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第19話 サタン派の者

 ―――この季節には珍しく暖かい、ある昼下がりのこと。

 いつものように虎次とじゃれ合っていた僕は、絡みついてくる視線に気付き、ふと顔を上げた。

 誰もいないはずなのに感じる視線。誰かが、どこかに隠れているのだろうか……。

 見回すけれど、隠れるところなんて沢山ありすぎて、どこにいるか分からない。

 仕方がないので、僕は気配を探ることにする。


「…………ぐふ」


 ……何か聞こえた。

 でも聞こえなかったふりをしよう。うん、それが賢明な判断だ。

 それにしてもストーカーか、視姦か。

 どっちも嫌だ。やめてくれ。どっか行け。


「ぐふふふふぅ」


 コメントする気も失せるような気持ちの悪い声が、右の方から聞こえる。

 お願いだから早くどっか行って。

 が、そんな願いも虚しくその低い声はただこっちに漏れてくるばかり。


「ぐ、ふふふ……コメットちゃん」


 呼ぶなこのやろー。

 僕はあえて無視を続ける。

 けど、居場所は分かった。気配が分かりやすすぎる。ってか濃い。

 右側の茂みに隠れた、大きな塊。

 黙れ&どっか逝けという念を込めてキッとそっちを睨んでも、それは同じような反応を返すだけ。


「コメットちゃんは今日も可愛いね……」


 てか、声が思いっきり聞こえてますよ。

 吐き気がおぇぇえ。

 僕は極力そっちを見ないようにしながら、虎次を抱きしめる。

 助けて虎次。変な人がいるよ。

 ……そういえば昔アレスが、変質者に遭ったときのために僕にある知識を伝授してくれたことがあったっけ。

 頑張れ思い出せ僕。ええと、アレスは変質者に遭ったらどうしろって言ってたっけ。


『―――まず十分に距離をとり、いつでも迎撃できるように準備しろ』


 そうだ。距離……距離は十分にある。

 迎撃……武器が必要だな。きょろきょろと見回すと、太く長めの木の枝が落ちていた。

 他に使えそうなものはない。仕方ない、これでいいか。その木の枝を拾って、一応構えておく。

 えっと、それで何だっけ?


『そうしてから、刺激しないように話しかけるんだ』


 ……あれには、あんまり話しかけたくないだけど。

 とりあえず、刺激しないように……


「あの、何してるんですか?」

「っ!」


 変質者(仮)は茂みから顔を出した。口をポカンと開けている。

 気付かれていることに気付いてなかったのか。何か複雑だな。


「こ、コメットちゃんが……ボクを見た……! 運命だ!」


 そういう驚きかい。

 てか、僕何でこの人と話してるんだろう。逃げればよかった。

 逃げれば、迎撃とか何とかせずに済んだのに。まあ今さらか。

 よし、続けよう。


『そして、変な動きを見せたor変なことを言い出したら、遠慮なく叩きのめせ』


 ……叩きのめしていいのか?


