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*番外編 星に願いを*

えーと、あれです。七夕に便乗してみました←

いつもながらに読み飛ばしは可能です! 気にしないで下さい(←どういう)


七夕祭りっていうことでみんなでわいわい楽しくやろうかとも思ったんですが、今回は勇者が来る前の過去話を書いてみました。なんとなく。

今から6年前のお話になります。というわけでコメット13歳、魔王様21歳。

この頃のコメットの言葉遣いは非常に子供です。内面は相当擦れてますが。女の子っぽくなったのは14歳頃からだと思われる。だけど相変わらずの美少女。腹立つなあこの野郎(←何故かキャラに嫉妬する作者)


いつものことながら、


※主人公の出番・皆無

※初っ端から暴言

※最近の子供はマセてる

※↑2年前の私だってあんなにマセてなかったよ!

※でも何だかんだで恋する乙女

※そしてやっぱり魔王様はロ……げふげふ年下好き。

※↑年上よりは年下好きな感じだよね。

※証拠に魔王様の口調がちょっとくだけてるよ。

※マックスモードイエー!

※で、結局何なのこいつら?

※タイトルなんて飾り

※若干の記号


などの要素が検出されました(←)がそれでもいいよ! という方だけどうぞ。

作者の息抜きのようなものですが(笑)、それでも楽しんでいただければ幸いです*

 夜空からひとつ、星が落ちる。

 その度に少女はコールタールに塗り潰されたような夜天を仰いだ。

 地上は意図的に闇に沈められているため、星の光を邪魔する人工的な明かりもあまりない。空には月を覆う影も灰色に垂れ込める重圧もなく、空の至るところに星の欠片が散りばめられている。言うなれば満天の星空だった。

 そんな綺麗な空は窓ガラス越し。銀のサッシから吊るされたいくつものてるてる坊主。外には何故だかカラフルに彩られた笹の木が何本も並べられている。

 そんな外の様子がよく見られる透明なガラスに額をぺたりとくっつけて、少女は、憮然とした表情で一際大きくきらめく星を睨んだ。


「落ちちゃえ織姫」





 ◇





 7月7日。盛夏の色も薄くつき始めようとしたこの頃に、七夕という行事はある。

 元気に鳴いていた蝉なんかも暑さのあまりに落ちるんじゃないかって危惧するほど本格的に暑くなってきた時期ではあるが、相変わらずこの魔王城の住人は元気で、それはもう元気すぎるほどに元気であり、お祭りなんてことがあろうものならそれに便乗して騒ぐのがやはり至当なようだ。

 七夕という行事の起源はその昔、かつて古人たちが行っていた豊作を祈るお祭りに、隣の国から伝わったらしい女性の手芸や裁縫の上達を願う行事が合わさってできたというところかららしいが、正直私にはそんな昔のことはよく分からないので割とどうでもよかったりする。そして多分みんなも騒げればその理由や由来なんかはあらかたどうでもいいのだろう、現に今七夕は豊作を祈るお祭りでも針仕事の上達を願う行事でも何でもなく、単に笹の木に願いごとを書いた短冊を吊るして星に願いを叶えてもらおうなんて他力本願な行為でしかない。

 その星というのも、あれだ。有名な話だが、自業自得とも何とも言い難い理由で天帝さまに引き離されてしまった某彦星さまと織姫さま。別名牽牛星と織女星。理由はどうあれお互い恋人に会えなくて日々辛い思いをしてるというのに、他人の願いごとなんか気にかけている暇があるのかっていう話だ。多分ないだろう。それかそれとも、彦星と織姫が一年に一度だけの再会を果たしたその喜びに便乗して願いを叶えてもらおうって魂胆か。それだったら魔族も堕ちたものだ。


