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第109話 Sweet Chocolate

バレンタイン編四話目。ようやく魔王さんの出番ですー。

 会いたい、人がいた。


 ――誰よりも会いたい人だ。

 幼い頃から憧れていて、慕っていて、どこへ行くにもついて回って。

 世界の全てのような気がしていて、世界が全て敵でもきっと味方でいてくれるような気がして。

 誰よりも近くにいて、でも触れがたい一線があって。

 闇なのに、光で。


 きっと触れたら壊れてしまうのに。

 それでも君は、笑うから。



 だから僕は駆けて行く。君に会うため、それだけのために。





 ◇





 花を愛でるように、慈しむように。

 命を注ぎ込むように、優しく、花びらに口付けていた。

 それが他の人ならば男が花だなんてとふざけた偏見で笑い飛ばすところだけれど、生憎彼はそういう言葉を許さないし――そんな風に笑い飛ばせるほど、滑稽な光景でもなかった。

 絵画のように美しい、完成された景色。僕は思わずそれに見惚れて、立ち止まってしまう。


「――コメット。来ていたのか」


 じょうろから滴り落ちる雫が、ぽとりと、赤い花弁を濡らす。

 庭の花に水をやっていたのであろうリルちゃんは、僕に気付くと、いつものように柔らかく微笑んで出迎えてくれた。


 ――彼はよく、この広大な庭にいる。

 虎次を構ったり、紫雲に寄り添っていたり。庭の植物たちに水をやっているのも、珍しい光景ではなかった。

 だからこれは、日常風景。よくある茶飯事で、驚くほどのことではない。


 僕はそんな日常に足を踏み入れながら、小さく、笑う。


「魔王様を、探していたんです」

「私を?」


 こてん、と首を傾け、不思議そうに目を丸くするリルちゃん。じょうろも一緒に傾いて、花の上に霧のような雨が降り注いだ。

 それにしても、何だろう――何と言うか、嫌になるほど美しいものが似合う人だ。花も、空も、月も、闇も。

 それが羨ましくて、綺麗で、とても好きで。こうやって庭の風景に同化したリルちゃんは、やっぱりまるで一枚の肖像画に描かれているようだった。


「――おいで、虎次」


 甘えるように足元にすり寄ってきていた虎次を抱き上げると、僕はもう一度リルちゃんの双眸を見つめた。

 未だ不思議そうに首を傾げているリルちゃんは、説明を求めるように、僕を見ている。

 答えるのが気恥ずかしいとか、そんなわけではない――と信じたいけれど――何となくどもってしまう。けれど、答えないというわけにもいかないだろう。


「えっと、今日は、その……バレンタインでしょう?」


 それをリルちゃんが知っているかどうかは分からなかったが――、僕はそう言って、ぎこちなく微笑んでみせた。

 リルちゃんは目をさらに丸くしたけれど、バレンタインの存在自体を知らなかったわけではないらしい。成程というように頷くと、それでもまた首を傾げた。


「……だ、から?」


 『バレンタインだから』に続く言葉が欲しいのだろう。リルちゃんは先を促すように動きを止めている。

 僕は用意してきたはずの科白を、真っ白な頭で、はにかみながら告げた。


「聞いて欲しいことが、あるんです……」




 ――半分の月。欠けた光。


 更けていく、夜。






 リルちゃんは、黒曜石の瞳を細めて、小さく頷いた。





 ◇





 ――2月13日、つまり昨晩のこと。




「つまんないの」


 僕の姿を借りたそれは、僕の言葉をにべもなく斬り捨てた。


「つ、つまんない、って……」

「珍しく君の方が僕に話があるって言うからさあ、何かと思って期待してたけど……惚気のろけ? そんなもん聞きたかないよ。それぐらいなら君をからかってた方がどれほど楽しいことか」


 ――影。

 僕がそう呼んでいる、その少年は、毒気も隠さずにそう言い放つ。

 何故こいつがここにいるかというのは……話せば長くなるけど。

 こいつがこういう風に出てくるようになったのは、2ヶ月ほど前だ。

 どうやら夜にだけ出てくるらしいそいつは、僕にしか見えない、所謂僕の『影』なのだそうだ。正にそのまんま。本人は名前が欲しいとか何とかほざいているけれど、今のところその予定はない。だって分かりにくいし。

