表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

文化祭どころじゃない 3

 ヒロちゃんとタダを置いて、ユキちゃんと二人、クラスを周っていた間、不思議な気持ちになったのだ。

 なにせ、あんなに好きだったヒロちゃんの彼女と二人で歩いているんだから。ユキちゃんが自分の友達に、「友達なんだよ。ヒロトの幼馴染の子。なんと私と誕生日同じ日!」って紹介してくれたのもとても嬉しかった。

 そしてこれもタダのおかげだな、と思っていた。

 タダが私の事を好きだって言ってくれて、私がそっちに気を取られ始めなければ、私は今でもヒロちゃんの事だけをしつこく思って、ユキちゃんにもきっと黒い気持ちを向け続けていたに違いないから。

 

 結局時間が来るとユキちゃんは仕事に戻らなくてはいけなくて、一人になった私を探しに来てくれたタダと二人でまた、来た時と同じようにバスで乗り、全くいつもと変わらないタダの隣で『私だっていつも通りだ』と言い聞かせてはみたものの、『ジャージカフェ』での一連のゴチャゴチャを思い出すともう寝たふりをするしか出来ずに、それでも心の中ではずっとソワソワ、若干居心地悪い感じで家まで送られましたとさ。




 「はぁ…」

 私は力無いため息をまた吐いて、文化祭の準備に取り掛かる。ガタガタとテーブルのセッティングをしながら考える。教室の中の机を4つ、あるいは2つずつ組み合わせ、手芸の得意な女子が格安で手に入れて来た布をカットして作ったテーブルクロスをかけながら、家庭科室でラスクを焼いているはずのタダの事をチラチラチラチラ考えてしまう。


 今日一緒に帰ろうって言われた…

 普通に言ってきたなタダ。恥ずかしいとか嬉しいとかの感じも全く見えない、いつも通りの淡々としたタダ。

 だから私も普通にするしそんなの。家が近いから普通に一緒に帰るだけだし。それにちょうど良かった。明日のタダの誕生日、何欲しい?って聞いてみよう。 


 ヒロちゃんのところの文化祭の帰りに寝たふりをしながら思ったのだ。「そうかタダの誕生日って11月じゃんもうすぐじゃん」て。11月っていうのは知ってたんだけど、はっきり何日かわからなかったから、「あ、そう言えばさ、」とか言って聞いてみようと思ったのだけれど、寝たふりから急に目覚めてそれ聞くってどうなの?と思ったら聞けなくてずっと寝たふりをした。



 それで帰ったとたんにヒロちゃんの、もうほぼつぶやかなくなったツイッターを確認する。聞けばすぐに教えてくれるんだろうけど、長い事好きだったヒロちゃんに、最近意識し始めたタダの誕生日を聞くのは恥ずかしい。それにニシモトの事もあんな風に聞いてきたヒロちゃんだ。私がヒロちゃんの事をずっと好きだった事なんかそっちのけで、タダが私を前から好きでいてくれた事も知っているから本気でからかってきそうだ。

 ヒロちゃんだけじゃなく、ヒロちゃんの友達の男子はほぼタダの友達なわけで、特にヒロちゃんのところの文化祭にも来ていたジャージ5人組の男子はダメだ。私がタダの誕生日を聞いて来た事をすぐに本人に教えそう。まああいつらに聞く気はないけど。

 あれ…なんでここでニシモトの笑顔が浮かぶんだろう…

 ニシモト、私の事が好きだったって…ほんとかなって思うし、今は私の事なんか本人も言ってたように全然何とも思ってないんだろうけど、ほんの一瞬でも好きな女子として想われてたと思うと、やっぱり嬉しいかも。


 それでヒロちゃんのツイッターをたどっていったが、タダの誕生日については一言も無し。なので、中学一緒だった女子で絶対タダの事を好きだった子のを見ていく。

 本当はあんまり見たくないんだよね…。前に、私ってはっきり名前を挙げられはしなかったけど、タダ絡みでヒロちゃんと仲良くしてウザいってあげられてた事があったから。


 そういえばタダの誕生日に何かあげたい女子たちが騒いでいたよね…手袋とかマフラーとか身につけてくれるものをあげたいって言ってる子たちもいた。何人かからマフラーとかもらったら毎日取り換えなきゃ、きっとけんかになるよね?どうすんのタダって余計な事を思ったのも覚えてる。…あの時もしかして誰かからはもらったのかな…タダがしてたマフラーって何色だったか全然覚えてないけど、そしてマフラーをしてたかどうかも覚えてないけど、もしかして誰かにもらったのを着けたりしたのかな…

