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第132話 光は耳塞ぎ影は目を閉じた

警告タグが付いてしまったほどのお久しぶりなので、今回は少し長いです……!

前半はシリアスですが、後半はえらいコメディー(笑)

 リルちゃんじゃ、ない。

 口の中で呟いた。

 目の前の威圧感。違う。こんなのじゃない。

 けれどどんなに否定してみても、事実は決して覆せない。

 分かっている。

 今僕の目の前にいるのは、他の誰でもない――紛れもなく、僕のよく知っている魔王様だ。


 ――血の色を湛えた双眸の、正に本物と呼ぶべき“魔王”様――





 それは僕に向けて確かに、神なのだと告げた。





「デュレイ」


 聞き慣れた声音が、しかしいつもよりも低く鼓膜を掠める。

 僕の名前を呼ばれたわけではないのに、僕はついびくりと肩を揺らしてしまった。恥ずかしい――というか情けない話だが、条件反射なのでどうしようもない。


「な……、んだよ」


 けれど彼の雰囲気に威圧されているのは、デュレイも同じらしかった。

 威嚇するように目を細めるが、その口調は完全に圧倒されている。しかし、デュレイに一歩と歩み寄るリルちゃん――否、魔王様はそれを気にする様子もない。


「お前は確か、ディーゼルに言われて腕の拘束具はそのままにして来たはずだな。その割には随分自由に暴れ回っているようだが――腕の拘束具は、一体どうした?」

「……何で魔王サマがそんなこと知ってんだ? 気持ち悪いな」

「答えろ」


 無表情のまま淡々と告げる、魔王様。

 言葉自体はともかく、何故か命令という口調には聞こえない。しかし、それが却って不気味だった。まるで昆虫のような、感情の灯らない無機質な眼。紅い眼。どこか、既視感を覚える。同時に、吐き気を催すような嫌悪感も。


「外してきたよ、んなもん。拘束系の魔法もかけられてなかったしな」


 しかしあえて抗うように、デュレイは嫌悪感剥き出しに吠えた。……。何てこと。確かにこいつを一人野放しにしておくのは危ないだろうと思ったけれど、まさか自分で拘束具を外してきただなんて。

 ……そもそも、それはつまり、僕が看病していたときにだって自由になりえたということじゃないか。僕ははたと気付き、その危うさに、背筋が凍るように震えた。

 ――いや。

 かぶりを振って思い直す。考えるな。今はそれより、魔王様のことだ。


「気持ちは分からなくもないが、約束を違えるのはよくないな」


 魔王様は、そんな事実を聞いてもやはり淡々としたまま告げる。まるで、既知の事実を尋ねたかのように。

 そして彼が一歩踏み出すと、それを合図に、デュレイの一度は自由になった腕にがしゃりと再び黒い手錠が掛かった。


「――!? な、なんっ」

「しばらくそのままで待っていろ」


 ――何だ、これ。

 声にならずとも、目を剥いたデュレイの言わんとすることは僕にも分かった。むしろ、僕も同じ気持ちを同時に抱く。

 デュレイを捕らえた手錠の黒、光をそのまま飲み込む濃すぎる黒。鉄とか鋼とか、そんな光沢を放つ鉱物でも、そして決して人工物でもない。人の手では、こんなものは決して作れない。その様相を下から睨め上げ、僕はそう思った。

 ――けれど、それは魔法でもない。

 無詠唱で簡単すぎるからとか、そんな理由じゃない。魔王様ならば、そんなことなんて寝ている間にでもできる。比喩的に。

 違うのだ。魔力で形成した何かとはまるで違う力で作り上げられている。魔法にある程度通じている者ならば、誰でも分かるだろう。これは、魔法での産物なんかじゃないと。


「ま、おう……」


 一方、そんな得体の知れない闇をいとも容易く作り上げた張本人、魔王様の赤い双眸に見下ろされて、追い詰められた勇者は子供のように呟いた。倒すべき仇敵を相手に、立ち竦み声も掠れている。


