
でも、リルちゃんはここにいた。
また、巡り会えた。
虎次も……一緒に。
僕が虎次と名付けたあの子は、間違いなく『虎次』そのものだったんだ。
猫によく似た、小さな魔獣。
昔遊んだ『猫』に似ていた、小さな魔獣の子。
――そうか。答えが、見えてくる。
だんだんとピースがはまっていくように。
僕が探していた答え。
そうだな。そういえば、リルちゃんはいつも帽子を被ってたっけな。
あれは……きっと、魔族特有であるその長い耳を隠すため。
多分、そうなんだと思う。
どうして魔族の王であるリルちゃんがあんなところで、とか、そんなものは分からないけれど。
それに、今よく考えれば、リルちゃんはその頃から人が苦手だった気がする。
――僕以外の人と喋っていたところをほとんど見たことがない、というかその記憶がほとんどない。
ただ、全く話さないわけでもなかったと思うけれど。
……そうだったっけ?
どうだったっけ。
もう昔のことだからかな――それ以上は、あまり思い出せない。
あれ? どうして? 何で?
思い出したいのに、靄がかかったみたい―――
「――レイ」
「あ、え、え?」
突然名前を呼ばれて、僕は驚いて顔を上げる。
思考の海の淵からすくいあげられ、考えていたことは全部忘れてしまった。
「城の中に帰っても、さっきみたく不自然じゃないようにな」
「あ、うん……じゃない、はい」
それでいい、とリルちゃんは小さく笑った。
……うーむ。彼があのリルちゃんだって分かったら、何だか敬語を使うのは違和感あるんだけどなあ。
魔王様だと思えばいいんだよね。そうだ。
「でも、お前がコメットじゃないということは……いつまでも隠していられるわけではないだろうな」
「そう、ですね……」
僕は素直に頷く。
いつまでも隠していられるわけはないんだ。たとえ魔王城の人がどんなに素直で騙されやすくても。
違和感は生じる。そしてそれは、大きくふくらんでいくもの。
「いつかはきっと、誰かがこのことに感づいてしまうだろう。――ヘルグはもう、知っているんだろう?」
「はい……何かもの凄く悔しいですけど」
「? 悔しい?」
「あ、いや……何でもないです。気にしないで下さい」
リルちゃんの不思議そうな顔に、僕は慌ててごまかすように首を振った。
いや、だって……ねえ?
ヘタレさんのせいでひどい目に遭ってたなんて、思い出したくもない。今思い出してたけど。
何でだろう。全ての元凶はあの人な気がする。いやその通りか。
……うっ、あの笑顔を思い出すと殺意が。
「……大丈夫か?」
「あ、や、大丈夫です……何とか」
とりあえず帰りましょう、と僕はリルちゃんを急かした。
リルちゃんは素直に魔王城の中へと戻っていく。
みんなのところへ。
未だに馬鹿騒ぎをしていたみんなの、ところへ。
よく続くよな、うん。ここの人たちって無駄に元気だ。
そんなことを思って。
そんなことばかり考えて。
全て、忘れてしまった。
大切なことも、全て、全て。
真実が潜むその言葉すら、全て――
―――誰ガ運命ヲ狂ワセタノ?
禁じられた魔法。
禁じられた代償。
犠牲となったのは、誰の幻想か。
その魔法は、僕の身体を蝕み続けている。
今も――これからも。
――ずっと?
――そう、ずっと……。
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
魔王城ではようやくクリスマスが終わったところですが(笑)
2009年という年が、皆様にとって良い年になりますように……。
今年もよろしくお願いします!