第25話 魔王城の家族
更新遅れてすみません;
「あ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんだわっ」
アリセルナと一緒にのんびりまったり城内を散歩していた朝。
ぶらぶらと他愛のない話をしていると、僕らは廊下の向こうにディーゼルの姿を発見した。
ちょうどいい。構ってもらおう、そんなことを考えながら僕たちは、手を振って彼のところまで走っていく。
「お兄ちゃんおはよー!」
「おはよー!」
「……何だ、お前ら」
突然馴れ馴れしくしたのがいけなかったのか、ディーゼルは呆れたようにため息をついた。
「お兄ちゃん何してたの?」
「いや、別に……ってか、お兄ちゃんって何だ」
「何って……お兄ちゃんみたいだからお兄ちゃんって呼んでるのよ」
アリセルナの言葉に僕はうんうんと頷く。
すると、ディーゼルはますます呆れたような顔をした。
「お兄ちゃんって……、お前らな」
「だってさ、ディーゼルって魔王城の中で一番お兄ちゃんっぽいじゃん」
「そうよ」
僕らがそう言うと、ディーゼルは『そうか?』という顔をする。
そうだよ。僕は思う。
「ディーゼルはお兄ちゃんだよ、ねえアリセルナ?」
「そうよお兄ちゃん」
背も高いし、年齢もちょうどいいし、面倒見もいいし。常識あるし常識あるし常識あるし!
ぴったりなのになぁと思う。
本人は案外そう思ってないのか。何か勿体ない。
「いや、確かにな、俺には妹二人と弟一人とがいるけどな。否定はしないけどな?」
「わ、本当にいるんだ」
「いいじゃないお兄ちゃん」
そんなことを言いながら、僕は思った。
魔王城の人って何だか、みんな家族みたいだよなあ。
仲いいし。若干名そうじゃない人もいるけど。気のせいだよねみんな仲いいし。
「何かさあ、魔王城のみんなって、家族みたいだよね」
「本当ね。ディーゼルはお兄さんで、コメットはお姉さんかしら」
「え、私お姉さん?」
多分そうよとアリセルナは笑う。
「じゃあアリセルナはお母さんね」
「ぴったりだな」
ディーゼルも笑った。
「魔王様は?」
「お父さんか弟」
「わ、私恋人に欲しいわっ」
アリセルナはぶっちゃけた。
いいのかそんなこと言って。
……まあ、本人いないし……大丈夫、……だよね! 多分。
「じゃあお父さんだね。うん決まり」
「エルナはどうするんだよ」
「え、エルナはねー……何だろ」
……どうしよう。メイドのイメージしかわかない。
兄弟にするとしても性別分かんないから何とも言えないじゃん。
何だややこしい……っていうより、何だおぞましいっていった方が合ってるか。
「それじゃエルナは、ちょっとドジな可愛い妹と近所の世話好きなおじさんの中間ね」
「「どんなんだよ!」」
アリセルナは同意を求めるようにこっちを見ているが、そんな目で見られても困る。
設定細かすぎるしその二つ共通点なさそうだし。
それを足せばエルナになるのか?
不思議だ。多分ならないと思うんだけど。
いや限りなく近い気も……しないでもなくないけど。するかそんなもの。
「……もう、じゃあいいよ。エルナは近所に住んでるおじさんの血を色濃く継いだ世話好きドジっ子妹キャラってことで」
「さらに分かんねーよ」
僕も自分で言ってて意味が分かんなかった。
どういうことなんだ。
……まあ、つまりエルナはそういう微妙な立場にいるってことで。
可哀想に。
「ヘルグは?」
「へるぐ?」
「ヘタレさんのことよ、コメット」
「ああ!」
僕はポンと手を合わせる。
ディーゼルは『は?』といった感じで眉をひそめた。
「ヘタレって……」
「ヘタレさんはね、家族に欲しくない」
「おい」
だってあんな人家族に欲しくないじゃん。いらないじゃんあんな鬼畜野郎。
そう思ってふと……ヘタレさんの話を思い出す。
そういえばあの人、混血だから、ここに来るまで独り――だったんだよね。
ずきん、と心のどこかが痛んだ気がした。ひとり。
「――と思ったけど、やっぱりヘタレさんは引きこもらーの長男で」
「何だその微妙な設定」
「ぴったりねっ」
「ぴったりか!?」
滅多に部屋から出てこないという設定にしておけば安全だ。うん。
ヘタレさんだって、きっと家族が欲しいに違いない。
まあ、そう聞いたってきっといつものように笑って流すんだろうけど。
だけど、きっと、そうだ。独りは誰だって辛いもん。これが身勝手な価値観の押しつけであったとしても。
「えっと、次は……ファルノムさんかな。ファルノムさんはねえ、お父さんの義理の姉の親友のメル友のイトコの友達の弟」
「直接的な関わりなくねーかそれ」
「え、直接的な関わりなんて要らないよ」
「正直だなお前」
だって……ねえ?
