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まだ日の出には程遠い時間。住宅街の中にあるアパートの一室では控えめなアラームが住人に起床を促していた。


時間は早朝2時。他の家族が起き出さないよう、目覚ましが鳴ってすぐ止めると速やかに布団から抜け出す。

「さっむ…」

まだ暗い部屋の中、カーテンを開けた俺は月明りを頼りに身支度を整えて外に出た。


数年前に父親が亡くなった我が家では母親がパートに出て俺と弟を養ってくれている。父が亡くなった時の保険金がいくらか出たが、それだけではやはりきつくて。母親の負担を減らす為に2年前の春から俺も新聞配達を始めた。

小学生がお金を稼ぐ方法なんて限られるけど、幸いなことに俺が働かせてもらってる新聞配達所の人たちは良い人で。いつも朝ごはんだって、おにぎりやパンを分けてくれる。それをありがたく頂いて、午前3時。配達に出かける。

俺の担当地区はだいたい100軒ぐらい。住宅街の中を重い紙束抱えて走り抜ける。お陰で身体的にだいぶ鍛えられたと思う。

手持ちの束が空になる辺りで中継地点で待ってる同僚から再び受け取って再び駆け出す。

残りを配り終える頃にはほのかに明るくなる東の空を眺めつつ営業所に戻って、同僚に挨拶をして家に帰る。これが俺の毎朝の日課だ。


今年は小学生活最後の年。

卒業間近な今日、午後は春から通う中学校に書類と制服を受け取りに行くことになっている。

通常なら公立の中学に進学するのが普通だろう。しかし、ウチの経済状態を鑑みるに、私立だが七宮学園に進学した方がメリットが大きい。

最初の入学審査で上位の成績を収め、その後も上位成績キープするだけで学費全額免除。制服や教科書代も要らないんだ。そのうえ、大学まで通わせてくれるって話。

こんなに上手い話があるものかと思っていたけど、あったんだな。無事、合格通知と学費免除認定書が送られてきた。勉強が嫌いじゃない自分で良かった。

七宮を受験することを決めたのが夏休み前で、そこから受験費用を捻出する為に夕刊の配達も入れた。

受験が終わっても夕刊配達を続けているのは、何かあった時のために無いよりはあった方がいいだろうという判断からだ。

もちろん朝刊で稼いだ分は給料日に全て母に渡しているけどね。

「おはよ~う!今日もご苦労様。さ、朝ごはん食べましょ」

「おはよう。いただきます」

いつもどおり、必要最低限の荷物を持って部屋を出ると卓袱台に朝ごはんが並んでいるのも毎日の出来事。お昼は給食。決まったようにご飯が食べれるってのも幸せなものだ。

「ねぇ、和斗。母さん、今日少し遅くなりそうなんだけど、比呂斗のお迎え頼んでいい?」

弟は現在保育園に通っているので母の都合が悪い時、代わりに迎えに行くようにしている。しかし今日は制服を受け取って戻った後に夕刊配達が入っている。

「いいけど…17時過ぎるけど大丈夫?」

「17時半までに行けばいーわよ。先生には私からお願いしておくから」

「んー、わかった。ごちそうさま。それじゃ、行ってきます」

「はい、いってらっしゃい。気をつけてね~」


家を出て登校日数もあと僅かとなった小学校へ歩きながら今の状況を考えてみる。

そういえば、まだ誰にも進学先教えてなかったなぁとか。友達って言っても、父親の仕事の都合で3年ほど海外に住んでた俺は帰国してからは学校で話す程度の付き合いの人間しか居ない。

受験の時も担任に黙っててくれるよう頼んでたし。だって、言って落ちたら目も当てられないなーって思ったんだよね。まぁ、その心配も杞憂だったみたいだけど。

無事合格して、それでも言わないのは俺がまだ実感湧いてないってのもあるけど、それだけじゃない。言葉にするのは難しいけど、特に必要無いって思ったから。冷たいやつだと思われるかもれないけどね。


