表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/160

第101話 聖なる夜と魔王様

勇者のキャラが激しく崩壊。

……え、いつものことですって? それは言わないであげて(´・ω・)

「魔王様、魔王様っ! 来て下さいっ、すごいですよー!」


 子供のようにはしゃぎながら、一人の少女が駆けて行く。

 細い腕を大きく振って、彼女は無邪気な笑顔を歪めないままに人の波へと紛れた。

 風さながらに駆ける姿は、まるで無垢な少女を思わせた。


「元気ですねえ。もうパーティーだって3日目なのに」

「……空元気だろう。多分」


 ひょこりと後ろから顔を出したヘルグが抱きついてきたのはあまり気にしないことにして、小さくため息をつく。

 ――あんな調子だ。あの二人が、いなくなってから。


「辛い時こそ、ため込んでしまう子だから」


 元気に振る舞う少女の姿を遠くから眺め、私は、再度ため息を零した。





 ◇





 12月25日。クリスマス兼魔王様の誕生日。

 そんな日だからこそ、魔王城ではやはり盛大なパーティーが開かれていた。


「――それにしても今年は、去年とは違って何だか大きなパーティーになったわね」

「魔王様の方針だって。自分の誕生日っていうより、クリスマスを祝いたいからって」

「……魔王様は相変わらず。そんなところが好きなんだけどね」


 そんな中で僕は、アリセルナとデザートを食べ歩きながら、のんびりと会話を交わす。

 これを今何よりもの至福として、もごもごとシフォンケーキを頬張っていた。あ、おいしい。


「ん……でもまあ大半の人がどうせ魔王様の誕生日を祝おうとして来てるんでしょ」

「人望厚いからね。さすが私の嫁」

「……コメット?」

「おっと、口がすべった」


 ついにそんなことが口をついて出てくるようになりましたてへ。こらそこ、末期だとか言わない。

 だってねえ好きなんだ。言うなればLOVEなんだよ。分かるか? 分からないだろうこの気持ち!


「いや、本当に末期だな……おいコメット、顔が危ないぞ」

「えー、だってねえお兄ちゃん」

「誰がお兄ちゃんだ。その呼び方はやめろって言ってるだろ」


 そして僕らはディーゼルという名の荷物持ちを連れていた。

 まあ荷物といっても大したものはないけど。要するにあれだ、保護者って奴だ。その割に扱いはひどい。

 だって僕らだけじゃ絶対迷子になるもん。その点、ディーゼルがいれば安心だ。常識人万歳。

 そのせいで気苦労は絶えないんだろうけど……うん、僕だけのせいじゃないよね! というわけで。


「ディーゼルがお兄ちゃんみたいだから悪いんだよ。ねー」

「ねー」

「……お前ら何で今日はそんなに精神年齢低いんだ」


 何でって、イベントだからです。ていうかリルちゃんが可愛いからです。文句あるかこら。


「……分かった、分かったからそんな目で見るな。もういい。お前らに聞いた俺が馬鹿だった」

「え、何それどういう意味!?」

「そういう意味だ。もういいよ」


 そういう意味って……!

 ちょっとショックだ。常識人に見捨てられてしまった。イコール非常識への道を着実に歩……!

 ええいいいもんいいもん別にいいもん!