 しないよね?だって…だって私の事をずっと好きだったって言ってくれたし。好きな子がいたら、他の子からもらったりしないよね?…いや、もらうかな…私だったらどうだろ…ペンとかノートくらいだったらもらってもいいかなって思うけど、身に着けるものはもらわないよね。

 

 

 『おめでとう大好き』…

 すぐ発見。11月2日か。

 念のために他の子の11月2日も見ると、『せっかく手袋あげようと思ったのに受け取ってもらえなかった~~~~』、『プレゼントは受け取ってもらえなかったけど、おめでと!って言ったら、ありがとうって小さい声で答えてくれたよ!!かわいい!!』。別な子の11月1日に、『ほんとは明日なんだけど私が一番乗りでハッピバースデイ!』。

 あっ、はっきりと2日に『大好きなイズミ君お誕生日おめでとう!』ってあげてる子がいた。

 タダ、プレゼント受け取らなかったんだ…けど、おめでとうって言われて、ありがとうは言ったんだ…そりゃ言うか。


 

 でもやっぱりもしかすると…プレゼントを受け取ってもらった子もいるかも…、と探してみようかと思って止めた。そういうのを見つけたらたぶん、今の私は嫌な気持ちになりそうな気がするし、そんな子がいたら、その時にもっと騒ぎになってたと思う。


 高校になってから一緒の子たちが今度のタダの誕生日をどんな感じで迎えようとしているのかも探ってみようかと思ったんだけど止めた。やっぱりそんなの知りたくない。

 


 そうかでも11月2日か。それにしても11月の序盤過ぎる。考える間がない。

 第一、本当にあげるのかタダに誕生日のプレゼントを。

 「これあげる。おめでとう」とか言ってあげるのか?

 でもあげないわけにはいかない。手造りでケーキ焼いてもらって弟のカズミ君も一緒にお祝いしてくれたのに。

 そして実際何をあげたらいいのか全くわからない。

 手作りのチーズケーキに対する対価が何なのかわからないよどうしよう。



  実際、誕生日に何欲しい?って聞くのがもう恥ずかしいような気がするんだけど考えす過ぎだよね。普通に聞けばいいんだよね。『チーズケーキおいしかったから私もタダの誕生日にお返ししたいんだけど』って言って、『今何が欲しい』って。『あんまり豪華なものはあげらんないけど』って。

 もやもや思いながら作業していると、仲良しのユマちゃんも別な作業がすんで私のところへやって来て、一緒に作業をしていたらハタナカさんも私の隣にやって来た。


 ハタナカさんは入学してすぐにタダに目を付けたクラスの派手目の女子だ。今は文化祭実行委員をタダと一緒にやっている。タダと私が一緒にいるといつも絡んで来ていたのでつい身構えてしまう。そして実際夕べハタナカさんからラインが来たのだ。『あさってイズミ君に何あげるの?』って。

 ハタナカさんもあげる気なんだな。そりゃあげるだろうね。タダの事をすごく好きだし。何あげるのかな…


 「まだ決めてないよ」と正直にハタナカさんに返したら、「あさってってなに?って聞くかと思った天然ぽく」とすぐに帰って来た。

 んん~~…これは悪意?

 返信を迷っているうちに次のラインか来た。

「私何あげると思う?」

「わかんない」とすぐ返したらまたすぐ来た。

「私もわかんな~~~~い」


 …なんだこれ、と思う私。私をバカにしてんのか。結局その後何も返せないでいたら、ハタナカさんからももう来なかった。後味悪いなもう!


 ハタナカさんは見た目から言うとツイッターとかインスタとかバンバンやりそうに見えるんだけど、実際は全くしてないらしい。意外過ぎたし、本当はどうだかわからないけど、ハタナカさんからラインが来るようになったときに、私にやってるのかと聞いてきたから、見るだけと答えたら、『私やってないけどユズりんやってんならユズりんのは見たいなと思って』と言われた。『もちろん!それはイズミ君の動向を探るためだけどね』って。

 本当はハタナカさん、何あげるつもりなんだろう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=501094151&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