第32話 素敵なプレゼント
「コメット! そろそろ魔王様の誕生日よ!」
「ああ……う、うん、そうだね」
「何よその低反応! ほら、もっと元気に!」
「いや、えっと、あの、何ていうか…………何でここにいるの?」
えーと、こんにちは。勇者です。
部屋のドアを開けたら、いるはずのない人がいました。
……何でここの人たちは人の部屋に不法侵入するのが好きなんだろう……。
……知るわけないですよね。はい。僕も知りません。
とりあえずアリセルナが不法侵入中でした。でも許す。アリセルナだから。
「いいじゃないっ。ヘタレさんもよく来てるんでしょ? ヘタレさん入れるなら、私だって入れてよ」
「いや……あれは所謂不可抗力なんですが」
ほぼ脅しに近いし、と呟くと、アリセルナはそうなの? と目を丸くする。
「じゃあ、私もコメットを脅せばいいのね?」
「違ーう! そういう問題じゃないっ、そういう問題じゃ!」
じゃあどうすればいいのよ、とアリセルナは頬を膨らませる。
いや、そんな……拗ねられても。普通に考えてそれはヤメテクダサイ。
常識人のように見えて案外常識人じゃないから、この子は怖いんだ。本当に。
「や、あの……別に何もしてなくても、ここにいちゃ駄目ってことにはならないから。ね。ていうかむしろ何もしないで」
実は、最後のが本音だったりする。
実はというかかなり真面目です。切実な願いですから。
「ふーん」
低反応で一蹴。
「う、うんまあ、そういうことで。とりあえず、別にこの部屋にいてもいいんだけど、最低限の常識は理解してほしい……なぁ?」
「む、何よそれ。私にだって、常識くらいちゃんとあるわよ」
いや、ないから言ってるんですが。ていうかそっちには反応するんだね……。色々とショックだよ僕は。
まあ、そんなこと、ヘタレさん以外の人には口が裂けても言えないけど。
勿論あの人だけは例外格外対象外だ。
あの人には何を言ってもいいと思っている僕がいる。でも、うん、大丈夫だろう。
「ねえ、それより。魔王様の誕生日、どうする?」
「どうする、って言っても……」
話題を普通に逸らされたことはおいといて、あんまり派手なことは出来ないだろうと思う。
魔王様、あの通りだし。
人集めて騒いだりしたら、比喩でも何でもなく気絶しそうだ。
「お城のみんなを集めてお祝いでもする?」
「いやいやいや! 魔王様倒れちゃうから! やめよう!?」
「ええー……いいアイデアだと思ったのに」
何がいいアイデアなのかよく分からないけれど、……でも、まあ、アリセルナなりに考えてはいるんだろう。
別に、魔王様を倒れさせたいわけじゃなくて。……え、倒れさせたいわけじゃないよね? うん、……多分。
「じゃあ、キャロットケーキをプレゼント」
「確信犯か!?」
「……かくしんはん? って、何?」
きょとんとするアリセルナを見て、僕は暴れる心臓と口を押さえる。
いや……うん、分かってる。分かってるんだけど。
アリセルナに悪気がないことは分かり切っている。
でも、その発言はさすがに、あんまりじゃあないか。
「アリセルナ。落ち着いて、落ち着こう? いや本当に落ち着いて下さい」
「な、何よ……てか、コメットが落ち着いてよっ」
「この城の住人がみんなまともになったら、私も落ち着けるんだけど……」
「あ、……じゃあ無理ね」
ああ、やっぱりそう思いますか。
僕はがっくりと項垂れる。
誰かヘルプ。誰でもいいからお願いだ、立場を変わってくれ……。
「ねえ、そんなことどうでもいいんだけど、魔王様の誕生日どうする? プレゼントは?」
さらに追い討ち。
どうでもいいって。どうでもいいって……。
本気で泣きたいです。どうしよう。
「うう……いいもん、アリセルナ一人で決めてよ」
「ちょっと、コメットってば! そんなの嫌よ。私だけじゃ変なプレゼントしか思いつかないかもしれないじゃない」
確実にそうだろうね、と心の中で呟く。
でも、僕だって魔王様の欲しいものなんか分からないし。
そもそも祝うとしてクラッカーとか鳴らしたら魔王様が気絶しそうだ。
あんまり盛大にすると本気で魔王様の命が危険だし、どうすればいいかなんて全く分からない。
「んんー……、どうしよっか?」
「にんじんとか」
「……そこまで魔王様に嫌がらせしたいの?」
「えっ、そ、そんなつもりは」
じゃあ何故にそんなものをチョイスする。
確信犯としか思えないじゃないか。
ていうか、魔王様がにんじん嫌いだって知ってるよね? 何でだ、アリセルナ。
「んー……プレゼント、かぁ」
とりあえずにんじんから離れよう。
魔王様が喜びそうなもの?
魔王様が好きそうなもの……、ぶっちゃけよく分からん。
ただ、にんじんが好きじゃないのは確かだ。というか多分世界に存在するものの中で一番嫌いなんだろうな。にんじん。
うう、難しい。
魔王様って、基本的に好きとか嫌いとか言わないから。
好き嫌いはしないタイプだ。にんじんは激しく例外。
人付き合いだって、本当は苦手だけど、それでも頑張ってみんなと仲良くしようとしてる。
ヘタレさんが近くにいれば、何人か他の人がいても何とか大丈夫だし(前の朝食の時がそう)、それどころか頑張って接してるほど(にんじんには負けたけど)。
そうだ、魔王様は、仲間のことは大好きなんだよね。
「―――あ」
そうか。
その瞬間、僕はピンと閃いた。
「え、なになに? 何か思いついたの?」
「うん、魔王様が喜んでくれるもの!」
これなら、魔王様は絶対喜んでくれる。
そういう確信があった。
それに、誰も反対なんてしないはずだ。というより、僕がさせない。
「何それ、教えて!」
嬉しそうなアリセルナに、僕も笑顔で頷く。
そして、そのプレゼントのことを教えようと、口を開いた。
「あのね、アリセルナ―――」
――さて、クリスマスつまり魔王様の誕生日まで、あともう少し。
僕らは魔王様に最高のプレゼントを贈るために、動き出した――。
最近更新が遅れてすみません…><
とりあえず、魔王様の誕生日がもうすぐです(*^▽^*)
といったって、まだ10日以上ありますがw