第20話 魔法合戦
第20話です!
これからもよろしくお願いします^^
睨み合いは続き、空気は悪くなるばかり。
魔法も迂闊に使えず、お互い相手の懐を探ろうとする。
因みに変質者(仮)は、黒い膜の中でオロオロとしていた。
「……かかってきたら、どうです?」
「あなたこそ」
笑顔で挑発をかけてくるヘタレさん。
でも、挑発にのるわけにはいかない。
僕はじりじりと距離をつめ、攻撃のチャンスを窺っていた。
隙、なんて全くない……目を逸らすことも、できない。
さすがにヘタレさんだな。魔王の側近、というだけある。
「……仕方ないですね、じゃあいきますよ」
予想外にもヘタレさんが動いた。
さっと背後に回られて、僕は一瞬遅れて振り向く。
「火炎雨」
ヘタレさんが低い声でそう唱えた。
すると、上から火の玉がバラバラと降ってくる。
ちょっ、城でこういうことしていいのか?
危ないんじゃっ。
まあ、仕掛けたのは僕っちゃ僕なんだけど……。
「水波動!」
火の玉を水の波動がかき消す。
僕はヘタレさんから一旦離れた。
ヘタレさん、やり慣れてるな。冷や汗が伝う。
あんな至近距離から火炎雨なんて使うか普通。
実際、勝てるかどうか……あんまり自信ない。
「雷、火炎、冷雨」
僕は下級魔法を次々と唱えた。
が、簡単にかわされる。
「鈍化」
う、ヤバイ。鈍化をかけられた。
鈍化をかけられると、動きが全部遅くなってしまうのだ。
移動速度も、攻撃速度も、詠唱速度も。
「くっ……隕石!」
上級魔法をここで使うのもどうかと思ったが、こうなったら後には引けない。
鈍化がかかっている間は僕に隙がありすぎる。
せめて、鈍化が終わるまで何とか凌がないと。
詠唱に遅れて、城の廊下には沢山の隕石が降った。
どごーん、破壊。わぁお。さすがに隕石はやりすぎだったか。
「ちょ、勇者さん……それは流石にっ」
あ、ヘタレさん普通に戻った。
―――いや、てか、さすがにやりすぎだよな。
ヘタレさんも危険なのを感じたんだろう。
「停止!」
僕は隕石に停止をかける。
空中でピタリと止まる隕石。――危ないな、これ。
「ど……、どうしたらいいですか?」
「私に聞かないで下さい。出したのはあなたじゃないですか」
二人で沈黙する。
隕石は、宙に浮いたままだ。
というか、停止の効果が切れたら危ないと思うんですけど。
これ、どうしよう。目の前のことに必死になりすぎて、そんなこと考えてなかった……。
「――何してる?」
「っ!」
突如後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは全身真っ黒いローブで身を包んだ魔王様だった。
表情はいつもと変わらず無表情だけど、声がどことなく不機嫌そうに聞こえる。
―――これ、どうやって切り抜ければいいんだ。
宙には隕石。黒い膜の中に、人。
うまく言い訳できるか……。
「えーっとですね、……ケンカ?」
僕はできる限りの笑顔でそう言う。
が、魔王様の表情は変わらない。
「ケンカならもっと静かにやれ。こんな大規模なケンカをするな」
確かに大規模すぎるよな、と宙に浮かぶ隕石を見る。
どうしよう、これ……。
「――全く」
魔王様はため息をつき、隕石の前までやってきた。
そして、手をかざすとポソリと呟く。
「終末の黒い穴」
その瞬間、グラリと空間が歪み、黒い穴が現れた。ひどく大きな、闇が。
それはすごい吸引力で、隕石が次々に吸い込まれ―――僕も危うく吸い込まれそうになってしまった。危ない、危ない。
そして隕石が全てなくなると、その黒い穴は消えた。
今の『ブラックホール』って……まさか、闇の最上級魔法?
さすがに、魔王様だ……。感心してしまう。
「ケンカは、口ゲンカだけにしろ」
魔王様はそう言い捨てて、テレポートしていく。
あんなにも簡単に最上級魔法を使うなんて、そんな人初めて見た。
僕もキナも、あんな簡単に最上級魔法を使ったことはない。
「……魔王様ってば……また、無理なんかして」
「へ、ヘタレさん?」
「はぁ。もう、戦う気も失せました。仕方ないですね、この人は殺さない程度に片付けておきますか」
暗黒空間に閉じ込められた変質者(仮)を見て、ヘタレさんが呟いた。
よかった。あのまま戦ってたら、危なかったかも。
「瞬間移動」
ヘタレさんが呟き、変質者(仮)はふっと消える。
……どこ行ったか知らんが、まあ大丈夫だろう。
生きてるんならどうでもいいや。それ以上は知らん、あんな変質者なんか。
「あの……それで、ヘタレさん」
「ヘルグですってば」
「どっちでもいいです。サタン派とか……何なのか、教えてくれませんか?」
やれやれと言ったように、ヘタレさんは肩を竦める。
「本当は、あまり話したくなかったんですが……。じゃあ、ついてきて下さい」
僕は頷き、大人しくヘタレさんについていく。
行先は――庭だ。
いつの間にか床に蹲っていた(落ちた?)虎次も、早足でついてくる。
……胸騒ぎがしていた。
その『サタン』という響きは―――決して、いいものではなかったから。
―――ねえ、この時からだったのかな。
何か“大切なもの”を失うような―――嫌な予感がしていたのは。