文化祭どころじゃない 5
「だからさ」とハタナカさん。「話戻すけど、私たちはそれをズルいって思っちゃうわけよ?弟がいてもいなくてもそれは二人きりといっしょなの!しょうがないでしょそう思っても。だってイズミ君のうちだよ?私だって上がり込んで泊まりたいわ」
「「「「「「「「ほんどだよ~~~~~」」」」」」」」と女子のみなさん。
「…」
「でもさ、ユズりんにしてみたら、そうやって自分だけに作ってくれた人のを他の女子が食べるって嫌だとは思わないの?自分だけの特権みたいなさ?そういうの思わないわけ?」
タダの焼いたラスクを女子のみなさんが試食するのが嫌かどうかって話でしょ?
それは嫌じゃないけどな…私が嫌っていうよりタダは嫌かもしれないけど。タダはそういう感じで騒がれたりするのはすごく苦手だから。
「どう?」とハタナカさん。「嫌なら嫌ってここではっきり言いなさいよ」
ためらって、「…そんなに…」小さい声で答えようとする私だが、すぐに突っ込みが入る。
「なに?そんなに、なに?はっきり言って」
「そんなに嫌じゃないよ」
「『そんなに嫌じゃない』…。なにそれ。はっきりしないなあ!」とハタナカさんに言われてビクッとしてしまう。
「嫌じゃないです」と言い直す。
「ほんとに?」
「…ほんとに」
「余裕だね~~~」
「…別にそんなんじゃ…文化祭のためにみんなで作ってるやつだし…」
「へ~~~~。じゃあユズりんに焼いたチーズケーキと同じやつを焼いてもらってみんなが食べるのは?」
…それも嫌じゃないかも。おいしかったもんねぇ…。あの美味しさを分かち合いたいって気持ちもあるよね。でもあれを食べたらみんな、タダの事もっと好きになりそう…それは嫌な感じする…
「じゃあさじゃあさ、」と私の答えを待たずにまだ詰めよるハタナカさん。「イズミ君が他の誰か別の子にもケーキ焼いて渡してたら?ユズりんに焼いてあげたのと同じやつ。それは嫌でしょ?」
それは嫌だどうしよう。
私にくれた時みたいに「オレが作ってやるから」って言って誰かに焼いてあげて、タダの家にその子を呼んで一緒に食べて…
それは嫌だ。
…でもタダは他の子にそういう事するかな。今は私の事を好きだって言ってくれて私にだけそういう事をしてくれている。誰にでもなんて事はタダはしないと思う。
それは私が今までタダを見てきた上でそう言っているのだけど、タダはそういう事をしない人であって欲しいっていう私の願望かも…
…あ~~でもタダが私じゃなく、やっぱり思い直して他の女の子を好きになって、その子に私にしてくれたのと同じような事をしてあげたとしたら?
…それも嫌だどうしよう…
「嫌でしょ?」と詰め寄るハタナカさん。「ね?て事はやっぱりユズりんだってイズミ君の事好きなんだよ」
「…」
「あれ?返事ないけど?」
「…」
「好きなんでしょ?」
「…」
「なんではっきり言えないの?」
「…」
「じゃあ」とハタナカさん。「好きか嫌いかで言うと?」
カズミ君か!と心の中で突っ込む私。
「まあまあまあまあ」とユマちゃんが割って入ってくれた。
遅いよユマちゃん!
「ユズちゃんは夏に大きな失恋したばっかだからホラ。まだねえ、気持ちがほら」
「夏でしょ?」とハタナカさん。「はっきり振られたんでしょ?保留にされてるわけでもないんでしょ?」
「…」むっ!!
「逆にさぁ、そんな傷ついてるとこに優しくしてくれる子いたらその子の事好きになるでしょ」
「…」
…あれ?私のってそれに近い感じ?
「いやハタナカさんもう」とユマちゃん。「そりゃあねえ、ユズちゃんははっきりしないよ?『…』が多いよ?でも、だからこそ!こんなユズちゃんだからこそ!ずっと10年くらいも片思いした子にボロッと振られたら、そんなにすぐ次にはいけないんだよ。ぐじぐじしちゃうのごめんね!」
ユマちゃんめ。
「それで?」とハタナカさん。
まだなんかあるのか?
「明日イズミ君と回るの?文化祭」
さっきも聞いたのに。
首を振ってユマちゃんを見ると、ユマちゃんが顎をぐいぐいっと出して目で合図した。もちょっとはっきり答えろって事だな?
「そんな話はしてないよ」ときっぱり答えるとハタナカさんが目を細めた。
「そんな話はしてない?」ハタナカさんが聞く。「これから誘われるって思わないの?ちょっとは思ってるでしょ?」
「…」問い詰めキツいなほんとに…
「それか」とハタナカさん。「もう当然っていうか暗黙の了解っていうか、どっちが誘わなくても一緒に回る、みたいな?」
「…」そんな事あるわけないじゃん。
「後は」とハタナカさんが畳み込む。「私たちのこの絡みがうざいから嘘ついてるか」
「…」
どうしよう…。ほんとに『…』ばっかだ私。嘘はついてないけどハタナカさんたちの絡みはうざい。
…でも誘われるかもしれないよね。だって今日一緒に帰る事にしてるもん…。けど誘われないかもしれないし。暗黙の了解とかあるわけないし。タダだって男子の友達と回りたいって普通に思ってるかもしれないし…あっ、じゃあユマちゃんがユマちゃんの彼氏のヒロト君と一緒に回ったら私一人になっちゃうのかな。でもユマちゃんはヒロト君と回りたいよね…
と、そこへ「誘われるんじゃない?」とユマちゃんがひと際大きな声で言ったのでビクッとした。
女子のみなさんも「へ?」って顔をしているし、ハタナカさんが、何!?、みたいに睨みを聞かせてる中、ユマちゃんは笑顔でみなさんに言った。
「だって今日、タダが『帰りいっしょに帰ろう』ってユズちゃんに言ってんの聞こえたし」
あ~~~~~…
とたんに私の周りからパパッと散る女子のみなさん。「ほんとにも~~~」とか「はい終わった~~~」とか「冗談じゃないっつんだよ」とか「くそしあわせものめ」とか、去りながらのぶつぶつ言う声が聞こえる。舌打ちも聞こえたよね…
「ユズりんはあれだな」とハタナカさんが吐き捨てるように言った。「天然ぶーくそだな」
天然ぶーくそ?天然ぶーくそって何?天然より格段に悪い、みたいなやつ?
その後男子と一緒にラスクを焼いていた水本先生が試食を配りに先に戻って来たが、女子のみなさんのテンションのだだ減り具合に戸惑っていた。
「あれ?みんなあれ程食いたがってたタダのラスクだけど?」
ホラホラ!と言う感じでラスクが入ったビニル袋を掲げて満面の笑顔を見せる先生だ。
女子のみなさんが低い声で答える。「「「「「「「はい食べたいで~~~~す」」」」」」」
「…どうしたみんな、」女子を見回す先生。「なんかあった?え?なんかあった?大島?」
なぜ私に聞く!
答えられない私にもう一度、「大丈夫?大島」と聞く水本先生。
大丈夫か大丈夫じゃないかって言ったら大丈夫じゃないよ『天然ぶーくそ』って言われたからね私。
その私になぜピンポイントで聞く。
あ~~~~っもうっっ!嫌だ~~~~~~!嫌われたくない!
苦手な女子に、別に好かれなくてもいいけどでも絶対嫌われたくはない。
タダと付き合う事になったりしたらこういう感じがずっと続くって事?