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第111話 我が身を裂く諸刃の剣

 いいかい? よく聞くんだよ、愛しい我が《息子》。


 例えば一羽の鳥が、鳥かごの中で懸命に暴れているとしよう。

 それは可愛い、手に収まるほどの小鳥だ。

 どこで捕まえてきたんだろうね。とにかくそれは、お前の目の前で、愛らしくも滑稽なほどに羽ばたき狂っていた。


 さて、お前ならばどうする?



 ――白い鳥ならば、汚れなきその羽を毟って。


 ――青い鳥ならば、死ぬまで檻に閉じ込めて。


 ――それ以外なら、いっそ殺してしまえばいい。



 どうだ、そうは思わないかい? 我が愛しい《息子》よ。

 ……おやおや、思わないみたいだね。全く……お前は優しすぎるんだよ、だからこそ誇れる息子なのだがね。

 息子としては誇れても、お前は魔王としては誇れない――


 ……何故お前が先に生まれてきてしまったのだろうね? 《魔王リル》よ。

 あぁ、そんな悲しい顔をしないでおくれ? そんな意味で言ったんじゃないんだ。


 ただ、せめて、お前の弟……サタンが先に生まれてきてくれれば――



 白い鳥も青い鳥も、どんな鳥だって平等に死ぬことができたんじゃないか……って父さんは思うんだよ。






 ――――






 ――私は、全てをひとしく愛せない。


 だからせめて、全てをひとしく殺そうと思っただけ。



 私は優しくなんかない。


 だからせめて、優しいふりをしようと思った。




 だから、これは、それだけの物語はなし





 ◇





「ま、魔王様が寝込んだあっ!?」


 あまりの衝撃につい、声が裏返ってしまう。

 目の前にはヘタレさん。いつもの爽やかな笑顔が、どことなく曇っていた。


「ど、どういうことなんですかそれ! 魔王様に何かしましたかヘタレさん!?」


 ――魔王様が寝込んだ。

 とても聞きたくはなかった言葉だ。ことに、ヘタレさんからは。……不吉だから。

 でもそれは、一体どういうことなんだろう。リルちゃんが寝込んだ? それはつまり、倒れたってことか……?


「はっ、もしかしてこの前、貴方が間接キスなんかしたから……っ!」

「まだ根に持ってるんですかそれ。いいじゃないですか一回くらい、魔王さまと間接キスなんて初めてじゃないですし」

「…………えーと、ごめんね? よく聞こえなかったんだけど、もう一回言ってもらえるかなあヘタレさん?」

「笑顔でそういうこと言わないで下さいよー。怖いですから」

「あえて言おう。死ねと」


 終始笑顔。言うまでもないが、わざとだ。

 ――っていうか、ヘタレさんとじゃれている場合ではないのだ。リルちゃんが!

 ていうか、だからそれってどういうことなんだよ!

 そりゃあ普段あれだけ仕事頑張ってたら、いつ倒れてもおかしくはないけど……っ。あああ! 絶対ヘタレさんのせいだ! 呪ってやる!


「そ、それよりも! 魔王様はどうなんですか、大丈夫なんですか!?」

「命に別条はありません。ただ――」

「た、ただ!?」


 覇気のない笑顔を浮かべるヘタレさん。けれどまだ笑みを浮かべられているところを見ると、そこまで深刻な問題でもないのだろう。が、だからといって無視できるほどのことではない。僕にとってはリルちゃんが倒れたという時点で大問題だ。

 だってリルちゃんが倒れるなんて、どれだけ珍しいことか。一見顔色は悪いし細いしで丈夫にはとても見えないリルちゃんだが、病気などはほとんどしないような人なのだ。なのに。


「――魔法の使い過ぎ、でしょうね」


 ヘタレさんは今まで浮かべていた弱い笑みをも打ち消し、顔を苦渋の色に歪める。

 僕はその意がよく汲み取れずに、ぱちくりと二度も瞬いた。


「……魔法の、使い過ぎ……?」


 どういうことだろう。

 確かに『使い過ぎ』なんていい響きではないけれど……魔力の多いリルちゃんは、そんなことはさほど問題にならないはず。魔力と意思さえあれば、大抵の場合魔法は難なく発動できる。意思の強さや経験レベルによって威力に差異はあれど。