 ――まあ、そんな元来は神聖な祭祀であるものを貶すようなことを何だかんだ言いつつも、私は七夕という行事はそれなりに好きだ。それなりに。

 小さい頃親に「願いごとは人に話すと叶わない」なんて脅された覚えがないでもないが、それでも人々が願いごとを短冊に書き込んでわざわざ民衆に晒すのは、願いを叶えたくないためかそれか単に馬鹿なのか言うんじゃなくて書いてるからセーフだ! とか思ってるのかまあそのうちのどれかではあるだろう。そんな倒錯的な嗜好を持つ奴だか馬鹿だか屁理屈を捏ねてる奴だかが案外世間には多いみたいで、毎年どこからか持ち寄った笹の木は最早短冊が主体なんじゃないかと思うほどに短冊がぶら下げられ貼り付けられしまいには枝に突き刺されている。何だかある種の呪術みたいだ。

 けれど私も乗せられてか便乗してか何だかんだで毎年短冊に願いごとを書いて、笹の木にぶら下げ、場所がなければとりあえず誰かのと交換しておく。その交換された哀れな誰かの願いごとは貼り付けたり枝に突き刺したりしてみる。自分のじゃないからノープロブレム。

 そして、そんな単純なことが案外楽しかったりするのだ(他人の短冊を笹の木に貼り付けたり突き刺したりすることでは決してなく)。幼馴染や友人と一緒に願いごとを短冊に書いて、どうせ後で見られるというのに見ちゃ駄目なんて言い合いながら隣に吊るしに行く。そして仲良く吊るした願いごとは大抵、《これからもみんなと仲良く過ごせますように》――。


 ……私、そろそろ平和ボケという痴呆症(注。差別用語ではなく)が私の脳を侵し始めるんじゃないかと今すごく思った。


 まあそれはいい。どうでも。どうせみんないつかはボケる。

 とにかく七夕っていうのは、楽しい行事だ。それなりに。彦星さまと織姫さまの話も割といい。特に女の子が聞く分に関しては。思い合っているのになかなか会えない二人、それでも健気に七夕の日を待ち続ける、満天の星空が晴れてまたまみえることができるまで――。

 そりゃ夢見がちな女の子が好きそうな、哀しくて、でもロマンチックな話だと思う。一年に一度会えた時に衝動的にまかり間違いを起こして思いを遂げてしまわない彦星の忍耐強さ(もしかしたら奥手さ)は純粋に尊敬するし、自分の美貌やら地位やらプロポーションやらを武器に(そんなものを持ってたのかどうかは知らないけど)天帝さま相手に実力行使を下したりしない織姫の誠実さはすごいと思う。あれ、でも織姫って天帝の娘か。そりゃ美貌で釣れないわけだ。まあそれは仕方ないとしても。



 ――……、……でもね。話は変わる。私は今割と本気で、あのベガとかアルタイルとかいう星たちが落ちないかと願っている。いや、願ってないよ。呪ってんだよ。


 何故かなんて決まってる。

 私が風邪をこじらせたからだ。


 今笑った奴表に出ろ。私にとっては深刻な問題だ。

 風邪をこじらせた=部屋から出してもらえない=七夕祭りに参加できない。


 ……ッ畜生、責任者呼んでこーっい!


 誰だ私に風邪菌なんか持ってきたの。あれか? お風呂入った後バスタオル姿のままディーゼルの部屋に入り浸ってたのが悪かったのか。だって暑かったし。ディーゼルの部屋無意味に涼しかったんだもん畜生。その癖ディーゼルは平気な顔してるし! ……いいことだけど。

