12
妹のクリスタが可愛い。うちの妹は世界一可愛い。顔は、分からないんだけどね。だが、それでもいいんだよ。今は、俺の事をにぃにって呼ぶように言い聞かせているところだ。しかし、妹ってのは可愛いな。妹のためにブリタニアと戦うって事の意味が分かるな。俺も妹のためなら世界と戦えそうだ。
そうそう、やっと俺も5歳になった。でも、魔力を感知することは結局できなかった。毎日頑張ってたんだけどなー。何にも掴めなかった。魔力の魔の字も分からなかった。まあ半分は諦めたから感知できなくてもしょうがないかっては思ってた。教会で属性を調べに行くからそっちが楽しみって事もあったからな。
自力で魔力を感知するって結構な難関だと思うんだよ。うん。魔法を見せてっていっても見れないから誰にも聞かなかったんだよな。ここ一年は、特に何にもしてないな。ゴロゴロするか、ゴロゴロするか、妹のとこに行くかしかしてないな。エリーシア姉さんとフェルナン兄さんは、勉強してるからそこまで遊んではないなー。俺も教会に行って帰ってきたら勉強が始まるらしい。数学以外は、手古摺るな。天才って思われてもいいけど、前世の事があるから『十で神童十五で才子二十すぎれば只の人』って展開になっちゃうからそこまで期待しないでほしいなって思う。真の天才には敵わんよ。前世もそこまで頭がいいってわけじゃなかったし。
よし、クリスタの所に行くか。今は誰がついてるんだろうな。
父さんと母さんかな?
「父さんと母さん?」
「あら、マティアス。またクリスタの所に来たのね」
「うん。父さんは今日の仕事もう終わったの?」
「ああ、今日はもう終わったよ。最近は忙しくないからね」
「そっか。ああ。丁度良かった。父さんと母さんに言っておきたいことがあったんだ」
「ん?どうした?」
「そんなに深刻にならなくていいよ。もうね、僕の目が見えないことは誤魔化さなくてもいいよ」
「マ、マティアス。知っていたのか?」
「やっぱり」
「鎌をかけたのか?」
「ううん。今ので確信しただけ。辺境伯ってそこそこ偉いんだよね。そこで次男の僕の目が見えないって分かったらそこから弱みを握られるかもしれないって考えてたんだ。だから父さんと母さんは、他に貴族には誤魔化してるんだろうなあって予想してたんだけど正解だったみたいだね。でもね、来月は、教会に行くでしょ?もう隠すことは無理だと思うんだ。まあ遅いか早いかの違いなんだけどね。それに、僕はお兄ちゃんんになったからね」
「はあ。そこまで、考えていたとはな。全部その通りだよ。私達も隠し通せるとは思ってはいなかったからな。出来るだけ情報は伏せていたんだよ。何があるか分からなかったからな」
「確かに今のままじゃ何もできないから、父さん僕に武術を教えてくれない?」
「ふむ。元々教会から帰ってきたら勉強と武術の両方を教えるつもりだったからな」
勉強だけじゃなくて武術も一緒にだったのか。
「それなら、厳しくしてほしいの。見えなくても一人前に戦えるように。僕の大好きな人を守れるように」
「厳しくしていいんだな?かなりきついがそれでもいいのか?」
「うん。上等だよ。見えない分そのくらいしないとね」
「上等か。一体どこでそんな言葉覚えたんだか」
「うん?元から。くふふ」
「ああ。そうだったな。というわけでイレーネよ。けがの治療を任せてもいいか?」
「しょうがないわね。こんなにやる気になって自分で色々考えてるんだもの。どんなにケガしても私が治してあげるわ。それにエリーシアの訓練にも丁度いいものね」
げっ。まじか。エリーシア姉さんの実験台じゃん。母さんに治してもらうのならまだしも少し不安だ。
「よし、そしたら明日の朝から行うぞ。まずは体力をつけないといけないからな」
つまり走り込みか。俺TUEEEEする為の修行パートだな。どんとこい。
すみません。なめてました。父さんに頼んで鍛えてもらうようにお願いしたけど、マジ死ぬ。5歳児なのに全く手加減してくれない。いや、確かに厳しくするようにお願いはしたんだけど、こんなにきついとは思ってもみなかった。まだ、一週間しか経ってないけどすでに心が砕けそう。部活とかの練習の比じゃないわ。まあ、それもそうか、この世界だと命がかかってるんだから生ぬるいはずがないか。てか、走り込みと筋トレしかまだしてないんだけど、その走り込みがやばい。永遠にインディアンラン二ングなんだもん。足元分からないのに最初はめっちゃ怖かった。エコーロケーションしながら走るとか無理だった。だから、こけるのを前提にして走るしかないんだよ。おかげで何回転んだことか。しかも、訓練が終わらないと擦り傷治してもらえないし。
戦闘中に怪我してもいつ治せるか分からんから最後に治すのはいいんだけど、どのくらいの怪我なのか分からん。痛みだけじゃ判断に困る。めっちゃ痛いと思ってたらそこまで酷くなかったりしたし。傷の具合も感覚で養うしかないのか。ソロで戦うのは無理だな。アドレナリン出てたら致命傷の傷なのか分からんからな。見て判断が出来ないから、攻撃を受けて怪我をするってことは普通の人よりも危険度が高いな。
特訓を始めて一月が経った頃、俺が、教会に行く日が決まった。行くのは来月になったみたいだ。一カ月は、短いようで長いな。
教会で、行われる属性測定は、年3回にわかれているらしい。すでに、一回目は終わったので、俺が参加するのは2回目ってことになる。貴族の階級ごとに日にちがわかれていて、三日間行われるそうだ。俺は初日に参加するんだと。でもって、今回はクリスタがまだ1歳にもならないから母さんは、ついてこないってことになった。行くのは、俺と父さんとセバスの3人みたいだ。女性陣がいないから男だけってことになったらしい。
