第11話 甘いお菓子は好きですか?
勇者君がいつにないほどのハイテンションです;;
お気を付け下さいorz
「おはよーございまーすっ!」
僕は、朝食が終わるないや魔王様の部屋に駆け込む。
魔王様は予想通り、一つ置かれた豪華な黒い椅子に座っていた。黒いローブ着てるし、部屋中黒いから見えにくいんだけどね。
うん、驚いてる。あんまり表情の違いが分からないけれど、僕はそう解釈した。
「……コメット? ……何でここに」
「あれ、駄目でした?」
昨日より、僕の口調がくだけた感じになっているのは何故だろう。
というか、ほぼ地が出ているような気がしないでもない。
「……別に、駄目な訳ではないが……ここに、来るなんて」
「魔王様のお顔を拝見しようかとでも思いまして」
そう言うと、魔王様の顔が赤くなった。と僕は解釈した。
魔王様の表情はあまり変わらないから、実際よく分からない。
「……何か、あったのか?」
魔王様に聞かれ、僕はこくんと頷く。
色々あったよ。ありすぎだよ。
こんな人生の分岐点誰が予想するか。100人に一人しか体験できないような素敵な体験をしました、とか言っておく。
「今日は少々機嫌がいいんです。あ、と言って、いつも不機嫌なわけではないですけれども」
「……そうか」
相変わらずの低い声で返してくる魔王様。
でも、“興味がない”という訳でもなさそうだ。
「あの、魔王様って、甘いもの好きですか?」
僕が聞くと、魔王様は間を置いて僅かに頷いた。
「そうなんですか! よかった」
「……それが、どうかしたのか」
僕はにこりと笑う。
魔王様は予定がないのか。そうだよな、対人恐怖症って言うくらいだから。
「ハロウィンという行事があるでしょう?」
「……そうだな」
「魔王様はあまり参加なさらないのかもしれませんけど、私お菓子作りたくて。魔王様にあげたいなぁと」
勇者だった頃はお菓子作りなんて恥ずかしくて――周りの視線が痛くて――あんまりできなかったけど、今はそういうのが大好きな女の子だ。
何も不自然なことはあるまい。性転換万歳!
「……他に、もっとあげるべき奴がいるだろう」
魔王様はどうやらお堅いようだ。
人を避けているというべきか。
仕方ないよね。対人恐怖症だもの。と、僕は自分に言い聞かせる。
でも、だからといって諦めるわけじゃないぞ。
「あら、魔王様だからあげるんですよ? 何か年齢が微妙な人とかばかりですし」
「……私だって今年26になるんだが」
おお。魔王様の年齢発覚。
魔王様っていうくらいだから、10万年くらい生きてるかと思ったのだが。そんなことなかったか。
そもそも、10万年生きているのはあれか。某ゲームの闇の王だ。
「別に、大人にあげちゃ駄目なんて聞いてませんからね。無理矢理でも受け取らせますよ」
僕はそう言って笑う。
魔王様が、少しだけ笑ったように見えたのは気のせいだろうか。
「……じゃあ、ありがたくもらうことにする」
「はい♪」
僕は上機嫌のまま、魔王様の部屋をあとにする。
何を作ろうかな、なんて考えながら。
クッキー、チョコでもいいな。あー、スコーン食べたい。って、それは僕の食べたい物か。
わくわくしながら、ふわふわした気分で。
「……コメット……、何故……?」
――そんな魔王様の呟きを、僕は知らない。
◇
上機嫌のまま、僕は城を散策していた。
何でだろう? 僕はこの幸せを誰かと共有したいと思えるほど、上機嫌である。
「あっ、ディーゼル!」
見つけた後姿に、僕は駆けていく。
ディーゼルは振り向くと、驚いたように僕を見る。
「お前……。記憶喪失なのに、よくこんなところ出歩くなぁ」
「部屋にこもってても、記憶は戻らないよ?」
きょとんとして言うと、ディーゼルは苦笑した。
なんてね。記憶なんて、戻るはずもないけれど。
最初からないものが、手に入るはずはないもん。それに、きっと僕は、欲しいとも願わない。
「ま、お前がいいなら俺は別に止めないがな。それより、どうした? 迷子か?」
「ううん、地図があるから迷子にはならない。今何か凄く幸せで、何故かしら?」
「俺が知るか。ま、幸せなのはいいことじゃねぇか」
僕はにこりと笑う。
そう、僕は幸せだ。とてもとても、きっと、この両手じゃ表せないくらいに。
「で、ディーゼルは何してたの?」
「ん、ちょっとな。ハロウィンのこと考えるとちょっと憂鬱で」
「子供たちがお菓子でもせしめに来るの? 大変ね」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、いつもわがままなお嬢様が今年はちょっと静かになって、お菓子をせしめに来なくてさ。何をやればいいものかと」
やれやれと“お手上げ”ポーズをするディーゼル。
それって、困ることなのかな。でも、きっと大変なんだろう。うん、でも是非頑張ってあげてくれディーゼル隊長。
きっと、君は期待されている!
「ディーゼルも大変なんだ。まあ、頑張ってね」
僕は、考えるのに忙しそうなディーゼルに手を振り、また走っていく。
今度はエルナやアリセルナに会いたいな。どこにいるだろうか?
探しながら、僕は風のように駆けていった。
「……あれで気付かねぇとか。鈍感すぎだろ」
一方ディーゼルは、本気で『お嬢様』に手を焼いていた。