 だけどつまらない、暇、みんなは外で七夕を全力でエンジョイしているというのに私だけ部屋でこのざまだ。こっそり部屋を抜け出そうにも、


「コメット、織姫に八つ当たりをするな」


――ほらねいるんだよこの人が。ええい魔王の分際で。いやでもこの城の中で一番偉いのか。

 王様なんだからみんなと一緒に外に行って七夕をエンジョイしてくればいいのに、そう言っても聞かない。まるで聞かずに言うのだ、


「私がいなくなったら部屋を抜け出すだろう?」

「うん」

「だからだ」


 畜生読まれてた。返事したの私だけど。


「……、じゃあ結界バリア張ってでも行けば? 生憎私には結界を解くほどの力は備わってませんからご心配なく」


 私がひょいと肩を竦めると、するすると器用にりんごの皮を剥いていた魔王様が目を上げた。


「……そこまでして私にいなくなって欲しいか?」


 ううん別に。言葉にはせずに思う。


「違うけど、魔王様は七夕祭り参加したくないの? 今夜は陰鬱モードマックスイエー! な私に構ってたら無意味に今日が終わっちゃうよ」

「……そこまで陰鬱そうには聞こえないが。別に、もう子供じゃないから」

「……なにその遠回しに私が子供って言ってるみたいな」

「深い意味はない」

「あるでしょ」


 むくれて頬をふくらましながらベッドの上にすとんと腰を落とす。

 そういえばこの人部屋の外に出るって言ったら怒るくせに、部屋の中なら立ってても座ってても寝てても走り回ってても問題ないのか。


「願いごとを星に押し付けることに罪悪感を覚えたの? それとも七夕祭りよりそんなに私のことが好きか。このロリコン」

「……そんなことを言った覚えは一切ないし、そんな有難くない称号を身に受ける覚えも一切ない」

「じゃあどうして私を婚約者にしたわけ? 約9歳差だよ? ふざけんなロリコン。逮捕されろ」

「コメット、お前は幼少の頃から妄想癖を患っていると見たが最近さらに拗れさせたな。アリセルナやディーゼルに囲まれてどうしてそんな風に育った」

「えー」


 アリセルナやディーゼルのことを引き合いに出さなくてもいいじゃないの、と私は顔を背けた。そりゃ私はあの二人に比べて可愛げもないし捻くれてますよ。

 どうしてなんて決まってるじゃんか。からかったら魔王様はいっぱいしゃべってくれる。それが嬉しいのだ。歪んでるとか曲がってるとか倒錯的な嗜好の持ち主とか、何とでも言えばいいけど。

 私は拗ねて膝を抱えて丸くなる。すると咳が出た。う、さすがに辛い。しゃべりっぱなしでは、当たり前だが痛めた喉にやさしくないのだ。


「大丈夫か?」


 そんな私を案じて背中をさすってくれる、大きな手。

 むう。この手は好きだけど、なんだか子供扱いされてるようであまり嬉しくない。約9歳差というのは伊達ではない。何でもうちょっと早く生まれなかったんだ私。


「ん、大丈夫……それより、ねえ魔王様」

「うん?」

「今付き合ってる人もしくは好きな人もしくはそれに准ずる人っている?」

「…………。それは婚約者が聞く言葉か」

「答えないとこの城の王はロリコンだって吹聴して回るよ。看病を理由に襲われたって作り話をおまけに」

「お前はこの城の政局を崩して何がしたい」


 そりゃあ好きな人と結ばれたいに決まってる。吹聴なんてしないし。周知の事実だから。

 ――なんて嘘、私が魔王様の婚約者なのは血筋のせいだ。知ってる、私の目は赤い眸。魔王様のとも似た、だけどちょっと違う私の目はルビーの赤。それはつまり王族の血筋に近い証拠なのだ。故に私が婚約者なのは純系を守るためであって、そこに好意なんてないわけだ。


「答えてよー、ねえー。暇なの退屈なの、いたいけな少女をこんな狭い部屋に監禁してるんだからそれくらい答えてくれても当然じゃない」

「……監禁なんてした覚えはないが……、ほら」

「んぐ」


 うさぎさんりんごを差し出され、私はここぞとばかりに噛みつく。餌付けされてる気もしたけれど気にしない。おいしいんだもん。


「婚約者がいるのに、他の誰かと付き合うわけがないだろう」

「えー、それ私を安心させるため? 嘘だったら刺すよ。もし本心だったら真面目だね」

「もしも何もない」


 嘘だよ。私は笑う。

 魔王様は真面目だもん、もしなんて問題じゃない。私に好意を抱いてなくともそんなことはするはずがない。

 いや、好意を抱いていないはずはないのだ。決して自惚れではなくて。魔王様は私に色んな話をしてくれる、遊んでくれるし何だかんだでわがままも聞いてくれる。いくら魔王様だって嫌いな人相手にそんなことはできないだろう。だから私のことは少なくとも嫌いなんかじゃないはず。

