第38話 聖なる夜の大騒ぎ
誕生日&クリスマス編です^^
よろしければ、どうぞ魔王様の誕生日を祝ってやって下さいm(_ _)m
「「お誕生日、おめでとうございますっ!」」
みんなで声を揃えてそう言うと、同時にパンとクラッカーからいくつもの色が広がった。
僕らが祝う目の前の人は、驚いたように立ち尽くして紙テープを見つめる。
「……え……?」
「え? じゃないですよ。今日はあなたの誕生日じゃないですか♪」
そう言って、クラッカーをどこからか大量調達してきた犯人(多分泥棒してきたんだと思う)、ヘタレさんが笑った。
それに合わせたように、みんなが口々にお祝いの言葉を告げる。
今日の主役――魔王様はまだ驚いた表情のままで、僕らを順番に見回した。
「私の……、誕生日?」
「もしかして忘れてたんですか? それなら相当ボケて」
「ヘタレさん! それ以上言ったらぶっ飛ばしますよ!」
こんな日だというのにいつもとテンションが変わらないヘタレさんを黙らせて、僕は前に出る。
そして、驚いている魔王様にゆっくりと説明を始めた。
「えっと、それ……あの、ファルノムさんに聞いたんです。今日が魔王様の誕生日だ、って。――魔王様はこういうの苦手かもしれないですけど……どうしても、みんなで祝いたくて」
後ろにいたファルノムさんは、うんうんと満足そうに頷いた。
この際、ファルノムさんがサンタクロースの格好をしていることには突っ込まないでおく。
いや……突っ込みたいけど。
今は耐えろ僕。後でぶっ飛ばしてやれ。
「私の、ために……?」
「当たり前じゃないですかっ」
そうだ。
僕らはみんな頷いた。
アリセルナの言う通り、僕らは魔王様のためだけに今まで準備をしていたんだから。
――いつもみんなを見守ってくれている、優しい彼に。
「……ありがとう」
優しく微笑む魔王様を見て、僕は思う。
それはいつもの優しい言葉か、それとも心からの感謝か。
出来れば後者がいいと願う。僕らは魔王様に心から笑ってほしいから祝っているわけで。
「あ、あの、大丈夫ですか? 魔王様、あたしたちがいない方がゆっくりできるんじゃ……」
「大丈夫だ……嬉しい。ありがとう」
ルルさんの言葉に、魔王様はまた優しく笑った。
こんなに優しいから、魔王様にファンとかできるんだなと思う。
魔王様、対人恐怖症なのに凄いよなぁ。
実際は自分の首を自分で絞めてるようなものなんだろうけど。
「じゃあ、遠慮なく。パーティーでも始めますか♪」
……そして、この人は自重を知らなすぎると思う。
もうちょっと人のことを考えてくれ。つかあんたは遠慮しろ。
まあ……パーティーはどうせやるんだけどね。
思って、ディーゼルの方を見る。進めてくれと言わんばかりに。
「俺任せかよ。仕方ないな――、じゃあ、とりあえず、席をどうするか決めるか?」
「それなら、僕に提案がある!」
「む、私にも言わせてくれ!」
「あ、あたしにも……!」
半ばまとめ役で諦めているディーゼルの言葉に、何人かが食いつく。
――うわぁ嫌な予感。
「僕はぜひ妹の隣に!」
「私はヘルグの隣に座るぞ!」
「あたし、お兄ちゃんの隣がいいです! きゃっ、言っちゃった」
出たか兄弟好きどもめ……。
黙ってくれていいと思う。うん。
僕は思わず頭を押さえる。ああ、何か痛いし恥ずかしい。
「マイシスターよ! 僕たちは両想いではないか……!」
「お、お兄ちゃん、そんな……恥ずかしいよ……!」
しかも何かそこで発展させないでくれ。両想いなのは構わないけど、余所でやって下さい。
「ヘルグ是非私たちも両想いに」
「何を血迷ってるんですか? 所詮二酸化炭素にも敵わないくだらない存在のくせに」