「…………」


 けれど魔王様は悠然と笑みを保ったまま、沈黙を持って勇者をただ見下ろしていた。

 デュレイや僕のことなんて、既に眼中にはない。僕達が気にしている些細な事象なんて、まるで。

 彼はただ勇者を殺すために、今、ここに立っているのだ。


「何人、殺した?」


 ふいに、ぽつりと静かに落とされる言葉。

 一瞬、遠くで聞いていた僕も意味が分からず耳を疑った。“何人、殺した”? それは一体、どういう意味だと。


「お前は、この城の住人を何人殺した」


 ――あ……。

 そういうことか。まるで僕の疑問に答えるように述べられた途端、その奥に隠された本意を理解する。魔王様の瞳の奥で、静かに燃える漆黒の炎。

 その炎は、確かに憎しみを糧に燃え盛っている。

 でもそれはある意味、まだ彼がリルちゃんとしての正気を保っていることの証拠だ。民思いのリルちゃん。故に民を殺されたことへの、怒り。

 しかし、だからこそ彼は勇者を殺すだろう。勇者への憎しみのあまりに。


「……そ、な……」


 その強い憎しみを正面から向けられた勇者は、真っ白になった顔の中で一層青白い唇を恐怖に震わせている。

 僕は思わず、彼を不憫にさえ思った。許せる相手ではないにしても。


「そんなものはいちいち数えていない――か。だろうな」


 震える勇者の口の動きだけで読み取ったのか、それとも予想と予測で勝手に断定したのか。

 多分後者だろう。魔王様は口元だけで笑うと、一歩前へと踏み出す。


「そして、私を殺しに来たんだろう? 勇者という正義の味方として、魔王という諸悪の根源を」


 僕に分かるのは、込められた憎しみと怒りばかり。けれどそれでもう十分だった。

 この人は、リルちゃんだ。それでありながら、同時に別人でもある。

 止めなければ、この人は目の前の“仇敵”を殺してしまうだろう。その手で葬られた同胞たちに、血塗れた花を手向けるために。

 けれど、――だけど――。


「勇者。お前自身の無知という罪を、私は私の罪を以て許そう」

「―――っぁ……」


 勇者の首を、リルちゃんの細い指がつかむ。

 否、つかむというより、握りつぶそうとしているのに近いかもしれない。

 さっきまで斧を振り回していた勇者の腕力はどこへやら、どれだけもがいても絡みつく長い指はまるで解けなかった。みるみる変色していく、勇者の顔。


「ただ――」


 ぎり、と白い五指にさらに力が入る。勇者は咽ることもできずにもがくだけ。


「お前の犯した既知の罪を、私は決して許さない」


 喉が、つぶれる。

 思った途端、僕を引き止めていた金縛りが、まるで嘘のように解けた。だめ。駄目だよ、リルちゃん。殺したら……駄目。

 どうしてそう思ったのか分からない。でも、そんなことはどうでもよかった。軽くなった腕をするりと伸ばして、そして僕は。


「――リルちゃん!」


 僕は、叫ぶ。もしも――なんて考えもしない。もしもそこにいるのがリルちゃんじゃなかったら、もしも僕のことなんて全くどうとも思っていなかったらなんて。

 ただ、僕の知らないリルちゃんが、知らないままに終わってしまうのが嫌で。

 僕は、叫んだ。


「―――」


 リルちゃんは勇者を持ち上げたまま、ちらりと振り返る。怒りがゆっくりと鎮まり、けれど変わらず炎を宿した紅い双眸が、僕を見据えた。

 ごくりと息を呑む、交差する視線。けれど。


「……人違いだ」


 数秒の沈黙のあと、返ってきたのはそれだけ。

 その腕に込められていた力が多少緩んで、勇者が苦しそうに咳き込んだ。


 それだけ。


 ――“人違いだ”。



 世界が真っ白になるかと思った。



 声音は同じなのに、耳を撫ぜていくのは凍りつくような言葉で。

 世界は果てしなくどうしようもなくて、僕では届かない。

 彼を救えるのは僕だけだとか、怒りを鎮めるだとか、勇者を殺すのはいけないとか。

 僕に一体何ができた? ようやく悟っても今さら、そして悟ってしまったことを悔やむように。

 くずおれ、冷たい床に手の平を叩きつける。もうリルちゃんは、振り返ってはくれない。

 急速に色褪せていく世界の中、再び僕に背中を向けたリルちゃんはやっぱり僕の知らない人で、ただ、ああ、どこか遠くへ行っちゃうんだなと、砕けた心のどこかでそれだけを他人事のように感じた。





