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第117話 邪なる人々

「あああー……ヘルグぅ……会いたかったぞ……」

「私は会いたくありませんでした」

「そんなこと言って! この! この! 憎らしい奴めっ!」

「うわあ、死ねばいいのに……」


 ヘタレさんがドライですこんにちは。いや、先に言うべきはそこじゃないね。

 ルーダさんがヘタレさんに引っ付いていますこんにちは。

 まあ別に今さらブラコンが愛しい弟に引っ付いてようがくっついてようがどうでもいいんだけどね。うん。

 つーわけでこんにちは、勇者です。特筆すべきことは何もありません。


「いや、助けて下さいよ勇者さん。適当に流さないで下さい」

「特筆すべきことは何もありません。平和ですね」

「平和じゃないですから……」

「照れるな、さあ素直になれっ! 私の胸に飛び込んでくるんだ!」

「しゃべるな二酸化炭素」


 ヘタレさんはただ今敬語を崩してしまうほどに機嫌が悪いです。珍しいですねー。

 まあいいけど。どうでも。自分がよければ他はどうでもいいと思ってる? その通りですが何か。


「弟妹ってそんな可愛いものなのかな……」


 僕はふと呟いた。いや、弟妹は可愛いんだろうな弟妹は。ただヘタレさんが可愛くないだけで。

 僕は一人っ子だったからよく分からないが、弟や妹が欲しいと思ったことは何度もあった。

 子供は元々好きだったから、余計そう思ったのかもしれないけれど。


「弟は可愛いぞ、コメット殿! ほーらこの通りっ」

「……コメットさん、兄という生き物はとてつもなくうざったいですよ。死ねばいいのに」


 うりうりと自身の頬をヘタレさんの頬になすりつけるルーダさん。思ったこと。兄がいなくてよかった。

 ていうかでも、ヘタレさんも結局は抵抗してないよね。やっぱり何だかんだでルーダさんのこと――


「……爆発フレア


 あ、気のせいだった。



「……大丈夫ですか? ルーダさん」

「大丈夫だコメット殿! 案ずる必要はない、あれも愛の炎と思えば安いものさッ」


 どんだけタフでどんだけ前向きなんでしょうねこの人。僕は心配するのをやめようかと思う。

 ていうかヘタレさんが露骨に嫌な顔をしているんですが。そりゃあ嫌だろうな。僕もこんな兄いらない。

 んー、強いて言うならディーゼルみたいなお兄ちゃんが欲しかった。

 そしたら確かにブラコンに育ったかもしれん。最早敬愛すら行き過ぎて崇拝の域に達してるルーダさんには敵わないだろうけどね!

 つか、そもそも敵いたくはない。同類にもされたくない。ルルさんと害虫さんは禁断の兄妹関係みたいな感じだけど(それはそれでどうかと思うけど)、ルーダさんはヘタレさんを信仰してる何かの怪しい教徒みたいだもんな。うわあ嫌だ。今後一切近寄らないで欲しい。


「……ん、どうして離れていくんだ?」

「…………いえ……お幸せに」


 もう僕にはどうしようもねーです。


「まあ、案ずることはない。最後には正義が勝つものだからな!」


 どこらへんが正義でどこらへんが悪なのか僕にはさっぱり。

 ていうか一体それは何の話だ。何を案ずるって。


「じゃあさっさとくたばって下さいね諸悪の根源」


 あ、ヘタレさんがルーダさんを踏んだ。

 悪って。……いやその通りだけど。否定はできないんだけどね!

 踏んでる踏んでる。てかめり込んでる。……え、いや、あの?


「……ヘタレさん、僕にはルーダさんが床にめり込んでいるように見えるんですが?」

「気のせいじゃないですか? 私にそんなことできるわけないじゃないですかー、嫌ですね」


 できとるできとる。だってめり込んでますもん。

 本気で怒ってるよね? この状況下で満面の笑みなのがその証拠だ。この人本当に怒ってたら笑うもん。ちょ、怖い怖い怖い怖い。帰っていいですか。


「そもそも床にめり込んだりしたら死にません? まあ私はそれで本望ですが」

「え、いや、あの……」

「さあ早く死んで下さい一酸化炭素」

「私が一酸化炭素ならばヘルグは酸素だな。くっついて一緒に二酸化炭素にへぶッ」

「嫌ですね、今何か戯言が聞こえました? 聞こえませんでしたよねー」


 お、怒ってる怒ってる怒ってる怒ってるって!