ヘタレさんは相変わらずだし、ちょっと重度なブラコンなんて普通に撃退してくれるだろう。ほっとこ。下手に関わると僕の命の方が危険だ。
「そうですね、ディーゼル様の言う通り、とりあえず席を決めましょうか? あたし、椅子を用意しますね」
エルナは……うん、いつも通り。以上。
頑張ってまとめてくれー。
まあ、そんなわけで、……席を決めにかかったわけなんだけど。
……えー、あれから30分後。
「ようやく席が決まったな……」
「ディーゼル、お疲れー」
「あのなぁ……お前も手伝えよ」
ディーゼルとエルナが必死に仕切ったおかげでようやく席が決まった。
僕は実際遠くから見ていただけだ。ディーゼルとエルナはかなり大変そうだったけど。まあ気にするな。
それで、結局席がどうなったかというと。
まず、用意された大きなテーブルの右側に、ヘタレさん、エルナ、魔王様、僕、アリセルナ。
左側には、ディーゼル、ファルノムさん、害虫さん、ルルさん、ヘタレさんのお兄さん。
「何故私とヘルグがこんなに離れているんだ!?」
「主にというか100%邪魔だからですよ。文句ありますか?」
「ふごぉぉぉ!」
ヘタレさんのお兄さんはひどい叫び声をあげてテーブルに突っ伏してしまった。
……ご愁傷様。
「見て下さい、コメットさん! あたしたち、隣同士なんです♪」
「ついでに恋人同士さ!」
「……はあ……」
……って、待て待て待て。兄妹だよね? 兄妹なんだよね?
お願いだから、自分たちは健全な兄妹なんだと言って下さい。お願いしますから。
恋人とかやめてくれ。
「な、何でこんな奴らばっかりなんだ」
「あ、ディーゼル……ドンマイ♪」
「ドンマイじゃねええ」
うん、ディーゼルの周りは非常識な人ばっかりだった。
可哀想に、何と自己犠牲。
でも君のその勇気は忘れないよ。変わってはあげないけど。
「じゃあ、とりあえず……」
「プレゼント交換でもしましょ!」
「そんなもんなかったよね!?」
「え、ないの!?」
「ないよ!」
思わず突っ込んだ。
いや、確かに、クリスマスっていうのはそういうことをするのかもしれないけど。
これは一応誕生日パーティーだから。
まだ何か言い張っているアリセルナを説得し、僕は何とかその場を仕切る。
「大体、誕生日と言えば……」
「プレゼント交換じゃないの?」
「愛の告白を!」
「ロシアンルーレットではないのか!?」
「プレゼント強奪戦したいですね♪」
「どんな固定観念だって言うか後半バイオレンスすぎないか!?」
ここの人たちは、誕生日を何だと思っているんだろう。
真面目に意味が分からん。
いや……人間とは違う習慣があるのかもしれないけどさ。
ロシアンルーレットとかはないだろ。さすがに。誕生日のお祝いで死ぬなんて絶対に嫌だ。
「あの、誕生日は、ケーキを食べたり、プレゼントを差し上げたりして楽しむものなのではないですか?」
「それ、うん、それだと……思う。私もうあんまり自信ないよ」
エルナの控えめな発言に僕は頷く。
それでいいんだと思う。常識的にそうだと思う。っていうかそうしようお願いだから。
「そんなわけだからさ、ロシアンルーレットとか愛の告白とか何ちゃらとかしないから、みんなでケーキ食べようよ」
「ケーキあるのか?」
「うん。あ、エルナ、持ってきてくれる?」
「お安い御用ですわっ」
エルナはパタパタと部屋の外へ駆けていく。
あー、優しいな。使っちゃってごめんよ、そう思いながらも僕は何もしない。
そしてその優しいエルナが戻ってきた時には、両手に大きなケーキを抱えていた。
「おお、糖分の塊ではないか!」
