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第122話 FATE(運命/因果/末路/巡る宿命の果てに→)

「ヘーターレーさん?」


 名を呼んでコメットは、上目遣いに見上げた。

 頬をふくらませてはいるが、威圧なんてものはまるで感じない。まるで小さな子供みたいだ。結われることのない下ろされた髪は、けれどそれでも金糸の艶やかさを保って腰までまっすぐ伸びている。丁寧に櫛を通されているらしい。


「ヘルグです。……言っておきますが、嫌ですよ?」


 対するは、ヘルグ。

 言っておくがこっちも顔立ちの整った美青年だ。性格が悪くなければ今頃彼女の二人や三人難くなかっただろうに……いや、恋人が二、三人いる時点で性格悪いか。いやそれはどうでもいいんだが。

 魔物一とさえ謳われるコメットの美貌を目の前にしても、彼は平然と書類にペンを走らせている。顔色はひどく白いが、それでも何も浮かべない端正な造形はコメットをちらりと一瞥し僅かに憂いの色を滲ませた。


「え、何ですかそれ、まだ何も言ってないじゃないですか!」

「言うことは大体想像つきますよ……3日も同じことを言われ続けて予想できない方が馬鹿です」

「だったら早く食べて下さい! もう、何日食べてないと思ってるんですかっ」

「3日ですね。朝食なら多少摂ってます」

「ほんとにちょっとじゃないですか! また倒れたらどうするつもりなんですか、働きづくめで!」


 ……えーとまあ簡潔に言うと今俺は、ヘルグとコメットの監視をしていた。

 言い方は悪いが、まあ、二人を心配する友人たち(主にアリセルナ)に頼まれたのだ。その大半が二人の容態を本気で心配するいたいけな少女だったので、お前らでやれよなんて薄情なことを言えるはずもなく、そんなこんなで俺はヘルグの部屋に居座っている。一応入る許可は取ったのでいることを咎められはしない、とりあえず上のようなやりとりを繰り返して3日目。


 『地下に変な邪気がうろついている』――そんなわけで魔王様とヘルグ、それからコメットが邪気退治に地下へと出向いたのは4日前のことだった。


 どうやら最近、何故だか俺の株が上昇しつつあるらしい。どこにあるのかそもそも存在すら知らなかった地下のことといい、邪気云々の話といい。一般市民には報せるはずがないそんなことを告げてくれたお陰で、瀕死の魔王様が俺の部屋に運び込まれてきた時も冷静に対処することが出来た。

 或いは、コメットの“正体”を知っているせい――お陰――かもしれない。……正体というのには、語弊があるが。まあ――そんなことは、どうでもいいんだ。

 とにかく、日も落ちて空が暗くなり始めた頃、コメットは助けを求めて部屋に飛び込んできたのだ。

 邪気の元は何とかしたらしいが、魔王様の意識が戻らない上、ヘルグまで動けないのだという。無我夢中で運んで来たらしいコメットがそこで目を覚ましたようにパニックになって、もう俺にも手もつけられない状態だった。なので一部の事情を知っている奴ら――といっても全てを知っているわけではないが。勿論俺含め――を呼んで、どうにか応急処置を施したというわけだ。


「むう、じゃあ千歩くらい譲って私が食べさせてあげますからちゃんと食べて下さい」

「口移しなら」

「はっ倒してもいいですか!」


 いや、駄目だろ落ち着けコメット。そのやりとりが何だかあまりに滑稽で笑いそうにもなるが、本人たちは至って真剣だ。

 ヘルグの怪我自体はそんなに大したものでもなかったらしく、次の日には普通に回復していた。――が、それ以来睡眠はおろか食べ物さえほとんど口にせず、目を覚まさない・・・・・・・魔王様の代わりに仕事をしている。

 これでは本当にヘルグも倒れてしまう。さすがに俺も危惧して食べるよう促すのだが、コメットが説得できないものを俺が諭せるはずもなく。

 ……今に、至るというわけだ。


「仕事をするなとは言いませんから、せめて何か食べて下さい! な、何か食べたい物があれば私作りますから!」

「じゃあ貴女を食べさせて下さいよ」

「ど、どうしてこういう時でもそういうことだけは言うんですか!? そういうことを真面目な顔で言われると一番気持ち悪いです!」

「それを泣きそうな顔で言われるとこっちも傷付くんですけどね」


 あー……もうどっちをフォローしていいんだか分からん。何だこいつら。笑うところなのか?

 というか、ヘルグも頑固すぎる気がする。何故そこまでして仕事に固執するのか。あの日までは、そこまで仕事への意欲もなかったはずだが――あの日地下で、何かがあったのか……?

 ……いや、俺の、考えすぎか。そう信じたい、が。


「それよりコメットさん、今日はそろそろ時間なんじゃないですか?」

「あ――、……う……、私がいなくても、ちゃんと、食べて、下さいね?」


 壁にかけられた時計をちらりと見て、コメットは困ったように顔を歪ませる。……別に、コメットがいてもヘルグは何も食べていなかったのだが。

 確かにもう時間だった。……何の、というのは俺もよく知らないが。午後2時、この時間になるといつもコメットはどこかへ行ってしまう。尾けようなんて思ったことはないが、行き先が気になるのは確かだ。今にも倒れそうなヘルグを置いて彼女が行くところなんて、一体どこだろうか? 魔王様のところ? ――それならば、いつも朝と夜に訪ねているはずだ。