 だけどそれ以上は分からないって話。それはただの“好意”にすぎないかもしれないのだ。というかきっと、そうだろう。


「んー、まあいいや。じゃあさ魔王様、魔王様が子供だった頃は七夕祭りに参加した? もう子供じゃないからってさっき言ったけど」

「……いや」

「えー、なんでー?」

「人が沢山いすぎて吐き気がした」

「うっわー。うわー。うっわあああー」

「……3回も言うな」

「うわー。――4回だよ、これでいい?」

「…………」


 はぐ。りんごを口に突っ込まれた。ちょっと乱暴だ。おいしいからいいけど。


「むぐむぐ、んぐ。うむ、美味である。……それで、本当の理由は?」

「――何がだ?」

「だから、ちっちゃい頃七夕祭りに参加しなかった本当の理由」


 ごろんと布団の上に転がりながら言うと、魔王様のりんごを切る手が止まった。あ、うさぎさんの耳がずれたよちょっと。


「……本当の理由?」

「え、だってさっきの嘘でしょ。魔王様が人が多くて“吐き気”がするなんて言うはずないもん。そんな無差別に誰かが傷付くようなこと」

「…………」

「魔王様は嘘吐くの下手すぎ」


 私が言いながら頭を持ち上げると、魔王様は苦い顔をする。

 ん、別に恥じることじゃないと思うんだけどな。


「…………もっと、頑張った方がいいかな……」

「えー? 嘘吐くのを? それは嫌だよ、そんなの魔王様じゃない」

「でも……」

「ポーカーフェイスと嘘は違うからね。悟られないのと騙すのとじゃ全然重みが違う」


 一体何を危惧してるんだか。大体分かるけど。王様なんて、簡単な仕事じゃない。

 難しい顔の魔王様をちらりと横目で一瞥しながら、私は伸びてきた髪を指で弄ぶ。


「言っておくけど、どんなに頑張っても私とヘルグさんは騙せないよ? 分かってる?」

「……そうだろうな。悔しいが」

「当たり前でしょ? どれだけ一緒にいると思ってるの」


 私は口の端を吊り上げて笑ってみせると、ひょいと身体を起こして座った。別段身体は重くない。さっきから何度も体勢を変えているくらいだ。……魔王様にしてみたら鬱陶しいかもしれないけど。