 ていうか腹違いとはいえ実の弟を酸素に例えて口説く人は初めて見た。床にめり込みながらよくしゃべれたな。すげえ気持ち悪いんですが。つかむしろ爆発しとけ一酸化炭素。いや、さっきしたけど。


「おーいヘルグ、魔王様が呼んで――って何やってんだお前ら」


 あれ、ディーゼル。僕は振り返ってその姿を認める。

 ……いや、確かに、公共の廊下でこんなことしてたらおかしいよね。分かります。でも不可効力なんだ、僕は悪くない。

 だってルーダさんが出会い頭にヘタレさんに抱きついてきたし。移動できないし。……いや、僕まで付き合う必要性はどこにもなかったんだが。何となくヘタレさんが可哀想だった。


「ごめんねディーゼル。今兄弟愛を育んでるところなの」

「え? あ、いや……そりゃ見りゃ分かるけど。何となく」

「だよねー。私にもそうとしか見えない」

「ちょっと、お二人とも?」

「だって仲良いじゃないですか! 兄弟愛って素敵だと私思います」


 はあと。いや冗談です。仲良いのはいいことだけどね。行き過ぎるとちょっと怖い。


「まあ……とにかく魔王様が呼んでたぞ。何か結構急ぎの用みたいだったけど」

「分かりました、一酸化炭素に構ってる場合じゃないですね――ってディーゼル君、つかぬことを聞きますが魔王様にはどこで会ったんですか?」

「そこの廊下だけど」

「廊下っ!? あれだけ寝てろって言ったのに……! 何やってんですかあの人! じゃ、ちょっと行ってきます!」


 ヘタレさんはそれだけ言うと、目にも止まらぬ速さで駆けて行ってしまった。わーお。

 確かにリルちゃんは頑固で手はかかるだろうなあ、僕の言えたことじゃないけど。ヘタレさん過保護だし。


「……で、残された一酸化炭素はどうすればいいんだろうね」

「……さあ?」


 うーん。どうすればいいんだか。

 床にめり込んでますよ? つかヘタレさんがいなくなった途端覇気がなくなったよ。

 つっついてみても返事がない、ただの屍の――ってそれやばくね?


「ちょ、ルーダさん?」


 返事がない。ただの屍のようだ。


「っていやいや、ちょ、ルーダさん!」


 返事がない。ただの屍のようだ。


「ちょ、ルーダさん! 死ぬなああああ!」

「いやコメット、心臓動いてるから」


 あ、何だよかった。


「放っておけばいずれ出てくるだろ……」


 呆れたように嘆息するディーゼル。ですね。

 じゃあ放置しましょうか隊長!

 ……と、いうわけで。


 僕らはルーダさんを放置することにしました(はあと)!


「じゃあ魔王様に会いに行こうか!」

「……行くのかよ」


 行きます。





 ◇





 辿り着いたリルちゃんの部屋からは、何だかものすごい物音が聞こえていた。

 ものすごい物音っていうのは……うん。想像にお任せいたします。

 ……え? 駄目? いや、そんなこと言われても。


「何ていうか……悲鳴とか怒号とかが飛び交っています。何かを投げる音とか、多分中では想像を絶する争いが勃発しているのかと予想されますが」

「お前は誰に対して状況を説明してるんだ」


 愛する読者様ですが何か。

 とは勿論言えないので、僕は笑みで流しておいた。それよりも、一体部屋の中で何が起こっているんだろう。多分いるのはヘタレさんとリルちゃんだろうけど、……暴れすぎじゃね?

 夫婦喧嘩は犬も食わんぞとでも言ってやりたかったが、そういえばヘタレさんとリルちゃんは夫婦じゃない。そういえばも何もないけれど。リルちゃんは僕のお嫁さんだもん。ていうか犬も食わないってつまり他人が仲裁に入っても無駄だよってことだよね? そういえば今の状況には全く関係ない。


「って意味もなく長いモノローグを流したところで一体どうすればいいと思う?」

「今のそれがモノローグなんて言える代物かよ」


 もしかして今心読まれた? おおう。ディーゼルにそんな能力があったとは。


「いや……顔に出てるっていうか声に出てるぞお前。垂れ流し」

「え!? もしかして……ヘタレさんとリルちゃんが夫婦じゃないって件も聞こえてた!?」

「聞かれて困るのはそこか」


 いやだってそこから変な連想をされては困る。ディーゼルだから大丈夫だと思うけど。

 それにしても、今のが声に出てたとは……。むう、ついに僕もボケたか。しっかりしないと。


「それよりこれ、どうしようか。突入していいのかな、お取り込み中だったらどうしよう」

「何を危惧してるお前は。最近俺はヘルグよりもお前の方が危ない気がして仕方がないんだが」

「え……」


 ディーゼルに言われたら終わりだ。ショック。


「じゃ、じゃあとりあえず突入しようか! 多分ヘタレさんが魔王様を寝かせようと頑張ってるんだと思うんだけど……あんまりだもんね。音が」

「確かにやりすぎだな。むしろ寝た子を起こしてるようにしか思えない」


 ええいヘタレさんめ、リルちゃんに掠り傷でもつけてたら許さないんだからな!

