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第112話 「優しいままではいられない」

「だーかーらーっ、魔王様は寝てて下さいってば!」

「コメット、だから私は大丈夫だって何度も――」

「駄目です! 大丈夫じゃないです! 倒れたんだからしばらくは寝てて下さい!」

「別に病気とかじゃないんだから……」

「口を尖らせない! そんな不貞腐れたって……か、可愛いですけど! ここばっかりは譲りませんからね!」

「……コメット?」

「く、首を傾げたって無駄なんですからねー! ていうかそういうことをどこで覚えたんですか貴方は!」


 うう、早くも煩悩に負けそうです勇者です……。

 ただいまリルちゃんの部屋にいます。ふ、二人っきりだからって何もしないんだからね! ていうかついさっき倒れた人を押し倒すほど僕は鬼畜ではない。……っていや、そういう問題じゃなくてね!

 えーと、そう、あれだ。僕は今、魔法の使い過ぎで倒れたというリルちゃんのお見舞いに来ています。べ、別に他意なんてないよ? 本当だからね!? むしろ他意があるのはヘタレさんげふげふ。


「だってヘルグがそうしろって」

「ヘタレさんが何ですか! 私の前でそういうことをしないで下さい! あ、だからといって他の人の前でも駄目ですよ!? 特にヘタレさん! 襲われても知りませんからね襲われても知りませんからねっ!?」

「……に、二回も言わなくても」

「大切なことなので二度言いました!」


 嫉妬なんて言わせるかくそう。だってリルちゃんは僕の嫁。これ酸素と同じくらい大事。テストに出るよ!

 ていうかヘタレさん何させてんだリルちゃんに。ち、違うもんけしからんもっとやれとか思ってないもん! いやグッジョブとはちょっと思ったけどああ違うんだこれはそういう意味じゃううう。


