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第108話 Milk Chocolate

バレンタイン編三話目。せかいいちうざいひとのおはなしです(こら

「ほら、ポチー。餌だよー」


 穏やかな朝。天候にも恵まれ、ひどく爽やかな風が吹いていた。

 2月14日。今日は俗にバレンタインデーと呼ばれる、その日である。


「で、ポチって何ですか、勇者さん」

「犬です」

「いや、響き的に分かりますけどね……」


 珍しくヘタレさんの部屋に居座って、僕はポッキーを子供に与えるように差し出していた。

 それというのも先日、ヘタレさんがしつこくチョコをねだってきたのが発端なのだ。勿論僕はヘタレさんにチョコをあげるつもりなんてさらさらなかったんだけど……あまりにもしつこいものだから、解放を条件に『あげる』と約束してしまったのだ。その約束を反故にしてしまっては、目の笑っていないヘタレさんの笑顔を久々に拝むことになる。それだけはどうにも避けたい。

 と、いうわけで、僕は今、ポッキーをヘタレさんに与えていたのだった。


「ほら、ポチ。いらないの?」

「いえ、だからあの……」


 でもヘタレさんはあんまり嬉しくなさそうだ。何だ、せっかく人がチョコあげようって気になったのに。いらないならアリセルナと一緒に食べちゃうぞ。


「……その『犬』にチョコ食べさせようとするってどうなんですか……」

「そりゃあ死ぬでしょうけど。何か?」

「何か……じゃあないですよ。分かってて言ってるんですか」


 そりゃあ。僕は満面の笑みで肯定してやった。

 ていうか、僕が何と呼ぼうがヘタレさんは犬じゃないんだから大丈夫だと思うが。

 けれどそれでも、ヘタレさんは渋って食らいつこうとする様子がない。


「食べないなら私が食べますよ?」

「食べたいのはやまやまなんですが……」

「……ポッキー、嫌いなんですか?」


 思わず首をこてんと傾け、聞いてみる。

 ポッキー……というか、もしかしてチョコ嫌いなのかな。いや、ヘタレさんに限ってそんなことはないと思うけれど。ていうかそれなら何故ねだった。

 じゃあ何だ? まさか、あそこまでねだっといて食べられないなんてふざけたことは言わないよね?

 分からずに首を傾げていると、ヘタレさんが珍しくも苦々しげな顔をして言った。


「嫌いというか……今日はもう食べ過ぎました」


 思えば些かげんなりした様子のヘタレさん。

 それで僕はピンとくる。今日は、バレンタインデーなのだ。


「あ、そうですよね、ヘタレさんも顔だけはいいんだから、もういっぱいチョコもらってますよね」

「だけって何ですか、だけって……」


 だけです。

 だって、顔以外は性格悪いし頭は足りないし変態だしで最低じゃん。他に賛美するところなんでどこにもない。

 けれど顔がなまじよすぎるために女の子からの人気は高いのだ。まだ朝早いが、下駄箱を開けたらラブレターが大量に落ちてくる要領でチョコをいっぱいもらっていてもおかしくない。そりゃあ、チョコみたいな甘いものはあんまり食べ過ぎるとくどいだろうなあ……。


「手作りはこっちも頑張って食べるんですけどねー。今は料理できない人って多いみたいで、ポッキーなんか送りつけてくる馬鹿がいるんですよ。家庭的な女性以外興味ないって何回言えば済むんでしょう」

「いや、それ初耳ですけど」


 本当に初めて聞いたよ。家庭的なひとか……。まあ、ヘタレさんは家庭的とはとても言えないもんね。何だかよく分からない的だもんね。

 珍しく聞く女の子への暴言に変な意味で納得しつつも、多少同情はした。まだ一日は始まったばかりなのだ。これ以上のチョコが送りつけられると思うと……御愁傷様。うん。

 見れば確かにゴミ箱からあふれ出すほどに残骸と思われるものが積んであるし。でも一応ちゃんと食べたらしく、残っているのは箱や千切れた包装紙ばかりだ。


「仕方ないからポッキーは魔王様と仲良くポッキーキスの要領で」

「おい待てやこら」

「冗談ですよ」


 ヘタレさん。人には言っていい冗談と悪い冗談があるの知ってるかな?