ぶち壊しー。
「……ヘタレさんのお兄さんなんか、ずっと落ち込んでればよかったのに」
「っ!? こ、コメット殿……私が嫌いか!? 嫌いなのか!?」
「あなたがそういうこと言うから悪いんでしょーが!」
僕はきっとヘタレさんのお兄さんを睨む。
そうしてまた落ち込んでしまったヘタレさんのお兄さんは置いといて。
「ディーゼル、これ等分して」
「何で俺だよ」
「一番信頼できる。グッジョブ」
「……おい」
ディーゼルは人がいいので、文句を言いながら本当にやってくれた。
うん、本当にいい人だ。
途中『大きいのがいい』とか何とかほざいていた人がいたけど、無視。
等分だって言ってるだろうに。
「じゃ、順番に取りに来て下さいー! あ、糖分を侮辱した人は最後で」
「ふほぉぉぉぉ!」
因みに、変な叫び声をあげたのはヘタレさんのお兄さんです。
――さて、ケーキも配り終わり。
早くも食べ終わった人が出る中で、僕は次の提案をした。
「次はプレゼン――」
「ロシアンルーレットだな!」
……遮られた。
「……あの、ヘタレさんのお兄さん」
「ルーダだ!」
そう、そんな名前だったね。どうでもいいけど。
僕は面倒だなーと思いながらも、言い直す。
「ルーダさん、私に恨みでもあります?」
「それは私が聞きたいぞ!」
どっちもどっちか。
「……とりあえず、ロシアンルーレットではなく、魔王様へのプレゼントを」
「強奪するんですか?」
「黙れ」
この兄弟は、人の話を遮るのが好きなのか。
何とも迷惑極まりない話だなあ。
「……私にプレゼントなんてあるのか……?」
「ありますよ、勿論」
「私が強奪しますけどね♪」
「だから黙って下さいって。フォーク口に突っ込みますよ」
「間接キスじゃないですか」
「害虫さんの」
「それだけは嫌ですね」
「なら黙って下さい」
話がいちいち逸れる。魔王様主役なのに、目立ってないし。
とりあえず黙ってほしい。この馬鹿たちには。
本当に害虫さんが使った後のフォーク突っ込むぞ。
「はい、これっ」
気を取り直して僕は、綺麗な包装紙に包まれたプレゼントを魔王様に渡す。
魔王様はちらりと僕を見て、それを開ける。
「…………本?」
魔王様はそのプレゼントを見て、そう呟いた。
そう、それは本のようなものだ。
見かけは、だけど。
「少し、中も見てみて下さい」
魔王様は返事をする代わりにパラパラとめくる。
――そして、そこには、たくさんの言葉が筆跡の異なった字で書かれていたのだった。
「……これは……」
「魔王城のみんなに書いてもらったんですよ。魔王様へのお祝いの言葉」
僕がそう言うと、魔王様は目を丸くした。
うん、実際――かなり大変だった。
魔王城の人みんなのなんて、どれだけ時間がかかったことか。
……なんていっても、ほとんどはあの4人組にやってもらったんだけどね。
人をこき使うなんてほとんどなかったから楽しかった……って、これ以上危ない思考にならないうちにやめよう。うん。
「…………ありが、とう……」
魔王様は、その本をぎゅっと抱きしめて呟いた。
僕らはみんな顔を見合わせて、微笑う。
「魔王様、これはいつものお礼なんですよ? いつも魔王様がみんなに優しく接している、それが返ってきたんです」
「そうですよ。だから――お礼なんて、必要ないんです。これは、私達のお礼ですから」
その言葉に、魔王様は顔を上げる。
「それでも……ありがとう」
その笑顔は――今まで見たどの笑顔よりも、明るく優しいものだった。
まだまだ、パーティーは続く。
幸福の時間を、僕らに教えて。
どうか――、終わりが怖くなるほど、楽しい時間になりますように。
続きます^^