インテンの小説技法基礎講座⑧「矛盾や些細なこと、無駄と思えることによる伏線のはりかた」
その⑧です。
インテンの小説技法基礎講座⑧「矛盾や些細なこと、無駄と思えることによる伏線のはりかた」
今回は少し難しい、高度なテクニックと思われがちな、伏線のはりかたについて書いていく。
タイトルに書いてある通り、伏線とは出てきた時点ではわからない。
むしろ矛盾だとか、些細なことだとか、無駄と思えるシーンだったりにあることが多い。
まずはそれぞれ(矛盾、些細、無駄)についての例題を出してから、その使い方についてふれていこう。
①矛盾を用いた伏線
1つ目の例は、「魔王が現れたのに王様や貴族の陰謀で弱体化させられる勇者」
2つ目は「王族なのに何故か冷遇されている王子」
これらはつまり、設定そのものがおかしい……つまりは矛盾したものだ。
これらは序盤に描かれている事が多く、最初は突っ込みどころでしかない。
しかし最後の方で真相があかされて、実は伏線だったとわかるのだ。
例えば1つ目ならば「実は王族や貴族が魔王と通じていた」になり、二つ目ならば「養子だった」だとかである。
これらの矛盾を使った伏線は、途中で更に別の要素を用いることで、より複雑にしていける。
例えば1つ目ならば、「王族や貴族(勇者をはめた相手)が魔王や魔物に殺される」だとか「心を入れ換えたと勇者の助けになる」だとかだ。
二つ目ならば、「途中で助けてくれた相手に容姿や雰囲気がにている(つまりはその相手が本当の親)」だとか「兄弟姉妹に同じ境遇の者がいる(しかしその子は実子だと確定している)」だとかだ。
これらは初歩的なテクニックであり、設定段階から作り込めるためやりやすい。
比較的簡単な技法である。
②些細なことを用いた伏線
1つ目の例は「あれ? 今違和感が……」などのセリフを使っておき、その前後の地の文に仕込むやり方。
以下に例文を書いてみよう。
シチュエーションとしてはこうだ。
山で起きた殺人事件。
若い案内人と山を歩いていた主人公は、夢中になりすぎて予定よりも長く山歩きをする。
途中で天候が悪くなると言って焦りだす案内人。
実際に雨が降りだし辺りは暗くなる。
そんな最中案内人が音が聞こえたと言って走りだし、主人公はその場で待たされる。
その後しばらくたってから、案内人が主人公のもとへと戻ってきたと言う状況だ。
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ガサガサっと言う音ともに、案内人の男が焦ったように現れる。
「なぁんだ、○○さんか。ビックリさせないでくれよ」
「いやぁ、すまないねぇ。柄にもなくこの暗さで迷ってしまってな?」
手には懐中電灯を持ちながら、しかしその明かりは物足りない。
足元を薄暗く照らす程度であり、確かに迷ってしまうのも仕方ないだろう。
(この山専属の案内人さんでも、失敗する事ってあるんだなぁ)
朝初めて会ったときは、私に任せてくださいと言っていた彼だが、この悪天候では難しかったらしい。
「いやぁ、お恥ずかしい。私もこんなに荒れたのは久しぶりでねぇ。歳には勝てませんな。はっはっは」
(あれ? 今違和感が……)
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これは推理小説などでよく用いられる方法で、その後すぐに自分で違和感の正体を突き止める事が多い。
上だけだとわからない人も多いはずなので、詳しく解説しよう。
1つ目の違和感は、焦って走り出したはずの案内人が、主人公の前に焦って出てきたこと。
焦るような出来事を解決してきたはずなのに、何故か主人公にたいして焦っている部分。
二つ目の違和感は、今まで同じ悪天候の中をきちんと案内してきた案内人が、何故か言い訳をし始めたこと。
三つ目の違和感は、歳と言っていながら歳が若いことだ。
これらは地の文(上の中と上以外で)ちりばめておき、些細なこととしながらも「違和感」を覚えさせる。
こうすることで、読者に自分で探させる風に誘導できるわけだ。
2つ目の例は、「ありふれた日常の些細な出来事が伏線」と言うやり方だ。
これは更に詳しく書くなら、「主人公とヒロインの他愛ない会話の中で、主人公とヒロインでしか通用しない暗号で伏線をはる」のだ。
具体例を出してみよう。
七つの大罪でとてもうまく使われていた。
主人公と久しぶりに出会ったギルサンダーは、その後も度々彼にこう言っている。
「俺は七つの大罪の誰よりも強い」と。
これはこれだけ聞けば挑発にしかとれないが、実は主人公にしか伝わらない暗号である。
主人公が過去にギルサンダーを教えていたとき、彼に大変な状況をはねのけるための言葉として、この「俺は七つの大罪の誰よりも強い」と言う魔法の言葉を授ける。
このエピソードをクライマックスで見せることで、読者に感動をあたえられるわけだ。
③無駄と思える事の中に伏線
これは最初から例を示して説明する。
ずばり「君の名は。」である。
あの作品は様々な伏線がはられており、とてもよく作り込まれている。
最初の方に伏線をはることで、二回目じゃなければ最初から楽しめないようにしていたり、それによって気づいたことにより更なる気づきがうまれ、はまっていくわけだ。
まるで宝箱からお宝を1つ1つ取り出すように伏線がわかっていく快感は、恐らく大体の人が体験しているはずだ。
ではその沢山ある伏線の中でも、一番わかりやすい例を示す。
「ヒロインの日常風景の1つとして描かれていた祭事の中の口噛み酒」である。
これは最後の最後、主人公を助ける重要なアイテムでありながら、全く印象に残っていなかったはずだ。
むしろ最初に見たとき、その変に長くゆっくりと描かれていたシーンが、飽きをさそったり、邪魔に感じたりしなかっただろうか?
それがこの③の重要な部分だ。
読んだり見たりしたときに、「いらない」と思わせる部分に伏線をはることで、「読者の意識」から「伏線」を「完全に追い出す(もしくは覚えさせない)」わけだ。
これは少し高度な技術であり、プロットの段階で綿密に考えた上で、上のように「いらない」と思わせるように「わざと描く(しかし手は抜かずに)」という技が必要だからだ。
これがうまく使えるようになったなら、それだけで何回も読んでもらえる作品が作れるようになるはずだ。
今回はここまで。
少しでも参考になったなら幸いだ。
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