 さようなら。





 ◇





 仮に今おびただしい数の屍に囲まれていてそのせいでものすごく気分が悪くて機嫌が悪くて腹が立っていて隣にいる救いようもない善人がそれに気付いていてでもどうしようもなく何となく気遣うような雰囲気だけが伝わってきてそれが逆に余計苛立ったとして、その上愛しの人を助けようと唯一奮闘しているはずの相棒から『さようなら』と唐突に別れを告げるテレパシーが伝わってきたとしたら一体僕はどうすればいいんだろう。

 ――どうしようもねえよばかやろー。

 空の果てまですっきり全てをかっ飛ばしたい気分だ。何をどうしたらここまで迷惑ごとが集うのか、そこらへんの事情を是非奴の胸に問いたい。突然別れ告げてんじゃねえよ。できることなら僕だって光とはさよならして、僕の思う通りに自由に生きたい。あいつの面倒な性格に付き合うのはもうごめんだ。

 しかし、そんな都合のいいことなんて起こるはずもなく。


(さようなら――さようなら――さようなら――)


 エコーしてんじゃねえよこの野郎!

 そんなに別れを告げたいなら世界からさよならしてしまえばいいのに。捻くれたこと言っておいて本当は構ってほしい難しいお年頃かお前は。何でもいいけどとりあえずこっちの頭には必要以上に響くんだから黙っていて欲しい。つーか死ね。


「……その……、お前、どうした? 言い辛いけど……すっげー凶悪な顔してるぞ」


 もはや隣にいる救いたくもない善人は気遣いという優しさをかなぐり捨てて強行突破に出たし。顔の造り云々は光に言ってくれ。どうしようもないけど。

 ていうか、言い辛いなら言わんでいいのに。


「別にいいじゃん、ほっといてよ。サンドバッグにするよ?」

「唐突だな……。何でそんなに機嫌悪いんだよ」

「死体の山に囲まれてりゃ機嫌も悪くなると思いますけどね」


 ふいとそっぽを向き、軽い皮肉のつもりで僕は言葉を飛ばす。

 しかし、その何気ない一言に、隣の善人様は突然むっつりと黙り込んでしまった。表情には出さずとも驚く僕に、暗い顔。

 何かと思ってすぐに考えを巡らせば、すぐに思い当たる。


 ――あー、失敗した。


 そういやここでご臨終なさってしまったのは彼の知人や友人、それに顔は知らなくともまぎれもない同胞たちだった。

 彼は努めて気丈に振る舞っていたのだ。気にしていなかったわけでは、ない。……本当なら、一人になって泣くなり吐くなりしたいだろうに。“死体の山”なんて、……僕は馬鹿か。


「……ごめん。僕が悪かった」

「いや……」


 気まずくてお互い目を逸らす。あー、何て厄介なんだろう。何で僕が謝ってるわけ?

 頭ではそんな風に考えてみるものの、僕が悪いものは悪い。今のはあんまりだった。

 勇者なんてことやってたし、“影”という性質上、死体なんかには何も感じないけれど。慣れっていうのは、とっても、怖い。……いや、そこじゃなくてさあ。落ち着け僕。


「……とっ、とにかく。急いで抜けるのが先決じゃない? なーんか嫌な予感もするしさあ」

「……ああ、そうだな」


 一瞬にして険悪になった雰囲気を繕うように、僕は無理に気軽く声をかける。それに答えて頷いた彼も、無理をしているように見えた。

 けれど彼をそうさせてしまった僕にはかける言葉も見つからず、ただ前言通りに再びするすると空を滑り出した。

 しかし。


「っ! 下がって!」


 前方から突然近付いてきた強い気配に、僕は彼を庇うように前に出る。――まずい、意識を全く前に向けていなかった。光の一方通行なテレパシーなんて気にしている場合じゃなかった、と思う。あとサンドバッグ君とかも。本題そこじゃないけど。

