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第123話 (←命運/吉凶/逝去/廻る運命はゼロに)DOOM

 厚く垂れ込めた雲の向こうの真昼の月、見上げながら渡り廊下を歩く。

 幻で作り上げられた離宮には人気もなく、ただ僕の足音ばかりが空虚に響いていた。


「……気が重いなあ……」


 ため息。けれど、誰かに届くはずもなく。

 肩ばかりが重く、問題ばかりが山積みで。今にも躓いてしまいそうな。

 ――どうして、こうなっちゃったんだっけなあ。

 僕は一瞬だけ、来た道を後悔するかのように振り返った。





「――よお、コメット。今日も可愛いな」


 にやにやと下卑た笑みを浮かべる、ベッドの上に縛り付けられた離宮の住人。

 僕は錆びた鉄の扉を開けた途端広がったその光景に、思わず眉をひそめる。

 拘束具でベッドに縛り付けられたその男が持つのは、燃え盛るような赤い髪に鳶色の瞳。――男の名前は、デュレイという。リルちゃんへの反逆罪によって捕まっている囚人だ。

 リルちゃんへの反逆、つまりは僕の敵。僕はその双眸をキッと一睨みする。


「ヘタレさんか害虫さんみたいな気持ち悪いナンパやめて下さい。蹴りますよ」

「ひっどいなあ。俺は怪我人だぜ?」

「知りません。自業自得でしょう」


 口調は明るいけれど、その雰囲気は確かに狂気を含んでいる。正直、気持ちが悪かった。

 だけど近寄らないわけにもいかないだろう。

 観念したように持ってきた質素な食事と薬、包帯をサイドテーブルに置いて、腕をつないでいた拘束具だけを外す。最初は腕の包帯を取り替える作業だ。……本当はこんな奴、触れたくもないけれど。


「なあ、コメット」


 ふいにデュレイが呟いた。僕は顔を上げる。


「何ですか?」

「いいのかよ? 一瞬でもこんな極悪人の拘束具を外しちまって」

「……毎回同じことを聞かないで下さい。そろそろしつこいです」

「だってよお、何するか分かんないだろ? 好きな女を目の前にした男なんて」

「腕を怪我してるのに何ができるって言うんですか。てか指一本触れてきた時点ではっ倒しますから」

「怖いね。だけどそんな強気なところがいい」

「私は貴方のそんなめげないところが大嫌いです」


 包帯を替えながらの会話。あくまで淡々としている。もう何度も繰り返した会話だからかもしれない。

 けれどそんな会話をしているうちにも、包帯は巻き終えてしまった。何だかそろそろ、手際がよくなってきたように思う。……決して感謝はしないけれど。


「勿論首を絞めて殺すとか、そんなことはできねえけどな。するつもりもねえし」


 素直に腕を差し出しながら、デュレイは笑う。


「だけどお前を抱き締めることくらいできるぜ? あんまり動かさない分には支障ねえしな」

「そんなことしたら腕斬り落としますよ」


 笑いながら冗談にならないことを言うものだから、この男は嫌だ。そうじゃなくたって嫌だけど。

 反対の腕の包帯をしゅるりと外しつつ、僕は淡々と答えた。


「そんなことできねえくせに強がるなよ」

「拘束具に縛られた今の貴方にまで負ける気はしませんから安心して下さい」

「そうじゃなくてよ。――魔王サマの勅命だろ? お前が俺に手出しできるはずがない」

「……魔王様はあれからまだ目覚めてません。別に魔王様の意図じゃない」

「へえ? それならなおさらだろ。王の目覚めてない内に、下の輩が勝手に俺を処分できるわけもない。だろ?」

「…………」


 僕は口を噤み、包帯の方に集中する。大分傷はよくなってきているのかもしれない。喜べはしないが。

 こいつ――デュレイはふざけた男なのに、勘は鋭かった。僕が余計なことを言えば全部悟られてしまいそうな気さえするほど――。


 罪人デュレイ=ミースは、生きていた。闇の上級魔法を喰らってなお。

 勿論、リルちゃんは自分の外に満ちた闇のエネルギーを使ったのだからイメージとはずれが生じて威力が落ちるし、そもそもリルちゃん自身も手加減して魔法を使ったものだから死なないのは当たり前だけれど。


