ガードルフ視点
まさか、マティアスが前世の記憶というのも持っているなんてな……
やけに、大人しくて手のかからない子だとは思っていたが。40歳まで生きていた記憶があるのか。何とも、想像が出来んな。
だが、よく打ち明けてくれたと思う。私達に伝えるのに相当な勇気がいったことは、先ほどのやり取りを見ていれば、十分にわかるからな。それに親としてきちんと答えてやらねばな。
しかし、この事を使用人全員に馬鹿正直に全部話すわけにはいかないしな。この世界での記憶なら、特に問題は生じないのだが、それ以外となるとな・・・
ここは、嘘も混ぜながら曖昧にして伝えるか、何も伝えないかだが。
今後の事を考えると、セバスとエミリッサの二人には、全てを伝えていた方が良いかもしれないな。
「イレーネよ。マティアスに事なんだが」
「そうですねー。内容が内容だから使用人に全ては話さなくてはいいかなと。でも、セバスとエミリッサには全て話すとお考えですよな」
「あ、ああ。今そう考えていたところだ」
やはり、イレーネも同じ結論に至ったか。
「この事を他の馬鹿な貴族共に伝わることを何としても防がないといけないですからね-。この世界じゃない。記憶だとするとかなりやっかいなことに巻き込まれそうですからねー。私達がしっかり守らないと。あなたの活躍に期待していますよ」
「ふっ。任せておけ。厳しくなった時は、父さんと母さんに任せたら、すべて上手くいくさ。あの二人を止められる者は、この国にはいないからな」
「あなたは。またそうやって、お義父様とお義母様に頼って。何のために家を出て行ったのか意味がなくなるじゃないの」
「えっ・・・?今なんて言った。?もしかして、私が頼り過ぎているから出て行ったのか?」
「そうよ。『子供を持つ父親になったのだから、いつまでも我々の力に頼らず自分の力を信じろ』っておっしゃっていたわよ」
確かに、父さんの言うとおりだな。自分の子供なのに困った時には、父さんたちに頼るなんて父親って名乗れないなあ。
「あなたが、本気になったらお義父様たちの横に並べるようになれるわよ。何ていったって、あの二人の息子なんだからね」
「イレーネの言うとおりだ。私は、父さんたちに頼り切っていたのだな。昔から、何かあれば父さんたちに助けを求め、何時も助けてもらっていた。いつからだろうな。本気にならなくても父さんたちが助けてくれるからそこそこで満足し始めたのは」
私もまだまだ子供だったってことか。情けないなー。この年になって気付かされるなんて。しかも、イレーネに言われるまでは、全く気付かなかったしな。我ながら呆れる。
「それで、あなたは結局どうするのかしら?お義父様たちに頼るなら連絡する手段はあるのだけれど」
「そうだなあ。イレーネに言われなければ、迷わずにお願いしていたかもしれないな。だがな、私は3人の父親になったんだ。さすがに、このままってわけにはいかないさ。子供たちにそこそこって言われたくないしな。今のままだと父親失格だからな。父さんのような頼られる父親ってのにも憧れていたからな」
そうだよ。何で忘れていたのかなあ。昔は、良く父さんのような強くてカッコいい大人になりたいって毎日のように言っていたのにな。そうと決まれば、鍛錬を一から見直さないと。こんなにぬるくては、何時まで経っても追いつけないからな。あの背中に。
「それはそうと、本題のマティアスの事についてなんだけど」
「そうだな。やはり、セバスとエミリッサ以外には、ぼかして伝えた方がいいな。これを知っている人間は、最小限にしておきたい。どこから漏れるか分かったものではないしな」
「では、そういうことでいきましょう。みなを呼んできましょう」
「そうだな。頼む」
コンコンコンっとノックの音がする。
「ガードルフ様みなを連れてきました」
「セバスか。入っていいぞ」
「失礼します。それでお話しと言うのは」
「ああ。マティアスの事なんだが。何やら、音で周りの事が分かるらしい。実際にそれを私達に見せてくれたのだ」
「音で、周りの事が分かるのですか」
やはり驚くよな。
「跳ね返ってくる音によって物がどこにあるのか分かるみたいなのだ。目が見えない分耳が良いのかもしれないな」
「そのようなことがあり得るのですね」
「明日にでもみなの前で私達の前でしたことをしてもらうつもりだ。だからと言って、手を抜くなよ。これまで通りの対応を徹底してもらうぞ」
「「「もちろんでございます」」」
「話は以上だ。みな、それぞれの仕事に取かかってくれ。ああそうだ。セバスとエミリッサの二人は、少し残ってくれ。これからの事について話しておきたい」
「「「かしこまりまいた」」」
セバス達以外は、出ていったか。
「これからの話というには何でございますか」
「それなんだが、これからの事は一切の他言を禁止する。マティアスの事についてだが、もう一つある。これが知られれば、争いごとに巻き込まれる恐れがある」
「それほどの事なんでございますね」
「ああ。正直この事をどうするか迷った。だが、これからの事を考えるとお前たち二人には、知っていてもらいたい。いや、長年この家に仕えてきたお前たちだからこそ話しておくべきだと思ったが正しいか」
「「ガードルフ様。この命にかけて、一切の他言はしないと誓います」」
「マティアスには、40歳まで生きてきた記憶がある」
「ま、まさかそれは・・」
「セバスの考えている通りだ。この世界の記憶ならまだいい。だが、それ以外となると・・・」
「確実に争いになりますわね。この国だけならまだしも他国のものに知れると下手したら、戦争になりますわよ」
「そうだ。エミリッサの言うとおりだ。そこで、音を使って物の位置が分かるすべを知っていたと言っていた。今は、まだ小さくて何も問題がないが、これからの状況次第ではどうなるかわからんからな。だから、お前たち二人には、知ってもらいたかったのだよ」
「「かしこまりました」」
「それとこれは、私自身の事なんだが。今日から鍛錬を厳しくして父上の隣に立てるように努力していくことに決めた。もう、親父とお袋の世話になる事を辞める」
「漸くですか」
「なんだ。セバスは分かっていたのか」
「勿論でございます。何年私がこの家に仕えてきたと思いですか?これで、お二方からの伝言を伝えられます。『ガードルフよ私達に頼ることを辞めれたときは、セバスの指示に従え。強くあろうと思うならば、本に全てを記し、セバスに鍛え方を伝えてある。私の隣に立つ時が来る日を待っているぞ』とのことです」
「おやじ・・・」
まさか、親父がこんなにも私の事に期待していたとは。
一滴の涙が、私の頬を流れた。
「そうか。では、セバス頼む。手加減はしないでくれよ」
「もちろんでございます」
「ありがとう。話は以上だ。仕事に戻ってくれ」
「「わかりました」」
ふう。父さんには敵わないな。私が強くなることを望んだ時に手をまわしてくれていたんだからな。かなり、気付くのが遅かったな。だが、おかげでまだ強くなれるってことも分かった。子供たちのためにも頑張らねばいかんな。
いつぶりかな。こんなに血が滾ってくるのは。強くならねば父さんの横に立つためのも。子供たちを守れるように。
「ふふふ。子供のころのあなたの顔つきに戻ってきたわね。懐かしいわ。あなたのその顔に私は惚れたんですもの。私も負けないように頑張らないといけませんわね。」
「私も負けないさ」
「イレーネ」
「あなた」
熱い口づけをかわし、まだ昼間だというのに私は獣となりてイレーネを愛した。