文化祭どころじゃない 6
ハタナカさんはてきぱきしてるし成績もいいし、巨乳だし、大人っぽくて綺麗だとも思うし…タダはそのハタナカさんに何回も告られて断ったんだよね?
それで私はてきぱきしてないし成績は普通だし、貧乳だしね…その私を好きだとかおかしくないか?
私が男子だとしたら、ハタナカさんみたいな派手めの押しの強い女子はやっぱり苦手だと思うけど、何回も好きだって言われたら嬉しいしだんだん気になってくると思う。
そして私が男子だとして私に行くか?
行かないよね!
タダが私の事を好きだと言ってくれても、嬉しいと思いはしても何でだろうって思うのだ。どんな感じで私を好きになったのかも話してくれたけど、そしてそれを聞いてものすごくドキドキして嬉しかったけれど、そんな事で?とも思ったのだ。本当なの!?って。
そしてタダの気持ちを疑いながらも、私も意識し始めてしまったのだ。
今はタダの事がすごく気になる。
…じゃあ私はいつからこんなにタダの事を意識し出したんだろう?
この間のヒロちゃんの高校の文化祭に二人で行った時には確実に意識していた。行く前から。その約束をした時にはもう、あ~~二人きりで行くんだどうしようって思ったよね…
誕生日にケーキ焼いて貰って一緒にタダの家で食べた時には、まだそこまでじゃなかったけどやっぱり意識していたし嬉しかった。タダの弟のカズミ君の幼稚園参観に一緒に行った時も…うっすら意識していた。…花火大会で一瞬抱きしめられた時はまだなんとも思ってなかったけど、ドキドキはしたよね?でも急に抱きしめられたら誰だってドキドキする。それにあの時はドキドキよりもビックリの方が大きかった。
タダはあの時『感極まった』って言ってなかったっけ?それでその後も別に普通だったし。ずっと普通だし。なのに私は、今思い出すとドキドキするし。
ハタナカさんが他の仕事のために教室から出て行って、私もまた作業の続きを始めたけれど、ハタナカさんたちに詰め寄られたせいで余計にずっとタダの事を考えてしまう。
それに明日はタダの誕生日だし。
やっぱり今日一緒に帰る時に頑張って聞いてみるしかない。
「誕生日明日だよね?」みたいに当たり障りなく。「タダがくれたケーキ美味しかったから、私もお返しに何かあげたいんだけど何か欲しいものある?」って。
でもそれって相手からしたら嬉しいか?単なるお礼ですって感じがしない?やっぱり自分で考えた方がいいんだろうけど…何しろ明日だからな…
この1週間、何回もラインで聞こうと思ったけど、やっぱり自分で考えてあげた方がいいんだって思って聞けなくて、でも全然考えがまとまらなかった。これからの季節、手袋とかマフラーとか、中学の時の女子のみなさんのように思ったけど、そんなの渡したらなんか…彼女クサくない?