 ――問題なのは、あれから4日経ってもう、デュレイはほとんど快復に向かいつつあるということだ。


 何ていう生命力。やっぱり只者じゃないのは分かる。いくらリルちゃんが手加減したとはいえ……。

 しかも魔法を使役したその張本人であるリルちゃんはまだ目覚めていない。自分の部屋で、それこそ眠り姫のように、今もこんこんと眠り続けている。


 非常にまずい状況だと言わざるを得ない。ヘタレさんもこの3日間ほとんど食べ物を口にしていないし。それに他にこういう場面で頼りになる人を、僕は知らない。――この城の政治ほとんどリルちゃんとヘタレさんが仕切ってるようにしか見えなかったし。

 どうしようと焦りながらも、僕はデュレイを介抱することしかできなかった。冷たい地下に這い蹲ってなお生きていたデュレイを見捨てることもできなかったからだ。ぎゅっと包帯をしばりながら、僕は思い出す。

 今デュレイが収容されているのは影が魔力を投げ打って作り上げた幻影。闇の最上級魔法、迷夢デルージョンを使って本物さながらに作り上げた『触れる幻』だ。

 影はそのせいで今僕のそばにはいない。本人曰く、とても暗くて冷たいところの奥深くで魔力を送り続けているのだという。抽象的だが、そこが一番力の出るところだからと。――何だかんだでお世話になっているなあと申し訳なく思いながらも、僕は彼の力に甘えるしかなかった。僕がそんなことをすれば倒れてしまう。影だからこそ成し得る技、だ。


「おいおい、どうした? 暗い顔すんなよ。似合わねえぞ? コメットには笑顔が一番だろ」

「……誰がその笑顔を奪ったと思ってんですか」

「怒った顔も可愛いけどな」


 無視。付き合っていられない。

 けれど事実、僕は腹を立てていた。だけど同時に泣きたくもある。


 全てを傷付けたのは、僕の無知だ。何も知らないくせに、何一つ分かってあげられなかったくせに――。


 包帯をぎゅうっと縛る。痛がる声が聞こえたような気もしたが無視した。

 リルちゃんやヘタレさんを傷付けたのは、確かにこの男だ。だけど僕が殺めたも当然じゃないか。……いや、死んでないけど。

 でもあと一歩――あとたった一歩で、どうなっていたか。影がいなければ今頃ヘタレさんは生きてもいなかったかもしれない。


 何が『光』だ。影の方がよっぽど優しいし、強いし、分かってるじゃないか。


「――デュレイさんは」


 僕はぽつりと呟いた。目はまだ、合わせないままで。

 言うには躊躇があるけれど、それでも呑み込まないで吐き出す。


「どうして、私のことが好きなんですか」

「はあ?」


 僕の質問を怪訝に思ったのか、デュレイは驚いたような声を上げる。当たり前の反応だ。

 答えてもらえないかもしれない。――だけどそれはそれか、と思う。


「決まってんだろ。美人だからだよ」


 けれどちゃんと返ってきた答えに、そして予想外のその言葉に、僕は何も言えずに閉口した。美人? ――ああ、コメットのことか。


「……何泣きそうな顔してんだよ。俺なんかには好かれたくなかったんじゃねえのか?」

「いえ別に何も」

「何もって何だよ、何もって。いいかコメット、美人ってのは顔だけじゃねーぞ?」

「貴方にそんな説教されたくないです」


 知るかよこんちくしょう。美人っていうならアリセルナだって美人だろ。……アリセルナはあげないけど。

 じゃあ、僕である意味なんかないじゃんか。人を好きになることに理由なんてないっていうけど。この人はあまりにもはっきり言い切った。


「俺、別に女神像とか見ても美人だとは思わねえもん。確かに芸術的だしすげーとは思うけどな」


 けれどそんな僕の言葉を無視して、デュレイはそんなことを話し出す。

 女神像……か。美しいってイメージはある、けど。それが一体?