 無言でそう告げると、ヘタレさんはひょいと肩を竦めた。


「まあ、魔王さまの食べかけのを掻っ攫ったので間接キスには間違いないでしょうけど」


 殺す。


「え、ちょ、勇者さん、目が怖いですよ? ってポッキー折れてますけど。ていうか砕けてますけど、ちょ、あの?」

「あのね、ヘタレさん。分かるかな? 魔王様は私のお嫁さんなんだよね」

「じゃあ私が勇者さんの婿になれば魔王様も私のものですよね!」

「死にたいのかな? それとも生きたまま地獄を見たいのかな、どっちなのかな?」


 どっちでもいいよーと笑顔で言いつつ、僕は一歩ずつヘタレさんの方へ近付いていく。

 ヘタレさんの顔もさすがに引きつった。

 だが僕はやめない。こればかりは脅しではないのだ。お前、マイハニーに何てことを。静かな怒りが胸の内で滾る。


「まさかこの期に及んで楽に死にたいだなんて言わないよね? 自分のしでかした罪の重さを分かってるのかな? その身体に分からせてあげた方がいいのかな?」

「いえ、結構ですからっ」

「遠慮なんてしなくてもいいんだよ? ちゃんと息の根まで止めてあげるから」


 うふふ。あはは。

 奇異で険悪なムードが流れる。

 いつもの『死ねばいいのに』ではなく、『むしろ殺す』だ。問答無用。叩き潰す。


「そんな、間接キスの一つや二つくらいいいじゃないですか。将来的には全部私のものなんですし」

「死ね」

「えー」


 えーじゃねえよ。ていうかお前のものでもねえよ。

 将来的にも何もリルちゃんは僕の嫁なんだよ! てめえみたいな不浄な存在に誰がリルちゃんをやるか!


「もういいです。ヘタレさんにはもうチョコなんてあげませんから!」

「ええ、それはあんまりですよ……! せめて勇者さんの唇を!」

「てめえそれが本音だろうが!」


 この変態が! 一頻り罵ってから、強烈な蹴りをお見舞いした。

 ……ふう、ようやくすっきりした。いいもん。別に間接キスなんて羨ましくないもん……。


「その様子は羨ましがってますよね」

「べ、別に羨ましくなんかないもん……キス……間接キス……」


 別に羨ましくなんてないもん!


「勇者さん、勇者さん」

「何ですか……」

「この場合って、勇者さんが私にキスしたら魔王様とも間接キスになるんじゃないですか?」

「死ね」


 後ろから悪びれもせず声をかけてきた馬鹿に肘鉄を食らわす。

 誰がするか。そんなので釣られると思うなよ。

 それくらいなら直にするし! そしてその後事故でしたてへって言うし! それで済むんだし!


「照れないで下さいよ、もうキスなんてとっくの昔に済ませた仲じゃないですか!」

「それを掘り起こすな! い、今まで忘却の彼方に追いやって思い出さないように過ごしてたのにー!」

「へえ……? ねね、どうでしたか? ファーストキスの味は。レモン味でしたか、それともいちご味?」

「うにゃああああああ!」


 そんなこと知るか! あの時は必死だったんだ! 別にそんな仲でもないしっ!

