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入学式の翌日に行われた学力テストの結果が一週間後の今日、貼りだされた。

結果は入試と同じく。入学式後の半日を勉強に当てた甲斐はあったようでほっとした。

「おーさすが、和斗」

「好季も健闘してるじゃん。総合10位なんて」

「そりゃぁそうでしょー。Sに居る以上は俺も上を目指さないとねー」

「それにしちゃ、苦手科目が特出してないか?」

そうなのだ。総合順位の他に科目ごとの順位も掲示されていたのを見るに好季は英語が足を引っ張っている。それさえ克服すればもう少し上を目指せそうなぐらいには。

「俺は日本から出る予定は無いから良いんだよ」

「出なくても国際社会の世の中だぞ?必要な場面が出てこないなんて保障は…」

「わかってんよっ!わかってるから皆まで言うなっ」

まだ中学入ったばっかだし、これから頑張れって宥めつつ予鈴のチャイムに追われるように俺達は教室に戻った。




キーンコーンカーンコーン…

昼休みのチャイムが鳴って辺りがざわめき始める。授業中は静かなこの教室も休憩時間ともなれば、普通科の連中と大差なくはしゃぐ。

「あれ?和斗どっか行くの?飯は?」

立ち上がり、教室の入口に向って歩き出したところで購買帰りだろう好季に声をかけられた。

「先生の呼び出し。食ってて」

「あー、なるほど。いってらー」

「んじゃ、後よろしく~」

「へ?あ、うんっ???」

何に対する「よろしく」かはわかってないようだけど…まぁ、いいだろ。戸惑う好季をそのままに屋上へ向う階段を昇った。もちろん、呼び出しなんて嘘だ。

入学式の日から毎日尋ねてきてるらしいんだよね。和蔵初音。

彼女のことを嫌ってるとか、そういうわけじゃないんだ。ただ、世界が違うってのが理解出来てるだけでさ。彼女はこの辺りに住んでるやつなら誰でも知ってるような会社のお嬢様。

聞いた話によると、世が世なら一国一城のお姫様だったらしい。

よく考えなくてもわかることでしょ。お友達としてでもあの子の傍に俺なんかが居ちゃいけないでしょってことはさ。

今日まで逃げ切れてるのは、毎日居場所を変えてるからだろう。まぁ、そろそろ見つかるかもなーと思いつつ、屋上に着いた俺は、定位置に転がった。


特進科校舎には屋上で惰眠を貪るような不真面目な人間は少ないようで、見つけた当初からほとんど誰も居ない隠れ家だった。

給水塔に凭れてうつらうつらしてると、キイッと重い金属の扉が開く音が聞こえた。

珍しい…こんなところに態々来るやつが他に居るなんて。誰が来ようと俺には関係無いけど。

「和斗さ~ん。どちらにいらっしゃるんですか~?」

って、噂をすればだ…。入口の上に居るから見上げない限り見つかることはないけど、少し身を伏せておくか。

「和斗さ~ん、和斗さ~ん」

キョロキョロと周囲を窺がってる。出入口がある建物の裏も確認してるみたいだけど無駄無駄。

さて、もう一度寝直すか。もう少し寝れる筈だし…って、まずいっ!!!いつもの定位置に居たんだった!!

「…んだあ?お嬢ちゃん、こんなとこで何やってんだ?」

「えっ…あっ…えとっ」

ズリズリと移動して裏側を覘くと強面の男子生徒と真っ青になって戸惑う初音が居た。

あー…もう…メンドクサ…。

「石戸先輩」

下に居る男子生徒に声をかける。

「和斗さんっ」「おう、和斗か」

2人同時にこっち向かないで欲しいなぁ。さっきまで青かった顔色も笑顔に変わってるし。先輩も俺と初音を見比べながら「知り合いか?」って。

「お騒がせしてすみません」

「いや、構わんが…もしかして例の?」

「えぇ…」

それだけ言って後は黙ってて下さいと人差し指を口元に持ってきてジェスチャーした。丁度俺と先輩を見比べてたから彼女からは見えてない筈。先輩には初音から逃げてるってことは説明してあったから。

この石戸先輩というのは3年生で特Kに所属している意外と凄い人。この人との出会いは数日前。

隠れ家を探してた俺はこの屋上に辿り着いて、先客の姿を発見した。それが、この人。


体がデカイってのと、目付きが鋭いってので色々と苦労してそうな人だなってのが最初の感想。

「こんにちは。良い天気ですね」

「あぁ…絶好の昼寝日和だな」

想像どおり見た目とはギャップのあるタイプのようだ。いきなり声をかけたのに普通に返してくるなんて、結構良い人じゃないか?

「1年の真渡和斗って言います。ここ、俺も昼寝に使って良いですか?」

「俺は3年の石戸圭一。ここは公共の場所だから俺に断る必要は無いぞ」

そっけない物言いだけど、真面目に答えてくれてる。実は結構優しい人だったりするんじゃないのか、この人。

「それもそうでしたね。ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げて良さそうな場所を探す。とりあえず、これで学校での自分の寝床を確保出来た。

端まで歩いて入口を振り返る。入口の上に給水塔。

あそこなんかいいんじゃないか?はしごを上るとそこは丁度日陰もあって、成長途中の俺の体なら十分転がれるだろう。というか、さすが七宮。こんな、人が来ないようなところも掃き掃除されてるんだなぁ。お陰で制服を汚さなくて済みそうだ。なんて、寝床の用意してたらふいに声をかけられた。

「お前Sクラスのトップだろ。こんなとこで寝てて良いのか?」

ふいに言われて何のことかとキョトンとした。

「なんでですか?」

「執行部の誘いとか、学年代表なら委員長あたり押し付けられてもおかしくないだろ」

あぁ、そういうことですか。

「適任が居ましたので。俺、昼は睡眠をとるって決めてるのでイレギュラーな用事入れられるの嫌だったんです」

「ほー。それはわかったがなんで昼は寝るんだ?」

「…結構、突っ込んできますね。先輩」

「純然たる興味。好奇心てやつだ。お前にだってそういう感情はあるだろ」

「それもそうですね」

「で?」

「言わなきゃ駄目ですか?」

少し考えた素振りの後、聞こえた声は相変わらず淡々としている。

「本気で言いたくなけりゃ言わなくていい。俺が気になるってだけの話だ」

一応、逃げ道も用意してくれるんだよな。この人。俺が「言わない」って言えば、本当に言わなくてもいいんだろう。

「新聞配達です。あまり余裕のある家じゃないので。問題は昼間眠くて…」

苦笑交じりに言う。

「それなら仕方ない。ここでしっかり睡眠をとればいい」

それからは毎日屋上に通ってる。時々たわいも無いことを話したり。その中で石戸先輩が特Kだって知って、俺のことも名前だけは知ってたって教えられたんだ。


「で、初音は何か用だった?」

2人の傍に下りて初音に顔を向けると不安そうに顔が歪んだ。なんだ???

「なんで、いつ行っても教室にいらっしゃらないんですかっ」

それだけ言うなり俺の腕に抱きついて泣き出してしまった。

「か、初音っ!?」

「わ、私のことが嫌いなら嫌いって…っ迷惑だって言ってくださいぃっ」

「ちょっ…えぇぇっ!?」

唐突な初音の行動にオロオロしてると背後からポンて肩を叩かれた。

「女の子は泣かせるもんじゃないぞ。邪魔者は退散するからちゃんと収拾つけろ」

それだけ言って本当に屋上から校舎に戻ってしまった。…ど…どうしろとっ!?


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