 まあ、そんなことはどうでもいい。だって鬱陶しく思ってるの私じゃないし。


「それで結局、本当の理由は?」

「…………別に」

「あーっ、嘘吐けないからって話さないつもりでいるなー! ずるーい!」

「話す話さないは私の勝手だ。別にいいだろう」


 がばりと身を乗り出して抗議の声を上げようとするが、耳のちょっと欠けたうさぎさんりんごを開いた口に放り込まれ何も言えなくなってしまう。畜生。だけどおいしい。


「……んぐ。じゃあさ魔王様、話さなくてもいいから、今年はせめて参加しない?」

「だから、私がいなくなったらお前は部屋を抜け出すだろう」

「もっちろん!」

「……堂々巡りだな」


 魔王様はため息を吐く。

 えー、だって私別にどこも痛くないし。辛くもない。ぴんぴんしてるほどで、元気だってありあまってるのに。


「だめ? 絶対?」

「駄目だ。お前、自分の熱が今何度あるのか知ってるのか」

「39度2分ですいえーい」

「分かっているならもう少し慎め」


 だからどこも痛くも辛くも苦しくもないし、時々咳が出るだけで。

 大丈夫だって言ってるのになあ。

 魔王様の心配性。過保護。ロリコン。私は頬をふくらませる。


「じゃあせめてせめてせめて!」

「せめては一回でいい」

「せめて! 短冊に願いごと書こう!」

「……願いごと?」


 うんっ、と私は大きく頷いた。願いごと。せめてそれをしなきゃ七夕って感じがしない。


「と、いってもな……、私は短冊なんて持ってないし」

「はいこれ」

「……何故2枚も持っている。いや、それ以前に何故短冊を持っている」

「パクってきた」

「どこから? いつ?」

「外。魔王様が来る前に」

「…………」

「あは☆」


 短冊を取り出したら怖い顔をされた。というか素直に自白したら目の前に般若が。


「ねえ、お願い魔王様ー! これだけでいいから、もう外に出たいなんて駄々捏ねないから!」


 胸の前で指と指を重ね合わせ、“お願い”する。

 本当にこれだけでいい。せめて。ディーゼルやアリセルナと一緒に短冊に願いごとを書いて吊るしに行けなかったのは残念だけど、たまには二人にしてあげたいし(将来的にきっとあの二人はいいコンビだと思う)、それに三人で行くのは来年でもできる。

 でも、魔王様となんて滅多にない。今も私が風邪をこじらせたから看病してくれてるだけで。ていうか、七夕は一人で暇だからついでに来てくれてるだけで。


「……えと、魔王様?」

「…………」


 返事がない。まさか。


「……怒ってる?」

「……いや……、……」


 いや? 怒ってるわけじゃ、ない? なら。


「……。……もしかして魔王様、その、……小さい頃七夕祭りに行かなかった理由って、願いごとを知られたくなかったから、とか……?」

「………………」


 あ、図星だ。何という。


「もう、魔王様ってば! 可愛い婚約者のお願いが聞けないの? いいじゃない、誰も笑わないよ」

「可愛いって……」

「可愛くない?」

「いや……」


 あえて上目遣いで見上げてみる。自分の容姿が平凡じゃないのは知っている。ストーカーとか、痴漢とか、そんな皮肉な形でだけど。でもそれなら最大限に利用してやろうじゃないってこと。

 まあ、それはいいんだけど。それよりも。


「書こうよ。私も書くよ? みんな書いてる。魔王様みたいになりたいって書いてる子も去年いたし」

「――――」

「恥ずかしかったら先に私の見せてもいいよ! それで私は絶対魔王様の見ない」


 固まったまま動かない魔王様に、それでも容赦なく次々と捲し立てる。

 ぽかんと口を僅かに開いたまま動かない魔王様は、ようやく一つ瞬きをした。


「……そこまで……、書いて欲しいのか?」

「うん! だって魔王様、普段こういうことに参加しないでしょ?」


 私は笑う。魔王様は本当に魔王城の住人かと思うほどに、全然行事に参加しない。対人恐怖症なんて言い訳だと私は思うけど、――まあしょうがないし。だけどそれくらいやったっていいじゃないか。


「願いが叶うか叶わないかなんて二の次なの。最初は私も馬鹿にしてたけど、結構楽しいよ」

「――……」


 魔王様は相変わらずりんごと果物ナイフを手にしたまま、瞬きだけで動かない。

 そこまで嫌か畜生。なに? そこまで見せたくない願いごとって何なの?