 しっかり気が散りつつも急いで目の前に鋭く集中すると、途端炎を纏った二匹の蛇が輪を描きながら突進してくる。


「く――! 氷柱(アイシクル)!」


 手を伸ばし、指の先まで魔力を通わす。迸る指の痛み。天井まで見えない糸を伸ばすように、一点に集中する。ピキピキと冷たい音が、空間を震わせた。

 どちらが、先か。かなりの勢いで迫ってくる熱風を感じながら、僕は重力に従って右腕を振り下ろす。瞼が熱い。

 ――しかし、蛇の勢いに、僕の詠唱速度が勝った。炎で円を描く蛇が僕の身体まで届く前に、天井に吊り下がった硬い氷の柱が滑り落ち、ナイフの如くその細い胴体を貫いた。弾けた熱気が、ぎりぎり避けたものの逃げ切れなかった前髪を焦がす。


「あっ、ぶなー……」


 けほ、と焦げくさい臭いに軽く咳き込みながら、破裂した炎の先を見やる。右手にはもう、魔力を通わせながら。――しかし。


「……影、君と……ディーゼル君じゃないですか」

「…………ヘタレさん?」


 訝しんで目を凝らせば、今まで戦っていた相手――聞き覚えのある中性的な声の正体は、この城の主の側近を務める男だった。

 ……何か、何というか、納得がいったというか……いかないというか。


「ヘタレ、って……貴方までそうやって呼ぶんですか……」

「こんなところで何やってんの、ヘタレさん」


 状況も何もまるで関係なくただ呼び方に対しての哀愁を漂わせるヘタレさんに、僕は容赦なく尋ねる。いやだって故意じゃないとはいえ攻撃を仕掛けられたし? 一方、僕の後ろにいるはずのディーゼル君は、よほど驚いたのか押し黙ったままだ。それとも、さっきのあれのせいか。

 しかし、こんな時に限って、ヘタレさんも進んで口を開こうとはしない。……前方の相手を誰だか確認もせずに中級魔法ぶっ放したくせに。謝罪も言い訳もなしかコラ。


「あー、いえ、話すと長くなるというか、時間がないというか……」

「……どういう意味?」


 ヘタレさんは、ようやく音量を抑えた声でそう語り始めながらも、きょろきょろと忙しなく辺りを見回す。何だ、何かあるのか? 僕は思わず眉をひそめて、同じように周囲を見回した。が、周囲には僕ら以外の動く影は見えない。一体何だって言うんだろう。


「おい、ヘルグ、もしかして勇者一行の――」


 そこで何か思い当たったのか、ディーゼル君がようやく口を開き、心なしか低い声で尋ねようとする。

 ……が。


「どーんっ!」


 最後まで言う暇もなく、突然、耳をつんざくほどの轟音が場違いなほど明るく幼い声とともに廊下一帯に響き渡った。


「――っ!?」


 床が崩れるほどの衝撃。思わずたたらを踏む。けれど実際に崩れたのは床ではなく、ヘタレさんの後方の頑丈なはずの壁だった。幸いにも、ヘタレさんはまるでそれを予期していたかのように、素早く前に跳躍する。

 がしかし、廊下の壁は無残なまでに砕け落ち、一部の壁の破片は吹っ飛び反対側の壁に叩きつけらてしまい、ようやくのことで振動も収まってパラパラと砂埃が舞った後には、唯一無傷で生き残った人物――つまりこの襲撃の犯人である小さな人影が立っていた。


