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いつもどおり朝刊配達を済ませて家に帰ると母さんが笑顔で待機していた。

「おかえり~」

「…ただいま」

「とりあえず、ご飯食べて」

「いただきます」

怪訝な表情になっても仕方ないだろう。わざわざ扉の前まで出迎えるなんてこと…無かったぞ、今まで。

「ね。今日入学式でしょ?行ってもいい?」

あ、なんだ…そんなこと?いつもと違うから何事かと思っちゃったじゃん。

「ご自由にどうぞ」

父兄の出席は自由の筈だ。とたんウキウキと仕度を始める母さんに疑問の声を上げる。

「あのー…なんでそんなに張り切ってんの?」

「息子の晴れ舞台っ!張り切らないでどうするっていうのっ!」

「いや、そこまでのことじゃないと思うんだけど…」

「そこまでのことよっ!七宮に合格したってだけでも凄いのに…新入生代表挨拶までっ!」

母さんて結構テンション高い人なんだよなー。

「母さんが張り切っても仕方ないでしょ」

「和くん、冷たいっ母さん自慢したいもんっウチの子はこんなに凄いんだぞ~って!」

「しなくていいから。大人しくしててくれないなら来ちゃ駄目」

「わかりましたー…和くんて冷たいよねー。勝手に受験決めて、受験費用も自分で用意して…保護者欄にサインしかしてあげられなかったなんて親としてどうなの~…」

うわ、なんか知らんが凹みだした。別にそんなのは気にしなくていいのに。俺が勝手にやったことだし。

「ウチにはまだ比呂斗が居るんだから、とっておいて損は無いでしょ。せっかく俺が学費免除になったんだし、浮いた学費で比呂斗に美味いものでも食わしてやってよ」

「和くん…なんて、良い子っ!」

そういうなりぎゅうっって抱き締められた。

「母さん、いきなり何っ!ちょっ、苦しいんだけどっっ!?」

「母さんも頑張るからねっ!」

「はいはい…ほどほどにね。俺も朝の新聞配達は続けるし、無理はしないように」

背中をぽんぽんてするとやっと解放してくれた。とりあえず途中だった食事を再開しよう。

「入学式終わったら先に帰ってていーからね」

「そうなの?」

「うん。奨学生への説明会あるらしいから」

「そっか。じゃ、先に帰ってるわ」

「よろしく」

食事を済ませて、身支度を整えたら準備完了。真新しい制服を着るとなんだかワクワクしてくる。

こんな高そうな服を実費で買えそうに無いもんなぁ。大事に着なきゃな。父さんも大きかったから成長するだろってことで大きめサイズ買ったから当分は大丈夫だろうけど。

「んじゃー、先行く」

「えっ!私はーっ!?」

「母さんは式までに着けばいいでしょ」

それだけ言って扉を閉めた。学校が徒歩圏内で良かったよ。交通費もかからないっていいことだ。じゃなかったら学校が用意した寮に入らなきゃいけないところだったしね。




学校に着いてまず新入生が向かうのは、クラス分けが表示された掲示板。しかし、これは普通科専用でその他専門コースの生徒には関係無いので勿論俺もスルー。

生徒玄関から入って右手が一般教室棟。左手が俺が今日から通うSクラスがある特別教室棟。

Sクラス。一般特別進学コースの札が見えて扉を潜ると教室前方の黒板に席次表が貼ってあり、それを確認して自分の席へ。通学鞄を机の横にかけて周囲に目を向けると同じように様子を伺う生徒も多い。

ここが今日から俺が過ごす教室か…。

ほけーっと観察してたら急に廊下が騒がしくなった。何事かと視線を向けた先に見知った顔を見つけた。

といっても、制服を受け取りに来た時に一度会って言葉を交わしただけだから知ってるとも言い難いか。

そこに居たのは金髪碧眼の文字通り美少女だ。真新しい制服に身を包んで友人だろう女の子と二人急ぎ足に駆けていく姿に周囲の視線は釘付けだった。

「すっげー…あんな可愛い子初めて見た~」

「西洋人形みたいで綺麗な子だったな~」

だいたいの反応はこんな感じで…まぁ、当然な感じか。ふわふわな髪が風に靡く様も綺麗で、そこだけが切り取られた絵画のようで…本当に目の保養になる子なんだ。

「今の子、英文科らしいぜ!」

少ししてそんな情報がやってきたり。早速人気者街道だな。そりゃ、そうだよな。あんな綺麗な子滅多に居ないもんな。うんうん。

「あれ?君はあぁいうコに興味無いの?」

「へ?」

目の前の席から振り返って言われた言葉にキョトンとする。

「皆、騒いでるのに冷静だからさ」

「あぁ…だって、こっちが騒いだところで向こうが相手してくれるもんでもないでしょ」

「まぁ、そりゃそうだけど…変わってるな。俺は幾田好季いくた こうき

「俺は真渡和斗。よろしく」

「てことは、噂のっ!こちらこそよろしくっ」

どんな噂か知らんが…にかって笑顔で手を差し出してきたから、笑顔で握手を交わした。なんとなく悪いやつじゃないなっていうのはわかったからさ。


「そいや、この席順ってどういう基準で選んでんだ?」

少なくとも50音順じゃないはずだ。だって、俺が真渡で前の席が幾田だし。

「知らないの?」

「うん」

ぐるりと周囲を見渡してからこっちに向き直って幾田くんが説明してくれた。

「因みに、和斗の席が1番。ここから右に順に2番、3番て続くんだ。で、一つ前の席が左からまた7番、8番て並んでる。要するに、成績順ってわけ」

この並びはSと特Kだけらしい。ていうか、早速名前で呼び捨てだし。まぁ、構わないけど。俺も呼ばせてもらうからさ。

「へー。じゃ好季、頭良んじゃん」

「そうは見えないでしょ」

「うん」

「うわ、正直!でも事実だから言い返せなーいっ」

爆笑。本当にノリが良いヤツだ。こいつとは長い付き合いになりそうな、そんな気がした。

「はいはーい!1年生講堂に集まってーっ」

好季と笑い合っていると、入学式の会場である講堂への移動を促す先輩方の声が聞こえてきた。

「移動するか」

「だな」

Sクラスは卒業までクラス替えは無いことだし、これから楽しい学生生活が送れそうな予感に胸が躍った。

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