 私はさすがにむっとしたが、そこでようやく魔王様が長い吐息を虚空へと浮かべた。


「――分かった。お前がそこまで言うなら、やろう」

「やった!」


 観念したように目をつむり、彼の方が折れたのだ。……渋々って感じなのがちょっと気に食わないけど。

 でもやってくれるって本当に言ったんだ、――ごめん織姫さま落ちちゃえなんて言って。


「それで魔王様、何てお願いするの?」

「聞かないって約束じゃ」

「え、約束はしてないよ?」

「…………」


 嘘だよ。笑う。聞かれたくないことを無理矢理聞き出すほど私も悪人じゃない。

 私はサイドテーブルからペンをひったくるようにしてとると、短冊にさらさらと字を書き始めた。何の淀みもなく。


「よし、っと。はい、書けたよー! 私は外に行けないから魔王さまが掛けてきてね。見てもいいよ」

「……早いな」

「最初っから決まってるもん。あ、裏返さないでいやん」

「見ていいと言ったのはどこの誰だ」

「へい私でーす!」


 相変わらずテンションの高い私に、魔王様は小さく嘆息した。これじゃどっちが病人だか。

 でも嬉しい、し楽しい。病気で部屋に閉じ込められるのも案外よかったかも。変な意味ではなく。

 呆れていた魔王様もペンを内ポケットから取り出して、短冊に何か書き込み始める。書き始めれば魔王様も早い。


「……ん。書けた」

「ほんと? それじゃ掛けてきてよ、今日じゃなきゃ意味ないんだよ? 早く早く! あ、隣に並べてね!」

「…………」

「え、何その目。……まさかまだ抜け出すんじゃないかって疑ってる?」


 魔王様は包丁の代わりに持ったペンを下ろさずに私を見下ろしている。なに。そんなに疑わなくたって、この期に及んで抜け出したりしない。そろそろ時間も遅くなってきたし。

 どうせ外に行ったって、お子様なディーゼルとアリセルナはもういないだろう。

 けれどそんな考えはどうやら杞憂だったらしく、魔王様は私の頭を優しく撫でた。


「……一人にしても大丈夫か? りんごも剥きかけだし……」

「何それ。また子供扱い?」


 疑われてるんじゃなくてよかったけど。私はむくれてみせる。

 ――だけどまあ、むくれたのは言うなれば図星だからだ。一人にして大丈夫? 大丈夫なわけがない。病気の時って誰かがいるととっても心強いけど、いなくなるとすごく怖いのだ。本当は大丈夫とか言えないけど。

 でも短冊ってその日に掛けなきゃ御利益ないでしょう普通。だから掛けてこなきゃ。

 むくれる私の頭をもう一度撫でて、魔王様は全て分かったかのように、もう一度椅子に深く腰掛ける。


「お前が寝たら行くよ」


 予想もしなかった言葉に、私はむくれるのも忘れてきょとんと目を丸くした。私が寝たら?

 ――それって、魔王様、つまり。


「え……、……寝るまで、いてくれるの?」

「今日だけだぞ。明日からはまた仕事も忙しいからな」


 視線を逸らしてそう呟く魔王様に、私は思いっ切り頷く。

 寝るまで。――今日は、一緒。

 罪作りな奴だな畜生と思わないこともなかったけど、それは私が魔王様を好きだから。馬鹿だなあ、私。期待なんかして。


「うん! じゃあ、りんご食べたらすぐ寝るよっ」


 だけど期待せずにはいられないじゃん。ずるいよ、魔王様。

 ――だって恋する乙女って、そんなもんでしょ? 織姫さまだってさ。




「それにしても、夜遅くまでいたらますます誤解されちゃうね魔王様、今度こそ魔王ロリコン伝説」

「何もしてない。私は潔白だ」

「手、出してもいいよ?」

「あまり馬鹿なことを言うものではないよ、コメット」


 半分くらい本気だけど。なんて言わない。まだお子様だからね。

 だけど今に見ててよ? 女の子の成長なんて、すぐなんだから。


「――彦星さまと織姫さま、会えたかなあ」


 晴れてるんだから大丈夫だよね。窓の外の見事な星空と、一緒くたに吊るされたたくさんのてるてる坊主を見ながら私は微笑んだ。





 彦星さま、織姫さま。

 落ちちゃえなんて言ってごめんなさい、あと御利益疑ってごめんなさい。

 こんなにもあっさりと叶えてくれるなんて思ってなかった。


 まあ、最終的な目的はまだまだ遠いけど、――でも焦ることはないかな。


 どうしてなんて、野暮なこと。



 だって私は魔王様の婚約者だもん。当たり前でしょ?




でも何だかんだでこのカップルは書きやすくて好きです。現実的にもう出てくることはないですが´`

だけどまた機会があったらこの二人は書きたい。もうちょっと後の話とかね!


えーと、それでは今日は実は宿題まだやってないのでこの辺で(笑)

今度はまた本編で会いましょう(^o^)ね!

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