 あの嫌な思い出から……4ヶ月になるのかな。今では、よく分からないけれど和解……したようなしてないような僕らは、夜は部屋でごろごろしながら他愛のない話をしている。ちゃっかり馴染んじゃってるが、本人がいいようなので僕も放っておく。それが自分自身だと思うと、正直恨む気も起きないし。


「つまりさー、きみは魔王様のことが好きなんでしょ?」

「……たぶん……そ、うなんだと思う」

「うわ。乙女……」

「き、気にしてるんだから言わないでよ……」


 最近本気で乙女化しつつある自分に何とも言えない虚しさを覚えていた僕は、歯に衣着せぬ言い方にがっくりと沈んでしまう。いや、そりゃ自分でも分かってるけどさ。


「じゃあ言えばいいじゃん。今やもう立派な女の子なんだから、告白したって誰も怪しまないって」

「い、いつも言ってるよ? だって嫁だし」

「それとこれとは話が別……ていうか嫁とか婿発言はさらりと出来んのに好きの一言は言えんのかい」

「だからそれとこれは別だって言って!」

「……もうどっちが何を言ってんだか分かんないからどうでもいいけどさ」


 影は、呆れたようにため息を零す。あんまりの反応に僕はちょっと落ち込むが、これが彼なのだ。仕方がない。

 それに、何だかんだで僕よりしっかりしている影は、僕の言葉にいちいち突っ込みながらも、結局は優しく答えてくれる。……うん。根はいい人なんだなあ。ということは僕も根はいいということか……? ……よし。いい子いい子!


「コメット=ルージュは魔王様の婚約者なんだよ? しかも魔物一の美人。自分の婚約者しかも美少女を拒絶するような男は僕がぶっ潰す」


 だけど若干バイオレンスだ。ぶっ潰すって……リルちゃんをぶっ潰したりしたら踏み倒すけどね。

 というか、多分リルちゃんは容姿に釣られるような人じゃないと思うんだけど……確かにコメットは美人さんだけどね。結局は僕の身体じゃないわけだし、例えこのまま一生過ごすことになろうとも、きっと違和感は捨てられない。


「とにかく、言葉にしなきゃ始まらないでしょ? 全くもう……うじうじしてる君が一番嫌い。見ててムカつく」

「う……」

「そもそも魔王様好きーって思ってる時点で既に思考が女の子なんだからあきらめなって」


 ……心読まれた。いいけどさ、今さら。

 だけどちょっと拗ねてみる。


「拗ねる暇があったら早く行けクズ」


 じ、自分の影にクズとか言われたし……!


「好きなんて率直に言う必要なんてないんだからさ。別に、遠回しでもいいんじゃない? とりあえず自分の気持ちを確かにしてみれば」

「あ、う……」

「あー因みにバレンタインだからってチョコに頼るのなしね。言葉にせずにうやむやにしたらドロップキックかますよ」


 ドロップキックは嫌だ……。

 だけどそんなこと、まさか面と向かって言えるはずもない。――今までは散々好き好き言ってたはずなのに、今になって何でだろう……?


「そこが境界線なんじゃない? 乙女心の機微なんて、僕には分からないけど」

「か、からかわないでよ」

「からかってないよ? 事実ですしぃー」


 嫌な奴。思いながらも反論できない。

 せめて恨めしげにむーと睨むと、思いっ切り笑われた。


「どうせ婚約者という点でいつかは直面する問題でしょうが。なら、バレンタインに便乗して今解決しちゃえばいいじゃない」


 チョコは渡すなと言う割にバレンタインに則れとは言うのか……。何て暴論。

 だけどその通りだ。いつかは直面する問題――なんだと思う。僕がコメットである限り。

 目を閉じる。――変わらず、リルちゃんの姿が浮かぶ。


「大丈夫。いざとなったら僕がいるからさ」


 ……全く頼りになりそうにないんですが。


 思いながらも、僕は頷いた。

 ここまで来たらもう――どうにでもなれ、だ。どうにかしなきゃいけない問題なら、いつまでも逃げてはいられない。

 幸い愛は無尽蔵にあるんだし! 愛は世界を救う! 当たって砕けろだ、僕!