「逃っがさないよー? いくらちょこまか走り回ったって無駄なんだから! 大人しく観念しなさい、この化け物っ!」


 その人影はびしり、と指をヘタレさんの方に突き付け、崩れる瓦礫の中から堂々と歩いてくる。

 けれど“化け物”呼ばわりまでされたヘタレさんは全く驚く様子もなく、ただもんのすごく嫌そうに顔をしかめた。


「しつこいですねえ……ガキが。凹凸のない子供には興味ないって言ってるじゃないですか、小娘」

「何だとおっ!? 失礼な、あたしだってあんたみたいなド派手なピンク男に興味ないわよー!」


 命知らずにもヘタレさんをピンク男呼ばわりしながらない胸をどんと張って歩み寄ってきたのは、くるくると巻かれた金髪を頭の両端でくくった――そう、小娘。

 そう表現するほかない。小娘だ。口は悪いが、ヘタレさんの言う通り。こんなにぴったりな表現も珍しい。

 けれど、こんなふざけた少女が、あの壁を破壊したっていうのか? とてもではないけれど信じられない。ていうかがっちがちの光属性すぎて、というよりむしろぶりぶりのロリ娘すぎて近付きたくない。正直苦手なタイプだ。こいつから逃げていたから、あんなに忙しなかったのか。ヘタレさんが逃げるくらいだから、壁を壊すくらい朝飯前なのかもしれない。……いや、口の利きようからすると、単に面倒だから逃げているようにしか聞こえないけれど。


「ガキはガキらしく物好き(ロリコン)にでも可愛がられてなさい。私は忙しいんです。――ってわけで影君とディーゼル君、あとは頼みましたよ!」

「え」

「え」

「え……って待てこらーっ!」


 異口同音に意味を成さない単語を吐き出し、そして最後に少女は一人で絶叫する。しかしヘタレさんはもう用済みとばかりに僕とディーゼル君の間をすり抜け、一度も振り向くことなく奥へと走り去って行ってしまった。

 いや、早いよ。間違いとはいえ敵意満々に登場して謝罪も言い訳も説明もなしに退場か。せめて、この小娘連れて行け。

 しかしそんな僕の心の声は、今となっては届かず。


「え、いや、どういう……?」

「……さあ? 多分このこむす……子を頼んだってことじゃない?」


 目を白黒させるディーゼル君に未だ何か喚き続ける少女を指で示し、僕は肩を竦める。

 やれやれ、随分と厄介なものを任されてしまった。

 しかもこの子があの壁を壊した犯人ならば、余計厄介だ。色んな意味で。とにかくこういう輩とはあまり関わり合いになりたくない……のだが。

 それも無理な話だろう。と思った矢先、ぎぎぎ、と機械のように少女の首がぎこちなく動き、僕の方を向いてぴたりと止まった。――来るか、と思いきや。


「あ、れ……? あんた、――ううん、貴方、もしかして……」

「な……、何?」


 存外普通に明るい声。

 少女は敵意云々以前に僕らの存在に今さらになって気付いたらしく、きょとんと小首を傾げて、僕のことをじいっと凝視し始める。しかし、その視線に含まれているのは、怖気立つような敵意や殺意ではない。……それよりも、もっと、悪い。

 う……、な、何だろう。もっのすごく嫌な予感がする。さっきのような怪力――かどうかは知らないけれど――で突然襲いかかられたりするよりも、もっと悪い予感が。いやそんなことがあるはずないだろと自分に言い聞かせてみても。

 悪い予感ほどよく当たるとは、よく言うけれど。


「貴方……あたしの王子様!?」


 きらきらきらーっ。

 そんな効果音が後ろから聞こえてきそうなほどにきらきらと輝く、少女の翠玉の瞳。


 王子、様?


 僕は思わずフリーズした。いや、突っ込むべきところはそこではない。どっちかというと、“あたしの”だ。……どちらにしたって、嫌な単語だが。

 悪い予感ほどよく当たるとは、よく言ったものだ。


「……何?」

「……さあ?」


 他にどうしようもなくて、とりあえずディーゼル君と視線を交わす。

 “王子様”――なんて、あの眩しい目を向けられているのが僕じゃなくて彼だったら、と僕は切実に望んだ。切実に。


「知り合い?」

「いや? ……お前は?」

「まさか」

「だろうな」


 けれど、彼女はディーゼル君の知り合いではないらしい。……まあ、彼女は人間のようだから当然だけど。僕も勿論知らない。見たことも……多分ない。


「あーん! ずっとずーっとお会いしたかったんですよう、あたしの勇者様!」


 ――しかし。


「……“勇者様”?」

「……お前のことだろうな。確実に」


 どうやら彼女は、残念ながら僕をご指名らしい。

 何かが崩れ落ちていく音が、どこかで聞こえた気がした。あるいは心かもしれない。


 ……仮にだ。

 仮に今胸も頭もないその上光属性の馬鹿そうなロリ娘と対面していてそのせいでものすごく気分が悪くて気持ち悪くて逃げ出したくて後ろにいる救いようもない善人がそれに同意していてでもどうしようもなく何となく窺うような雰囲気だけが伝わってきてそれが逆に余計憂鬱だったとして、その上その某ロリ娘がリアルにハートを噴出しながら『あたしの王子様!』なんて唐突に自分に向かって告げてきたとしたら一体僕はどうすればいいんだろう。


