第39話 しあわせの等式
前回の続きです^^
一通り騒いで、馬鹿やって、突っ込んで、色々とカオスになった後。
それでもまだ元気な人たちが騒いでいる中、僕は魔王様と一緒に、庭の奥へと来ていた。
夜の風。薄暗くも暖かい場所。騒がしいというかむしろ馬鹿らしいあの中からここに来ると、随分落ち着く。
そう思いながら、僕は虎次を抱えて魔王様の隣に座っていた。
え? 主役が抜けて来てていいのかって――、うん、いいんじゃない?
実際あれただの馬鹿騒ぎになってるし。大丈夫。
「……凄く、嬉しかった」
紫雲を撫でながら、ふと魔王様が呟いた言葉。
「え? 何が、ですか……?」
「祝ってくれたこと。プレゼントなんてくれたこと。私のためにこんなことまでしてくれたこと……全部」
魔王様は、独り言のように呟く。
紫雲の方を向いたまま、小さな笑みを口許に浮かべて。
「今まで、こんなことまでしてくれた人はいなかったから……まだ、信じられない気持ちもある。夢のような気がしてた」
僕も魔王様から目を逸らし、ただ、その言葉に耳を傾けていた。
夢じゃないよと、そう告げようとしてやめる。
その必要も、多分ないから。
「でも、本当に嬉しくて。――私は昔から、騒ぐのが苦手だった。嫌いだった。誰かが笑い合っていれば、どこか冷めた目でそれを見ていた」
ふと、魔王様が立ち上がるのを感じ、僕は上を見る。
魔王様は、月を見上げて、空に手を伸ばしていた。
月が凄く……綺麗だ。優しい光。
まるで、魔王様みたいに。
「けれど――心のどこかでは、強く憧れていたんだ。コメットという存在は“太陽”。いつもみんなの中心で輝くような、周りの人を照らすような強い光を持っていた」
「ひか、り……」
ぽつりと呟き、思う。
太陽、か。
そういえば――魔王様は前、言っていた。
『――太陽の光は、私には眩しすぎるから――』
今なら、分かること。
その言葉は、もう一つの意味をも持っていたのかもしれない。
“太陽”とは、彼にとってどんな意味を持つのか。
それは、つまり……。
「眩しくて、見ることすらかなわないような光だったけれど、それを敬遠しながらも――私はその光に憧れていた。全然違う、全く違う性質を持っていたから……苦手だったけれど、だからこそ好きだったんだ」
「魔王様……」
コメットは――彼にとって、そんな存在だったのかもしれない。
少し自分勝手だけれど、みんなを惹きつけるようなとても明るい光。
だから、こんなに人が集まってくる。
それに憧れたのは、彼だけじゃなくて。
「でも今は、遠くからそれを見ているわけじゃない。遠くからそれを羨んでいるわけじゃない……」
魔王様はそう言うと、僕の方を向いた。
「――ありがとう」
「え?」
「私はずっと、みんなのように騒いだりするのが苦手だった。嫌いだった。でも……」
そして彼は、にこりと笑って。
「そんな時間が楽しいと思えた。それは、お前のおかげだから」
僕の、おかげ。
それを聞いた瞬間、僕は何か暖かいものが広がるのを感じた。
じわりと、でも、同時に恥ずかしくなる。
「や……え、そ、そんな……! わ、私だけでやったことじゃないですし、みんな……!」
「分かっている。でも――ありがとう」
その感情に、嬉しさが勝つ。
その言葉がこんなに嬉しいものだったなんて。
ありがとうと、たった一言だけなのに。
――そうだ、だって……ヘタレさんだって、その言葉に救われたんだって。
とても優しく、人を救う言葉。
「誕生日の、そしてクリスマスの……最高のプレゼントだと思う」
「――それは――それは、みんな同じですよ」
僕は誰にともなく呟く。
みんな、魔王様と一緒に楽しむことができて、魔王様がそうやって笑ってくれて、とても嬉しかったと思う。
十分すぎるプレゼントだっただろう。
「それなら……私も、嬉しい」
魔王様の幸せはみんなの幸せで。
みんなの幸せは魔王様の幸せ。
とても素敵な等式だ。
こんな幸せが、近くにあるんだから。
「幸せ、ですよ。みんな」
僕がそう言えば、魔王様は笑って頷く。
微笑みは、とても優しくて。幸せそうで。
「――そうだな、欲を言うなら……」
そうして魔王様はまた月を見上げ、ぽつりと呟く。
「ありがとうと……彼女にも、伝えたかった」
「……え……? かの、じょ?」
誰だろう、と僕は首を傾げる。
魔王様の、大切な人だろうか?
僕の知らない、誰か、大切な人。
でもそれは――予想外の形で、裏切られる。
「いつもみんなを照らしてくれていた――コメットに」
「――え?」
――そう、予想外。
僕の知っている――よく知らないけど一番知っている――彼女の名前が、彼の口から出てきた。
でも、それは、それは……つまり、どういうこと?
僕の思考が停止する。つながらない糸が、見えない意図が絡まって、行き場くを失くすように。
“コメット”――じゃあ、彼の中の僕の存在は。彼の目の前にいる、僕の存在は。
彼には――何が見えている? コメットは――彼の中で、どこに。
「――彼女はもう、いないから」
嘘、うそ――
彼は…………知って、いたの?
彼女がいないこと。そして、僕の存在――
「それは多分、お前がよく知っていることだろう?」
切ない表情の、問いかけ。
でも僕は何も言えない。当たり前だ。答えなんて、返せるものか。
身体から力が抜ける。
予感が確信へと変わり、絶望へと姿を変えていく。
何が、どうして。
分からない。分からないまま、ただ虎次が腕から抜け出そうとしているのを感じ、手を放した。
虎次は――どこかへと、消えていく。
何か、大切なものを奪って。
「……一つ、話をしようか。身体から抜け出た魂が、どこへ向かうのか――」
――どうして。
僕が答えを返せないように、その問いの答えも返ってこない。
ゆっくり、ゆっくりと、歯車が廻り始める。
狂ったまま、歪んだ終着点を目指して……。
これで誕生日&クリスマス編は一応終わりです……が。
続きそうですね(汗)
とりあえず、魔王様の誕生日を祝って下さった方、ありがとうございました(*^▽^*)
祝って頂けるなどとは思っていなかったので、とても嬉しかったです…!
それも、前日から何人もの方が祝って下さいました^^
どうぞ、これからも魔王様をよろしくお願いしますm(_ _)m
あ、勿論他のキャラも作者共々よろしくお願いしますー!笑