 別に僕の責任じゃないもんリルちゃんが可愛いから悪いんだもんね! ――というわけで。


「祝いに行こっか」

「唐突だな」

「私の思考の中じゃ唐突じゃなかったよ。ほらディーゼル、人混みの中に突撃ー!」

「出来るか!」


 ですよね。僕も今の体力じゃ無理そうだ。リルちゃんがツインテールっていうなら別だけど。


「一段とファンクラブの壁が厚いもんねえ……怖いわ」

「って、アリセルナだってファンクラブの一人でしょ?」

「そうなんだけどね。そういうコメットだって最近入部したくせに」

「そうなんだけどねー」

「……お前ら、聞いてないぞ」


 報せてませんから。


「でも怖いお姉さんばっかりだから。どこの大奥ですかって思うほど」

「だけどクレイジーって意味ではヘタレさんファンクラブの方が怖いわよ」

「だろうね」

「ていうかそんなものまであんのか……」


 ありますよ。因みに腐った方々がたくさんです。

 僕はにこやかに微笑みながら、再びファンクラブの厚い壁を見やる。


「……無理だね。何か諦めよう」

「無理だな。今は諦めろ」


 そんなわけであえなく撤退。ごめんねリルちゃん。


「ちょっと待ちなさいよ」


 ――と思ったのに、突然ぐいっと引き戻される。

 人の波に揉まれ――というか謀られたのか、ディーゼルとアリセルナの姿はもう見えない。

 ……え? あれ? これ何? と思っている間にも、鬼気を含んだ恐ろしいほど低い声が頭の上でそっと囁く。


「あんた、コメットじゃない」


 ぞっとするような感情を押し込めた、その言葉に僕は思わず振り向く。

 そこにいたのは、顔を変形するほどにしかめた大柄の女性。

 こんにちは怖いお姉さん。そんな怖い顔してたらせっかく美しい顔が台無しですよ。

 ……なんて、言えるわけがない。

 相手は――名前は覚えてないけど、ファンクラブナンバー2のお姉さん。つまり、実質はファンクラブのリーダーみたいなものだ。


「最近魔王様の周りをうろちょろしてるわね……うざいのよ、あんた」


 いや婚約者なんですけど。婚約者がうろちょろしちゃまずいですかお姉さん。

 なんて言えるわけがないパート2。怖いよお母さん! 般若だ! 般若がここにいる!


「婚約者だからって調子乗ってんじゃない!? 何とか言いなさいよっ、この雌豚!」


 雌豚ってひどくないですか!?

 ていうかまずいまずいまずい、手がグーの形になってます! ファンクラブの方々の壁に厚く阻まれて逃げられないし!

 魔法で防げないこともないけどそんなことしたら――だけど!


「ちょっ、それはさすがに――!」

「生意気なのよ! あんた、一回痛い目見てみなさい!」


 ごっと音を立てて拳が顔面に向かってくる。

 まさか魔法で防ぐわけにはいけない。だけどこれを素手で防ぐなんて――!


「ふざけるな」


 ぱあんと、乾いた音が響いた。そして聞き慣れた声が、低いトーンで呟く。

 瞬間何が起きたのか分からずに、僕は目を丸くした。


「ならばお前が痛みを知れ。そんなものは言い掛かりだろう? 彼女に手を出すな」


 目の前には、黒。ただ漆黒が広がる。

 ――黒?

 それがリルちゃんのローブの色だと分かった瞬間に、僕は安堵で思わず抱きついていた。


「リルちゃん!」

「っ! コメット……っ!?」


 ぎゅーっと強く抱きしめる。

 リルちゃんは勿論驚いていたが、怖い顔のお姉さんはそれ以上に驚いていた。

 左頬には、赤い痕。――リルちゃんが、殴った?