 ……どうしようもねえよ、ばかやろー。


 神様というのはいっつも理不尽だ。どうしてこう面倒ごとばかり持ってくるんだろう。年下には興味ねえってのと、泣きそうになりながらも僕は毒づく。

 光が世界に別れを告げたいと思った理由が、少し、分かった気がした。




 泣きたい。




お久しぶり、でした。ようやく書けたよー!

それにしても、推敲にどんだけ時間掛かってるんだ私。


しかし口の悪いヘタレさん楽しかった。そしてあの電波系の女は何なのか。故郷の星に帰ればいいと思う。……楽しかったですけどね!


余談ですが、光つまり勇者と影は兄弟のようなもんかなあと思います。影が面倒見いいので(笑)双子の兄弟、影が兄で勇者が弟みたいな。しかし同一人物。

でも結構性格違いますよね(笑)皆さんはどちらが好きでしょうか?

ちなみに作者は影の方が百万倍好きです←

アレです。そういうもんです。魔王は白と黒どっちが好きかって聞かれたら私は断然黒が好きだと答えます^q^←


そういうもんです(二回目


ではでは以下返信。



>右ヘタレは作者が許さなくても俺が許す。ていうか、魔王さまと勇者早くくっつけ。

だ、だから私が許さないんだってば……!

…………いえすみません。ごめんなさい。石投げないで。嗜好は人それぞれですものね。

しかし魔王と勇者はしばらくくっついたり離れたりです。色んな意味で。……それでも温かく見守って下されば、嬉しい限り、です……(*´ω`*)


>こんなに長くご苦労様です。これからも続けていってください。応援します!!

こ、こんなに長くなってしまったのにお付き合いいただいてありがとうございますー!

そろそろ終わりに向かって進む……のかな? 分かりませんが^q^←

これからもお付き合いいただければ幸いです*


>魔王さま×勇者さん?のあーる15いや18がみてみたいですね!是非!

あーる、だと……!?

むしろ逆になりそうな気がして本気で怖いですがくがく←

機会があったら書いてみたいものですが、わ、私の文章力とか理性がついていかない……!← もう誰か代わりに書いて(ry


>右ヘタレはぷまい。だが、デレ勇者とほけほけ魔王さまはもっとぷまい。

あ、あ、あ、ありがとうございますー!

なんか色々混沌としてる気がしないでもないですが、……多分これからもそんな感じでいきます←

き、気に入っていただければ嬉しいです……\(^o^)/


>唯単にからみがオモシロいから

ありがとうございます! 面白いと言っていただけて嬉しいです!

何だかいつもこんな感じでいいのかってがくがくなんですが……楽しんでいただければそれで満足です(*´v`*)

これからも精進できるよう、頑張ってまいります!


>!魔王さま!!どんだけ私の理性をふっ飛ばしたら気が済むの!?←(オィ

ご、ごごごごめんなさい!(ぁ しかしとっても嬉しいコメントです∀(殴

最近は何だかコメディーもなく我が家の魔王さんにも変な知恵がついてきげふげふとにかくあまり供給がないんですが、が、頑張りますので……!

3ヶ月に一回思い出すくらいの感じで楽しみにして下されば作者としても幸せです(^o^)笑



皆さま、いつもほんっとありがとうございます。フリーダムすぎる小娘ですみません。

投票はまだしばらく放置しておくので、気が向いた時にでもぽちっとやって下さい。作者は確認しては喜びます。きもいです。しかし作者のボルテージを上げるには最適です(^o^)

つ、次は警告タグが付かないように頑張りますのでー!

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