表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/160

第11話 甘いお菓子は好きですか?

勇者君がいつにないほどのハイテンションです;;

お気を付け下さいorz

「おはよーございまーすっ!」


 僕は、朝食が終わるないや魔王様の部屋に駆け込む。

 魔王様は予想通り、一つ置かれた豪華な黒い椅子に座っていた。黒いローブ着てるし、部屋中黒いから見えにくいんだけどね。

 うん、驚いてる。あんまり表情の違いが分からないけれど、僕はそう解釈した。


「……コメット? ……何でここに」

「あれ、駄目でした?」


 昨日より、僕の口調がくだけた感じになっているのは何故だろう。

 というか、ほぼ地が出ているような気がしないでもない。


「……別に、駄目な訳ではないが……ここに、来るなんて」

「魔王様のお顔を拝見しようかとでも思いまして」


 そう言うと、魔王様の顔が赤くなった。と僕は解釈した。

 魔王様の表情はあまり変わらないから、実際よく分からない。


「……何か、あったのか?」


 魔王様に聞かれ、僕はこくんと頷く。

 色々あったよ。ありすぎだよ。

 こんな人生の分岐点誰が予想するか。100人に一人しか体験できないような素敵な体験をしました、とか言っておく。


「今日は少々機嫌がいいんです。あ、と言って、いつも不機嫌なわけではないですけれども」

「……そうか」


 相変わらずの低い声で返してくる魔王様。

 でも、“興味がない”という訳でもなさそうだ。


「あの、魔王様って、甘いもの好きですか?」


 僕が聞くと、魔王様は間を置いて僅かに頷いた。


「そうなんですか! よかった」

「……それが、どうかしたのか」


 僕はにこりと笑う。

 魔王様は予定がないのか。そうだよな、対人恐怖症って言うくらいだから。


「ハロウィンという行事があるでしょう?」

「……そうだな」

「魔王様はあまり参加なさらないのかもしれませんけど、私お菓子作りたくて。魔王様にあげたいなぁと」


 勇者だった頃はお菓子作りなんて恥ずかしくて――周りの視線が痛くて――あんまりできなかったけど、今はそういうのが大好きな女の子だ。

 何も不自然なことはあるまい。性転換万歳!


「……他に、もっとあげるべき奴がいるだろう」


 魔王様はどうやらお堅いようだ。

 人を避けているというべきか。

 仕方ないよね。対人恐怖症だもの。と、僕は自分に言い聞かせる。

 でも、だからといって諦めるわけじゃないぞ。


「あら、魔王様だからあげるんですよ? 何か年齢が微妙な人とかばかりですし」

「……私だって今年26になるんだが」


 おお。魔王様の年齢発覚。

 魔王様っていうくらいだから、10万年くらい生きてるかと思ったのだが。そんなことなかったか。

 そもそも、10万年生きているのはあれか。某ゲームの闇の王だ。


「別に、大人にあげちゃ駄目なんて聞いてませんからね。無理矢理でも受け取らせますよ」


 僕はそう言って笑う。

 魔王様が、少しだけ笑ったように見えたのは気のせいだろうか。


「……じゃあ、ありがたくもらうことにする」

「はい♪」


 僕は上機嫌のまま、魔王様の部屋をあとにする。

 何を作ろうかな、なんて考えながら。

 クッキー、チョコでもいいな。あー、スコーン食べたい。って、それは僕の食べたい物か。

 わくわくしながら、ふわふわした気分で。



「……コメット……、何故……?」



 ――そんな魔王様の呟きを、僕は知らない。




 ◇




 上機嫌のまま、僕は城を散策していた。

 何でだろう? 僕はこの幸せを誰かと共有したいと思えるほど、上機嫌である。


「あっ、ディーゼル!」


 見つけた後姿に、僕は駆けていく。

 ディーゼルは振り向くと、驚いたように僕を見る。


「お前……。記憶喪失なのに、よくこんなところ出歩くなぁ」

「部屋にこもってても、記憶は戻らないよ?」


 きょとんとして言うと、ディーゼルは苦笑した。

 なんてね。記憶なんて、戻るはずもないけれど。

 最初からないものが、手に入るはずはないもん。それに、きっと僕は、欲しいとも願わない。


「ま、お前がいいなら俺は別に止めないがな。それより、どうした? 迷子か?」

「ううん、地図があるから迷子にはならない。今何か凄く幸せで、何故かしら?」

「俺が知るか。ま、幸せなのはいいことじゃねぇか」


 僕はにこりと笑う。

 そう、僕は幸せだ。とてもとても、きっと、この両手じゃ表せないくらいに。


「で、ディーゼルは何してたの?」

「ん、ちょっとな。ハロウィンのこと考えるとちょっと憂鬱で」

「子供たちがお菓子でもせしめに来るの? 大変ね」

「いや、そういうわけじゃない。ただ、いつもわがままなお嬢様が今年はちょっと静かになって、お菓子をせしめに来なくてさ。何をやればいいものかと」


 やれやれと“お手上げ”ポーズをするディーゼル。

 それって、困ることなのかな。でも、きっと大変なんだろう。うん、でも是非頑張ってあげてくれディーゼル隊長。

 きっと、君は期待されている!


「ディーゼルも大変なんだ。まあ、頑張ってね」


 僕は、考えるのに忙しそうなディーゼルに手を振り、また走っていく。

 今度はエルナやアリセルナに会いたいな。どこにいるだろうか?

 探しながら、僕は風のように駆けていった。







「……あれで気付かねぇとか。鈍感すぎだろ」


 一方ディーゼルは、本気で『お嬢様』に手を焼いていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