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第9話 魔族の人々

 何となくモヤモヤが晴れないまま、ディーゼルと一緒に大広間までやってきた。

 一緒に来ていいのかと聞くと、何と彼もちょうど大広間に向かっていたらしい。

 何でも今、あるイベントが行われているとか。


「ハロウィン?」

「ああ、それくらい知ってるだろ。まだもう少し先なんだが、それの準備だよ」


 確かに、そんなイベントもあった。

 ここ数年は、そういうイベントに参加する機会もなかったけれど、そういうのも楽しそうだなと僕はその話を詳しく聞くことにした。


「毎年行われてるんだ。20歳未満の子供たちは仮装して、大人にお菓子をもらいに行くんだよ」

「へぇ……」


 コメットは確か18歳だったはずだから、子供の方に混ざるんだな。

 それもそれで、楽しそうかも。


「ま、俺は20歳だからな。お菓子をもらえるのは去年が最後だったんだよ」

「そうなんだ……」


 少し残念そうに笑うディーゼルを見上げ、僕は呟く。

 そしたら、ディーゼルはお菓子をあげる側になるのか?

 子供たちにどんなお菓子をあげるのやら。

 僕もディーゼルからお菓子もらえたりしないかな。


「あぁ、それと、15歳以上ならあげるのもOKだぜ。他の人にもらったお菓子を他にやるのはなしだがな」


 お、じゃあ僕はどっちでもできるということだ。

 まさか、他の人からもらったものを他人にあげる人はいないと思うけど。

 ちょっと、ワクワクしてきた。


「お前はまだ子供だな。もし何か余ったらお菓子やるよ」

「子供扱いしないでよ、もう」


 僕は、むっとして言い返す。子供扱いされるのは嫌いだ。お菓子をもらえるのは嬉しいけど。

 でも、ディーゼルはそんな僕の言葉を気にする様子もない。


「そうかい。ま、あんまり食べすぎんなよ?」


 そう言って、悪戯っぽく笑うディーゼル。

 そんなに食べすぎたりはしない……と思うけど、どれだけもらえるかも分からないか。

 魔物一の美人だって言うくらいだ、かなりもらえるのかも。

 最低でももらった分は食べないとな。……食べすぎちゃうかも。

 っていうより、ここのお菓子って、どんなのなんだ……。

 だって、普通の食事にだって人間が使われてるんでしょ? お菓子だって、何が出てくるか分かんないぞ。


「あ―――っ! コメットじゃないっ!」


 人間の脳味噌でできたお菓子等と道を外れた恐ろしい想像をしていると、後ろから大きな声が響いてきた。

 そして僕は振り返る暇もなく、後ろから激突され。


「わぁっ!」

「あらごめんなさーい、隙だらけだったものだから♪」


 思いっきり転んで倒れたまま振り向くと、そこには正に百万ドルの笑顔を浮かべて立っている少女がいた。

 コメットに負けず劣らずの美人で、白い肌にセミロングの金髪とサファイアのような青い瞳が印象的だ。

 彼女は女の子らしい花柄のシフォンワンピースを纏い、優しく微笑んでいる。


「え……あ……あの……?」

「ん? 何よその目っ。珍しいものを見るような目で見ないでよ」


 ……まさか、この人も記憶喪失のこと知らない?

 ヘタレさん、全く伝わってないです。駄目じゃん。


「あー、アリセルナ。聞いてないか? こいつ、記憶喪失だそうだ」

「え? コメットが!?」


 よかった、ディーゼルが助け船を出してくれた。


「ああ、何でも勇者一行と勇敢に戦って、対等に渡り合っていたのだが、3対1じゃさすがに分が悪い。惜しくも敗れ、気付いたら庭に倒れていたそうだぞ。悲しいことに、記憶を全て勇者一行に奪われて」

「そうなの!?」

「ちょっとぉぉぉ!?」


 僕は全力でストップをかける。

 どこからそんな話が出てきた!?

 誰が勇者一行と対等に戦うかぁぁ!


「戦ってない! 戦ってないから!」

「え、だってお前そうやって」

「言ってない!」


 ディーゼルは、楽しくねーな等と呟いている。

 楽しくなくていいんだよ。

 だって、僕は―――身体はコメットだけど―――勇者なんだよ? 精神的には。

 勇者一行と戦うっておかしいだろう。

 いや、そういう問題でもないか。でもおかしいだろ。こんなか弱そうに見える少女が勇者一行と対等に戦えるなら、魔王城に辿り着く前に勇者一行なんて死んでるわ!


「と、にかく、私記憶喪失なので。お名前を教えてもらえません?」

「え、あ、ええ……私、アリセルナ=ヴィアンよ。アリセルナでいいわっ」


 強気そうな笑顔を見せるアリセルナ。

 多分、僕と同い年くらいなんだろう。


「よろしくね、アリセルナ」

「ふん。あんたとなんてよろしくするもんですかっ」


 彼女はそう言うと、ぷいとそっぽを向いてしまった。

 僕のこと、嫌いなのかな。


「そっかぁ……残念だなぁ」


 何だか悲しくなってきて、俯いてポツリと呟くと、アリセルナは多少焦ったようで自分の手を差し出してきた。

 何かと思って、彼女の顔を見つめると、アリセルナは少し赤くなって。


「し、仕方ないわね。握手くらいしてあげるわよ」


 ……うん、きっとこういう人なんだな。

 可愛いなー。


「うん、よろしくね!」


 僕はその手を取ると、しっかりと握った。

 彼女は早く放してやら何やらと言ってたけれど、僕はわざとしばらく放さずに。

 アリセルナは、最後には観念したようで、一緒に笑っていた。






 ―――ねえ、気付かなかったけれど、魔族って、結構いい人ばかりなんだなぁ。

 勇者という立場じゃ見えなかったものが、今なら見える気がする。

 魔物は敵。

 そんな考えは、勇者という称号とともに捨ててきた。

 そう、僕は今は勇者じゃない。


 紛れもない、この人たちの仲間なのだから―――





 ……それでも、僕には忘れられないものもある。


 アレス、キナ。


 それはかつての仲間たち―――



 僕のために、死んでいった仲間たち。



 ああ、彼らは僕を恨んでいるだろうか?


 彼らへの罪滅ぼしなんて、何ができるだろう?




 僕の不幸が、彼らへの罪滅ぼしになりますか? 神様―――




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