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文化祭どころじゃない 7

 「で?」とハタナカさんが私を横から覗き込む。「ユズりんは何あげるの?あげないわけないよね?だって手作りのチーズケーキもらってんだもん。私も教えたしユズりんも教えてよ」

「…私まだ何あげるか決めてない」

「へ?まだ!?明日なのに?」

「…」

「もう~~~ウソつかないでよユズり~~~ん。ユズりんが何あげるのかすっごい興味ある」

「ほんとにまだ決めてない」

「でもあげることはあげるんだ」

「だって…もらったし」

「ねえねえ、私、渡していいかなイズミ君に誕生日のプレゼント。嫌じゃない?ユズりん」

「え?」

「私がイズミ君にあげてもいい?」

「…どうして私に聞くの?」

「ユズりんが嫌だったらぁ~、イズミ君も受け取ってくんないかなぁ~と思って」

ふふふふ、とハタナカさんは笑って見せたがその笑顔が怖いよね。



 ハタナカさんだけじゃないんだろうな。いろんな女の子たちがタダに、いろんなものを渡す…何あげようとしてんだろう…すごい気になって来たどうしよう…

 中学の時もいろんな子たちが渡そうとしてたよね。実際にもらってるところは見たことないけど。バレンタインだって…ほぼヒロちゃんが横から手を出して来て、結局男子みんなで味わう事になって女子から大ブーイングが起きてたけど、タダが「ありがとう。みんなで食べれて良かった」って言っただけで女子はニッコリしてたよね。そして私がヒロちゃんにあげたチョコレートもタダとかニシモトとかと分け合って食べてたよね…あいつらなんであんなに仲良く分配し合ってたんだろう。

 

 私が嫌がったら…タダは他の女子から誕生日のプレゼントを受け取るのを断るかな?

 いや、私が嫌がるのどうのの前に、そういうのをいろんな人からもらったらめんどくさい事になるからって嫌がりそう。女子がらみの事でめんどくさいってはっきり言ってるのを中学の時にも結構何回も聞いた事あった。

 よくあれでみんなめげずにまたあげようとか思うよね。私は無理かな…


 

 「ユズりん?私があげても嫌がらない?イズミ君に嫌だもらわないで~~~とか言ったりしない?じゃあいいんだよね?渡しちゃうよ?ユズりんもいいよって言ってたって言ってもいい?」

「そこは私の事は関係なく渡したらいいんじゃないかな?」

「あれやっぱちょっとやだ?」

「違うよ。ハタナカさんが渡したいと思ってるんだったら私は別に…」

「別に?」

だって別に私とタダは付き合ってるわけじゃないし。タダが別に嫌がらないんだったら…

 

 タダが嫌がらなかったらそれが嫌かな…

 …嫌なのかも。タダが他の子からのプレゼントを喜んでもらったらすごく嫌なのかも…



 ハタナカさんが続ける。「一緒に帰るんでしょ?」

「え?いや…」

「帰るんでしょ?なんでいろいろごまかそうとすんの?」

「ごまかそうとしてないよ。…帰るけど」

「あ~~あ!」ハタナカさんが吐き捨てるように言う。「どうせさぁ、私らが何あげたって、イズミ君はユズりんのやつしか喜ばないわけじゃん」

「…」そんな事ないよ。私なんかあげるものさえ決まってないのに。

「それでもあげたいじゃん。どうしようもないじゃん!」

 そうだよね…私だって前はヒロちゃんに対してそんな気持ちだった。




 ハタナカさんに絡まれながらゴミ置き場に着いてクラス名とゴミの種類と個数を台帳に記入していると、「あれ?」と後ろから声をかけられる。

「大島ユズルちゃん!」

フルネームで呼ばれて振りむくとオオガキ君だ。

 オオガキ君は体育祭の時の学年種目の二人三脚で私とペアになった他クラの男子で、陸上部で県の記録とかも持っているすごく足の速い子なのに、私に合わせて練習してくれて、迷惑かけたらどうしようってばかり考えてた私も、オオガキくんのおかげで楽しく一緒に走り切る事が出来た。

 オオガキ君の隣の、たぶんオオガキ君と同じクラスらしい男子が「誰?」と聞いたので、オオガキ君は私の事をその子に紹介する。それからハタナカさんの事も。ハタナカさんとオオガキ君は同中なのだ。