「……えーと。それよりも、コメット」

「それよりもって何ですかそれよりもって!」

「ご、ごめん」

「あ、ち、違います別に謝らせたいわけじゃなくてっ!」


 あわあわ手を振り回す僕と悲しげに目を伏せるリルちゃんと。

 か、会話が若干噛み合ってない……? というか僕が押しすぎだろうか。ごめんね。合掌。

 申し訳なさそうに俯くリルちゃんにむしろ僕が申し訳なくて、ううと呻いた。


「……え、と。ごめんなさい、つい、今気が立って」

「え、あ、私は大丈夫だけど……私こそごめんな」


 優しいから余計申し訳ない。謝るべきは僕なのに。心配だからってあそこまで強く言うべきではなった、反省。


「そ、それで……さっき、何て?」

「んと、最近コメット疲れてるみたいだったから……大丈夫か? 無理せず、部屋に戻って休んだ方がいい」

「と、とか言って、疲れてるのは魔王様じゃないですか……っ! 私が部屋に戻ったらまた仕事始めるでしょう」

「し、仕事はちゃんとしなきゃ、ヘルグにも迷惑がかかるし」

「そんな状態で仕事された方が迷惑です! ヘタレさんも心配してました、それよりも休んで下さい!」


 でもやっぱり強く言っちゃうんだよなあ、と自分に呆れながらも。

 暴れて書類の山へと向かおうとするリルちゃんに僕は半ばタックル気味にぶつかって布団をかぶせ、無理にでもベッドに寝かせる。

 民のことには敏感なくせに、自分のことは疎かにするんだから……。強く言い過ぎてしまう僕も悪いが、そんな僕の気持ちも察して欲しい。

 民に気を遣うのは王として当然なのかもしれないが、それにしても異常すぎる。自分を大切にしなさすぎだ。特にリルちゃんは。


「魔王様はもっと自分を大切にして下さい。王が身体を壊して、一体誰が民を導くんです……」


 まだもがこうとするリルちゃんの手をそっと取って、震える声で告げる。

 怖い。怖いよ。――誰もが抱いている気持ちだ。

 だから、リルちゃんはまず、自分の身体を大切にしなきゃいけないというのに。

 僕の声の変わりように気付いたのか、リルちゃんが苦虫を噛み潰したような顔をして、こくりと俯いた。


「…………ごめん、コメット」

「謝るくらいなら、休んでいて下さい」

「……うん」


 今度は素直に頷くリルちゃん。布団をかぶって、叱られた子供のようにしゅんとしている。


「ね、仕事ならほら……ヘタレさんに押しつけますから。うん」

「そ、それはちょっと」

「――っていうのはさすがに冗談ですよ。ヘタレさんに倒れられても困りますし」


 重役二人が倒れたら大変でしょうが、と言って僕は笑った。

 リルちゃんも弱く、だけど確かに笑う。

 調子乗った僕は続けて。


「大丈夫です、私だって少しくらいなら仕事のお手伝い――」

「だ、駄目だ!」

「え?」


 突然大声を出したリルちゃんに驚いて、僕は目を丸くした。

 リルちゃんははっと気付いて苦々しげな表情をしたが――僕にはわけが分からない。『駄目』?


「ご、ごめん……でも駄目なんだ。魔王の仕事は……」

「教えられもしない……って、ことですか?」


 別に咎めているわけでもないのに、リルちゃんはごめんと謝る。それがどうも釈然としない。

 そういえば前も、企業秘密云々言ってたよなあ。企業とか言うのは冗談だろうけど。

 一体何なんだろう。重役にしか知らされない秘密? ――それならそれでいいんだけど。


「別に、疎外とかそういうわけじゃなくて……ごめん。こればかりは、他の人には言えないんだ」

「べ、別に、気にしないで下さい。迂闊にお手伝いだとか言った私も悪かったですし」

「ごめんな。……その気持ちは嬉しい、ありがとう」


 ぎこちなく微笑むリルちゃん。やっぱり釈然としないし、――正直多少はショックだけど、それは仕方のないことだと思う。

 婚約者だからって知らないこともあるわけで、そもそも僕は中身が人間だということは知られている。教えちゃまずいこともあるんだろう。

 それに僕だけ、ってことじゃなく、他の人も知らないみたいだったし。知っているのはせいぜいヘタレさんとかか? 別に僕だけが除け者にされているわけではない。気に病むほどのことではないのだ。