あの人を思い出すたびあの嫌な出来事が蘇ってくるからあの人はもうそんなんでスルーだスルー。
「バルンはどうなるんだ」
「バルン…………って、え、だれ?」
「え、いや……分かんないのかよ」
ディーゼルに突っ込まれたけれど、僕は本気で思い出せない。
ていうか、そもそも聞いたことない気がする。誰だろう。そんな人いたっけ。
「シスコンで変態な奴だよ。お前のこと愛してやまないって言ってた気がするんだけど、違ったのか?」
「え、……え? もしかして、害虫さんのこと?」
「害虫? いや、間違ってないと思うけど……間違ってはないけど」
そうか、害虫さんか。しみじみ納得。
確かにあの人の名前聞いたことなかったよなあ。名前聞くのにもいちいちうざかったし。
それにシスコンで変態っていったら害虫さんしか思い出せない。
「害虫さんは……悔しいけど兄のイメージしかない」
「兄多いな」
「みんなお兄さんの気がする、害虫さんはシスコンだろうけど……何かやだ、ぞっとする」
「だろうな」
ディーゼルは苦笑する。
……やだな。
ルルさんのことマイシスターとか呼んでたもんな。やだなー。
もし家族だったら僕もそう呼ばれるのか。絶対に嫌だ。気持ち悪い。てか死ね。
「じゃあ、ルルはやっぱり妹かしら?」
「そうだな。バルンの毒牙にかかる可哀想な妹」
「助けてあげようよ!?」
「だって、それで犠牲になりたくないし」
「犠牲?」
僕は首を傾げた。犠牲って、何のことだろう。そう聞き返すつもりで。
すると、ディーゼルが肩を竦めてこう言った。
「お前知らないのか。ルルを狙うバルンを妨害したら、下手すると半殺しだぞ半殺し」
「えぇ!?」
知らなかった。
妨害しただけでそうなるのか。
じゃあ、前回助かったのは奇跡……?
「まあ、お前は毒牙にかかる方かもしれんが」
「それもやだ!」
想像したらぞっとする。やっぱり害虫さんは害虫だ。うん。
「ルーダは何だ、やっぱり兄か?」
「兄多すぎるじゃない。そもそも誰を基準にして兄なのよ」
「え、ちょっ、る、ルーダって誰?」
「知らないの? ヘタレさんのお兄さんよ」
「えっ!?」
僕は思わず、声を上げてしまった。
あの人、兄いたの!?
でも、兄弟ってことは……もしかして、混血だったり……しないの、かな?
「まあ、とはいってもね、腹違いの兄なんだけど」
「純血の魔族だな」
「そ、うなんだ……」
僕は少しだけ――残念に思ってしまった。
お兄さんは魔族。
弟のヘタレさんは混血。
それならきっと、ヘタレさんはお兄さんとも離れて地上を彷徨っていたのだろう。
お兄さんの愛情も、受けることなく。
「弟思いの優しい人よ」
「まあ、ヘルグは苦手らしいけどな」
そうなんだと思うと、何だか切なくなる。
引き離されて……愛情の受け方すら、知らなかったのだとしたら。
ヘタレさんって、本当に独りだったんだ。魔王城に来るまで、ずっと……ずーっと。
「あの、何やってるんですか?」
ふいに、廊下の向こう側からヘタレさんが歩いてきた。
何てタイミングの悪い……いや、いい人なんだか。
「あ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんっ」
「兄貴」
「……はい?」
ヘタレさんは困ったような呆れたような顔をする。
そりゃあ突然そんな風に呼ばれたらそうなるかもしれないけど。
僕は仕方なく、説明を始める。
「えっと、今、魔王城の人って家族みたいだよね――って話してて」
「――ああ、そうでしたか」
ふっといつものように笑顔を浮かべるヘタレさん。
きっとこれはヘタレさんの営業スマイルなんだ。何の営業だろう。自分で言ってそう思う。
「で、ヘタレさんは引きこもりの長男なんですよー」
「何ですかその微妙な設定嫌ですよ」
間髪入れず突っ込まれたのは悲しいけど、ヘタレさんは少し楽しそうだからいいことにする。
うん。楽しそう……だよね?
僕も笑って、続けた。
「だからヘタレさん、今日から引きこもって下さい!」
「無茶言わないで下さい」
「お兄ちゃん引きこもりやめるのっ!?」
「だーかーらー」
アリセルナの言葉にもいちいち反応するヘタレさん。
面白い。ヘタレさんをいじれる日が来るとは。
「兄貴は引きこもりだけが取り柄のくせに」
「寄って集っていじめですか、いいですよーどうせ引きこもりですよ」
あ、いじけた。
声が少し不機嫌そうになってる。
そんなヘタレさんを見て、僕らは顔を見合せて笑った。
「お兄ちゃん怒らないでー」
「なでなでしてあげるからっ」
「要りません!」
しばらくそんな話できゃーきゃー騒いでいた。
だって、楽しいんだもん。
本当にここの人がみんな“家族”みたいで。
嬉しかったんだ。
僕は、そんな仲がいい家族に憧れていたから……。
“偽り”でも、そんな“家族”でありたいと。
みんなもそう思ってくれてるよね?
そう、信じてる。
こんな風に、楽しく笑い合える家族でいたいって……。
ね。そうだよね?
テストがようやく終わったので更新再開です!
といってもテスト勉強はそんなにしていなかったのですがorz