表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/160

第39話 しあわせの等式

前回の続きです^^

 一通り騒いで、馬鹿やって、突っ込んで、色々とカオスになった後。


 それでもまだ元気な人たちが騒いでいる中、僕は魔王様と一緒に、庭の奥へと来ていた。

 夜の風。薄暗くも暖かい場所。騒がしいというかむしろ馬鹿らしいあの中からここに来ると、随分落ち着く。

 そう思いながら、僕は虎次を抱えて魔王様の隣に座っていた。

 え? 主役が抜けて来てていいのかって――、うん、いいんじゃない?

 実際あれただの馬鹿騒ぎになってるし。大丈夫。



「……凄く、嬉しかった」


 紫雲を撫でながら、ふと魔王様が呟いた言葉。


「え? 何が、ですか……?」

「祝ってくれたこと。プレゼントなんてくれたこと。私のためにこんなことまでしてくれたこと……全部」


 魔王様は、独り言のように呟く。

 紫雲の方を向いたまま、小さな笑みを口許に浮かべて。


「今まで、こんなことまでしてくれた人はいなかったから……まだ、信じられない気持ちもある。夢のような気がしてた」


 僕も魔王様から目を逸らし、ただ、その言葉に耳を傾けていた。

 夢じゃないよと、そう告げようとしてやめる。

 その必要も、多分ないから。


「でも、本当に嬉しくて。――私は昔から、騒ぐのが苦手だった。嫌いだった。誰かが笑い合っていれば、どこか冷めた目でそれを見ていた」


 ふと、魔王様が立ち上がるのを感じ、僕は上を見る。

 魔王様は、月を見上げて、空に手を伸ばしていた。

 月が凄く……綺麗だ。優しい光。

 まるで、魔王様みたいに。


「けれど――心のどこかでは、強く憧れていたんだ。コメットという存在は“太陽”。いつもみんなの中心で輝くような、周りの人を照らすような強い光を持っていた」

「ひか、り……」


 ぽつりと呟き、思う。

 太陽、か。

 そういえば――魔王様は前、言っていた。


『――太陽の光は、私には眩しすぎるから――』


 今なら、分かること。

 その言葉は、もう一つの意味をも持っていたのかもしれない。

 “太陽”とは、彼にとってどんな意味を持つのか。

 それは、つまり……。


「眩しくて、見ることすらかなわないような光だったけれど、それを敬遠しながらも――私はその光に憧れていた。全然違う、全く違う性質を持っていたから……苦手だったけれど、だからこそ好きだったんだ」

「魔王様……」


 コメットは――彼にとって、そんな存在だったのかもしれない。

 少し自分勝手だけれど、みんなを惹きつけるようなとても明るい光。

 だから、こんなに人が集まってくる。

 それに憧れたのは、彼だけじゃなくて。


「でも今は、遠くからそれを見ているわけじゃない。遠くからそれを羨んでいるわけじゃない……」


 魔王様はそう言うと、僕の方を向いた。


「――ありがとう」

「え?」

「私はずっと、みんなのように騒いだりするのが苦手だった。嫌いだった。でも……」


 そして彼は、にこりと笑って。


「そんな時間ときが楽しいと思えた。それは、お前のおかげだから」


 僕の、おかげ。

 それを聞いた瞬間、僕は何か暖かいものが広がるのを感じた。

 じわりと、でも、同時に恥ずかしくなる。


「や……え、そ、そんな……! わ、私だけでやったことじゃないですし、みんな……!」

「分かっている。でも――ありがとう」


 その感情に、嬉しさが勝つ。

 その言葉がこんなに嬉しいものだったなんて。

 ありがとうと、たった一言だけなのに。

 ――そうだ、だって……ヘタレさんだって、その言葉に救われたんだって。

 とても優しく、人を救う言葉。


「誕生日の、そしてクリスマスの……最高のプレゼントだと思う」

「――それは――それは、みんな同じですよ」


 僕は誰にともなく呟く。

 みんな、魔王様と一緒に楽しむことができて、魔王様がそうやって笑ってくれて、とても嬉しかったと思う。

 十分すぎるプレゼントだっただろう。


「それなら……私も、嬉しい」


 魔王様の幸せはみんなの幸せで。

 みんなの幸せは魔王様の幸せ。

 とても素敵な等式だ。

 こんな幸せが、近くにあるんだから。


「幸せ、ですよ。みんな」


 僕がそう言えば、魔王様は笑って頷く。

 微笑みは、とても優しくて。幸せそうで。


「――そうだな、欲を言うなら……」


 そうして魔王様はまた月を見上げ、ぽつりと呟く。


「ありがとうと……彼女にも、伝えたかった」

「……え……? かの、じょ?」


 誰だろう、と僕は首を傾げる。

 魔王様の、大切な人だろうか?

 僕の知らない、誰か、大切な人。

 でもそれは――予想外の形で、裏切られる。


「いつもみんなを照らしてくれていた――コメットに」

「――え?」


 ――そう、予想外。

 僕の知っている――よく知らないけど一番知っている――彼女の名前が、彼の口から出てきた。

 でも、それは、それは……つまり、どういうこと?

 僕の思考が停止する。つながらない糸が、見えない意図が絡まって、行き場くを失くすように。

 “コメット”――じゃあ、彼の中の僕の存在は。彼の目の前にいる、僕の存在は。

 彼には――何が見えている? コメットは――彼の中で、どこに。







「――彼女はもう、いないから」





 嘘、うそ――

 彼は…………知って、いたの?

 彼女がいないこと。そして、僕の存在――


「それは多分、お前がよく知っていることだろう?」


 切ない表情の、問いかけ。

 でも僕は何も言えない。当たり前だ。答えなんて、返せるものか。

 身体から力が抜ける。

 予感が確信へと変わり、絶望へと姿を変えていく。

 何が、どうして。

 分からない。分からないまま、ただ虎次が腕から抜け出そうとしているのを感じ、手を放した。

 虎次は――どこかへと、消えていく。

 何か、大切なものを奪って。


「……一つ、話をしようか。身体から抜け出た魂が、どこへ向かうのか――」


 ――どうして。

 僕が答えを返せないように、その問いの答えも返ってこない。





 ゆっくり、ゆっくりと、歯車が廻り始める。

 狂ったまま、歪んだ終着点を目指して……。




これで誕生日&クリスマス編は一応終わりです……が。

続きそうですね(汗)


とりあえず、魔王様の誕生日を祝って下さった方、ありがとうございました(*^▽^*)

祝って頂けるなどとは思っていなかったので、とても嬉しかったです…!

それも、前日から何人もの方が祝って下さいました^^

どうぞ、これからも魔王様をよろしくお願いしますm(_ _)m

あ、勿論他のキャラも作者共々よろしくお願いしますー!笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