 しかも、そんなことで倒れるなんて。まさかリルちゃんに限って、そんなこと。


「体質なんです。前、お話しませんでしたっけ? 魔王様は、魔法に耐性がないんですよ」

「え!?」


 体質とか何とか、そんなことを前にも聞いた……ような聞いていないような。

 だけどそんな体質――おかしい。

 だってリルちゃんは、魔法に関しては他の追随を許さない――いわばプロなのだ。その才能は言わずもがな。

 そんな人に魔法の耐性がないなんて、まずありえないことだ。例えどんなに魔法に無知な人でも、多少の耐性は持ち合わせているというのに。


「そ、それはどういうことなんですか!? だって魔王様は――」

「落ち着いて聞いて下さい、勇者さん。耐性がないといっても、種類が違います」

「し、種類……?」

「ええ。外から受ける攻撃に関しては別です、ことに光属性と闇属性の魔法についてはまず無敵と言って間違いありません」


 少しだけ安堵する。よかった。

 だけど種類が違うというのはどういうことだろう。いまいち分からない。

 そんな僕の思いを汲み取ったように、ヘタレさんは若干笑顔を翳らせた。


「ただ、内から出るエネルギーについては……少々、事情が違ってくるのですよ」

「内から出る……つまり、自分で唱える魔法、ってことですか?」

「まあ、端的に言えばそういうことです。魔法は内のエネルギーを外に弾き出すものですから――って、こんなことをわざわざ貴女に説明する必要はないでしょうが」


 それは分かっている。僕だって一応、元は勇者なのだ。魔法の仕組みくらいは分かっているつもり。

 だから僕はヘタレさんに向けこくんと頷き、無言のまま先を促す。


「ただ、魔法は内側のエネルギーを弾き出せばいいというだけのものではないですから……外のエネルギーとシンクロさせなければいけない。……理論だけなら難しいですけどね」

「それは魔法を学ぶ時に嫌というほど聞きました。――でも実際は感覚ですよね」

「その通りですね。私なんてそんなことを聞いたのは魔王城に来てからでしたから」


 理論なしで魔法を駆使するヘタレさん。……この人ならやりそうだ。道理もこの人の前じゃ引っ込むからな。

 というか、ヘタレさんはそれを使わなきゃ生きていけない状態にあったんだから仕方がない。理論なんて正直関係ないのだ。僕もそんなものを意識して魔法を使ったことなんてほとんどない。