午後になって小学校を早退して、進学先である七宮学園に向う。中等部校門前に立って唖然としたね。

これは一般庶民の感覚を持つ人間なら当然の反応だと思う。俺が想像していた学校という範疇を超えた施設だったのだ。

「でっか…」

ここが春から自分が通う学校なのか…と呆然としつつ周囲に目を向ける。

七宮学園は幼稚園から大学部まである、良家の子息も集う学校。それだけに施設は広く、学園都市と言っても過言がない規模なのだ。

校門を入ってすぐの受付で手続きを済ませて講堂で真新しい制服を受け取る。シャツ、ズボン、ブレザー、リボンタイ、指定コート。洗い換えも合わせて結構な大荷物になった。

制服を受け取ったら入学式までにやっておくよう、課題テキストが与えられる。これは小学校で学んだ内容のまとめだけでなく、それ以上の問題にも触れている。

先取り学習しておけと、そういうことだろう。俺が所属するのがSクラス。所謂、特別進学クラスということも関係していると思われる。

さてと…校内見学は自由らしい。といっても特に気になるものもない。どうせ、入ってしまえばわかることだし。

渡されたレジメに校内見取り図も載っているから覚えておけば迷うことも無いだろ。道を覚えたりは普段の新聞配達で慣れてるからさ。


あー…しっかし眠い。いつもなら昼休みは寝倒してるからなぁ…。

ぼけーっと荷物を下げて歩いてると校舎から少し離れた所にある小高い丘に立っていた。今日はいつもより気温が高いようで…このまま眠れそうだったから、草の上に横になった。

早朝から動いていた体は正直者で、太陽の光を遮るよう、帽子を顔に載せたらあっという間に睡魔が俺の意識を攫っていった。






瞼の奥に光の当たる感覚。眩しい…?確か帽子で光を遮ってた筈…。

それからそっと額に触れた柔らかい感触。暖かい…これは誰かの手?

「良かった…」

ほっとしたような囁き声が耳に届く。女の子…?微かに開いた瞼の向こうに金髪碧眼の美少女が俺を覗き込むような姿勢で座っていた。とっさに目を逸らして周囲の様子を確認する。

えーと…寒い中昼寝なんてしてたから天使がお迎えに来たとか、そんな…訳は無いな。

しかし綺麗な子だ。人間驚き過ぎると逆に冷静になれるようでマジマジと目の前に現れた美少女を観察してしまう。

「あ、すみませんっ起こしてしまいました」

視線を合わすと慌てたように頭を下げた彼女の手に俺の帽子。

「あの、これ…すみませんっ」

差し出された帽子を受け取ると顔を上げた彼女と視線が絡んだ。うーん…本当に綺麗な子だな。

言葉遣いの丁寧さに育ちの良さを感じた。透き通った碧い瞳を覗き込むと南国の澄み切った海のようで、凄く綺麗だった。

「君も制服受け取りに来たの?」

「はい、そうです」

「よく見つけたね」

本当に。今日集まってる連中が居る校庭や講堂からじゃ、小高い丘になっているここは見えない筈なのに。

「屋上から見えて…」

「屋上?」

「はい。あちらです」

目の前の美少女は振り返るようにして自分の背後に立つ校舎の上部分、柵のある辺りを指差している。

「なるほど。こんな寒い中、昼寝してるとは普通思わないか」

倒れてるとでも思ったんだろうな。結構距離があるのにここまで降りてくるなんて、優しい子だ。ふっと顔が笑みの形に弛んだ。

「いえ。私が勝手に勘違いしただけですしっ」

チャイムが鳴って時計を確認すると2時半。3時から夕刊配達だから急いで帰らないと間に合わない。思ったよりぐっすり寝てたようだ。

「おっと、そろそろ帰らないと…えーと?」

ここは自己紹介しとくべきか?どうしたものかと考えていたら彼女が先に口を開いた。

和蔵かずくら 初音かずねです」

鞄からメモ帳を出してそこにさらさら~っと自分の名前を書いて見せてくれた。変わった字で読むんだな。うん。これは書いて貰わないと漢字が脳に入ってくれんわ。

俺もペンを借りて彼女の名前の横に自分の名前を書いた。

「そか。俺は真渡まわたり 和斗かずと。春からよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

「それじゃ」

「はい。新学期、お会い出来るのを楽しみにしてますね」

そう言って後は振り返らずに駆け出した。社交辞令としては無難な挨拶だと思う。生徒数多い学校だし、クラスが一緒にでもならない限り交流は無いだろ。

説明文が多くて読みにくいですね。普段は絵描きなので書き慣れるまで精進します。書けてるとこまで、ちょこちょこ推敲しつつ投稿していきます。

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