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文化祭どころじゃない 8

 「イズミ君?」とハタナカさん。「今日ユズりんと一緒に帰るんでしょ?」

「…帰るけど」とタダ。

「いいなあ~~~」とハタナカさん。

「あれ?」とオオガキ君が言う。「大島さん、イズミ君とやっぱ付き合う事になったの?」

 なってない、と私が言う前に、タダが言った。

「なってない」


 私だって『なってない』って言うつもりだったのに、タダに先にはっきりと言われて、ピクっとする。

「それはなに?」とハタナカさん。「イズミ君が付き合いたいのにユズりんが拒否ってるって事?」

もう…何でこんな所でそんな事まで突っ込むかなハタナカさん。

「いや」と答えたタダだが、今度は急にぱあっと笑った。私に言いながらだ。

「オレらはそんなんじゃないよな?」



 え…?

 どういう事かな…

 

 付き合ったりはしないんだよって事?付き合うような仲にまではならないぞって事?

 でもタダ、私を好きだって言ってくれたよね?それか、この場をごまかして早くハタナカさんから退散したいから?今日だって一緒に帰ろうってタダから言ってくれたのに…ここにいるオオガキ君にもやきもち焼いてくれたり…なのになんでこんなにきっぱり否定してんの?

 そう瞬時に、ぐるぐるっと『?』が頭の中で乱れ飛ぶ。それなのに私は思い切りうなずいて、「うん」と答えてしまった。

 「へ~~」とオオガキ君がタダに言った。「付き合ってないのに仲良くていいねぇ」

そして、「欲しいよな、そんな感じの女子の友達」、と同クラの男子に言うと、その子も「すげえ欲しい!」と同調する。

 曖昧な顔で笑ってしまう私だが、タダは普通の顔。そしてゴミを片付ける。

 「でもオレらもさあ」とオオガキ君が今度は私に言った。「友達だよね!ていうか来年の体育祭まではオレは相方だと思ってるからね」

笑いながら言ってくれる。こういう事を言っても、ウザい感じにも、もちろん気持ち悪い感じにもならず、明るい感じが素直に伝わってきて言われた私が嬉しくなところがオオガキ君のすごいところだ。良い人だな、と思う。二人三脚も私に合わせてちゃんと練習してくれた。友達だって言ってくれて嬉しいと思う。


 「なんかさ」とハタナカさんがオオガキ君に言った。「前にユズりんにね、タケトの小学の時の写真送ったんだ」

オオガキ君が少しむっとする。「マジか勝手に何してくれてんだ」

「え~~いいじゃんユズりんも『かわいい』って言ってたよね?」と私に聞くハタナカさん。

「あ~うん。でも、なんか勝手に見てごめん」

ハタナカさんの送り付けだけどとりあえずオオガキ君に謝った。

「いやいいんだけど恥ずかしいわ。え~~!どんなん送ったんだよ」

「ボウズのやつだよ。あんたずっとボウズだったじゃん」

「ボウズかよ」

「いいじゃんユズりんに『かわいい』って言われてんだから」とハタナカさん。

「いやオレはかっこいいって言われたいわ。ねえ大島さ…」

オオガキ君が言い終わる前にタダが私のひじをジャージの上からパッと掴んで少し引っ張った。

「帰り、」とタダが言う。「大島の方が先に終わっても、ちゃんと教室で待ってて」



 

 「付き合わないんだ~~~~」ハタナカさんが言う。

 タダは家庭科室にまた作業の続きに戻り、オオガキ君たちとも別れて私たちも教室に帰るところだ。

 ハタナカさんは笑顔だ。「なんかそれ聞いたらちょっと心が軽くなった感」

「…」

「あれ?ユズりん、残念?」

私の顔を横からのぞき込むハタナカさんが笑顔なのでちょっとムカついて、私は「別に」とはっきり答えた。

「そうかなあ。本当はイズミ君に『付き合って』ってちゃんと言って欲しいんじゃないの?はっきりとした彼氏と彼女になりたいんじゃないの?」


 

 そうなのかな。…そんな気もする。だって確かにさっきタダが『付き合わない』って言った時に、なんで?って思った。私の事を好きなんじゃないの!?って思ったのだ。

 『付き合って』って言われてないし、ってやたら思ってたのは言って欲しいからなのか?