「じゃあやっぱり、切羽詰まっているものだけでもヘタレさんに回しますか」

「ん、申し訳ないけど……」

「何言ってるんですか。たまには魔王様も休んで下さい、ヘタレさんなんて年中遊んで暮らしてるようなものじゃないですか」

「……そんなことないって言ってあげたい」


 でも言えないんだね。分かります。

 だって年中遊んで暮らしてるしー。そこらへんほっつき歩いて女の子捕まえて。……最低じゃねえか。次会ったら最低だと罵ってやろう。まあ多分、きっとすぐ会うだろうけど。


「じゃあコメット、一つ頼んでいいか?」

「何ですか? 私に出来ることなら」

「――ありがとう。執務室の机の右端に、表紙に何も書かれていない書類の束があるはずだから、それをヘルグに届けて欲しいんだ」


 ふわりと天使さながらに微笑むリルちゃん。むしろ貴方のためなら何でもしますと言いたくなった。……落ち着け僕。

 そんな邪な思考はお空に吹っ飛ばしておいて、僕はとびっきりの笑顔で尋ねる。


「分かりました。すぐの方がいいですか?」

「ああ、急ぎのものだから……大丈夫か? 嫌だったら、全然……」

「大丈夫です! 私も魔王様の力になりたいですし、ね、急ぎなんでしょう?」


 そう言って微笑んでみせると、リルちゃんはありがとうと呟いて目を細めた。

 何度も言われると照れる、けど……。やっぱり嬉しいなあ、特にリルちゃんに言われると。

 がんばろ、おー。


「それじゃあ、魔王様はちゃんと休んでないと駄目ですよ? 休んでなかったら明日の料理ににんじん入れますからね」

「……ちゃんと休んでる」


 にんじんパワー絶大。思いながら、僕は魔王様の部屋を後にする。

 最後にお大事に、と言い残して。


 ――うーん、リルちゃんも随分、柔らかくなったよなあ。


 僕はそれが嬉しくて、堪らないのだ。





 ◇





「お、重い……」


 弱々しい声で呟いて、だからあんなに念を押されたのか、と今さら思いつつ壁に寄り掛かる。ちっとも前が見えません隊長。そうか、だったら転ぶがいいー。何でやねんと自分に突っ込みを入れつつ、僕は一歩を踏み出した。


 はい、ただいま僕はリルちゃんに頼まれた書類を運んでおります。書類を運ぶ、たったそれだけの仕事なんですが。

 ――書類の束? いやいやいや。詐欺も詐欺だ、それは書類の束ではなく――山。そう表現するに相応しい書類の数々だったのだ。

 え、いや、だってこれだよね? ひとまとめにされてたし。どこからどこまでとも指定されなかったんだから、これだと思うんだが……。


「多すぎやしませんかねえ」


 って今さら文句を言ったって仕方がないし、引き受けたのは僕なんだから反論のしようもない。それにリルちゃんが僕を信用して頼んでくれたことだしね!

 でもやっぱり、この量はコメットの身体じゃ辛いものがある。勇者だった頃なら、まだ楽に持ち運べたんだろうけど……。容姿という意味じゃこっちかもしれないが、力の点ではやはり不足していると思う。男と女を比べたってどうしようもないんだけど。


 ――それにしてもこれ、一体何の書類なんだろう?

 ようやくバランスを取れたところで、そんな疑問が頭をもたげた。

 表紙には何も書いておらず、これだけの量。しかも期日は近いのに、まだ片付けられていないという。

 き、気になる……。気になるけど、見ちゃいけない。それはリルちゃんとの約束なのだ。極秘事項、無事ヘタレさんの元まで届けねば! それが僕の使命っ!


 そうして自分を奮い立たせたところで、また歩き出す。

 そう、これを早く届けて、少しでもリルちゃん(とついでにヘタレさん)を助けるんだ――




 と。




 思った矢先――、僕は見事にバランスを崩して、書類もろとも倒れ込んだ。


「わあああっ!?」


 一瞬遅れて悲鳴。――悲鳴というには若干、間抜けな声だった気もするが。

 人気がない場所だったのが幸いしたか、間抜けな姿を見られることもなかった。


「い、いてて……」


 膝が痛い。……すりむいた? ぼ、僕は子供か……。

 コメットの身体はやっぱり慣れないな、そんな思考を引きずってだるい身体を起こすと、――。



 ばらばらに散らばった書類に印刷された、無情な黒い文字が目に入ってきた。





 『裏切り』『日時』『罪状』『リスト』『処刑』『執行』――。



 そんな言葉たちが、僕の視界の中で、躍る。

 書類。表紙をはがした、2ページ目のど真ん中には。













 【死刑執行リスト】















 優しくないならせめて、優しいふりをする。

 斉しく殺せるならば、均しく愛することと同じだと。


 それだけの話。それ以外に真実なんて、ない。




勇者はキャラ崩壊がアイデンティティーだからいくら崩壊したって大丈夫なのさという言い訳。


こんにちは、今日も今日とてシリアスです白邪です。

でもやっぱり最初はコメディーからでしょうという逃げを確保し、……何とか乗り切りました(^O^)←

次回は予定をすんなり裏切ってヘタレさんを出すことにします。ずっと魔王様のターンじゃ私が死んでしまうわ!

それじゃあ私はこれから出掛けてきますので、帰ってきてから誤字脱字確認します(*・ω・)ノ(←待て)

ではでは皆様、よい休日をー!

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