「……う、じゃあね、ディーゼル。ヘタレさんのことよろしくね」

「あー……ああ、分かった。……分かったから泣きそうな顔すんなお前」


 俺のところに小走りで駆け寄ってきて念を押すコメットに、俺は頭を軽く撫でて見送る。

 心配なのはヘルグだけじゃないからな……アリセルナにはヘルグのことよりコメットのことを頼まれたし。ていうかヘルグのことは一言も言ってなかった気がする。

 コメットはぱたぱたと駆け部屋の外へと出て行ってしまった。ぱたんとドアが閉められた後には、奇妙な沈黙が残るのみ。


「……結局、ディーゼル君と二人きりですか……」

「悪かったな。お前が大人しく飯食えば出てってやるぞ」

「いえ、ディーゼル君も結構好きですよ?」

「気持ち悪いこと言うな」


 切実に。


「――で、本当のところ。その地下とやらで、一体何があったんだよ?」

「コメットさんのストーカーがいました」


 書類から目を上げないままさらりと言ってのけるヘルグ。――いや、そういうことじゃなくて。


「……それで?」

「それで……って、別に。ストーカーの割に結構強かっただけです」


 そっけない態度。それが逆に、俺の猜疑心を強める。何が『別に』か。負けず嫌いのヘルグが、それで済ませるはずはない。

 これでも一応、長い付き合いなんだ。そんな演技を見抜けないほど遠い関係でもない。

 俺はため息をつくと、髪をぐしゃりと掻き上げた。


「あのな、お前な……。お前が変態だと確かにコメットや魔王様は迷惑するだろうが、お前に元気がないと俺が迷惑なんだよ」

「……! いけませんディーゼル君、私には魔王様とコメットさんが」

「誰がそんなことを言ったか!」

「ヒト科に腕が2本しかないのがすごく残念ですよね」


 いやだから人の話を聞けよ!


 でも、少しは元気になったか……? いや、だけど肝心の地下でのことを聞いていない。

 こいつが今元気になったところで、何も知らなきゃ、まるで意味はないだろう。そんなのは上辺だけの繕いだ。こいつは表情と科白だけならばいくらでも取り繕える奴だから。


「残念ながら腕の本数の関係でお嫁さんは二人までと決めているんです。あ、勿論ディーゼル君も好きなので安心してくださ」

「てめえの嫁になる気はねえよ!」


 こいつは本当にオールマイティーだな……悪い意味で。そんな場合ではないと思っても、つい突っ込んでしまう。

 本当に男でも女でもその他でもいいのか。その他でも。

 ついついペースを持っていかれてしまうが、結局、俺が言いたいのはそんなことではなく。


「だから、あのな……お前に元気がないと、コメットも魔王様も心配するんだよ。コメットがお前を心配して元気ないと今度はアリセルナも落ち込むし、……その、上手く言えねえけどよ」

「――?」

「だからな。心配かけるよりも、お前は迷惑かける方がよっぽどいい――と、俺は思うぞ?」


 きょとんと目を丸くするヘルグ。

 ……あーもう、何で俺がこいつの面倒なんか見なきゃいけないんだか。思いつつも、やっぱり世話を焼いてしまう。……一応年下だからな、こいつも。


「話せよ、つってんだ。……まさか、魔王様の分もなんてだけで、そんなに仕事がたまるわけねえだろ? あの日、何かあったんだろ」


 部屋の隅に設けられたソファーから立ち上がり、向かい合って会話をするために、さっきまでコメットが座っていた椅子に腰掛ける。

 ヘルグは何も言わない。

 もう少し、続ける。


「……俺が、さ。そんな信頼に足る人物だなんて、そんなことを言うつもりはねえけどよ。今はそういう場合でもないって、お前も分かってるよな?」


 言外に魔王様のことを示すと、さすがのヘルグも微かに顔を歪めた。

 これを機とするように、俺は一気に畳み掛ける。


「魔王様が倒れてる今、その書類は一体どこから出てくる物だ? ――そりゃあ、他のお偉いさんに決まってるよな。いつも遊んでるようなお前が必死にやるくらいなんだから、さぞかし大切なものなんだろ?」

「――……」

「俺の推測、だけどよ。事情も知らない第三者の戯言かもしれないが、聞いてくれるか?」


 俺の問い掛けに、ヘルグは頷きもしないし、首を横に振ることもしない。言葉も一切発さなかった。

 が、それはつまり、肯定の意だ。――証拠に、その双眸は揺らぐことなく俺の方を見据えている。

 俺に、『言え』と促しているのだ。


「あー、言っておくが、本当に勝手な推測だぞ? 俺が知ってることは少ないし、決定的な情報カードもない」


 そう言って間を持ち、俺は、息を深く吸った。

 勿論そんなのは言い訳だ。本当にそんなことを思っているのなら、言わなければいいだけの話。ヘルグも反応ひとつ返さない。

 ――だけど。

 俺は、言うことを決めた。今。駄目だとたとえ、言われても。


 言わなければ、俺は、また何もできないままだから。



「魔王様は、近い内――サタンを道連れ・・・に殺すつもりなんじゃないのか」



 

タイトルだけが無意味に楽しかった。


でもディーゼルは聡明な子なんだって、私、信じてます!(←ただの親馬鹿)

やっぱりシリアスです、何だかもうシリアスから抜け出せないトラップ(^o^)←

というか、もうそろそろ終わりのめどがついてきた……かな?

あーよかったよかった。いやまだよくないですけど。これからもがんがります。


うん、とりあえずヘタレさんは基本誰でも好きです(´・ω・)←

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