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第12話 Happy halloween !!(前)

魔王城でもハロウィンです♪

今回は少し長いですw

 ハロウィンという行事は、何だか魔族の間ではとてもメジャーなイベントらしい。

 数日前から準備をして、当日になれば朝っぱらからパーティーをするという素晴らしい楽しみよう。

 魔王城全体に飾りやら何やらが施され、仮装している人がそこらじゅうを歩いている。

 魔族ってきっと楽しいこと大好きなんだな。たとえハロウィンというイベントに興味がなくても、騒ぎたいばかりにパーティーなんかやるんだろうな。うん。


「楽しいですねー」


 ほら、ヘタレさんまで朝っぱらからこの言葉だ。

 人の部屋に侵入してくることの何が楽しいんだろう。それとも、朝5時半なんて時間に『パーティーに参加しませんか?』とお誘いをかけてくるのが楽しいのか。

 どちらにしろ趣味悪いぞ。こんな早くに人の部屋に侵入するな。遅くても駄目だけど。


「……何が楽しいんですか」

「いや、その不機嫌そうな表情を見るのが」


 何というか、いつもと同じ笑顔なのだが、この人も今ヴァンパイアとかいうやつの仮装をしている。

 何で吸血鬼なんだと突っ込みたいところではあるが、笑顔で『血を吸いたいからじゃないですか?』とか返されたらたまったもんじゃないのでスルー。

 とにかく、そんな格好でさらりとそう言われるとテンションがひどく下がる。

 不機嫌そうな表情を見るのの何が楽しいんだ。この人の思考回路は全く分からん。

 そう思いつつ、僕は目の前の彼を凝視していた。


「さて、ハロウィンですね」

「それは知ってますが……ヘタレさんって何歳ですか?」

「ヘルグです。私は19歳ですよ」


 意外だ。

 19歳って、コメットの1つ上じゃないか。

 そんなに離れてないんだ、初めて知った。


「老けて見えますね」

「次言ったら命はないものとお考え下さいね、勇者さん」


 思ったことをそのまま口に出すと、素敵な黒い笑みで返された。

 怖い。二度と言わないようにしよう。


「じゃあ、とりあえずまだお菓子もらえるんですね」

「そういうことになりますね。……今年で最後ですが」


 珍しく残念そうなヘタレさん。

 みんな、お菓子は好きなんだろう。ディーゼルもちょっと残念そうだったし。

 そこらへんきっと、魔族って単純なんだろうなあと思う。

 魔王様だって甘いものが好きだと言っていた。


「じゃ、勇者さん。あなたも仮装して下さいね?」

「へ?」


 突然言われた言葉に、僕は顔を上げる。

 そこには、悪戯を考えついた子供のような顔をしたヘタレさん。

 まさか。マサカ。


「どれがいいですか?」


 彼がそう言って並べたのは、魔女っ娘ローブやら黒いメイド服やらああもうその先は言いたくない。え、あそこにあるのってあれだよね。パンプキン。

 何というかカボチャのきぐるみである。

 ここまでくるともう仮装というよりコスプレだ。嫌がらせに過ぎないだろう。


「もう、精神面でも女にならないとやっていけませんよ?」


 なりたかねえよ。

 何でそこまで意地悪なんだよこの野郎。


「……これって、ファンタジーですか?」

「ファンタジーの要素なんてもうありませんよ」

「先にそうやってトドメを刺さないで下さい」

「どっちかって言うとコメディーの方が」

「こんな微妙な笑いを取るコメディーなんて嫌だ」


 僕は、いじけていた。

 部屋の隅で。

 普通ファンタジーで、いやコメディーであったとしてもこんなことしないよね。

 それが何をどう間違ったのか、僕は本当に運が悪い。これは被害妄想とか何とかそういうものではなく、本気で自分は運が悪いと感じる。泣きたい。

 不幸体質とかいう何ちゃらか。ちくしょー。誰だそんな風に僕を生んだのは。親か。


「“運が悪い”というより、私の“人が悪い”と言った方が相応しいと思いますけどね」

「自分で分かってるんならやめて下さい……」

「嫌です」


 即答された。この人、鬼だ。

 ていうか人の心読んだよね。最悪だもう。

 こんなに人が悲しんでるのに、『ど、れ、に、し、よ、う、か、な』なんて―――待てい。そんなもの着せてくれるな。

 しかもそんな重大な決断をそんな方法で選ぶのやめようよ。


「じゃ、これにしますか」

「え!?」


 あっさりと決められたその衣装。

 最悪なものを予想しながらそっちを見ると、案外普通に黒いゴスロリ。にパンプキンな帽子。

 ……普通? いや、普通じゃないが、マシな方だったと言っておこうか。


「よかった……」

「てことで、これ着てお菓子強奪に行きましょう」


 強奪!?

 この人、『せしめに』ならまだしも、『強奪』って言ったよ。

 バイオレンスだ。この人の頭の作りがどうなってるのやら、本気で知りたくなった。

 いや――知りたくないけど、知りたくもないけど!