ユマちゃんにも相談したいと思ったのだけど、からかわれそうで聞けずにいたのだ。最近は私とタダの事を面白がってる感じが強いんだよね。さっきだって敵か味方かビミョーだった。ていうかほぼ敵感漂ってた。
でも他にタダとの事を相談できる子もいないし、ユマちゃんとまた二人になったので結局そっと相談してしまう。
「おっ?あげるんだ?そっか、そりゃあげたら喜ぶよ」
あれ?良い感じで答えてくれた。良かった。
だから、「やっぱり食べ物もらったのに、食べ物返しちゃダメだよね?」と聞いてみる。
「そりゃさあ、」とユマちゃん。「食べ物もらったんだから、ユズちゃんは『じゃあ私を食べて』的な?感じで頑張ってみようか?」
「…なに言ってんの?…なに真顔で言ってんのユマちゃん」
「え~~だってそういうのよくあるじゃん」
「よくあるの!?」
「マンガとかさ、キラキラしたドラマとかさ」
「マンガとかドラマならね!そりゃあるよ。でも普通に私がそんな事言ったらそうとう気持ち悪いってっていうか絶対言うわけないし!」
「そうかな?一遍言ってみ?引かれるかどうか」
「嫌だよ!!そんなのユマちゃんだって言えないでしょ?」
「『食べて』、までは言ってないけどヒロトの誕生日に初めてチュウしたんだ私から」
「っっマジでっ!!」
「うん!目ぇつぶってって言って。てへっ。すんごい喜んでた」
マジか…チュウか…喜んでたのか…ユマちゃん大胆だな…私は絶対言えないけどな…
仮に私がそんな事言ったらタダは…
「タダも欲しいかもよ」とユマちゃんが笑う。「ユズちゃんからのチュウ」
…ダメだ…今、想像してしまった私がタダにキスするところを。された事もないのに。
それでもタダは普通通り、喜びも嫌がりもしないで淡々と受け入れてくれそうな気もして怖い。
「ん~~。何がいいかなぁ…」と、ユマちゃんは楽しそうだ。「ヒロちゃんに聞いてみたら?幼馴染の。タダの欲しそうなもの」
「そっか…やっぱりそうした方がいいのかな…」
「いいわけないじゃん」
「え?でも今ユマちゃんが言ったんじゃん」
「私が言ってもよ。ずっとユズちゃんがヒロちゃんに片思いしてるのをずっとそばでタダは見てたのに、それでもユズちゃんを好きなタダの欲しいものをヒロちゃんに聞いていいわけないじゃん。バッカじゃないの?ちょっと考えればわかるでしょ」
「…」
なんなのユマちゃん。なんの権利があって私を試してんだよ。やっぱ相談しなきゃ良かった。
「わかった。もうユマちゃんには聞かない。自分で考える」
「ハハハ」と笑うユマちゃん。「普通に聞いたらいいんだよタダに。何欲しい?って」
やっぱりそれしかないよね。
ユマちゃんが言う。「『ユズが欲しい』とか言われたらどうする?」
「言わない」冷たく答える私だ。「言うわけないじゃん。そんな呼ばれ方もしてないし!タダはそんなチャラい事絶対言わない」
「へ~~~~そうなんだ~~~~。でも言われたらよ?言われたらの話。どうする?」
「どうもしない。絶対言われないから」
「へ~~~面白くない」
ユマちゃんが面白いか面白くないかの問題じゃないからね。やっぱユマちゃんになんか聞くんじゃなかった。
「私段ボール片付けてくる」
そう言って私は、ただ面白がって私をからかうユマちゃんから離れるように、使わない段ボールを抱えて教室を出た。が、すぐに後ろから私を追って来る足音が…
「ユズり~~~ん」
ハタナカさん!さっき教室から消えたと思ったのに。
もうまだなんか私に用があんのかな!振り返っちゃったし、立ち止まるしかないじゃん…
「ちょっともうユズりんたら~~~」とハタナカさん。「まだ私に用があんの?みたいな顔止めてくんない?面白いんだけど」
…ボロばれだ…
「私も一緒にゴミ置き場行く~~~」とハタナカさん。
「…一人で大丈夫だけど」
「一緒は嫌なの?」
「…そうじゃないよ」
「そっかそっか」と笑顔になるハタナカさんが聞いた。「で?イズミ君に何あげるの?」
「え…」
「やだもうユズりんたら~~~。誕生日だよ、イズミ君の」
ハタナカさん、タダの誕生日知ってんのか。やっぱりな。そりゃ知ってるよね。タダの事大好きなんだから。私が知らない情報だってたくさん知ってそう。
「あれ~~~~~」小首をかしげ微笑んで私の顔を覗き込むハタナカさん。「教えたくない?」
「…」
「私はねぇ、ちょっと良さげなそれでいてそんな高くないシャーペン。ほんとはもっと何か良いヤツあげたいんだけど、そういうの絶対断るじゃんイズミ君。シャーペンだったらもらってくれそうだし、私があげたの使って欲しいから。今、なんかわけわかんない黒猫の絵の柄が付いた黄色いシャーペン使ってるでしょ?あれ止めて私があげたの使って欲しいから」
それ、私のをタダが勝手に自分のシャーペンと交換して使ってるやつだ…