くっ。華がない。道中男だらけとかどんな罰ゲームだ。護衛として冒険者に依頼しているからそこのパーティーに女の子がいることを願うだけだな。
一ヶ月後
いよいよ、今日王都の教会に出発する。人生初の馬車の旅ってことになるか。どうせがたがた揺れて最悪な旅になるんだろうな。これさえなければいいのに。属性測定は楽しみなんだけど、これはいただけないな。ちょっと憂鬱になってきた。
そして、残念ながら冒険者のパーティーに女の子はいなかった。ショックだ。おっさんだらけのパーティーみたいだ。萎える。全員で5人のパーティーらしい。ランクは、カナリー。上から2番目のランクらしい。冒険者のランクを教えてもらったんだけど上から
カーニバル・カナリー・エルブ・ロンサール・シスル・ラスカス・ㇾド
の全部で7ランクあるみたい。そりゃー異世界なんだしアルファベットとかあるわけないよな。あったら逆に驚くけど、まだこの世界の文字を勉強してないからどんな文字なのかわからんから何も言えんな。
しかし、上から二つ目とか高ランクだよな。アルファベットでいうならAランクって事だろ。それに何か顔見知りって感じだったしどんな関係なのか気になる。
「それでは、行ってくる。留守を頼んだぞ。エミリッサ。イレーネも無理はしないようにな。エリーシアとフェルナンもイレーネとエミリッサの言ううことをよ聞くだぞ」
「はい。お父様。マティアスも楽しんでくるのよ」
「大丈夫だよ。父さん。マティアスもお土産は気にしなくていいからね」
「マティアス。お父さんの言うことをきちんと聞くのよ。気を付けてね。行ってらっしゃい」
「母さん。いってきます」
「「「いってっらしゃいませ」」」
馬車の座り心地はいいな。これで、振動がなかったら最高なん・・だ・・けど・・・。
・・・・・・・・・振動が思っていたよりないだと・・・。そんなばかな。ありえない。いかにもって感じの世界なのに振動がないってどういうことだ?何故だ。何故だ。
「マティアスどうだい馬車の乗り心地は。気分は悪くないかい?」
「うん。思ってたよりも揺れないからびっくりした」
「昔は、揺れが酷かったんだがな。20年ほど前に新しい馬車が開発されて今のような揺れが少ない馬車が広まっていったんだよ。今では、全ての馬車がこんな風に揺れないんだよ」
まじか。サスペンションが開発されたって事か?それも20年ほど前にだと。意外と異世界も侮れないな。これを開発したところはボロ儲けだな。原理は俺も詳しくは知らないからなあ。
「それと、揺れないからこんなゲームもできるんだよ。リバーシって言うボードゲームなんだけどマティアスもしてみるかい?」
な・・・な・・・・なんだと。今なんて言った?リバーシだと?ハハハ。まさか嘘だよね。聞き間違いだよね。
「ん?もう一回名前教えて」
「リバーシだよ。これも20年ほど前に作られた遊戯なんだよ。簡単だけど奥が深い遊戯だよ。白と黒の丸い駒を使うんだよ」
まじかよまじかよまじかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
えっ?なんで?なんで?なんでそんな物が存在しているんだ。しかも聞いた感じだと前世の物と同じじゃないか。それにまた20年前だと。もちつけ俺。違う違う。落ち着け俺。まずは深呼吸だ。
すうはあすうはあ。
馬車が20年前に新しく改良された。リバーシも20年前に出てきた。つまりそういうことなのか?
”俺以外にもこの世界に来ている奴がいる。”
しかし、どのパターンだ?俺みたいに記憶持ちなのか、勇者召喚みたいに呼ばれたのか。もしくは、自然現象の一部としてこの世界に転移してきたのか。このどれかか。できれば一度は会っておきたいな。日本人なのか?気になるところだな。
しかし、俺以外にもこの世界に来ている奴がいるってのは考えてなかったな。でも、”俺”という存在がいるんだから他にもいてはおかしくない状況だしな。はああああ。それにしても、やられた。サスペンションにリバーシ、他にももっとあるだろうな。どれだけ荒稼ぎしたんだか。
「黙って、どうしたんだ?」
「ちょっと考え事してたの。これってどこが作ってるの?」
「これはね、アブルケル商会が作ってるんだよ。他にも色んなものを出してはそれが大ヒットして今では国内一の商会になったね」
「ねえ。外の人には話漏れないよね?かなり重要なことだから聞いて」
「ああ。大丈夫だ。セバスは、御者をしてもらっているし。今はお前と二人きりで大きな声で話さない限り外には漏れないぞ」
「この、リバーシって物僕知ってる。
「・・・・・・・!?」
「マティアス・・。知ってるってことは・・・」
「父さんの想像してる通りだよ。僕の”前世”にも同じものがあった。つまり僕と同郷の可能性が高い。」
「はああああああ。まさか、マティアスと同郷とな。これは、また重大な事を知ってしまった。これも他者に知られるわけにはいかないな」
「ちょっと。父さん声が大きいよ」
「旦那様。どうかしましたか?」
「いや、何でもない。マティアスが思いのほか強くてびっくりしただけだ」
「そうでございますか」
いやー、ホントまさかだよね。国内一の商会が前世持ちって。でも、うまくすれば俺の欲しいものを作ってもらえる可能性もあるな。仲良くなって良好な関係になっておきたいけど、商人かあ。利益を提供しないと同郷ってだけでは組んでもらえない可能性があるな。そもそも会えるのか?会えなかったら向こうから接触してくるようなアクションを取ればいいか。