第13話 Happy halloween !!(後)
ハロウィン後編です。
さて、次は誰に会えるかな、と。
僕はわくわくしながら、魔王城の中を歩いていく。
どこもかしこもお祭り騒ぎ。楽しそうな人々を見てると、何となく嬉しくなって。
思わずスキップ。ヘタレさんが何か言ってたけど、とりあえず無視しよう。
―――おっと、向こうから誰かが歩いてくる。
誰だろう? 思わず、目を細めた。
「コメット様、ヘルグ様! 楽しんでいらっしゃいますか?」
とてて、ととても可愛い効果音を出して僕たちの元にやってきたのは、エルナだった。
どうやってそんなに可愛い効果音出してるんだい? 見た目からしてそんな効果音出せないと思うんですけど。
とは勿論口に出さずに、僕はエルナに近寄る。
「あ、エルナ! うん、ちゃんと楽しんでる。ありがとね」
「いえいえ、お礼を言われるほどのことでもありませんわ。それより、はいっ」
エルナがそう言って差し出したのは、綺麗にラッピングされたピンクの箱。
あり。言うより先に渡されちゃった。
でも、ちゃんと用意していてくれて嬉しいな。
「ありがとう。エルナ」
「ふふ、喜んでもらえて光栄です」
エルナも、本当に嬉しそうだ。
いいことをすると気分がよくなるっていうあれか? 何て高等な精神。
「あの、私には……」
「ヘルグ様にもちゃんとご用意してありますよ。はい、どうぞ」
おお。何て優しいんだ。
僕は思わず感動する。
何とエルナは、ヘタレさんにも綺麗にラッピングされた青い箱を渡したのだ。
見かけはあれだけど、中身はとっても優しい子だよね。うん。
「では、私は他の人にも渡しにいかなければなりませんので。よい一日を」
たたた、と駆けていくエルナ。
その姿が天使にも見える。……天使の輪とか羽は似合わないだろうけど。
ありがとう。ちゃんと部屋に帰ったら美味しく頂くからね。
「いっぱいもらっちゃったなぁ……。さて、残すは……」
「魔王様のところ、ですか?」
「はい」
魔王様のことだから、今日もきっと部屋に引きこもってるんだろう。
あの人もしや、引きこもりたいから魔王になったのか? そうじゃないことを祈るけれど。
「じゃあ、私はパーティーの方へ行ってきますね」
「え? 魔王様のところへは行かないんですか?」
「ええ、コメットさんが行ってきて下さい」
ヘタレさんは、笑顔で手を振って行ってしまった。
……気を遣ってくれた、のかな。
それとも単に行きたくないだけか。
あの人なら何かどんな理由でもありえそうだ。主に悪い方向で。
まあ、ヘタレさんのことなんてどうでもいいかなんて考え、僕も歩き出す。
魔王様の部屋に向けて。
◇
―――何ていうか、僕は魔王様の部屋に向かっていたはずだ。
なのに、何でアリセルナに捕まって正座なんかさせられてるんだろう?
しかも何でだ、リセルナの目が吊り上がっている。怖いよおかーさん。
「あんた、これから魔王様の部屋に行くんでしょうっ!?」
さらには目的地をピタリと当てられる。
エスパーだろうか。
僕、アリセルナには何も言ってないよね?
「そうだけど……アリセルナ、どうかしたの?」
「な……何でもないわよ! 私だって魔王様とお話したいとか、何でコメットなのとか思ってないからね!」
顔を真っ赤にして言うアリセルナ。
分かりやすいなー、この子。
「ちょっと裕福だからって何でコメットが婚約者になってるの悔しいとか全然思ってないんだからねっ!」
何で、こんなにも分かりやすいんだろうか。
僕は思わず笑ってしまう。
「私だって……もうちょっと、裕福だったら……! 魔王様の婚約者にだってなれたのに……」
アリセルナは俯いて、縋るように呟いた。
彼女のその様子からは、本当に魔王様が好きだということが窺える。
魔王様がそこまでモテる理由が分からないけれど、本当に好きなんだろう。
それを、僕が。
僕という存在なんかが。
「……もういいわ! 行きなさい!」
「え、でも……アリセルナ?」
「行きなさいってば! ……でも、代わりにこれ渡してきてよね!」
突き出されたのは、可愛いラッピングが施されたピンクの袋。
アリセルナらしい、とっても可愛いピンクの。
「うん、渡しておくね」
僕はくすりと笑って、その場をあとにする。
……アリセルナは、怒っているわけじゃない。
ただ、少し恨まれている気はするけれど。
彼女は、自分の感情に任せて人を責めるような子じゃない。
きっと。
だけど、僕が―――
◇
漆黒の重い扉を開ければ、その先には魔王様が待っていた。
……仮装、してない。
いや、もう25歳なんだしね。うん。
それに、魔王という時点で仮装にもなりそうだ。
「魔王様、こんにちは」
「……今は、『お早う』の時間だと思うが」
ああ、そうだ。
忘れてたけど、まだ7時だっけ。
あまりにも楽しかったから忘れてた。
「魔王様は、パーティーとかには参加しないんですね」
「……人が、沢山いるだろう。だから、怖い」
対人恐怖症の魔王様。
僕とは結構打ち解けてる感じなんだけど、やっぱり他人は駄目なのかな。
無理強いする気も、僕にはないし。
それなら『そうですか』で会話は終わる。
「……それより、何しに来た? パーティーに出ろとでも言いに来たのか」
最後の“パーティー”の部分には、何となく言い方に棘があった。
……そこまで嫌なのかな。
対人恐怖症だもんな。僕には分からない何かがあるのかも。
僕は首を振り、にこりと笑ってみせる。
「まさか。そうじゃないですよ。ほら、約束したじゃないですか」
「……約束?」
まさか忘れているわけじゃないだろうと、僕はお菓子を差し出す。
「ほら、お菓子! あげるって約束したでしょう」
「……そう、だったな」
珍しく、分かりやすく目を丸くする魔王様。
僕が約束を破るとでも思っていたのだろうか。
でも、答えはそうじゃなくて。
「……そんなの、……戯れ言だと思っていた」
対人恐怖症に加え、人間不信な魔王様。
ちょっとだけ寂しそうな声音が、僕を悲しくさせる。
「本気です。はい、受け取って下さい。それと、アリセルナにも預かりましたよ」
「……アリセルナからも?」
彼女のことは知ってるんだな、と僕は思う。
よかった。誰だなんて聞かれたらきっと僕は困ってしまっていたから。
アリセルナにそんなこと、言えるはずもないし。
「はい、これ」
僕は笑顔でアリセルナに預かった袋を差し出す。
魔王様は、少し驚いたような顔をしつつも受け取った。
僕のお菓子も、一緒に。
「じゃ、Happy halloween!」
僕はそう言って、部屋から出ていこうと踵を返す。
すると、後ろから小さい声で一言。
「……ありがとう」
小さかったけれど、その言葉はちゃんと僕の耳に届いた。
「彼女にも、そう伝えてくれ」
―――彼女というのは、アリセルナのことだろう。
僕はそう思い込み、もう一度振り返って微笑む。
そして、部屋から出ていった。
そう、『彼女』とは―――本当は、誰のことなのだろうか?
「……勇者、か――」
彼のその呟きは、誰の耳に届くこともなく消えた。