「ようやくコメットちゃんがボクに気付いてくれた……うっふふふふぅ〜」


 嬉しそうにくねくねと気持ちの悪い動きでこっちへ向かってくる変質者(仮)。

 変な言動を相手が繰り返す場合、どうすればいいんだ。

 問答無用で叩きのめしていいか。遠慮とかそれ以前の問題か。よし。

 僕は目の前まで迫ってきたその巨体に足を掛ける。


「グホッ!」


 変質者(仮)は、顔面から地面にダイブした。

 僕はその間に虎次を連れて距離をとる。


「ぐ、ぐふふ……コメットちゃんったら、恥ずかしがり屋なんだから」


 どういう解釈をしたらそうなるのか分からないが、とにかく頭の中がおめでたいことになってるのは分かった。

 小さな目を細めて、よろよろとこっちへ向かってくる。さながらゾンビのようだ。


「マイハニー今そっちに行くよっ!」


 気持ち悪い台詞とともに突進してくる変質者(仮)。

 僕はさすがに焦った。


「ちょっ、ちょっと!?」


 僕は驚きながらも、何とか避ける。

 変質者(仮)はそのまま後ろの壁に突撃した。


「グホァッ!」


 ……気持ち悪い。逃げよう。

 僕は逃げ出した。


「ちょ……ちょっと待っておくれよ! コメットちゃ〜ん!」


 誰が待つか、お前なんか。心の中で呟き、スピードを上げる。

 腕の中には勿論虎次。

 虎次はいつにもなく元気がない。当たり前だな。あんなの見たら、誰だって嫌になるだろう。


火炎ファイア!」


 僕はさっと振り返り魔法を唱える。

 途端、変質者(仮)の身体はゴオッと燃えた。


 ……本当なら魔法は使いたくなかったのだが、この際もういい。自分の命と貞操の危機なのだから仕方ない。

 自分? あれ? ……うん、まあ、いいか。


「グォォォォッ!」


 燃え上がる炎。

 ……確かに、この身体ならよく燃えそうだよね。

 なんて思いつつ、また走った。

 これ、バレたら結構ヤバいだろうなー……。


 そもそも、魔力は魂に宿るものであって、その器は全く関係ない。

 僕はもともと魔力に優れた魔法剣士だったが、もしかしたらコメットは魔力があまりなかったかもしれない。そうしたら、魔法を使うのは明らかにおかしいだろう。

 魔力がなければ、魔法は使えない。魔力が全くない人なんて、低級の魔法でも使えないという。人それぞれだけどね。

 だけどコメットはどうだろう。全く使えなくても、おかしくはない。

 まあ、今さらうだうだ言ったって、もう魔法使っちゃったしどうにもならんけど。


「あ、熱い! 熱い! でも、君からの愛が一番熱いよ……!」


 あそこでうだうだ言ってる馬鹿もきっとどうにもならんのだろうな。ほっとこ。


「燃える、萌えるぅぅぅ!」


 イントネーションが微妙に違ったのはスルーしておこう。

 つーか、思いっきり燃えてるけど元気そうだよね。

 あの分ならきっと死なないだろう。大丈夫だ、うん。


「にぁ……」

「虎次、怖いの?」


 虎次は震えている。

 やっぱりあれが怖いのか。虎次は人見知りするし、仕方ないかも。

 人見知りしなくてもあれは怖いし。

 僕は早く離れようとまた速度を上げる。

 そして、城の中へと飛び込んだ。

 ……追ってこない、かな。


「コメットちゃんっ!」


 前方から現れたし!?

 ちょっ、どこから、どうやってっ!?

 僕は慌てて後ずさる。

 でもその距離は、あまりにも近すぎた。


「んっふふ〜ようやく二人っきりだねぇ」


 にたぁと笑う変質者(仮)。

 僕は、その顔にひどい嫌悪感を覚える。

 嫌な予感――色んな意味で――も、胸の奥から込み上げてくるようにして。


「ボクからぁ逃げれると思っているのかい?」


 捕まったら死にますから。


「残念だけどぉ〜、ボクは『サタン様』の手下だからねぇ〜、君のことは全部知っているんだよぉ〜……?」


 ゾッとする声で、彼はそう言う。

 その言葉に僕は凍りついた。

 全部知っている? 僕の、何を?


「君がコメットちゃんじゃないことも、本当は誰なのかも……」


 嘘。何で? 何で知ってるの?

 僕は鼓動がどんどん速まっていくを感じる。

 分からない。どうして。

 全身が熱くなって、コワれてしまいそう。


「どうして、って顔してるね。コメットちゃん……いや、勇者くん」


 耳元でささやかれ、思考回路が停止する。

 何が、何を、何で?

 勇者? ――それは紛れもなく僕を指す単語。

 変質者(仮)は僕が混乱しているのを見て、満足そうに僕に手を伸ばし―――


暗黒空間ダークネススペース


 突然左側からそう唱える声が聞こえた。

 目の前まで迫っていた変質者(仮)が、黒い膜に包まれる。


「ぶぉ!?」


 これは……闇の上級魔法?

 変質者(仮)は暴れるが、その黒い膜はビクともしない。

 誰がこんな上級魔法を……。

 声が聞こえた方を向くと、そこに立っていたのはヘタレさんだった。


「ヘタレさん!?」

「ヘルグです。……少し、危なかったですね」


 いつもと同じように笑う彼を見て、僕はほっとする。

 助けてくれたのだと。

 というか、この魔法は……。


「……あの、この魔法……あなたが?」

「はい、そうですが?」


 何でもないことのように言うヘタレさん。

 が、この魔法を使えるなんて、この人……やっぱり只者じゃない。

 上級魔法なんて、滅多に使えたものじゃないはず。


「あの……な、何で……」

「質問は後にして下さい。それより、このお馬鹿さんの始末をしないと」


 そう言ったヘタレさんの目は、全く笑っていなかった。

 怖い。

 本気で、そう感じる。

 腕の中の虎次でさえ、震えているのが感じられた。


「ぼ、ボクを始末だとぉ? だ、出せっ」

「嫌です。サタン、と言いましたからね。徹底的にやりますよ」

「っ!」


 にっこり笑う彼は、とても綺麗だったけれど怖く。

 その表情はツクリモノのようだった。

 そもそも、サタンって何?


「どう、調理してほしいですか?」

「ひっ、ゆ、許してぇ……! ボクは、別に、そ、そんなつもりじゃっ」

「言い訳は許しません。命乞いの権利さえ、あなたにはないんですよ?」


 僕は動けなかった。

 腕の中にいる虎次は完全に怯えている。

 僕も、足がすくんで動けない。

 その狂気に。殺気に。


「ねえ。『サタン派』の者なら、徹底的に潰さないといけませんから。あなたも勿論、知ってるでしょう? ここは魔王城ですから」


 殺す気だ。

 それがはっきりと分かった。

 黒い膜の中でもがくそいつは、とても滑稽。

 綺麗に造り上げられたヘタレさんの笑顔には、到底敵いやしない不細工で。

 でも人としての感情が、その笑顔にはなかった。


「―――では、さようなら。地獄ヘル―――」

「ちょっ、ヘタレさん! そ、そんなの駄目ですってば!」


 僕はできる限りの大声で叫ぶ。

 何だなんだ。事情はよく分からないけれど、人が目の前で死ぬのに黙っていられるわけがない。


「……止めるんですか? それなら、あなたも容赦しませんよ。事情も知らないのに、首を突っ込まない方がいいと思いますが?」

「やれるもんならやってみて下さいっ。僕は、何であろうとあなたのそのやり方には賛同できません!」


 キッとヘタレさんを睨むと、ヘタレさんの目の色が変わった。


「―――そうですか。なら、遠慮なくやります」


 とりあえず変質者(仮)を置いて、僕らの戦いは始まった。




ありえないほど予想外の展開にorz

どうしてこうシリアスになってしまうんだ……orz


勉強し直してきますorz

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