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第104話 もう恋なんてしないから

何も思いつかなかった結果がこれだよ。

変態警報ですー。注意報じゃなくて警報だよ!

 その日も平和に始まって、何事もなく終わる――はずだった。

 けれどそう信じていたのは、僕だけだったのかもしれない。




「何してんのよこの馬鹿変態ぃぃぃーっ!」


 早暁の魔王城に、絶叫が響き渡る。

 それは悲鳴にも近いような、緊迫というか――どちらかというと、泣きそうな。

 そのあまりの大声に微睡まどろみを引きはがされて覚醒を余儀なくされ、僕は軽い苛立ちを覚えながら顔を上げた。


 ――今、何時だよ……。


 玩具のように可愛らしいデザインの時計をちらりと見遣れば、まだ4時半。いつもの起床時間には1時間半も早い。

 リルちゃんならもう起きている頃だろうけれど、他の人が起きているような時間帯とは思えない。だって睡眠欲に平行線のようにどこまでも忠実な人たちですもの。

 それにさっきの聞き覚えのある声……まあアリセルナだとは思うけど、アリセルナはこの時間まだ眠っているはずだと僕はすでに確認している。だからよっぽどの事件や何かがない限りアリセルナの声なんてここまで聞こえるはずがないわけで――



 ……って、ん?


 アリセルナ?


 よっぽどの事件……?



 そういえばさっき、アリセルナは――変態とか叫んでた、よね?



「………………行くか」


 僕はぽつりと呟いて、むくりと身体を起こした。

 親友の危機だ。

 焦らず急がず。ここで起こることなんて大したことじゃないだろう、だからと言ってもう一度眠りに就けるほど薄情ではないが。そこまで慌てる必要はない。

 言い聞かせて着替え終えると、まだひんやりと冷たい廊下へ出た。

 アリセルナの部屋は――と右を向くと、道の途中にディーゼルの背中を発見。おおう。アリセルナの部屋に向かっているところと見た。何だかんだで過保護だもんなあ、あの人。


「ディーゼル、おはよー」

「ん、コメットか。お前もさっきのが気になって出てきたのか?」


 声をかけると、急いだ様子もなく振り返るディーゼル。クールだクール。

 だけど、内心では結構焦ったんだろうなこの人……だって、ディーゼルの部屋は僕の部屋よりもかなりアリセルナの部屋には遠いはずだし。なのに僕の前を歩いてるって。


「さすが幼馴染。フラグじゃない?」

「あらぬ誤解をかけるなあらぬ誤解を」


 とか言いながら、本当は満更でもないくせに。何だこの子可愛いなあ。

 というか、今の僕の科白だけで言いたいことを理解したディーゼルはすごいと思う。せいぜいヘタレさんくらいにしか伝わらない会話だと思ってた。それなのに口に出す僕も僕だが。


「それにしても、一体何があったんだか……あれ、アリセルナの声だったよね。変態って……」

「変なことになってなきゃいいけど、な」


 変なこと。言われて、僕は首を傾げる。


 ――貞操の危機とか。


 半ば冗談染みた想像をして、僕は洒落にならないと身震いした。本気で洒落にならんわ。

 アリセルナは何だかんだで美少女に分類されるわけだからな……想像するだけで怖い。まあそんなことには……多分ならないだろうけど! 信じてるけどさ!


「……ちょっと急ごうか」

「……了解」


 散歩のように緩めていた足を速め、アリセルナの部屋の前まで辿り着く。

 中からは変わらない――さっきよりは小さいけれど――悲鳴が響いていた。……本気でまずいですかこれ。

 とりあえず深呼吸。落ち着け僕。むしろアリセルナが……つかアリセルナの部屋にいるその誰かが落ち着いてくれ。早まるな。今さらかもしれないけど。


「よし。じゃあディーゼル、まずいことになってたら困るから私が先に行くよ?」

「分かった。頑張れ」


 まずいことというのは、例えば服を脱がされていた場合とかだ。そういう場合はとりあえず怒りのままに相手を殴り飛ばしましょう。場合によってはフルボッコもOK。だけどディーゼルは男の子でアリセルナは女の子なので、そんな場面に遭遇してしまってはさすがに気まずい。というわけで特攻隊コメットさん。

 まあ中身が男だと知っていてディーゼルが了承してくれたのは多分僕がリルちゃん一筋だってことを知っているからだろうなとどうでもいいことを思いつつ、ドアノブに手をかける。

 部屋の中から聞こえる悲鳴は一時も絶えず、早く救助した方がいいんだろう――が。


「やっ、やめてええっ、やめてってばあ」


 ……相当入りにくいぞこれ。うふーんあはーんな事態になってたらどうすりゃいいんだよ。

 でもアリセルナは嫌がっているのであれだ、助けなきゃまずい。我が親友兼同志が手遅れになる前に何としても救助しなければ。


「アリセルナっ!」


 散々迷った末に、ドアを打ち破るように開け放つ。

 その先に見えたのは――見慣れた一面ピンクの光景、と。


 半泣き状態で座り込んでいるアリセルナに――それから、洋服ダンスを漁り続ける変態ジジイの姿だった。



 ……フルボッコ、決定だね!







「フルボッコ――フルパワー、つまり全力でボッコボコにすること。ボッコボコとは殴る意味合いのボコボコを強めたものである」

「べ、別に説明されなくたって分かるよコメットちゃん……」

「あ、まだしゃべる気力があったんですか? どうやら痛めつけが足りなかったようですね」


 僕は天使の微笑みを浮かべながら、最早ある意味で年齢制限をかけるべきなんじゃないかと思われる人型をギリギリ保っていない物体Xに蹴りを入れた。

 ……放送してはならないようなおぞましい音がしたが、まあいいだろう。全ては我が親友を泣かせた変態ヴァカが悪いのです!