「けれど、それが重要なんですよ。普通の人は外から受ける魔法への耐性はあまりなくても、内から出る魔法への耐性は80%以上と言われていますから」


 それは初めて聞いた話だ。

 ――まあ、自分のエネルギーへの耐性がなかったら、魔法なんてとても使えないからなあ。それが高ければ高いほど、魔法使いとしての素質も高いものとなるのだろう。


「それが……魔王様には、ない?」

「その通りです。だから普段も、人の倍以上身体に負担をかけて魔法を使っていることになりますね」


 ……何てことだろう。

 僕は絶句した。あんなに普通に使っていたのが、まさかそんな辛いことだったなんて。


「で、でも本人、普通にテレポートとか乱用――」

「してますね。正直痛みなどはなさそうですから、自覚がないというか……困ったものですよね」


 確かにそれは困った話だ。

 自分のことはおざなりにしちゃう人だからなあ、余計。

 というかそれで今までよく倒れなかったな……。


「内から出るエネルギーが大きすぎて、多分自分でも制御し切れないんでしょう。不調はこれが初めてじゃないんです」


 ……やっぱり無茶してるんだ。

 心配も通り越して思わず呆れてしまう。やりそうなことだ、と。


「ま、それで先の件です。だからあれほど魔法は控えろと言っているのに……」


 ぶつぶつと呟くヘタレさん。何だかんだで一番リルちゃんを心配しているのはこの人だ。

 ヘタレさんが誰かに小言を言うなんて滅多にないからなあ。でもリルちゃんは僕の嫁です。うん。そこんとこは譲らんぞ。


「わ、私お見舞いに行ってきます!」

「はあ、あの人のことだからもう起きていると思いますが……勇者さんからも言っておいて下さい。無理はするなって」


 珍しく疲れたような笑みを浮かべ、ヘタレさんは言う。

 僕は安心させるように大きく頷くと、リルちゃんの部屋へ向けて走り出した。


 ――それにしても……。


 まさかリルちゃんに耐性がなかったのは。

 あんなに魔法を使ってる人なのに。だからこそ、なのかもしれないけれど。


 正に諸刃の剣、だ。


「――馬鹿、だよなあ」


 嘆息、ともに呟く。

 諸刃の剣、だなんて。

 そんなこと、リルちゃんが自分で分かっていないはずがない。ヘタレさんにも言われているくらいなのだから。

 でもそれでも使い続けるということは、リルちゃんにはその覚悟があるということだ。


 だけど、だから、そういうこと。


 民のためなら自分のことなど顧みない――

 王としてはあまりにも、優しすぎる。

 そこがみんなに愛されているのだとしても、あまりに、ひどすぎる。



 ――いつか王を失った民は、どうなるというのか。



 そんなことを考えて、僕はかぶりを振った。

 考えちゃいけない、今は、まだ。

 だってね、リルちゃん。君は紛れもなく“魔王”なんだよ?


 君を喪って、一体誰が生きていけるというのだろう。



 だから、君は、自分を大切にしなきゃ。でしょ?



「……とは言ってもなあ」


 またもやため息。ヘタレさんにも頼まれたけどさ。

 僕がいくら止めたところで、多分リルちゃんはやめないだろう。

 変なところで頑固なんだから……。


 無理をしないでね。僕に言えるのはそれだけで、それ以上は強要できない。


「憂鬱……」


 考えれば、考えるほど。

 僕に止められるものか。でも出来なかったら、またリルちゃんは倒れる危険に晒されるわけで。

 それだけは嫌だ。嫌だけど、リルちゃんは僕の言葉なんか聞きそうにもない。


 ――ああ、神様、僕にどうしろと?











 ――でも僕はまだ、分かってなかった。


 君を蝕む毒が、どんなに危ういものなのか。


 君が掲げた剣が、どんなに脆いものなのか。




 そして僕は知るだろう。


 君の選んだ道が、どれほど残酷なものかを。




反省はしている。後悔もしている。


妙にシリアスが書きたくなった結果がこれだよ!

というか続きそうです。むしろ次からが真骨頂。やっぱり小説執筆中に聴いている曲に左右されてしまうみたいです……反省(´・ω・`)

バレンタインデーの後に何という重苦しいものを書く気なんだ……。

でもリルちゃん好きだよーって方は見どころかもしれません。ずっと魔王さんのターンです(´ω`)まあ予定が変わるやもしれませぬが←

とにもかくにも。

そんな方がいるのかどうかも分かりませんが、そんな方のために私も精一杯がんがらせて頂きます(´・ω・`)


えー、話は変わりますが(というか全然関係ないですが……)、世の中には素敵な絵師さまがたくさんいらっしゃいますよねえ。

どうやったらあんなに絵が上手く描けるのか不思議です……ペンタブ欲しい(←本音)

我が家のヘタレさんもいけめそに描いてもらったらもうちょっと好きになれるかもしれない(←超願望)

……でも髪がピンク系な時点で私のストライクゾーンからは見事外れている気がします。


ヘルグ「こちとら貴女のストライクゾーンに入る気はないもので」


そっか。そうですよね。私もお前みたいなキノコ野郎をストライクする気はないんだぜ(`・ω・)

やっぱり無理です。さーせん。



どうでもいいし今さら気付いたんですが、1が3つも並んでますね(^q^)素敵!

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