 黙って目を伏せていると、デュレイは朗らかに笑った。


「俺が綺麗だって思うのは笑ったり泣いたり怒ったり、そんなコメットだよ。――だから手に入れたいんだ。たとえお前の好きな魔王サマを殺すことになってもな」


 言っていることは狂気的で、どこか気が触れているようにも感じる。

 だけど今の僕の心にはすんなり入ってきた。――ああ、と。雨水がまるで染み込むように。


「……変な人ですね」

「感想それだけか」


 理解できないでもない。リルちゃんを殺すのは絶対許さないけど。

 敵で、僕は確かにこの人が嫌いだけど、完全な悪ではないのだ。というか僕はそういう意味で『美人』と言われたことが素直に嬉しかった。

 僕は立ち上がると、サイドテーブルをできるだけベッドの方へと寄せた。


「別に。……貴方はちゃんと食事摂って下さいね。こんなところで栄養失調になられても困りますから」

「貴方は、って何だよ。他に食べない奴がいるのか? 信じられないな」

「アホですから。あの人アホです」


 ヘタレさんの色白い顔を思い出しながら言う。馬鹿なんて可愛いもんじゃない。

 ヘタレさんだってこの人みたくもっと正直になればいいのに。――……正直すぎるのも困りものだけど。正直なふりして捻くれてるから性質悪いんだよなああの人。


「まあ安心しろよ、俺自分の欲望には忠実だから」

「でしょうね。心配してません」


 死にそうにないなあとは思う。雑草も裸足で逃げ出すほどの生命力だ。そもそも雑草が靴履いてるのかどうかは知らないけど。


「……あの」

「ん?」

「ありがとうございます」


 言いながら、ぺこりと頭を下げる。デュレイは今度こそ驚いたみたいだった。


「……驚いたな。まさか礼を言われるとは思ってなかったんだが」

「敵でも嫌いな人でも、助けて頂いたらお礼を言うのが普通です。悪いですか?」

「いや。別に」


 デュレイは丸くした目を細めて微笑を浮かべる。

 何だか嬉しそうな笑みだ、と僕は思った。


「お前のそういうところが好きだよ」

「私は貴方のこと嫌いですけど」


 容赦はせずに言い放つ。だけどデュレイがそんなことでめげるはずはなく。

 片腕で器用に昼食の乗ったトレイを引き寄せ、デュレイは怪我をした腕で食事を食べ始める。


「あー……なあ、コメット」

「何ですか」

「見られてると恥ずかしくて食えない」

「じゃあ残して下さい」

「さっきと言ってることが違うぞ」

「恥ずかしくて食べられないんでしょう? 残せばいいじゃないですか。ていうか死ねばいいじゃないですか」

「冷たいなあ」


 ――そんなやりとりを幾度も繰り返して、気付けば午後3時半。1時間半も経っている。

 何だかんだで全てを平らげたデュレイの拘束具をつけ直し、僕はトレイを持ってドアへと向かう。

 これで、今日の僕の仕事は終わりだ。――疲れた、けれど。


「あ、コメット」

「何ですか」


 ドアノブに手を伸ばす寸前に名前を呼ばれ、この期に及んで何だと思いながらも僕は振り返る。このやりとりももう飽きるほど繰り返した。

 けれど、振り返った先に合ったデュレイの目は予想外に堅く、いつもはない光を宿している。少なくとも狂気ではない。


「本気だからな」


 どきりとするほど鋭い眸。

 何が、とは聞けなかった。あまりにも真剣な口調だったから。

 ただ僕は曖昧に頷くと、そのまま部屋を出た――。




だ、誰だこの小説をお気に入りしてくれやがった奴は! な、なでなでしてやるから出てこいー(`・ω・´)!


えーとふざけてすみませんでした。久しぶりに来てみたらひいやああああなことになってたので嬉しかったです(←どんな)

み、皆さまいつもありがとうございます! これからも末長くよろしくお願いします……ね?

とりあえず頑張って執筆しますので温かく見守って下さると嬉しいです^^


というわけでとりま明日から修学旅行に行って参ります(*´∀`)

自主研修が不安だったりじゃなかったりですが、えと、がんばりますー!

そして加えて思い出したくないことですが6月中旬にテストなんかがありまして、多分誕生日あたりも消えてると思います^q^ひいい。

ですがたぶん白邪は生きてますので、……よかったらまた7月あたりに様子を見に来てやって下さいね! ね!


それでは今日は明日の準備もあるのでこの辺りで。またお会いできることを願っております´`

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