「う、うう……っ、コメットぉーっ」

「よしよしアリセルナ。大丈夫? 変なことされてない? 未遂だよね?」


 ひしっと抱きついてくるアリセルナを抱きとめて、淡い金髪を撫でるように梳く。

 ていうか未遂の時点で僕は相手を本気で駆逐しにかかるから未遂ですらないだろう。大丈夫。最も凶悪な性犯罪には至らないセクハラの範囲内です。

 ふう、と僕は安堵のため息をつく。とりあえずよかったよかった。


「ていうか……どうしたの? この馬鹿は何をやらかしたの?」


 撫でながら尋ねると、うるりと瞳を再度潤ませ、アリセルナは僕を見上げた。今さらながら可愛いなこの子。男だったら惚れてた。うん。


「あ、あのね、あのね……っ! 私、嫌な予感がして、何だか、目が覚めちゃったから、き、着替えようとしたの」

「うん、……それで?」

「そ、そしたら……っ、と、突然、ファルノムさんが、洋服ダンスから出てきてっ」


 アリセルナは小動物のように怯えながら、息をつく暇もなく捲し立てる。完全に涙目だ。強気なアリセルナにしては珍しいことなので、相当怖かったのだろうと分かる。

 それにしても……洋服ダンス?

 デジャヴだ。何かいつだったかもそんなことがあったような……。


「そ、それで、びっくりしてたら……っ、『メリークリスマス』って叫ばれて、そのままタンス漁られて……こ、怖かったっ」


 ――いや、そりゃあ怖いわな。

 っていうかメリークリスマスって……あれか。思い出したぞ。一昨年は1ヶ月以上早くやってきたあの赤い奴か。そういえば僕もタンス探られて服盗まれたような。

 そして今年は年を跨ぐほど遅れました、と。……いや、遅れようが早かろうがそれはどっちでもいいんだけど。


「……何か、出番がなかった腹いせかな」

「そうかもな」


 ぽつりと呟くと、いつの間にか後ろに来て嘆息するディーゼル。

 でもそれにしても許せない。だからってセクハラはいけません。


「……ていうか何で今さらクリスマス」

「大方忘れてたんだろ」


 ですよね。僕もそう思います。

 と、突然僕に泣きついていたアリセルナが叫ぶ。


「もう……やだ、男なんてみんなケダモノっ」


 どうしたアリセルナ。いや気持ちは分かりますけどね。


「魔王様以外みんなケダモノ!」


 あ、リルちゃんはちゃんと除外するんだ。

 さすが同志。……ところでディーゼルが複雑そうな表情をしているんですがどうしたら?


「私もう恋なんてしない!」


 おっとここで唐突な展開。ところでディーゼルが複雑そうな表情をしているんですが以下省スペース。


「……ディーゼルふられちゃったね」

「馬鹿言うな」


 ですがディーゼルは複雑そうな表情を以下省スペース。

 だってそうじゃないか。え? 違うの? ……何だつまんない。

 でも複雑そうな表情をしてるってことは少なくとも気があるということだよね! うん!

 これからに期待これからに。……あ、だけどアリセルナが恋しない宣言をしてしまったんだった。


「……ここから心を解きほぐしていくフラグ?」

「何でもかんでもフラグにするな。つか俺の方を見るな、やめろ」


 だってアリセルナが泣いてます。お兄ちゃんそれを放っておくのですか。

 そう告げたらディーゼルは苦虫を噛み潰したような顔を見せたけれど、すぐにそれを引っ込め、無情にも言った。


「明日になったら立ち直ってるだろ……」


 いえそれもそうなんですけどね。

 明日になれば何事もなかったかのようにディーゼル大好きとか言って飛び付いていってるアリセルナの姿が見えるようで、ちょっと微笑ましかった。

 ところで、この物体Xはどう処理したらいいのかな。


「ダストボックスにでも投げ入れとけ」


 ゴミ箱とはあえて言わずにダストボックスと表現したディーゼルに頷きかけて、僕はそれを虫取り網で捕獲した。

 うわあ、気持ち悪い。視界に入れたくもない。

 諦めて息を呑みながら、大広間にある公共のゴミ箱まで運ぶために一度アリセルナを宥めて引きはがす。……とその瞬間、アリセルナはディーゼルの方へと走っていって、がしっと見事なまでに抱きついた。


「ディーゼルーっ!」

「うわあ!?」


 ……早くも立ち直ったのかそれともディーゼルを男だと思っていないだけなのかは分からないが、まあとりあえず微笑ましい光景だ。

 それを見て何となくにやつきながらも、大広間まで運ぶのも面倒なので同じ階にあるヘタレさんの部屋に投げ込んでいいかなと僕は考えるのであった。




 ……今日も魔王城は割と平和です。うん。




……何がしたかったのか自分でも分からない。


いえ、ネタがあまりに思いつかなかったためにくじを作って引いたら『アリセルナ』『ファルノム』『変態』が出たので……こうなりました。

むしろ出オチ。自分の頭を壁に打ち付けたいくらいひどい出来ですねー。

因みに『ヘタレさん』と『魔王様』で『らぶらぶ』が出たのは見なかったことにしました。平常心平常心。



話は変わりますが、何と先日、PVアクセスが100万を突破しました……!

あばばありがとうございます! しつこくアクセス解析をチェックしているはずなのに自分の目を疑いました!←

読者の皆様に本気で平伏すくらいの勢いで御礼を言いながら、これからも精進していきたいと思います……っ!

これからもどうぞ宜しくお願い致します!


しつこいですが読者の皆様愛してます! メルシー!←

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