「よ、よし、コメット、行っきまーす!」

「よしよし、偉いね。さあ、君の思うままに逝っておいで」

「ちょ、とか言いながら何かイントネーションおかしいよね!?」


 今何だか違いましたが! 影は気のせいじゃないと言ってにこやかに笑うけど、そんなはずはない……!


「どうどう。ま、とにかくどう転ぼうとも、明日が決戦の日ってことだ。その結果によって毎晩にゃんにゃんするか会うたび気まずい関係になるかが決まるわけだ」

「何だその二択……!? ぜ、前者がとんでもなく羨ましいです隊長!」

「あ、そう……。じゃあまあ何か……うん。頑張れ」


 呆れられた。今度こそ、本気で。

 な、何だよう、別にいいじゃないか別に……。……だって、好きなんだもん。ううう。恥ずかしいけどさ。

 羞恥で丸くなる僕を見て、影は小さく笑う。そしてまるで気にしていないかのように続けた。


「いい? じゃあ、明日の作戦を立てるよ――名付けて、『毎晩にゃんにゃん作戦』」

「いやいやいやっ、その名称はさすがに恥ずかしいんですが!?」

「君が望んだことでしょ。まあ、作戦内容は……簡単に言えば、もし振られたら僕の力で相手の記憶を消す」

「何て荒業!」

「僕の力で無理だったら君が殴って記憶吹っ飛ばしてね」

「魔王様相手にそんなことできるかっ!」

「まあ、基本的には振られないこと前提でいくけど――」

「超アバウトだし!」

「何とかなるさ」

「ならねえよ!」


 結論。影は役立たずでした。


「……もう、わがままなんだから……仕方ない、じゃあもうこの際今魔王様が君に惚れてようがどうだろうがそんなの関係ない。落としにかかるよ?」

「え、え?」

「告白するんなら落とさなきゃ! 砕けるのはポリシーに反するんでね」


 この子すんげー負けず嫌いなんですが。

 何? 告白一つで何なの子の心意気? ……いや、そりゃ僕だって、振られるとかそんなの考えたくないけど……。

 でもこの熱意は違う。原動力が違う! ここまで何故熱くなる……!


「魔王様に愛されない主人公なんて主人公じゃない! 気合い入れていくよ、えいえいっ?」

「お、おーっ!」


 そこまで言いますかと思いつつも、僕は抗えなかった。

 だ、だってやっぱり、リルちゃんには好かれたいし……ね?

 そのためなら、ってやっぱり思っちゃうんだよ。だけどそれも不可抗力、仕方がないことなんだ。




 だって僕、リルちゃんのこと好きなんだもん!




キーワードにそろそろ『常識人と変態の格差』って入れといた方がいい。切実に。


我が家の魔王さんがもっとクールで謎多き人だったらよかったのに……と悔やんでならない今日この頃です。

何でこんな子なんだろうね。私にはそれが不思議でならない(´・ω・`)←

ていうか何でラブに入ろうとしてるのかしら私。やめて! オイラはまだはーれむを満喫するんだい!←

つーか、何だこのフラグ……こんなあからさまな恋愛書くつもりなかったのに……うう。

でもどうせ次回も大したことはしません。期待を打ち砕くために言っておきます(´・ω・)←

ところで影の名前は随時募集中です(^q^)←


うーん、そろそろ後書き考えるの疲れてきた……(^O^)←

そりゃ4話分もぶっ続けで考えてたらネタも尽きますけどね。

だけどどうやら私は後書きを書くのをやめることはしないようです(´・ω・)だって楽しいんですもん。

久しぶりに触れたパソコン。それくらいせずに漢を名乗れるか……っ!(←女)


えーと、バレンタイン編残り1話です。といってもエピローグみたいなもので短いですが。

それまでお付き合い下されば幸いです^^

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