「じゃあ、出てって下さい。着替えますから」

「はいはい」


 僕はふう、とため息をついて着替え始める。

 何だか、女になりたくないと言いつつも、僕は既に精神も女になり始めている気がする。

 嬉しいのか悲しいのか、よく分からないが。


「不運……じゃ、済まされないよなぁ」


 これがただの“不運”だというなら、世の中の人はどれだけ運がいいんだ。

 自分だけがこんな目に遭う訳ではないだろうし――誰も同じ目には遭わないと思うけど――、もっと不幸な人もいるのだろうが、そう感じてしまう。

 こういうのを被害妄想っていうのかな。だったら僕は重度の被害妄想家だ。いつだって後ろ向き。一日の中では自分の不幸を嘆く時間が一番長い。


「はぁ……」


 ため息が出るのも仕方ないと、自分の行為を正当化しようとしてみる。

 でも失敗。

 そういえば、ため息つくと幸せって逃げていくんだよね。

 大変だ。もう幸せもあんまり残っていないだろうけど。

 そう思いながら、手を動かす。


「よいしょ、と」


 最後にまんまカボチャなオレンジの帽子を被って、仮装完了。

 サイズがぴったりなのが何だか悔しいぞ。

 でも仕方ないさ! ヘタレさんだからね!


 僕は堕ち込みながらも、部屋の外へと出る。

 そこには、ヘタレさんが笑顔で待っていた。

 この人いつも笑顔だな。

 その表情をずっと作っているのは大変だろうに。

 それとも素か? 素なのか?


「勇者さん。よく似合っていますよ」

「……あんまり、嬉しくないですけど」


 こんなもの着て似合ってると言われても。

 それにこれは元々僕の身体じゃないのだから。


「さて、行きますか♪」


 嬉しそうに歩き出すヘタレさん。

 僕はその後姿を見て、またため息をついた。

 ……まあ、一応楽しむことにするかな。

 ポケットに忍ばせた、プレゼント用のお菓子の重みを確かめて、僕は彼について歩き始めた。




 ◇




 まず最初に会ったのは、アリセルナだった。

 可愛い魔女の格好なんかして、周りの視線は釘付け。

 その半分が僕に向いてる? そんなのきっと気のせいだ。


「やっほー、アリセルナ」

「コメット! あんた一体どの面下げて私に会いに来たのっ」


 突然の怒声。あらら、可愛い顔が歪んじゃって。

 僕、何か悪いことしたっけか?

 首を捻って考えるが、全く思いつかない。

 が、アリセルナは本気で怒っているらしい。


「私、知ってるんだからね! あんたが魔王様と……っ!」


 僕が、魔王様と?

 そんなに危ないことしただろうか。

 アリセルナが怒るようなことはした覚えないんだけどなぁ。

 ますます分からなくなるばかりだ。


「もっ、もういいわよっ! あんたなんてぇ―――っ!」


 アリセルナは、泣きながら走っていってしまった。

 ……何だったんだ。

 僕、何か悪いことしたか?


「ああ、彼女、魔王様ファンクラブの会員みたいですね」


 え、そんなのあるの? 凄いな、魔王様。

 僕は感心する。

 というか、アリセルナがそんなものに入っていたというのも驚きだ。


「だから嫉妬というか……まあ、よくあることです。気にしないであげて下さいね」

「気にしなくていいんですか?」

「はい」


 ちょっと可哀想な気もしたが、まあ、気にしないことにする。

 そんなのどうしようもないし。

 さて、他にお菓子くれそうな人を探すとするか。


「あ、あの人いっぱいお菓子持ってる」


 お菓子を抱えた中年のおじさんを発見し、僕はそっちへ向かっていく。


「あ、その人は……!」


 ヘタレさんの声が聞こえた気もしたけれど、よく聞き取れなかったから無視しておく。

 それよりお菓子だお菓子。ヘタレさんよりお菓子の方が大事。


「どうもこんにちは、Trick or treat!」


 突然そんなことを言ってもそのおじさんは驚く様子もなく、こう返してくれた。


「Happy halloween! おや、コメットちゃんじゃないか。記憶喪失だって言うけど、大丈夫かい!?」


 しかも、おじさんはペラペラと話し出す。

 僕はお菓子が欲しいだけなんだけど。まあ、いいか。知り合いみたいだし。


「でも、元気そうでよかったよ。コメットちゃん、前よりいい女になったねぇ!」

「あら、ありがとうございます。ところで、おじさまの名前を教えていただけないでしょうか? ごめんなさい、覚えてなくて……」

「いやいや、気にすることはないよ。私はファルノム。よろしくな」


 そう言って笑うファルノムさんは、とても優しかった。

 いい人ばかりで、本当によかった。いい女になったという褒め言葉はどうも違和感があるが。

 僕は嬉しくて、小さくお辞儀する。


「コメットちゃん、これな。お菓子だ」

「わぁ、ありがとうございます」


 もらったのは、綺麗にラッピングされたお菓子。

 自分の部屋に帰ったら開けてみよう。

 丁寧にお礼を言って、僕はその場を離れる。


「……よかった、無事でしたか……」

「? どうしたんですか、ヘタレさん」

「いえ、何でもないです」


 ため息をつくヘタレさん。

 無事でしたかって。不吉だろ。

 何なのあの人? ヘタレさんが恐れるほどの危ない人なの?


