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或学生の心象  作者: 四年 寝太郎
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規律とは

ある日、私は大学の最寄り駅にいた。まず目に入ってくるのは馴染み深い廃屋だった。店先にまでダンボールが散乱していて、中に目を向けると左手に壊れた自動販売機、正面の木製カウンターの向こう側に寸胴鍋がいくつか見れる。当時、私は足繁くここへ通っていた。


 初めての失恋をしてから数週間が経っていた。いい加減でショックからも立ち直るかと思いきや、てんでそんなことはなく家に引きこもっていた。毎日を無為に過ごしていると酒がいつもより美味しく感じたのは発見だった。


単位が危ぶまれるので久しぶりに大学へ顔をだすと、見かねた友人がラーメンを奢ってくれるという。

それは大学への道を少し外れた場所にある虎徹というラーメン屋だった。私は初めて行って以来その味の虜になっていた。とんこつをベースにした醤油味に、もやしとキャベツの山に寄りかかる分厚い叉焼、具材の隙間から覗くプリッとした太麺。しかし場所が場所であり、知る人ぞ知る名店であった。


友人は、それこそ面白い男でも無かったが、世の不平不満を語らい合う盟友だった。

「おまえはね、今まで恋愛をしてきたことがないからそういう目に遭う。少しでも中学、高校で恋愛をしておけば傷も浅かったろうに。」

「お前に言われたくない」

「俺は言うぞ」

「何を偉そうに、お前だって彼女いないじゃないか」

「彼女はいないが恋愛経験は豊富なんだよ。何もしてこなかったお前とは違う」

「いいや、私は待つことをしてきた。ときめきにばったり遭遇した時のためにイメージトレーニングも欠かさなかった。人事を尽くして天命を待ったし、果報は寝て待った。この忍耐力は並大抵のものではない。」

「そんな、漫画でもあるまいし能動的に動かんと何も始まらん」


正直友人の言うことは一理どころか万里もあった。今まで待つ、受動的に生きてきて何か実りがあったとは言えない。それどころか世間に揉まれ流され生きてきた。それでもなんとかなってきた。なんとかなってしまった。今までの人生を振り返ると後悔ばかりである。もっと能動的に動いていればと思うことは少なくない。

「最近私は、人生が一度しかないことを噛み締めている。もっと早くに気づいていればよかった。そしてこうも思うんだ。一度しか無いのに何故わざわざ辛い思いをしなくてはいけないのか。この先、就職をしたとて、私は仕事を好きでやるとは思えない。辛いことのほうが多いだろうな、就職に限らずそうだろうな。なぜそんな思いをしてまで働かなくてはいけないんだ。私は世界のルールやモラルや常識に賛同した覚えはない。」

「反骨心はあっぱれだけど、規律があるから人は生きやすくなっている。社会があったればこそ人々は豊かに生きていけるんだ。」

「それはわかっているが、生き方の選択肢がもっとあってもいいのでは...」

とりとめのない話をしていると、ラーメンが卓に置かれた。私は悶々とした気持ちと腹が減っていたこともあり、黙々とラーメンをすすっていた。

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