 涙目になりながら耳をふさぐ。

 もう嫌だ。それ以上言ったら本当に泣くぞ。


「それよりももっと甘い味、教えてあげましょうか?」

「どういう意味ですかそれはっ!」


 もう泣く。駄目だ、僕は泣くぞ。

 じわり。本気で涙が滲んできた。


「ヘタレさんの馬鹿! もう嫌いですっ、大っ嫌いですから!」


 ぎゅーっと目を瞑って、子供が喚くように叫ぶ。

 ああもうやだこの人。セクハラー。リルちゃん助けてー。

 こんな人にチョコなんかあげようと思った僕が馬鹿だった。それくらいだったら害虫さんとかルーダさんにあげた方がマシだったし! えうえうえうっ。


「そんな、嫌いとか言わないで下さいよー……」


 だって嫌いだもん。思ってぎゅーっと目を瞑っていると、ふわりと抱き込まれた。


「そんな乱暴、するわけないじゃないですか。私が過去に一度でもそんなことをしました?」

「しました」

「そう言い切られるとちょっと悲しいんですけど……」


 だってしたんだもん。抵抗はせずに抱き込まれたままで、じっと睨んだ。

 ――困惑顔。冗談、ではないみたいだ。


「…………チョコ」

「はい?」

「食べるんでしょう?」


 あくまで声は不機嫌なまま。

 さっきのは折れてしまったので袋からもう一本取り出すと、チョコの方をヘタレさんに向けた。

 食べないとは言わせない。


「……いただきます」


 苦笑いともはにかみとも取れないような笑みを浮かべて、ヘタレさんはポッキーをかじる。

 くどかろうが何だろうが、こればっかりは最後まで食べてもらう。じっと見張るように見つめていれば、ヘタレさんがようやくいつもの不敵な笑みを浮かべた。


「反対側から、食べます?」

「馬鹿言わないで下さい」


 誰がそんなこと。吐き捨てるように言い置くと、ヘタレさんはくすくすとさもおかしそうに笑った。何が楽しいんだか。

 ささやかな抵抗を試みて、げしげしとヘタレさんを足蹴にする。びくともしない。


「……来年はもうあげませんからね」

「それは義理チョコという意味で、ですか?」

「本命もあげませんよ」


 我ながら拗ねた声だ。だけど抱きしめられたまま、この身体は抗おうともしない。


「そんなことを言って、来年もまたくれるのが勇者さんですよね」


 そして僕は、その言葉にも反論しなかった。

 ――きっとそうなんだろうな……。

 だって自分でも、そう認めてしまっているのだから。


「何おう」

「わわ、そんな強く蹴らないで下さいよ」


 だけどやっぱり悔しくて、反論はせずとも一発入れてやった。

 ――この感情は、恋なんかじゃないにしても。




ヘタレさんは家庭的なおにゃのこが好きなようで。


うわーすげーどうでもいいですね、ってわけでこんにちは白邪ですー。テスト前日だよ! バレンタインデーといえどテスト前日なんだよ!

だけど普通に投稿します。マイマイです(^O^)(←何語)

ていうか今さら2話も投稿しといてやっぱやめたはないですよね。がんがります(´・ω・)


さて今回は『魔王の恋と勇者の愛』三大モテ男の一人、ヘタレさんです。物語内で、というよりも読者様の間で。皆様いつもありがとうございます、こんな奴でごめんなさい(´・ω・`)何だかすげえ申し訳ないんだぜ。

因みに三大モテ男の残りは誰かというと、魔王さんとディーゼル君です。後者は本編では恵まれないですが。

このうちの誰かが好きーって言ってくれる方多いです(*´∀`)ノ嬉しいなあ。誰を好きになって下さっても嬉しいですが。

あ、ついでに言っておくと勇者は男に含みません(^q^)←


うーん。それにしても何だ、最後無理矢理ほのぼのさせようとしたら何故かこうなったし(´・ω・`)

もうひどすぎて直す気も起きませんでした。何だこの二人。正にミルクチョコだよ砂糖吐くよ!?

とりあえずヘタレさんも勇者もディーゼルに謝ればいいと思う。いちゃいちゃしやがって。ディーゼルなんてビターなんだぞ。自分で言ってて泣けてくるぞ。

あんまりこの二人がひっついてると心の広い魔王様もブラックになって新登場しますよ!(←意味不明)

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