「体育祭でオレの二人三脚の相方だった大島ユズルちゃん」

「へ~~~」とその男子は私とハタナカさんを交互に見ながらペコっと軽く挨拶してくれた。

私もペコっと返す。ハタナカさんはとても華やかにニッコリ。

「…あれ?」とその子が思い切り私を指さして言った。「あ~~~なんかほら、あれなんじゃね?大島さんて、タダのカノジョだってうちの女子も騒いでた子!」 

「…」



 何にも受け答えの出来ない「…」だ。ハタナカさんが隣にいるのにこの指摘。ハタナカさんが半分白目をむいて唇をぶうっと尖らせたので、それを見たオオガキくんの同クラの子はちょっとビックリしている。

「あ~~~」とオオガキ君が私を見て言った。「まだカノジョじゃないよね」

「え?そうなの?」と同クラの子。「付き合ってんじゃないんだ。すげえ女子騒いでたけど。へ~~」

「まだだよね?」とオオガキ君。「あれ?やっぱ付き合う事になった?なんかオレの知らないうちにそれは嫌だな」

え?

 ぶんぶんと首を振る私。

「だよね~~~」とにっこり笑うオオガキ君。


 そりゃあ付き合ってないけど、良く知らない男子の前で、しかもハタナカさんが一緒にいるのにそんな話をするのも…と思っていたらハタナカさんが言った。

「カノジョだから」

「え?」間抜けな感じの聞き返しをしてしまう私。

「付き合う付き合わないの前にイズミ君が自分のカノジョにしたいって思ってる時点でもうユズりんはイズミ君のカノジョだから」

 変な顔をしているであろう私、そして「は?」みたいな感じのオオガキ君、そして連れの男子は、もういいや、って感じで自分のクラス名を台帳に記入し始めた。



 「ハタナカさん、教室戻ろうよ」

小声でハタナカさんに言った私の声をハタナカさんは聞いていない。なぜならそこに、調理室で出たゴミの袋を持ってやって来たタダがいたから。

 わ~~~、と思う私だ。こんなところにタダが来た。

「イズミ君~~~、」ハタナカさんがあからさまにキャピる。「美味しかったラスク~~~。イズミ君が焼いてくれたやつ」

「え?イズミ君焼いたの?」と笑顔のオオガキ君。「それ、オレも食いたい」

「…オレだけが焼いたんじゃねえよ」

当たり前の答えを淡々とハタナカさんとオオガキ君に返すタダ。いつも通りのタダだ。

 そしてじいっとオオガキ君を見て、そして私を見るタダ。


 「イズミ君~~~」ひるまなかったハタナカさんが言った。「お誕生日おめでとう!朝一で言おうと思ったんだけどなかなか顔合わせられなかったから」

少し間を開けてから、「今日じゃないけど」と、今度は恐ろしく冷めた口調で答えるタダ。

「知ってる~~~」とハタナカさん。「明日だよね!」

「なんで知ってんの?」ありがとうも言わずそう聞くタダだ。

「え~~~、女子は結構知ってたよ?ねえユズりん?」

でもプレゼントも考え付いていない私は気まずくて目を反らす。

「お~~、明日誕生日なんだ?」と聞くオオガキ君。「おめでと!」

「…」無言のタダ。

いや、そこはありがとうって言ったほうがいいんじゃないの?

「おめでとう!」ともう一度明るく言うオオガキ君。

「…ありがと」と小さく答えるタダ。

ありがと、って言った!一応言うんだな、良かった。オオガキ君もにこにこ笑ってる。



  そこでやっとタダは私に聞いてきた。「ラスクうまかった?」

「うん」

「良かった」とにっこり笑うタダ。

「いやイズミ君」とオオガキ君が言う。「オレが『おめでとう』って言った時との落差!」

「オオガキ、」とタダが言う。「普通にオレの事は苗字で呼んで」

「え~~マジで」と面白そうに笑うオオガキ君。

「いいから」とタダ。

「大島さんオレねえ、」とオオガキ君が言う。「12月!12月が誕生日だから。13日だからね。クリスマスと一緒に祝ってくれてもいいよ」

「…あ、うん…」へへ…と笑うしかできない私。こういう事言われた時に気の利いた返しが出来たらいいよね!



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