「あの人、たまに人に襲いかかるんですよ。気をつけて下さいね」


 ……マジですか。

 人に襲いかかるって……危ないから。ユニークすぎる人だ。

 いや、最早ユニークで済まされるレベルじゃないだろう。


「ま、無事だったのでよかったですけど。さて、次探しますか」


 僕らはまた歩き始める。

 どこもかしこも人が歩いていて、魔王城はとても賑やかだ。

 みんな、イベントを楽しんでいるみたい。それはとてもいいことなんだろう。

 と、そこへ。


「ヘルグ兄ちゃんっ! Trick or treat!」


 バタバタと、数人の子供たちが駆けてきた。

 お目当ては、ヘタレさんか。

 ……が。


「――はあ? あなたたち、何言ってるんですか」


 ―――ヘタレさんの、第一声はそれだった。


「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ? 悪戯どころか、指一本触れられるものなら触れてみて下さいよ。誰がお菓子なんて与えると思ってるんです?」


 般若だ。般若が発生した。

 子供たちはもう泣きそうだ。何でこんなにブラック? 怖いよヘタレさん。

 お菓子くらいで何故そこまで怒る。

 止めた方がいいだろうか。いいよな。子供たちの命が危険だ。


「ちょ、ヘタレさん……? やめましょうよ、やめてあげましょう!?」

「邪魔しないで下さい。私の気が治まりません」


 何でこの人こんなに怒ってんの!?

 この子たちは何も悪いことしてないよね!?


「この子たちは今すぐ死刑に」

「ストップぅぅぅ!」


 僕は思考がイってしまったヘタレさんを思いっ切り蹴る。

 渾身の力を込めて。


「〜…ッ!?」


 すると、ヘタレさんは案外簡単に倒れてしまった。

 僕はその間に子供たちを逃がし、そのあとに彼のそばにしゃがみこんだ。


「な……何するんですか」

「あなたが何してるんですか……怖がってたじゃないですか」


 可哀想に、と僕は呟く。


「まあ、いいですけどね。あなたは事情を知らないんですから」


 何か事情があるのか。

 それにしてもあれはやりすぎだと思う。

 最後死刑とか言ってたし。大事にならなくてよかった。


「ヘタレさんは、子供たちにお菓子とかあげないんですか?」

「あげるわけないじゃないですか」


 即答。

 何というか、マイペースな人だ。最早マイペースというにもあまりある傍若無人さだが。

 僕はやれやれとため息を吐く。


「あ、ディーゼルだ」


 僕は前からディーゼルが歩いてくるのを発見し、そっちへと向かっていく。

 ディーゼルも僕に気付いたようで、手を振りながら歩いてきた。


「ディーゼル! Trick or treat!」

「おいおい、会った瞬間からそれかよ。……ったく、はいよ」


 僕がそう言うと、ディーゼルは、文句を言いながらもお菓子をくれた。

 透明な袋に入った、小さなクッキーだ。美味しそう。


「わぁ、ありがとう!」


 僕は素直に喜ぶ。

 部屋に帰るまで大事に取っておかなきゃ。

 そう思って、クッキーを大切にしまう。


「Trick or treat?」


 僕の後ろから、ヘタレさんが顔を出した。

 ……何気にこの人もお菓子もらう気だ。


「あん? ああ、あんたか。残念だが、あんたにやる菓子は―――」

「Trick or treat?」


 ヘタレさんはにこりと笑ったままそう言った。

 この人、何が何でももらう気だ。


「だから、あんたにやる―――」

「お菓子くれるんですか、それとも逝きたいんですか?」


 ―――今、物騒な響きが混じっていたのは気のせいだろうか。

 気のせいということにしたい。うん。


「……いや、……仕方ねぇな。余りだけどよ」


 ディーゼルは、ポケットからもう一つ袋を取り出す。

 僕が持っているやつより小さいが、美味しそうなクッキーがちゃんと入っていた。

 律儀だなーディーゼル。ていうか、脅されてたから仕方ないのか。


「ありがとーございます♪」


 それにしても恐るべし、ヘタレさん。

 黒い。黒すぎるよ。


「じゃあね、ディーゼル。お菓子ありがと♪」


 僕は手を振ってまた歩き出す。

 ちゃんと、もらったお菓子は大事にしまって。




 ―――まだまだ、ハロウィンは続く。




あまりにも長いので、前編後編に分けましたw

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