 信じられなかったけれどさっきの乾いた音といい科白といい、そうとしか考えられない。


「ま、魔王……様……?」

「サリー。人にはやっていいことと、悪いことがある」


 結局僕は首に腕を回す格好のまま。リルちゃんは怖いお姉さんを睨んだ。

 ……この人、サリーさんって言うんだ。


「コメットに手を出そうとしたことは許さない。だから殴った」


 サリーさんの顔が、絶望の色に呑まれていく。

 そりゃあショックだったろう。――リルちゃんが人を殴るところなんて、初めて見た。僕だって少なからずショックだ。

 それに、彼女は殴られた本人なんだから。


「彼女は私の婚約者だ。誰だろうと手出しはさせない、――だけど」


 リルちゃんはそこまで言うと睨むのをやめ、僕を引き剥がして。


「……殴ったのは悪いことだ。だから、ごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げた。

 ――これも珍しいことだ。一国の王が頭を下げるなんて。僕も驚いたが、やっぱり一番驚いたのはサリーさんだった。


「ま、魔王様……! ごめんなさい、私、私」

「分かってくれればいい。泣くことはないから、そんな悲しい顔をしないで?」


 魔王城の人たちは基本的に心の優しい人ばかりだ。だからサリーさんもリルちゃんに諭され罪悪感を覚えたのか、ぼろぼろと涙を零し始める。

 うーむとりあえず一件落着なのかな。別に僕は被害受けてないわけだし……怒ることでもないし。いや殴られかけた時はさすがに焦ったけど。ていうか最早蚊帳の外。


「さ、コメット、行こう」

「え、あ」


 何を言う暇もなく手を引っ張られ、転がるように駆けて行く。

 人の波を抜けても、リルちゃんは止まらない。……え、どうしたのこの人? 怒って……る?


 ようやく人気のないところまで抜けた。――と言っても、もう大広間すら抜けている。

 廊下。ひんやりと冷気の漂う、人気のない廊下である。


「……リル……ちゃん?」

「コメット。大丈夫だったか?」

「え……は、あ」


 何を、と問い質す余裕さえ与えられない。……目が笑ってない。目が笑ってないよこの人? 心配とか上辺だけじゃないですかそれ。


「殴られてないよな。……何か、ごめん」

「いえ、別に魔王様のせいじゃ……っ」


 そう言って否定しようとする――が。だけど笑ってない。この人やっぱり目が笑ってない。

 寒い廊下で、更に1℃下がったような感覚。

 何を怒ってるんだろう。僕、怒られるようなことしたっけ……?


「えーと……ごめんなさい?」

「私が何に怒っているというのか20字以内で説明してもらえるか?」

「いや本当申し訳ありませんでした」


 怒ってる。かなり怒ってるよこの人。

 ていうか、こんなに怒ってるのなんて初めて見たかもしれない。目が怖いですリルちゃん。

 つうっと額を冷や汗が伝っていくのを感じた。本気で怖いんですが逃走は不可能ですか。


「いいか、人が真剣な時に抱きつくな。それから人前であの呼び方はやめろ」


 珍しく強い口調。

 面持ちは真剣で、――まあいつものことだけど。いつもより顔が赤い。……もしかして。


「……照れてます?」

「照れてない!」


 ムキになって否定された。……何この可愛いの?

 抱きしめていいですか。いやむしろ嫁に来てくれ……っ! ぎゅー!


「……コメット?」

「ああもう無理ですっ。今夜は帰しませんから!」

「!?」


 暴れるのも気にしない。パーティーの主役がいなくなるけど……一応銘打ちはクリスマスパーティーなんだしいいよね?


「あ、そうでした。お誕生日おめでとうございます。魔王様」

「う……ありがとう……」


 真っ赤になったリルちゃんを連れて、僕は部屋へと足を向ける。

 たまには……いいよね? こんな日があったって!


「さっきのことが悪いと思うなら、ちゃんと償って下さいね?」

「……コメット、何だかヘルグに似てきた……」

「あはは、そうかもしれませんね」

「そこ、否定するところ……っ!」


 だって本当のことなんですもの。

 さてと今日は、リルちゃんに償ってもらいましょう。




続きます。でも今日はこれで終わりです……すみませんっ。

次回『聖なる夜と勇者様』。……の予定(あくまで)


勇者さんはあれですね、ただの変態です(^O^)

というか魔王様が何歳になったかとか聞いちゃいけない。



以下返信です^^



>同志ですね! ええぜひ! というか、それより魔王様を登場させ(ry

同志様ァァァァ!(うるさい

させてみました。……んーこんなもんで宜しかったのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