 でも言われてどうする。タダと付き合うってどうなるの?一緒に帰ったり、休みの日も約束して会ったり、一緒に映画観に行ったり、一緒に遊園地に行ったり、好きって言い合ったり、友達に彼氏って紹介したり…逆にタダが私を彼女って紹介したり?

 ハタナカさんが言った。「ユズりん、何赤くなってんの?」


「やっぱり彼女になりたいんでしょ?」

「そんな事ないよ」

 タダだってそんなんじゃないって言った。だから私だってそんなんじゃない。

 …じゃあなんで好きだって言ったり、勝手に取り換えた私のシャーペン、ずっと使ってたりするんだろう。

 『好き』と『付き合って欲しい』って思うのはまた別の話?

 


 とりあえずハタナカさんの追撃を避けるために言う。「小学から一緒だから、タダは私の事、他の女子より接しやすいんだよ」

「『接しやすい』…なにその表現」

「ハタナカさんだってオオガキ君とは普通に仲良く話してた」

「私?タケトと?だって普通だもん。小学から知ってるし」

「私とタダもそれと一緒だと思う」 

「そんなわけないじゃん」


 だから、と私は思う。タダの誕生日ももっと軽く考えよう。とりあえずニーズを聞いて、そしてそのニーズに出来る限り近いものをあげる。

 タダは私の事を好きだって言ってくれるけど、付き合うっていうのはないって事だ。

 よし!と思う。

 私も意識し過ぎるのはなしにしよう。




 準備の済んだクラスから下校してもよい、いつもより早めの放課後の、それでもまだ結構な人数が残っている教室で「大島」と呼ぶタダ。

 『大島』ではない私以外の残っていた大半の女子のみなさんもタダを見る。

「大島」ともう一度呼ばれる。「帰ろ」

「…うん」

やっぱちょっと意識しちゃうよね。みんなの前で言うんだもん。それで一緒に、二人で帰るんだもん。

 帰り支度をしていると先に教室を出たタダがもう一度教室の入口のところから私を呼ぶ。

「大島」

小走りでタダのところへ行く私に女子のみなさんのため息だ。『あ~~あ』みたいな感じの。



 意識しない。

 意識しないよ私。二人で帰ってるけど別に家が近いからだし。

「明日たくさん売れるといいね」

とりあえず当たり障りない会話を入れる私。誕生日に欲しいものを聞くためのワンクッションだ。

 そしてすぐに本題に入る。早くミッションをクリアしなければ。

「…あのね!あのねタダ、…前作ってくれたチーズケーキ美味しかった」

「ん?」

急に話を変えたのでタダはきょとんとしている。

「あの時、私の誕生日の時だけど、作ってくれてありがとう」

「あぁ~~うん。まあ、また作ってやるけど」

また作ってくれるの!?

「…ありがと」と言いながら、まずい、と思う。もしかして私がまた食べたいと思っておねだりでこの話をしたと思われた?


 「それはありがとなんだけど、」と慌てて続ける。「それでね、明日のタダの誕生日に私もなんかあげたいと思っててね…なんか欲しいもんある?」

「明日って知ってたんだな。ヒロトに聞いた?…あ、でもハタナカも知ってたか」

「いや、ハタナカさん以外もきっとたくさん知ってると思うよ。私は中学の時の…」と、言いかけて止める。

「中学の何?」

「いや何でもない」

「中学の何、って」

「…ヒロちゃんに聞くのは違うような気がして、中学の時タダの事好きだった子たちのツイッター見て日にち確認した」

「…へ~~。…なんかそれビミョーだな」

ビミョー?

 「それで自分でも一応考えたんだけど良いもの思いつかなくて」と正直に言ってしまう。「それで本人に聞くのもどうかなって思ったけどやっぱ聞く事にしたの今」

「うん」

「いや、うんじゃなくて…ねえ!なんかある?欲しいもの言ってみて。…あんま高いもんとか、明日だからホラ、探すの難しいのとかは無理だけど」

 タダが少し目を反らした。そしてなんだかよくわからないけれど、恥ずかしいような、なんとなくニヤついたような顔をする。

 自分の欲しいもの言うのは恥ずかしいのかな。え?もしかして恥ずかしいもの欲しい?あ、やばい!ユマちゃんに相談した時の話思い出した!

 まずい、と思って急に首をぶんぶん振ったらタダがちょっとビックリしている。「どうした?」と聞かれて「いや何でもない」と答えた。




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