 気を取り直し、僕らはリルちゃんの部屋へと突入する。ばん、と扉を思い切り開け放って。


 ――が。


「…………あ、なるほど」

「逆……、だったか」


 見た瞬間、僕らは納得した。なるほど。


 さっきの騒音はつまり、リルちゃんが、ヘタレさんをフルボッコにする音だったかと。


「おーいヘルグ、生きてるか?」

「…………」

「返事がないぞ副隊長」

「嘘っ!? ま、魔王様、ヘタレさんに何したんですか!?」


 これはあんまりだ。さすがの僕でさえそう思うような光景だった。

 いやもしかしたら正当防衛だったのかもしれないけど。分かんないけどね!


「わ、分かんない……ごめん。気付いたらそうなってた」


 怯えたように枕に隠れるリルちゃん。全く隠れられてませんが。

 気付いたら、ってことはつまり無意識か。……無意識にこんなに出来るってどんな。僕はちらりとヘタレさん(だったもの)に視線を投げ、思わず黙祷を捧げた。――が、それはほどなく立ち上がって。


「――けほ、多分……、無意識に魔力が暴走してるんだと思います」

「あれ、ヘタレさん。生きてましたか、よかったー」

「部屋の前にいたんなら早く助けて下さいよ……」


 と、言われても。まさかそんなことになってるとは誰も思わないし。


「てかヘタレさん、その、魔力が暴走してるってどういうことですか?」

「それなんですが、先程から城内におかしな邪気が発生しているんですよね。それも私が分かるくらいですから、相当大きな」


 と言われても、やっぱり実感はわかない。邪気って。

 きょとんと首を傾げる僕とディーゼルに、ヘタレさんはため息をつく。


「多分、地下からだと思います――その邪気」

「――! 影の、いる」

「ええ。魔王様は病み上がりですから、多分弱った身体じゃ抑え切れない魔力がそれに反応して」


 まさか。影に何かあったんだろうか? いや――、罪人たち相手だから当たり前なのか。だけど、でも。

 僕は漠然とした嫌な予感に息を呑んだ。


「て……いうかヘタレさん。一ついいですか」

「何ですか?」

「何で貴方そんなに魔王様の心理状態に詳しいんですか」

「私の魔王様だからです」


 爽やかな笑顔で答えるヘタレさん。一発殴っておいた。畜生。

 でもリルちゃんが小動物みたいで可愛かったのでよしとしよう。……もう殴っちゃったけどね!


「じゃあヘタレさん、邪気駆除に行きましょうか!」

「え? 行くんですか?」

「当たり前じゃないですか、魔王様に影響を及ぼすものなんてこの世に私以外いらない」

「うわあ……この人言っちゃいましたよ」


 だってその通りなんだもん! てへと可愛らしく言ってみる。

 まあそれは冗談としても、邪気なんて何か危なそうなものを放っておくわけにはいかない。とにかくレッツゴーだ!


「ま、邪気については気になりますし、とりあえず偵察でも行ってみますか」


 同じくヘタレさんも、何だかんだでそれについては危機感を持っているみたいで、大した抵抗は示さなかった。

 よし、それじゃあ問題は何もない。いざ行かん、邪気の待つ地下へ!






「――で? 魔王様、ヘルグに用があるって言ってたのは?」

「……変な邪気がうろついてるから地下に近寄らないように……、って言いたかったのに」

「……行っちゃいましたね」

「うん……」


 そして取り残された二人は、ただただ嘆息した。




邪なる人々=デュレイとかブラコンとかブラコンとかブラコンとかヘタレさんとか。


今回は9割がブラコンでした白邪です。いつの間にか4月ですねー。春休みが明日で終わりとか信じたくない。

ちなみに放置されたルーダさんは後に自生しました(※植物じゃないですよ!)。

人って弟がいなくても立派に育てるものだと思います。


話を聞かない子は痛い目を見ます、というわけで次回ストーカーとご対面。

ただ春休み終わっちゃうからどうなるか……! 新年度早々テストなんて絶対いらないよね! テスト自体は好きだけどね!(←授業時間つぶれるから)

でもがんがります。4月の目標はルーズにならない、それから自分に正直にです。

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